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米国内科学会ガイドライン2017 |
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'''腰痛'''(ようつう, Low back pain)とは、[[腰]]に痛み、[[炎症]]などを感じる状態を指す一般的な語句。
<!-- Epidemiology -->
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== 非特異的腰痛の治療 ==
{| class="wikitable floatright" style="font-size:85%; margin-left:1em"
|- 米国内科学会 2017年腰痛ガイドライン {{Sfn|米国内科学会|2017}}
! !! 腰痛の期間 !! 急性<br>(4週未満) !! 亜急性・慢性<br>(4週以上)
|-
|{{rh}} rowspan=3| [[セルフケア]]
| 活動性を保つようアドバイス || Yes || Yes
|-
| 書籍、パンフレット || Yes || Yes
|-c
| 皮膚表面から温める || Yes ||
|-
|{{rh}} rowspan=6| 薬物療法
| [[アセトアミノフェン]] || Yes || Yes
|-
| [[NSAIDs]] || Yes || Yes
|-
| 骨格筋弛緩薬 || Yes ||
|-
| 三環系[[抗うつ薬]](TCA) || || Yes
|-
| [[ベンゾジアゼピン]]類 || Yes || Yes
|-
| [[トラマドール]]、[[オピオイド]] || Yes || Yes
|-
|{{rh}} rowspan=8| 非薬物療法
| 脊柱操作 || Yes || Yes
|-
| [[運動療法]] || || Yes
|-
| [[マッサージ]] || || Yes
|-
| [[鍼]] || || Yes
|-
| [[ヨガ]] || || Yes
|-
| [[認知行動療法]] || || Yes
|-
| プログレッシブリラクゼーション || || Yes
|-
|| 集中的な集学的リハビリテーション || || Yes
|-
|colspan=4| <small>エビデンスグレードB以上のものを提示</small>
|}
2017年の米国内科学会ガイドラインにおいては、患者の大半は治療とは関係なく回復するとされる{{Sfn|米国内科学会|2017}}。そのため第一選択肢は非薬物療法が推奨される{{Sfn|米国内科学会|2017}}。
[[患者教育]](情報提供)も重要である。「体の活動性を維持し、運動を行い、あまり休まずに、仕事を続けるように」とアドバイスを受けると、腰痛の予後は改善する<ref>{{cite journal |author=Buchbinder R, Jolley D, Wyatt M |title=2001 Volvo Award Winner in Clinical Studies: Effects of a media campaign on back pain beliefs and its potential influence on management of low back pain in general practice |journal=Spine |volume=26 |issue=23 |pages=2535–42 |year=2001 |pmid=11725233 |doi= |url=}}</ref>。正しい情報を与え安心させると予後は改善し、怖がらせて不安を与えると予後は悪化する<ref name="rousai"/>。「Know pain, or no gain」(痛みについて学べ。そうしなければ進展は無い)という標語がある。
===活動障害の場合===
==== 運動療法 ====
痛みと平行して運動を行う{{Sfn|米国内科学会|2017}}。'''安静は必ずしも有効な治療法とはいえない'''{{Sfn|日本学会ガイドライン|2012}}。脳から末梢へ下行性の抑制が働くので、運動により痛み自体が改善する。運動には抑うつ作用もある。運動には、ストレッチ(関節可動域訓練)、筋肉トレーニング(筋力増強訓練)、正しい姿勢保持、有酸素運動がある。腰痛では、腹筋と背筋を鍛える。運動の効果は、各国の全ての腰痛ガイドラインで最も高いエビデンスがあるとされている。ニューヨーク大学整形外科では、痛みがひどくない限り、歩くことを勧めている<ref name="origin"/>。歩けば、脳は歩くことに集中するので、精神的苦痛や悩みから解放され、痛みが和らぐ。また、座りがちな悪い姿勢(背骨はC字型)から、立位の良い姿勢(背骨はS字型)となる。
[[File:Bartosz Kurek 2010-05-30.jpg|thumb|left|[[ストレッチ]]]]
'''支持療法(コルセット、腰ベルト)は推奨されない'''。WHOの腰痛イニシアティブは、次のように述べている。「コルセットを長期に使用すると、骨粗鬆症を出現させ、腹部の筋肉を弱体化させる。痛みを我慢できるようになったら、直ちにコルセットを外さなければならない」。[[英国国立医療技術評価機構]]は、次のように述べている。「(腰の支持器具が)、非特異的腰痛の治療に役立つというエビデンスはほとんど無いので、英国国民保健サービスNHSの治療として提供されるべきでない」。ヨーロッパ委員会は、腰の支持器具を、非特異的腰痛の治療に用いることを、推奨していない。また下記のように、米国内科学会ガイドラインも推奨していない。
急性腰痛に対して痛みに応じて活動性を維持することは、ベッド上安静よりも疼痛を軽減し、機能を回復させるのに有効である{{Sfn|日本学会ガイドライン|2012}}。職業性腰痛に対しても、痛みに応じて活動性を維持することは、より早い痛みの改善につながり、休業期間の短縮とその後の再発予防にも効果的である{{Sfn|日本学会ガイドライン|2012}}。各国の急性腰痛ガイドラインで、安静を推奨するものは、見当たらない<ref name="rousai">[http://www.research12.jp/22_kin/05.html 労災疾患研究普及サイト]松平浩</ref>。
==== ぎっくり腰のような姿勢に起因する急な激しい痛み ====
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==== 寒冷療法 ====
寒冷療法は、日本では、広く行われていた。痛みを伝える神経は、冷やされて機能低下が起こり、痛みをあまり伝えなくなる。また冷却により炎症反応が押さえ込まれと、局所の浮腫は改善し、浮腫による神経圧迫が改善し、当面の痛みは減る。しかし、急性腰痛は、原因不明ではあっても、元来はself-limited で予後の良い疾患である。炎症反応などは正常の防衛反応であり、そうした正常の修復過程を妨害しない方が良い場合がある。寒冷により、血管は収縮し、血流は低下し、虚血を引き起こし、体の組織は正常の機能が果たせなくなる。そして、さらに痛み物質が放出される。寒冷障害により、急性腰痛は、遷延して悪化し、慢性腰痛となる(痛みの悪循環)。下記のように、アメリカの腰痛ガイドラインは、腰痛に対して、寒冷療法を推奨していない。
==== 薬物治療 ====
腰痛の治療として、薬が有効な場合の薬物治療がある。腰痛が最初に起こった時の患者の望みは、痛みが完全に無くなることである。しかし、慢性腰痛の場合には、治療の目標は、痛みをコントロールして機能を可能な限り回復させることに変わる。痛みへの薬物治療は、いくばくかの効果があるに過ぎないので、薬への期待は、現実に直面して、満足度が下がる場合がある<ref name=miller_2012/>。
通常、最初に推奨されるのは、[[アセトアミノフェン]]や[[非ステロイド
痛みが充分に引かない場合には、モルヒネのようなオピオイドの短期間の使用が有効かもしれない<ref>{{cite journal|last1=Chaparro|first1=LE|last2=Furlan|first2=AD|last3=Deshpande|first3=A|last4=Mailis-Gagnon|first4=A|last5=Atlas|first5=S|last6=Turk|first6=DC|title=Opioids compared with placebo or other treatments for chronic low back pain: an update of the Cochrane Review.|journal=Spine|date=Apr 1, 2014|volume=39|issue=7|pages=556–63|pmid=24480962|doi=10.1097/BRS.0000000000000249}}</ref>。日本では弱オピオイドが使われる。オピオイドを使用すると
慢性腰痛を持つ年長の人々に、糖尿病や胃病変や心疾患など、
[[抗うつ剤]]は、抑うつ症状のある慢性腰痛の患者に効果があるかもしれない。しかし、副作用の危険がある。<!--<ref name=miller_2012/> -->
==== ペインクリニックによる神経ブロック ====
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==== 鍼灸による治療 ====
{{main|鍼#鍼とエビデンス}}
腰痛は[[肩こり]]と並び、[[鍼灸]]治療により著効を表すことがある{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009|loc=Chapt.1.6}}。腰部の[[腎兪穴]]、[[大腸兪穴]]、[[志室穴]]などの施術のほか、膝の後ろにある[[委中穴]]の鍼や、足の[[照海穴]]、さらに体調を整える目的で、背部や腹部の経穴を用い腰痛を緩和する[[代替医療]]である。諸外国の腰痛診療ガイドラインは、慢性腰痛について、鍼の効果を認めている{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2009|loc=Chapt.1.6}}。[[世界保健機構|WHO]]も認めている。[[オピオイド]]様の不安定な弱い効果がある。[[保険鍼灸マッサージ師会|健康保険による鍼灸治療]]が可能であるが、保険治療は地域によっては医師の同意書を必要とする。
=== 感染症・腫瘍の場合 ===
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<!--Chronic -->
運動療法は、慢性腰痛の痛みを減らし、機能を回復させる上で効果がある<ref name=guild_2012/>。運動療法は、運動プログラムを完了させた6ヵ月後の腰痛再発率を減らし<ref name=smith_2010>{{cite journal |author=Smith C, Grimmer-Somers K. |title=The treatment effect of exercise programmes for chronic low back pain |journal=J Eval Clin Pract |volume=16 |issue=3 |pages=484?91 |year=2010 |pmid=20438611 |doi=10.1111/j.1365-2753.2009.01174.x}}</ref>、長期的な機能の改善をもたらす<ref name=middelkoop_2011/>。ある特定の運動プログラムが、他の運動プログラムより優れているというエビデンスは無い<ref name=middelkoop_2010>{{cite journal |author=van Middelkoop M, Rubinstein SM, Verhagen AP, Ostelo RW, Koes BW, van Tulder MW |title=Exercise therapy for chronic nonspecific low-back pain |journal=Best Pract Res Clin Rheumatol |volume=24 |issue=2 |pages=193?204 |year=2010 |pmid=20227641 |doi=10.1016/j.berh.2010.01.002}}</ref>。アレキサンダー法は、慢性腰痛に有用である<ref name=woodman_2012>{{cite journal |last=Woodman |first=JP |author2=Moore, NR |title=Evidence for the effectiveness of Alexander Technique lessons in medical and health-related conditions: a systematic review. |journal=International journal of clinical practice |date=January 2012 |volume=66 |issue=1 |pages=98?112 |pmid=22171910 |doi=10.1111/j.1742-1241.2011.02817.x}}</ref>。[[ヨガ]]も有用である可能性がある<ref name=ernst_2011>{{cite journal |last=Posadzki |first=P |author2=Ernst, E |title=Yoga for low back pain: a systematic review of randomized clinical trials. |journal=Clinical rheumatology |date=September 2011 |volume=30 |issue=9 |pages=1257?62 |pmid=21590293 |doi=10.1007/s10067-011-1764-8}}</ref>。経皮的な神経刺激は、慢性腰痛に対しては、効果が認められない<ref name=dubinsky_2009>{{cite journal |last1=Dubinsky |first1=R. M. |last2=Miyasaki |first2=J. |title=Assessment: Efficacy of transcutaneous electric nerve stimulation in the treatment of pain in neurologic disorders (an evidence-based review): Report of the Therapeutics and Technology Assessment Subcommittee of the American Academy of Neurology |journal=Neurology |volume=74 |issue=2 |pages=173?6 |year=2009 |pmid=20042705 |doi=10.1212/WNL.0b013e3181c918fc}}</ref>。腰痛の治療として、靴の中に中敷を入れることは、効果がはっきりしない<ref name=sahar_2009>{{cite journal |author=Sahar T, Cohen MJ, Uval-Ne'eman V, et al. |title=Insoles for prevention and treatment of back pain: a systematic review within the framework of the Cochrane Collaboration Back Review Group |journal=Spine |volume=34 |issue=9 |pages=924?33 |date=April 2009 |pmid=19359999 |doi=10.1097/BRS.0b013e31819f29be |url=}}</ref>。あまり侵襲のない末梢神経刺激は、他の療法では効果がない慢性腰痛には有用かもしれないが、エビデンスは不明瞭であり、また、足へ放散する痛みには効果が無い<ref name=nizard_2012>{{cite journal |author=Nizard J, Raoul S, Nguyen JP, Lefaucheur JP |title=Invasive stimulation therapies for the treatment of refractory pain |journal=Discov Med |volume=14 |issue=77 |pages=237?46 |date=October 2012 |pmid=23114579 |doi= |url=}}</ref>。
==予後==
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: うつ伏せから上半身を起こして胸を反らせる。既に腰痛のある人は頭を持ち上げるだけにする。
{| class="wikitable" style="font-size:90%; margin:1em
|+
! !! !! 腰痛予防となる生活習慣の例 !! 腰痛の起きやすい生活習慣の例
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!rowspan=3 style="min-width:10em"| 姿勢に注意
|style="min-width:10em"| 前かがみを避ける
| 作業姿勢を工夫
|-
| 同じ姿勢を長く続けない||屈伸などその場でできる軽い運動をする||毎日2 - 3時間車を運転するなど、同じ姿勢を長く続ける
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: 急性腰痛の原因は姿勢にあるとの1976年の[[アルフ・ナッケムソン|ナッケムソン]]の指摘以降、欧州では就労中・家事労働中などの予防が行われている。2004年の欧州委員会の腰痛診療ガイドラインによれば、ヨーロッパにおける腰痛の生涯罹患率は84%で、有病率は23%である{{Sfn|欧州の腰痛診療ガイドライン|2006|p=11}}。
;アメリカ合衆国
:
;日本
: [[厚生労働省]]による国民生活基礎調査(2015年度)における有訴者率で男の1位、女の2位を占める症状である(男の2位、女の1位は共に[[肩こり]])。また、日本人の8割以上が生涯において腰痛を経験しているとされる。多くの人々は腰痛を訴えているが、画像診断で異常が認められない場合も多い。異常が認められる場合でも、それが腰痛の原因でないこともあり、腰痛患者の8割は原因が特定されていない(非特異的腰痛)。
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== 参考文献 ==
'''診療ガイドライン'''
* {{cite journal|last1=Qaseem|first1=Amir|last2=Wilt|first2=Timothy J.|last3=McLean|first3=Robert M.|last4=Forciea|first4=Mary Ann|title=Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians|journal=Annals of Internal Medicine |publisher=米国内科学会 |year=2017|issn=0003-4819|doi=10.7326/M16-2367 |ref={{SfnRef|米国内科学会|2017}} }}
** {{cite journal |author=Chou R, Qaseem A, Snow V, Casey D, Cross JT, Shekelle P, Owens DK |title=Diagnosis and treatment of low back pain: a joint clinical practice guideline from the American College of Physicians and the American Pain Society |journal=Ann. Intern. Med. |volume=147 |issue=7 |pages=478–91 |year=2007 |pmid=17909209 |publisher=米国内科学会 |doi=10.7326/0003-4819-147-7-200710020-00006 |ref={{SfnRef|米国内科学会
* {{Cite report|publisher=[[英国国立医療技術評価機構]] |title=CG88: Low back pain in adults: early management |date=2009-04 |url=https://www.nice.org.uk/Guidance/CG88 |ref={{SfnRef|英国国立医療技術評価機構|2009}} }}
* {{cite journal |author=Airaksinen O, Brox JI, Cedraschi C, Hildebrandt J, Klaber-Moffett J, Kovacs F, Mannion AF, Reis S, Staal JB, Ursin H, Zanoli G |title=Chapter 4. European guidelines for the management of chronic nonspecific low back pain |journal=Eur Spine J |volume=15 Suppl 2 |issue= |pages=S192–300 |year=2006 |pmid=16550448 |pmc=3454542 |doi=10.1007/s00586-006-1072-1 |ref={{SfnRef|欧州の腰痛診療ガイドライン|2006}} }} - 欧州委員会(European Commission)による欧州の腰痛診療ガイドライン
* {{Cite |和書|title=腰痛診療ガイドライン 2012 |author=日本整形外科学会 |author2=日本腰痛学会 |publisher=南江堂 |date=2012-11 |isbn=978-4-524-26942-6 |url=http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0021/G0000533/0001 |ref={{SfnRef|日本学会ガイドライン|2012}} }} - 科学的根拠(Evidence Based Medicine;EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究 厚生省科学研究
'''国際機関・政府機関'''
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'''その他'''
* [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2997201/ 各国のガイドラインを比較した論文] (英語)
== 外部リンク ==
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* [http://www.jssr.gr.jp/sick/index.html 日本脊椎脊髄病学会]
* [http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei02.html 職場における労働衛生対策] - 厚生労働省 (真ん中あたりに「腰痛予防対策」の情報がPDFファイルにて告知されている)
* [http://www.nhk.or.jp/kenko/nspyotsu/ NHKスペシャル]腰痛、治療革命
* [https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2011034634SA000/ NHKスペシャル]病の起源3、腰痛
; 海外発信
* [http://www.who.int/bulletin/volumes/81/9/Ehrlich.pdf 世界保健機構WHO文書による腰痛の解説]{{En icon}}
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