「カミングアウト」の版間の差分

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== 概要 ==
[[欧米]]では基本的に[[同性愛|同性愛者]]が使う表現であるが、[[日本]]においては[[薬害エイズ]]問題に絡んで、同性愛者ではない者がHIV感染者であることを表明するケースが最も代表的であったため、[[C型肝炎]]や[[アトピー性皮膚炎]]、[[アルコール依存症]]などの[[持病]]を明かすことや、さらには[[部落問題|被差別部落出身者]]や[[被爆者]]の子孫であることなど、その出自を明らかにすることを「カミングアウト」と表現することも多い。このほか、出自や体質あるいは病気以外に、[[ベジタリアン]]、[[異性装]]、[[性産業]]従事など世間体のうえで詳らかにしにくい趣味・嗜好・習慣・過去を持つことなど、自身の価値観を告白する場合にも用いられることもある。
 
欧米においては、少数派は[[少数民族]]あるいは少数の[[人種]]を指したが、通名が使えないこと、人種の違いは見た目で明白であることとの理由から出生を隠すこと自体ができない。また、名字を法的に変更してまで出生を隠すことの多かった[[ユダヤ人]]の場合は、[[第二次世界大戦]]後はそのような事をしなくなっていた。よって欧米では日本と違い、マイノリティ([[社会的少数者]]が自らの属性を隠すということ自体が同性愛者中心の行為となる。
 
本来は、レズビアンやゲイが自己の性的指向を家族、友人、同僚などに明かせず心理的に悩んでいる状況を「押入れに閉じこもっている」と比喩し、そこから「<ruby lang="en">coming out of the closet<rp></rp><rt lang="en-Latn">カミング・アウト・オブ・ザ・クローゼット</rt><rp></rp></ruby>」(押入れから出てくる)が短縮された言葉である。よって、日本で一般に考えられている、社会に対して自分が同性愛者であることを「表明」する行為というより、自分の家族や学校、職場の友人、同僚、知り合いに自分が同性愛者であることを「打ち明ける」・「告白」するという意味が強い。よって、単に自身の性的指向等を告げるだけではなく、打ち明けた相手との新しく肯定的な関係を築くための過程を含めてカミングアウトと呼ぶこともある。欧米では、例えば家族に黙って新しい[[宗教]]([[イスラム教]]など)に改宗していたり、[[薬物依存症|薬物依存]]であったり、あるいは大学をこっそり中退している場合にその事実を家族に告白する場合にカミングアウトの表現が使われるのもこのためである。また、友人の間ではアウトであるが家族にはまだアウトしていない、逆に家族、友人にはアウトしているが職場ではアウトしていないなどの場合も存在する。芸能人がゲイあるいはレズビアンであることを[[マスメディア|マスコミ]]などに表明する場合は、このカミングアウトの延長であると見なされる。
 
== 歴史 ==
[[アメリカ合衆国|アメリカ]]では、初期に[[後天性免疫不全症候群|エイズ]]が同性愛者の間で蔓延したため、エイズに感染した同性愛者がほとんど仕方なしに家族にエイズ感染と自分が同性愛者であることをカミングアウト・告白するということになった。これにより拒絶されたり、逆にあるがままの自分を受け入れられたりと経験はさまざまであった。また、著名な芸能人の幾人かがこれにより同性愛者であることとエイズ感染を表明することになり、カミングアウトという観念が同性愛者の間だけでなく社会一般にも認識されるようになった。
 
一方、日本ではこの用語が一般に認識されるようになったのは[[薬害エイズ事件]]からであり、この場合は日本のエイズ感染の事情がアメリカと全く逆であり、汚染された[[血液製剤]]によってエイズに感染した者が感染を「表明」するという行為がカミングアウトであると認識されるようになった。やがて、これが他のマイノリティに転用されるようになる。在日外国人、部落出身者、あるいはHIV患者がカミングアウトする場合は家族や友人の間ではそのことが周知の事実の場合が多く、欧米のカミングアウトとは微妙に意味が違う。
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日本では多数のエイズ感染者が血友病患者である一方で、欧米で確立された「エイズ=ゲイ・ヤク中」との偏見の元に苦しむという特異の状態があったため、ゲイあるいは[[麻薬中毒]]の人間がエイズであることを社会に表明するということは皆無に等しい状態であった。日本のカミングアウトは、薬害エイズに見られるように、カミングアウトされる側の社会的な立場やカミングアウトする人物が属する社会の差別性を告発するという極めて政治的な行為であるといえる。
 
近年、日本でもマイノリティの権利が認識されるにつれ、その人物が属する社会において少数とされる[[性的指向]]・[[趣味]]・[[体質]]・[[疾患]]・その他の[[個性|個人的特徴]]や、自分の属する[[民族]]といった[[属性]]を、世間一般に公表・公言するケースが増えている。欧米においては、この行為は従来、親しいものから拒絶されることを恐れて自分自身の心の内に秘めていたことをあえて自らが宣言することで、心理的な重圧を解き放つとともに周りの親しい人間と新しい誠実な関係を再構築するという意味があるが、日本においては、[[差別]]と迫害を恐れてこれまで秘めていた病状や出生および性的指向を宣言することで、同時にその社会の差別性を問うという政治的側面が強い。
 
同性愛以外にも、[[性同一性障害]]の概念が知られるようになると、性別を超えて自分の好きな服装や生活、更には[[ジェンダー]]に沿った肉体を手に入れるためにカミングアウトする人も出るようになり、これらに関しても、一定の理解が寄せられるようになってきている。
 
しかしその一方で、社会の偏見やそれに基づく差別により、カミングアウトにより社会的地位を喪失したり、他人から迫害される、地域[[コミュニティ]]から排斥されるなどの弊害が起きることも多く、[[人権]]問題や[[雇用]]問題と絡んで、係争中のケースも少なくはない。
 
== 薬害エイズとカミングアウト ==
現在では、エイズは日常的な接触程度で感染する病気ではないことが判明しているが、エイズがまだ概要が不明の病気であった頃には、HIV感染者であることが分かると、一部の医療機関が「適切な医療汚染対処設備が無い」などとして、[[医療拒否]]をする事態が起こっていた。さらに、エイズに関する無知から、感染者であることが知れると理髪店や飲食店などの利用が断られるといった不利益を被ることや[[村八分]]状態にながあったり社会から疎外されることもあった。しかし、[[薬害エイズ]]問題を追及する上では被害者が名乗りを上げる必要性があるため、あえて不利益を承知で自ら[[ヒト免疫不全ウイルス|HIV]]感染者であることを表明するケースも出ている。
 
== 関連項目 ==