「シカゴ学派 (経済学)」の版間の差分

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ハーバード学派は[[1930年代]]のチェンバリン({{lang-en-short|E.H.Chamberlin}})とメイスン({{lang-en-short|E.S.Mason}})の先駆的研究によって誕生し、[[1950年代|60年代]]から[[1960年代|60年代]]にかけてのベイン({{lang-en-short|J.S.Bain}})やケイブス({{lang-en-short|R.E.Caves}})らの研究によって体系的に完成され、その後ケイセン({{lang-en-short|C.Kaysen}})、ターナー({{lang-en-short|D.F.Turner}})、シェラー({{lang-en-short|F.M.Scherer}})らに受け継がれた一群の経済理論・政策思想集団を指す{{sfn|依田|1999}}。彼らは、「SCPパラダイム」や「集中度・利潤率仮説」と呼ばれる立場から、厳格な独占禁止政策を主張した{{sfn|依田|1999}}。「SCPパラダイム」とは、産業組織を「市場構造」(市場競争および価格設定に影響を与える市場組織上の特徴)、「市場行動」(各企業が市場の需給条件や他の企業の戦略を考慮して行う行動)、「市場成果」(資源配分効率性や経済権力の分散化)という三要素に類型化して、「市場構造({{lang-en-short|structure}})→市場行動({{lang-en-short|conduct}}))→市場成果({{lang-en-short|performance}})」という因果関係があると考えるアプローチである。また、「集中度・利潤率仮説」とは、「寡占的・独占的産業における企業間の共謀や協調的行動」や「高い参入障壁に守られた競争制限的行為のため、超過利潤が発生する」という理由から、競争的市場における市場集中度と利潤率とが相関関係を持つという仮説である{{sfn|依田|1999}}。
 
このように厳しい独占規制を主張した「ハーバード学派」に対して、「シカゴ学派」とはノーベル賞経済学者スティグラー({{lang-en-short|G.J.Stigler}})に道を切り拓かれ、[[ハロルド・デムゼッツ|デムゼッツ]] ({{lang-en-short|H.Demsetz}})、ブローゼン ({{lang-en-short|Y.Brozen}})、ディレクター({{lang-en-short|A.Director}})、ポズナー({{lang-en-short|R.Pozner}})らによって発展された一群の経済理論・政策思想集団を指す{{sfn|依田|1999}}。その特徴は、「強固な事前均衡」と呼ばれる市場メカニズムへの強い信頼から、「価格理論のレンズ」を産業組織の分析に厳密に適用することである。そこで、彼らは市場の「自然淘汰」をくぐり抜けた企業こそ「適者生存」の具現であり、「ハーバード学派」が主張するような裁量的な政府介入は効率性を損なうので、原則的には自由市場経済が望ましいと考える。シカゴ学派は、集中度と利潤率の間の正相関は一時的不均衡にすぎず、あるにしても大企業の優れた効率性を反映するものであると反論した{{sfn|依田|1999}}<ref>{{Harvnb|依田|2013|pp=83-87}}。</ref>。
 
スティグラーらの大企業による垂直的統合を容認する主張は、[[1980年代]]の[[規制緩和]]政策の基礎となったが<ref name="iwanami2004"/>、学界では[[1970年代]]以降、ゲーム理論や新制度派経済学の発展を背景に、「ハーバード学派」でも「シカゴ学派」でもない第三の潮流である「新産業組織論({{lang-en-short|New Industrial Organization Theory}})」が普及し、今日の競争政策では、この「新産業組織論」と呼ばれるパラダイムが主流である{{Refnest|group="注"|name="chuunikkei"|こうした新産業組織論の基礎を作り上げた業績で[[ジャン・ティロール]]は[[2014年]]にノーベル賞を受賞した{{Sfn|日本経済新聞|2014}}。「新産業組織論」については{{harvnb|日本経済新聞|2014}}を参照。}}。