「遠山茂樹 (日本史家)」の版間の差分

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昭和史論争の論点と遠山の見解を追加。
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『昭和史』新版は1959年8月に刊行された。改訂の重点の第一は[[第一次世界大戦]]から書き始め、「戦争がなぜ起こったのか、国民の力がなぜ勝利しなかったのか」について考え、第二は「できるだけ史実を多く紹介」し、「支配層内の動きをあきらか」にし、「政治といわれるものの実体を理解」できるように書き直したと述べている<ref>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=遠山 茂樹 |authorlink= |coauthors= 藤原 彰,今井 清一 |translator= |year=1959 |title=昭和史 新版 |publisher=岩波書店 |page=316 |id= |isbn=4004131308 |quote= }}</ref>。改訂の主導は[[今井清一]]が行った。今井は昭和史の前提となる大正期の国際・国内の政治状況の記述がなければ、昭和初期の国際・国内の政治状況の理解が十分にならないと主張した。遠山は同時代史の科学的認識の不十分さと国民的体験との「ずれ」を指摘した。読書会のテキストとして使われているため、異説を含めたコメントを入れ、史実の分量を増やす方針が決められ、巻末に主要参考文献を掲載した<ref name=hyoronbook1></ref>。
 
『昭和史』の記述を巡り[[亀井勝一郎]]、[[松田道雄]]、[[山室静]]、[[竹山道雄]]らと遠山茂樹、[[和歌森太郎]]、[[井上清]]、[[江口朴郎]]らとの間で[[昭和史論争]]が繰り広げられた<ref name=hyoronbook1></ref>。[[昭和史論争]]は[[亀井勝一郎]]が「現代歴史家への疑問」<ref name=kamei1>{{Cite journal|和書 |author = 亀井勝一郎 |authorlink = |date = 1956-03 |title = 現代歴史家への疑問 歴史家に「総合的」能力を要求することは果たして無理だろうか |journal = 文芸春秋 |issue = 3 |volume = 34 |publisher = 文芸春秋社 |pages =|naid = |ref = }}</ref>、松田道雄が「昭和を貫く疼痛を」<ref>{{Cite journal|和書 |author = 松田道雄 |authorlink = |date = 1956-03 |title = 昭和を貫く疼痛を 「昭和史」をめぐって 歴史家への注文 |journal = 日本読書新聞 |issue = 841 |volume = |publisher =日本出版協会 |pages =|naid = |ref = }}</ref>を執筆したこと発端とし、遠山茂樹が「現代史研究の問題点」<ref>{{Cite journal|和書 |author = 遠山茂樹 |authorlink = |date = 1956-06 |title = 現代史研究の問題点 |journal = 中央公論 |issue = 6 |volume =71 |publisher =中央公論新社 |pages =52-61|naid = |ref = }}</ref>を書いて、批判にこたえることにより開始された<ref name=hyoronbook1></ref>。
 
『昭和史』への批判は(1)一般国民に抱いている実感と現代史の記述に乖離があると感じられている事、(2)個人的体験をどのように歴史認識に結びつけていくか、(3)歴史の中で人間が描けていない、(4)歴史観の課題の課題などが主要なテーマであった<ref name=hyoronbook1></ref>。
[[亀井勝一郎]]は「この歴史には、人間がいない」「典型的な官僚文章」と『昭和史』を批判した<ref>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=亀井 勝一郎 |authorlink= |coauthors= |translator= |year=2005 |title=現代史の課題 |publisher=岩波書店 |page=228 |id= |isbn=4006001436 |quote= }}</ref>。これに対して遠山は、「亀井の要求は、歴史の科学的究明は不可能だという主張なのだから考慮することはできない」「個人の運命の差にもかかわらず本質的に共通するものがどこにあるか」を突き止め記述するのが歴史学の使命であると論じた<ref>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=遠山茂樹 |authorlink= |coauthors= |translator= |year=1992 |title=遠山茂樹著作集〈第4巻〉日本近代史論 |publisher= 岩波書店 |page=362 |id= |isbn=4000917048 |quote= }}</ref>。
 
(1)実感との乖離については、亀井が「歴史の本の続出するときは必ず危機の時代だ。一民族の激しい動揺が根底にあるからで、歴史家とは何よりもまずこれを実感していなければならない存在である」<ref name=kamei1></ref>が典型的な批判である。歴史学において、実際に経験した体験的な感覚をどう位置付けるかの問題といえる。これについて遠山は、「(歴史から)感動させることが歴史教育の目標ではなく、(歴史を通じて)考えさせることである」とし、実感や生活感覚は歴史の手掛かりにすべきものであり、そこから正しい方法論をたどることにより、歴史の理性的認識に到達することができると論じた<ref name=toyamreki2>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=遠山茂樹 |authorlink= |coauthors= |translator= |year=1980 |title=歴史学から歴史教育へ |publisher=岩崎書店 |page=284 |id= |isbn=4265800149 |quote= }}</ref>。
 
(2)個人的体験と歴史認識との結びつきに関しては、自分自身が経験した事件の経過を客観的に叙述することは困難であり、個人の体験は特殊であるから、いつどのような条件で、どんな立場で、そのように感じたかを綿密に吟味し、歴史全体の中で位置づける試みが必要であるとした。個人的歴史叙述に意味があるとしても、通史的叙述がより優位であると論じた<ref name=toyamreki2></ref>。
 
(3)歴史の中で人間が描けていないという批判は[[亀井勝一郎]]は「この歴史には、人間がいない」「典型的な官僚文章」と『昭和史』を批判したに現れる<ref>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=亀井 勝一郎 |authorlink= |coauthors= |translator= |year=2005 |title=現代史の課題 |publisher=岩波書店 |page=228 |id= |isbn=4006001436 |quote= }}</ref>。これに対して遠山、「亀井昭和史論争要求は主な論点であった。人物の評価や人物教育の位置づけ、歴史における伝記扱い方の課題である。遠山は社会科学的究明としての歴史学は、個性を持った人間を描き出すことは不可能であるとした。個人の性格や心理自体を論じることは、史料の扱い方、分析方法に関しても歴史学という主張な学問だから考慮す領域を超えることになる。人間の個性や心理を描くの文学や心理学きなあって、歴史学は史料に基づ「個人の運命の差にもかかわらず本質的に共通するものがどこにあるか」を突き止め記述するのが歴史学の使命であると論じた。遠山は「亀井の要求は、歴史の科学的究明は不可能だという主張なのだから考慮することはできない」と断じた<ref>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=遠山茂樹 |authorlink= |coauthors= |translator= |year=1992 |title=遠山茂樹著作集〈第4巻〉日本近代史論 |publisher= 岩波書店 |page=362 |id= |isbn=4000917048 |quote= }}</ref>。
 
(4)歴史観の課題の課題については、歴史を科学的に把握する方法論として遠山は[[唯物史観]]の立場に立っていた。といっても遠山は教育という場で、イデオロギーを教えることには否定的であり、初めから一定の歴史観を想定して教えることには反対していた。その意味では[[唯物史観]]だけに拘らない柔軟姿勢を見せていた。遠山は、もろもろの史実を発見し、それらを総合的発展的に捉えて歴史像を再構成し、歴史の真実に迫り得る有効性を歴史観がどれだけ持てるかによって勝負が決まる、と述べている(社会科教育の領域と内容)<ref>{{Cite book |和書 |last= |first= |author=遠山茂樹 |authorlink= |coauthors= |translator= |year=1992 |title=遠山茂樹著作集<第7巻>「歴史教育論」 |publisher=岩波書店 |page=406 |id= |isbn=4000917072 |quote= }}</ref>。
 
==人物==