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'''弾道ミサイル'''(だんどうミサイル、{{lang-en-short|ballistic missile}})は、大気圏の内外を[[弾道]]を描いて飛ぶ[[対地ミサイル]]のこと。弾道弾とも呼ばれる。弾道ミサイルは最初の数分の間に加速し、その後[[慣性]]によって、いわゆる[[弾道飛行]]と呼ばれている軌道を通過し、目標に到達する。
 
== 歴史 ==
;V2/A4
[[File:Fusée V2.jpg|thumb|[[ペーネミュンデ]]博物館のV2]]
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;R-7とR-11
大戦終結後、[[ナチス・ドイツ]]の技術は[[戦勝国]]によって持ち出され、これを元にそれぞれの国で独自の研究が始まった。[[アメリカ合衆国|アメリカ]]や[[イギリス]]が[[鹵獲]]した完成品の打ち上げテストで満足している中、[[ソビエト連邦|ソ連]]だけは熱心に研究を進めていた。ソ連はドイツに残っていた資材を用いて自国でV2/A4を生産した他、改良版であるR-1(SS-1A)、拡大版であるR-2(SS-2)、ソ連の独自技術を加えたR-5(SS-3)が[[S.P.コリョロフ ロケット&スペース コーポレーション エネルギア|コロリョフ設計局]]を中心に次々と開発された。この後、コロリョフ設計局はより大型化した[[大陸間弾道ミサイル]](ICBM)である[[R-7 (ロケット)|R-7(SS-6)]]、R-9(SS-8)を開発し、ソ連領内から北米を射程圏内に収めるようになる。これらの[[ミサイル]]はまだ信頼性が低く、また、少数が配備されたに過ぎないが、大陸間弾道弾の出現は当時まだ大型ミサイルが無かったアメリカを[[パニック]]状態に陥れた。こののち開発されたR-16(SS-7)が[[1962年]]に大量配備され、ようやくソ連の[[核兵器|核攻撃]]能力が実効性のあるものとなった。
 
V2/A4の設計を元に、常温保存が可能な液体燃料を使用する別の[[エンジン]]を備えたミサイルが[[R-11 (ミサイル)|R-11]](SS-1B)であり、[[スカッド]](Scud-A)の[[NATOコードネーム]]が与えられた。R-11はさらにエンジンが改良された[[R-17 (ミサイル)|R-17]](SS-1C Scud-B)となる。R-17はソ連の軍事援助によって各地に[[輸出]]され、その後の多くの[[紛争]]で使用された他、[[リバースエンジニアリング]]によって誕生した多くの派生ミサイルの先祖となった。
 
;ミサイル・ギャップ
[[アメリカ合衆国|アメリカ]]における[[ロケット]]関連の研究は、戦争直後は低調であった。[[アメリカ空軍|空軍]]の[[MGM-1 (ミサイル)|マタドール]]や[[MGM/CGM-13 (ミサイル)|メイス]]、[[アメリカ海軍|海軍]]のレギュラスのように、アメリカはむしろ有翼の[[巡航ミサイル]]の開発に熱心であった。しかしながらアメリカに渡ったV2/A4開発チームの主要メンバーである[[ヴェルナー・フォン・ブラウン|フォン・ブラウン]]とドルンベルガーらは陸軍と組んでロケットの開発を続けており、[[1959年]]にはアメリカで最初の弾道ミサイルである[[PGM-11 (ミサイル)|レッドストーン]]が[[ドイツ|西ドイツ]]に配備されている。一方大型化にあたっては、まずレッドストーンの後継として空軍の[[PGM-17 (ミサイル)|ソー]]と陸海合同の[[ジュピター (ミサイル)|ジュピター]]が計画されたが、後に海軍は計画から降り、独自に固体燃料の[[ポラリス (ミサイル)|ポラリス]]を開発する。その後国防総省の決定で中・長距離弾道ミサイルの管轄が空軍にまとめられることになり、ジュピターもまた空軍のミサイルとなる。ジュピターは1959年に[[トルコ]]と[[イタリア]]に、ソアーは[[1958年]]に[[イギリス]]に配備された。
 
[[1957年]]の[[ソビエト連邦|ソ連]]の[[R-7 (ロケット)|R-7]]配備と、人工衛星[[スプートニク1号]]の打ち上げはアメリカ国内に[[スプートニク・ショック]]および[[ミサイル・ギャップ論争]]と呼ばれる政治的議論を発生させた。[[1960年アメリカ合衆国大統領選挙]]において民主党候補者の[[ジョン・F・ケネディ]]はミサイル・ギャップの原因として共和党の国防政策を強く批判し、勝利の要因の1つとなった。ところがケネディ政権の国防長官[[ロバート・マクナマラ]]はミサイル・ギャップはそもそも存在せず、むしろアメリカのほうが弾道ミサイルの開発、配備数どちらもソ連を大きくリードしていることを知った。共和党の候補者[[リチャード・ニクソン]]は[[U-2 (航空機)|U-2]]などの情報収集に支障が生じることを恐れて反論しなかったとされている。
 
;SSBNの出現
[[File:UGM-27C Polaris A3 launch.jpg|thumb|ポラリス]]
V2/A4の発展計画の一つに水密の大型キャニスターに納めた[[ミサイル]]を[[Uボート]]で北米沿岸まで曳航し、発射するという物があった。実現はしなかったが[[潜水艦]]から弾道ミサイルを発射するアイデアがかなり初期から検討されていた事がわかる。[[ソビエト連邦|ソ連]]は[[1959年]]にR-11(SS-1B)を改良したR-11FMを開発し、これをズールー型通常動力潜水艦に搭載して、史上初の[[潜水艦発射弾道ミサイル]](SLBM)とした。その後アメリカで[[原子力潜水艦]](SSN)が開発され、[[ポラリス (ミサイル)|ポラリスA-1ミサイル]]が実用化されると、このミサイルを搭載する[[ジョージ・ワシントン級原子力潜水艦|ジョージ・ワシントン級潜水艦発射弾道ミサイル搭載原子力潜水艦]](SSBN)が[[1960年]]に実戦配備される。[[アメリカ海軍|米海軍]]のSLBMは、こののち[[ポセイドン (ミサイル)|ポセイドンC-3]]から[[トライデント (ミサイル)|トライデントD-5]]へ進化している。
 
SSNの開発に遅れを取ったソ連では、[[ヤンキー級原子力潜水艦|ヤンキーI型]]とR-27(SS-N-6)が就役したのは[[1968年]]になった。また、[[イギリス]]と[[フランス]]もSLBMを自国の核戦力の主力としており、イギリスはアメリカからトライデントD-5を購入して[[ヴァンガード級原子力潜水艦]]に搭載し、フランスは自国開発の[[M45 (ミサイル)|MSBS M45]]ミサイルを搭載した[[ル・トリオンファン級原子力潜水艦]]を運用している。[[中華人民共和国]]も独自に開発した巨浪1号SLBMを搭載する[[夏型原子力潜水艦|夏(Xia)型原子力潜水艦]]を運用している。
 
;キューバ危機
[[File:Atlas missile launch.jpg|thumb|アトラス]]
[[1962年]]には[[中距離弾道ミサイル]](IRBM)のR-12(SS-4)が[[キューバ]]に配備された事を契機として[[キューバミサイル危機|キューバ危機]]が発生している。キューバ危機の間、[[デフコン]]2が発令され、北米配備の[[大陸間弾道ミサイル|ICBM]]である[[アトラス (ミサイル)|アトラス]]、[[タイタンI (ミサイル)|タイタンI]]、試験配備が始まったばかりの[[ミニットマン (ミサイル)|ミニットマンI]]と、[[イギリス]]に配備されたソアーIRBM、[[トルコ]]、[[イタリア]]に配備されたジュピターIRBMは実際に発射準備態勢に入った。[[ソビエト連邦|ソ連]]でもR-7が発射台上で待機状態となり、キューバに配備されたR-12が発射準備態勢に入った。このような状況はキューバ危機の時が最初で、以後はそのような事態は発生していない。
 
;ICBMの発展
[[アメリカ合衆国|アメリカ]]で最初の[[大陸間弾道ミサイル|ICBM]]が[[アトラス (ミサイル)|アトラス]]である。アトラスは[[1959年]]に配備され、[[1965年]]まで使用されている。この後、[[タイタンI (ミサイル)|タイタン]]、[[ミニットマン (ミサイル)|ミニットマン]]、[[ピースキーパー (ミサイル)|ピースキーパー]]が開発されている。ミニットマンIIIとピースキーパーは[[MIRV]]となった。
 
一方の[[ソビエト連邦|ソ連]]ではR-36(SS-9)、UR100(SS-11)、RT-2(SS-13)から、MR UR100(SS-17)、[[R-36 (ミサイル)|R-36M(SS-18)]]にいたってMIRV化されている。START-IIによってR-36Mが退役した後は、単[[弾頭]]の[[RT-2PM (ミサイル)|RT-2PM1]]/[[RT-2PM2 (ミサイル)|M2 トーポリM]]が配備されている。ソ連では道路移動式ICBMとして初期のRT-21(SS-16)から現在のRT-2PM(SS-25)までが開発されている。
 
[[中華人民共和国|中国]]はソ連から提供されたR-2(SS-2)を元に弾道ミサイルの開発を進め、[[1964年]]に[[核実験]]に成功すると[[核弾頭]]装備の[[DF-2 (ミサイル)|東風2号]]が[[1966年]]から配備され、[[大韓民国]]や[[日本]]を攻撃する能力を得た。続く[[DF-3 (ミサイル)|東風3号]]で[[グアム]]、[[DF-4 (ミサイル)|東風4号]]で[[ハワイ]]、[[DF-5 (ミサイル)|東風5号]]でついに中国西部から北米を攻撃する能力を得た。東風3号は[[1988年]]に[[弾頭#通常弾頭|通常弾頭]]に変更されて[[サウジアラビア]]に売却されている。
 
;弾道ミサイル技術の拡散
[[1970年代]]から、弾道ミサイル技術は中小国も取得できるようになった。[[ソビエト連邦|ソ連]]の[[スカッド]]に代表される安価な[[短距離弾道ミサイル]]は[[イラン・イラク戦争]]や[[湾岸戦争]]でも実戦使用された。[[1980年代]]には[[朝鮮民主主義人民共和国|北朝鮮]]や[[イラク]]などで弾道ミサイルの開発が進展し、それらの国からさらに[[インド]]、[[パキスタン]]、[[イラン]]などにも製造技術が拡散した。北朝鮮は弾道ミサイル技術の輸出を重要な外貨獲得手段であると明言しており、パキスタン、イラン、[[エジプト]]、[[リビア]]、[[イエメン]]、[[シリア]]にスカッド発展型の弾道ミサイルを輸出している。[[2007年]]時点で45ヶ国が弾道ミサイルを保有していると見られている。このような弾道ミサイル技術の広まりに対して[[拡散に対する安全保障構想]](PSI構想)が実施されるようになった。
 
== 特徴と使用目的 ==
弾道ミサイルの特徴としては、長射程、高価、低い命中精度が挙げられる。
 
=== 迎撃が困難 ===
弾道ミサイルを撃墜し難い理由にはいくつかの要因がある。
 
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: 実際に衛星の無い時代には[[ナチス・ドイツ]]の[[V2ロケット]]は[[貨物自動車|トラック]]に牽引されて運ばれる方法だったため、敗戦まで1度も発射前に発見・妨害されたことがなかったとされる。潜水艦発射弾道ミサイルは[[偵察衛星]]からその姿を発見するのは困難になる。
 
=== 命中精度の低さ ===
基本的に弾道ミサイルの原理は、最初の数分間加速した後は慣性で飛行するというだけである。つまり最初の数分間で到達した速度によって、着弾地点はほとんど決まる。加速終了地点から着弾地点までの距離が短ければその差はそれほど問題にはならないが、弾道ミサイルは数千km単位で飛ぶためその誤差は徐々に大きくなり着弾地点では大きな差となってしまう。よって弾道弾が長射程になるほど、その誘導装置は高度な技術が必要で高価となり、開発国の技術レベルが国家の戦略にも影響を与える。
 
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この誘導装置の能力(命中精度)から、目標を破壊するための所要威力が算定され、その威力を発揮する核弾頭の小型化が困難であれば、弾頭は大型化し、弾道弾の[[ペイロード (航空宇宙)|ペイロード]]を食いつぶすために必然的に単弾頭化し、射程も短くなる。弾道ミサイルには艦船や特定施設である通信基地や港、空港、原発、司令部等を通常弾頭で命中を期待できるピンポイント攻撃能力は無い。そのため北朝鮮は命中精度の低い弾道ミサイルには大量破壊兵器を組み合わせないと効果が著しく低い弾道ミサイルに核兵器をセットで開発しているのである。通常弾頭の弾道ミサイルを特定の施設に狙って撃ち込んでも直撃する確率はかなり低い<ref>http://thepage.jp/detail/20150804-00000009-wordleaf?page=1</ref>。
 
=== 価格 ===
価格は極端に差があるため一概には言えないが、例えば[[アメリカ海軍]]が使用する[[潜水艦発射弾道ミサイル]](以下SLBM)[[トライデント (ミサイル)|トライデントD5]]は1基3,090万ドルと公表されている。アメリカ海軍が現在調達を進める[[戦闘機]][[F/A-18E/F (航空機)|F/A-18E/Fスーパーホーネット]]が3,500万ドル、世界で3,000機を販売することで調達価格を抑えることを目的として開発中の[[F-35 (戦闘機)|F-35JSF]](統合打撃戦闘機 Joint Strike Fighter)の予価が3,000万ドルと言われる。[[戦略核兵器]]の整備が「軍隊をもうワンセット」そろえるほどの高額となる理由である。
 
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過去には[[弾道#通常弾頭|通常弾頭]]の弾道ミサイルが使用されたこともあるが、これは敵国民の感情を煽るのが目的と言える。弾道ミサイルによる攻撃だけでは敵国を占領できるわけでもなく、敵戦力を削ることもほとんどできないため実際のところダメージは少ない。しかし弾道ミサイルは事前に危険を知らせることがほぼ不可能で、いつどこに飛んでくるかわからないため敵国民に与える心理的な影響は大きい。
 
== 構造 ==
基本的には[[ロケット]]と同じ構造であるため、通常の衛星打ち上げ用ロケットとして転用される物もある。例えば衛星打ち上げ用[[タイタン (ロケット)|タイタン]]ロケットは[[大陸間弾道ミサイル|ICBM]]として開発されたものが衛星用に転用されたものであり、[[ソユーズ]]A型ロケットは宇宙船を[[核弾頭]]に積み替えるだけで弾道ミサイルに転用できた。[[ミサイル]]の段数はSRBM、[[準中距離弾道ミサイル]](以下MRBM)程度だと1段、IRBMだと2段、ICBMでは[[液体燃料]]の場合2段、[[固体燃料]]の場合3段が多い。
 
逆に自国の技術で衛星を打ち上げられる国は事実上ICBM技術を持っていると見なされる。特に下記燃料と保管の問題から、[[固体ロケット]]による打ち上げ技術を持つ国は注目される事になり、[[ミューロケット]]の技術を持つ[[日本]]もまた例外ではない。
 
=== 弾頭 ===
[[ミサイル]]の[[弾頭]]は容量や重量が限られるため、核兵器・化学兵器をはじめとする[[大量破壊兵器]]を搭載することが検討される。特に長距離弾道弾については大気圏外から落下してくるものであり、速い降下速度による空力加熱のため、弾頭は高温となる。このため、生物兵器や化学兵器を搭載しようとすれば、これらが無力化しないような工夫が必要となる。高い成層圏より落下してくる弾頭は'''[[再突入体]]'''と呼ばれ、その形状は空気による減速が適度で、落下方向がぶれずに安定するよう円錐型をしていて、空力加熱による高熱から内部を守るために耐熱層を備える。
 
==== 複数弾頭 ====
[[File:Peacekeeper RV vehicles.jpg|thumb|ピースキーパーのMIRVの軌跡]]
弾道ミサイルに搭載される複数[[弾頭]]にはMRV、[[MIRV]]、MaRVが挙げられる。[[核弾頭]]の小型化およびロケット技術の向上による大推力化により、一基の[[ミサイル]]に複数個の弾頭を搭載できるようになった。これは、ミサイルの効率的な利用ができるほか、[[弾道弾迎撃ミサイル|迎撃ミサイル]]に対する回避手段としても有効なものである。始めにMRV(Multiple Reentry vehicle,複数再突入体)が開発された。MRVは同一目標に対するもので、各弾頭は似たような軌道を取る。[[ポラリス (ミサイル)|ポラリスA-3]]はMRVであり、3個の弾頭を搭載している。
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これら複数弾頭のミサイルは再突入体の分離時、本物の[[核弾頭]]の他に[[デコイ (兵器)|デコイ]]や[[チャフ]]など、'''ペネトレーション・エイド'''と呼ばれる敵の迎撃を困難にするための攪乱手段を備えたものもある。ただ、重量の軽減のため、風船のように内部が空洞のデコイは空気の希薄な成層圏でのみ有効で、空気抵抗の大きい大気圏に落ちてくる頃には本物とは違った軌道をとるので地上の迎撃側では容易に峻別できる。[[冷戦]]終結によって、弾頭の搭載数を米ソ双方で減少・制限されており、これらの新たな兵器開発も停止されている。
 
=== 燃料 ===
燃料は、初期の頃には国によらず[[液体燃料]]が使われていた。現在では[[西側諸国]]では[[固体燃料]]が、[[東側諸国]]では液体燃料が主流となっている。初期の液体燃料は酸化剤に[[液体酸素]]を用いていたために[[ミサイル]]に搭載したまま保存しておくことが不可能で、発射命令が下ってから燃料注入を行い、実際に発射態勢に成るまでに数時間かかり、即応性に問題があった。現在の弾道ミサイルに使用される液体燃料([[非対称ジメチルヒドラジン]]と[[四酸化二窒素]]の組み合わせなど)の場合、ミサイルに搭載したまま長期間の保存が可能であるため即応性に関しては固体燃料との差は無い。
 
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{{see also|ロケットエンジンの推進剤}}
 
=== 誘導方式 ===
戦略核兵器が使用される状況、すなわち核攻撃下における確実な反撃を考えるならば、[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]や無線誘導などは誘導方法として考慮されない。なぜなら、最悪の場合、大統領が専用機([[E-4 (航空機)|E-4]] NEACP National Emergency Airborne Command Post)からの発射命令を下すだけというケースもありうるためである。故にGPSや[[LORAN|ロラン]]といった航法支援を受けない完全なスタンドアローンが求められる。そのため、現代においても[[慣性航法装置|INS]]やアストロトラッカー([[天測航法]]装置)による誘導がほとんどとなる。[[弾道#通常弾頭|通常弾頭]]の[[対地ミサイル]](兵器や軍事施設を目標としたもの)の場合[[レーダー]]や[[赤外線]]で目標を捕らえるが、弾道ミサイルによって運搬される[[弾頭]](再突入体)自体には[[エンジン]]などは搭載されていないため、弾頭が[[ミサイル]]から切り離されて大気圏に再突入を開始した後の軌道変更は不可能である(エンジンなどを搭載したMaRVと呼ばれるものも存在するが例外的)。しかしながらその誘導精度は高く、最も性能の高い[[アメリカ合衆国|アメリカ]]製[[大陸間弾道ミサイル|ICBM]][[ピースキーパー (ミサイル)|ピースキーパー]]は、CEPにおいて90メートルという数値を持つ。これは単純な相互確証破壊(MAD)による破壊力の追求から、軍事目標を攻撃する能力が求められるように戦略そのものが変化したためで、小型化によって多弾頭化を果たしつつ、威力の低下([[W87 (核弾頭)|W87]]熱核弾頭で300キロトン)があっても硬化サイロを格納したICBMごと破壊することが可能となっている。300psiの爆風に耐える硬化サイロが目標の場合、CEPが500フィート(152メートル)であれば500キロトンの弾頭威力であっても99パーセント以上の確率で破壊できるが、5,000フィート(1,524メートル)になると1メガトンの弾頭では12パーセント、5メガトンの弾頭を使用しても34パーセントでしかなく、CEPが10,000フィート(3,048メートル)ともなればほぼ不可能となる。
 
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{{see also|ミサイルの誘導方式}}
 
=== 宇宙ロケットとの違い ===
[[画像:Titan 1 ICBM.jpg|thumb|[[ケープカナベラル空軍基地]]で打ち上げられる人工衛星打ち上げ用タイタンI]]
長射程の弾道ミサイルと宇宙ロケットとの基本的な構造の差は少ない。大雑把に言えば、大射程の弾道ミサイルから[[弾頭]]を外し、代わりに小規模な上段ロケットを追加すれば衛星打上能力を獲得しうる。世界初の人工衛星[[スプートニク1号]]を打ち上げた[[R-7]]は[[SS-6]]の改良型であり、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]初の人工衛星[[エクスプローラー1号]]を打ち上げた[[ジュノー1]]は[[PGM-11 (ミサイル)|レッドストーン]]の改良型である。また、今日においてもロシアの[[ロコット]]やアメリカの[[ミノタウロスⅳ]]など、現役を退いた弾道ミサイルを改修して衛星打ち上げに転用するケースは珍しくない。
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双方に求められる性能も、宇宙ロケットは比推力や経済性や信頼性であるのに対し、弾道ミサイルは即応性やメンテナンスの容易さなどとなる。{{要出典範囲|date=2012年5月|いったん採用されれば数百基単位で生産しつつも基本的に発射されず、また、不具合があっても同じ目標に予備を撃てばいいミサイル}}と、年に数機の建造ながら確実な打ち上げを求められ、さらに有人ミッションであれば要求される安全係数が跳ね上がる宇宙ロケットは積荷の値段の差がある。
 
== 飛行経路 ==
弾道ミサイルは、[[弾道飛行]](sub-orbital spaceflight)と呼ばれる<!--亜軌道--><!--←そんな訳語があるんですか?-->軌道を飛行する。発射後、まず燃料をすべて使って最高1,000km以上の[[遠地点]]高度まで上昇([[スペースシャトル]]の周回軌道は高度300-400km程度)、その後慣性で飛行し、その[[位置エネルギー]]を[[速度]]に変換しながら落下する。通常のボールなどを[[飛行機]]などから落としても空気抵抗があるため思いのほか速度は伸びないが、弾道ミサイルは上昇時に与えられる速度エネルギーと高高度による位置エネルギーによって地上到達時の速度が秒速数kmにまでなる。
 
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:高い軌道を取る上、終末速度も上がるために迎撃されにくいが、位置エネルギーを稼ぐ必要があるために射程はミニマムエナジー軌道で飛ばすより短くなる。
 
== 発射母体 ==
弾道ミサイルの発射母体には[[ミサイルサイロ|サイロ]]、[[潜水艦]]、[[列車]]、車両などがある。
 
=== 発射台 ===
ロケットの発射台と同じく、地上に設備を作ってそこから発射するもの。
 
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[[朝鮮民主主義人民共和国|北朝鮮]]にある[[テポドン (ミサイル)|テポドン]]の発射台はこの方式であったため、アメリカの偵察衛星に発見され、実際に発射前から情報が写真とともに民間に流されており、現在では[[Google Earth]]でも東経129度40分、北緯40度51分にその姿を確認することができる[http://www.globalsecurity.org/wmd/world/dprk/no_dong-imagery.htm]。
 
=== ミサイルサイロ ===
[[File:Peacekeeper missile.jpg|thumb|サイロを出るピースキーパー]]
[[ミサイルサイロ]]は地下に作られた弾道ミサイルの基地である。サイロは[[偵察衛星]]などで容易に発見されてしまうが、サイロ自体が非常に強固な構造となっているため、かなりの近距離で[[核弾頭]]が爆発しない限り破壊されることはない。また、慣性誘導の精度は発射母体の位置をどれだけ正確に把握できるかが鍵となるがサイロの位置は当然のことながら正確に把握されているため弾道ミサイルに搭載される慣性誘導装置の精度は他のものに比べ必然的に高くなる。そのためサイロに格納された弾道ミサイルは主に敵ミサイルサイロなど高い命中率が要求される目標に対して使用される。
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ミサイルサイロからの発射は通常ホットローンチ方式であり、ミサイルを発射する際に[[ロケットエンジン]]から出る強い炎や気流によってサイロの内部機器が損傷され、相当の修理が必要になるか、再利用することが不可能になる。そのため[[ソビエト連邦|ソ連]]・[[ロシア]]の[[R-36 (ミサイル)|R-36]]やアメリカの[[ピースキーパー (ミサイル)|ピースキーパー]]では、[[コールドローンチ方式]]と呼ばれる、[[エンジン]]点火前にミサイルの本体を圧縮空気などでサイロ外に射出し、サイロ外でロケットエンジンに点火させる方式を採用している。
 
=== 潜水艦 ===
水中にいる[[潜水艦]]は陸上の[[ミサイルサイロ]]や[[列車]]、車両に比べ格段に発見されづらいため攻撃された際も一番生き残る可能性が高いが、その反面自艦の正確な位置の測定が困難であるためサイロに比べると命中精度は低めである。これらの特徴からSLBMは攻撃を受けた際に敵国の都市に対する報復攻撃を行う手段として認識されている。その任務上、常時水中で待機している必要があるため通常は[[原子力潜水艦]]が使用される。
 
当初は発射時に潜水艦が水面に浮上しなければならなかったが、現在では直接水中からミサイルが発射される方式となっている。
 
=== 列車・車両 ===
[[File:SS20 irbm.jpg|thumb|SS-20とキャリア車両]]
[[列車]]や発射台付き車両(Transporter-Erector-Launcher;TEL)も移動ができるため比較的発見され難いが、陸地にいるため[[潜水艦]]などより発見されやすい。[[V2ロケット]]ではこの方式で、発射台が[[貨物自動車|トラック]]に牽引されて移動して発射していた。
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[[ミサイル]]を搭載した車両は大型の特殊車両であり、移動の自由度は思いのほか低くなる。移動すると自位置の正確な測定が困難になるので、[[ミサイルサイロ|サイロ]]に比べ慣性誘導の精度は低くなる。[[湾岸戦争]]では、[[イラク治安部隊#イラク軍|イラク軍]]がこの種の発射台に搭載された[[スカッド]]を使用した。本物の車輌に加え、多数のダミーも使用されたため、米英軍はこれを捕捉するために大量の戦力を投入したにも拘らず、成果は思うように上がらなかった。そのため、この種の兵器の実用性が確認された([[R-17 (ミサイル)|R-17(SS-1C)]])。
 
=== その他 ===
[[1950年代]]には[[航空機]]から発射される弾道ミサイル([[空中発射弾道ミサイル]])も研究されていたが、コストおよび技術面の問題により実用化にはいたっていない。なお、このタイプのロケットは人工衛星打ち上げには有効で、[[ペガサスロケット]]が実用化されている。
 
== 分類 ==
=== 射程による分類 ===
現在ある弾道ミサイルは以下のように分類することができる。ただしこの分類は厳格な定義では無い。MRBMを分類に入れない場合やSRBM-IRBMまでをまとめて戦域弾道ミサイル(TBM)と呼ぶ場合もある。現在のところ厳格に定義されているのは米ソ間におけるICBMのみである。
* [[大陸間弾道ミサイル]](ICBM)
: 射程約6,400km(4000マイル、ほぼ地球の半径に等しい)以上のもの。米ソ間で結ばれた[[第二次戦略兵器制限交渉|SALT-II]]では、両国の首都地域([[アメリカ合衆国東海岸]]と[[ヨーロッパロシア]])の距離を考慮して、射程5,500km以上のものと定義。
* [[中距離弾道ミサイル]](IRBM)
: 射程2,000-6,000km程度のもの。
* [[準中距離弾道ミサイル]](MRBM)
: 射程800-1,600km(500-1000マイル)程度のもの。
* [[短距離弾道ミサイル]](SRBM)
: 射程約800km(500マイル)以下のもの。
* [[対艦弾道ミサイル]](ASBM)
: 海上の艦船を対象としたもの。準中距離または中距離と同程度。
 
=== 発射母体による分類 ===
* [[潜水艦発射弾道ミサイル]](SLBM)
: 射程によらず[[潜水艦]]から発射されるもの。
* [[空中発射弾道ミサイル]] (ALBM)
: 射程によらず[[航空機]]から発射されるもの。
など
 
== 身を守る方法 ==
弾道ミサイルは発射から極めて短時間で着弾する。なお、[[日本]]に落下する可能性がある場合、市町村が[[全国瞬時警報システム|Jアラート]]を活用し、[[市町村防災行政無線|防災行政無線]]や緊急速報メール等により周知する<ref name="fujimi223">[[富士見市]]役所秘書広報課公式[[Twitter]]アカウントの[https://twitter.com/Fujimi_City/status/902384045333422080 2017年8月29日12時14分のツイート]。</ref>。
* 屋外にいる場合は近くの「できるだけ頑丈な建物」や[[地下街]]等に避難する。近くに適当な建物がない場合は、物陰に身を隠すか地面に伏せ頭部を守る<ref name="fujimi223" />。
* 屋内にいる場合はできるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動する<ref name="fujimi223" />。
 
== 脚注 ==
<references/>
{{Reflist}}
 
== 関連項目 ==
{{Commonscat|Ballistic missiles}}
* [[弾道ミサイル早期警戒システム]](BMEWS)
* [[ミサイル防衛]](BMD)
* [[弾道弾迎撃ミサイル]](ABM)
* [[大陸間弾道ミサイル]](ICBM)
 
{{ミサイルの分類}}