「有機電子論」の版間の差分

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ルイスは分子の[[双極子モーメント]]測定結果から、ある原子の静電効果が結合を介して隣接する他の原子の静電効果に影響を及ぼすことを指摘している。例えば[[塩素]]原子が結合したα位、β位の[[炭素]]は、連結数を経るにつれて作用は減弱するものの、塩素原子に電子が引き付けられ、塩素原子が存在しない場合よりも価電子の作用が減弱した性質を示す。この様に電子親和性(言い換えるならば[[電気陰性度]])が化学結合を介して他の原子の静電的環境に影響を及ぼす作用を[[ロバート・ロビンソン]]は'''誘起効果'''('''I効果'''、Inductive effect)と呼称した。
 
誘起効果が物理現象として明確に現れる例として、置換基と[[酸]]または[[塩基性]]の強度との相関が挙げられる。例えば、[[カルボン酸]]誘導体に対して電子求引性基である塩素基が置換したケースについて説明する。[[酢酸]]に対して、モノ[[クロロ酢酸]]、[[ジクロロ酢酸]]そして[[トリクロロ酢酸]]の[[酸解離定数|p''K''<sub>a</sub>{{pKa}}]]を次に示す。
* CH<sub>3</sub>COOH - p''K''<sub>a</sub>{{pKa}} = 4.74
* ClCH<sub>2</sub>COOH - p''K''<sub>a</sub>{{pKa}} = 2.87
* Cl<sub>2</sub>CHCOOH - p''K''<sub>a</sub>{{pKa}} = 1.25
* Cl<sub>3</sub>CCOOH - p''K''<sub>a</sub>{{pKa}} = 0.77
このように、塩素の置換数が増大するにつれて強酸性となる。言い換えるとカルボン酸のOH基の酸素上の電子密度が低いほど解離が進行しやすく、この例では塩素のI効果(I<sup>−</sup>効果)により、酸素上の電子が塩素側に引き付けられ、置換した塩素基の数が多いほどI<sup>−</sup>効果が強く現れ、p''K''<sub>a</sub>{{pKa}}が減少傾向を示したと説明することができる。
 
逆の例として酢酸に[[メチル基]]を置換した例が挙げられる。メチル基は電子供与性を示し、それがI効果(I<sup>+</sup>効果)により、カルボン酸の電子密度を増やしp''K''<sub>a</sub>{{pKa}}が増大したと説明することができる。
*CH<sub>3</sub>CH<sub>2</sub>COOH - p''K''<sub>a</sub>{{pKa}} = 4.88
*(CH<sub>3</sub>)<sub>2</sub>CHCOOH - p''K''<sub>a</sub>{{pKa}} = 4.86
*(CH<sub>3</sub>)<sub>3</sub>CCOOH - p''K''<sub>a</sub>{{pKa}} = 5.05
*CH<sub>3</sub>(CH<sub>2</sub>)<sub>2</sub>COOH - p''K''<sub>a</sub>{{pKa}} = 4.82
*CH<sub>3</sub>(CH<sub>2</sub>)<sub>3</sub>COOH - p''K''<sub>a</sub>{{pKa}} = 4.86
 
このように、電子求引性の誘起効果を'''I<sup>−</sup>効果'''、電子供与性の誘起効果を'''I<sup>+</sup>効果'''と呼称することがある。また、[[配位結合]]を正負のイオン対が接合した状態とみなすことができ、配位結合を→で示すことの比喩で、I効果が存在する共有結合を