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[[File:Vegetarian Andhra Meal.jpg|right|thumb|300px|インドのベジタリアン菜食料理]]
'''[[インド]]'''は住民の40%40%が'''[[菜食主義者]]'''(ベジタリアン)である<ref>榊原英資  p149</ref>。思想的な起源はインド発祥菜食主義の起源は[[ヒンドゥー教]]や[[ジャイナ教]]の基本である'''[[アヒンサー]]'''[[非暴力]]または非殺生)であり<ref>榊原英資  p149</ref><ref>インドを知る辞典」 p113</ref>、2000年以上の歴史がある。
 
==インドの菜食主義の歴史==
==インドの菜食主義の歴史==インドにおける菜食主義は[[紀元前]]5 - 6世紀にさかのぼる<ref>「朝倉世界地理講座 4」p21</ref>。当時インド北部を支配していた[[アーリア人]]は半[[農耕]]・半[[牧畜]]の民族で、日常的に[[肉食]]をしていた<ref>「インドを知る辞典」 p121</ref>。また彼らの宗教である[[バラモン教]]は、司祭階級である[[バラモン]]が神に対し動物や
インドにおける菜食主義は[[紀元前]]5-6世紀にさかのぼる<ref>『朝倉世界地理講座4』p21</ref>。当インド北部を支配していた[[アーリア人]]は半[[農耕]]・半[[牧畜]]の民族で、日常的[[肉食]]をしていた<ref>『インドを知る辞典』p121</ref>。また彼らの宗教である[[バラモン教]]、司祭階級である[[バラモン]]が神に対し動物や、時に人間の「犠牲」をささげる祭祀(動物供儀)を行っていた<ref>森本達男  p86</ref>。当時都市の商人などに広まった[[仏教]]やジャイナ教は、動物供儀を否定しバラモンを批判した。この後バラモンは積極的に不殺生・菜食主義に移行してゆき<ref>朝倉世界地理講座 4p21</ref>、バラモン教もさまざまな外部要素を取り入れて現在のヒンドゥー教へと変貌して行った。ヒンドゥー教徒の生活規範を示した[[マヌ法典]]は紀元前2世紀から後2世紀にかけて編纂されたもので、供儀のための肉食は容認しているが無害の生き物を殺すことを否定している<ref>森本達男  p105</ref>。
 
バラモンを批判したジャイナ教は自身も非暴力を徹底し極端な菜食主義を続けているが、[[仏教]]では厳密には肉食を禁止しなかった<ref>榊原英資  p149</ref>。バラモン階級はインドの[[カースト]]の最上位に位置し菜食主義についても厳格に対応しているが、バラモンに続く上位階層も菜食主義を模倣している<ref>朝倉世界地理講座 4p20</ref>。なお一部のヒンドゥー教寺院、例えば[[コルカタ]]のカーリーガート寺院では現在でも毎日[[ヤギ]]が[[生贄]]として捧げられている<ref>前原利行「インド黄金伝説」旅行人  2002年発行  p155</ref>。
時には人間の「犠牲」をささげる祭祀(動物供儀)を行っていた<ref>森本達男 p86</ref>。当時都市の商人などに広まった[[仏教]]やジャイナ教は、動物供儀を否定しバラモンを批判した。この後バラモンは積極的に不殺生・菜食主義に移行してゆき<ref>「朝倉世界地理講座 4」p21</ref>、バラモン教もさまざまな外部要素を取り入れて現在のヒンドゥー教へと変貌して行った。ヒンドゥー教徒の生活規範を示した[[マヌ法典]]は紀元前2世紀から後2世紀にかけて編纂されたもので、供儀のための肉食は容認しているが無害の生き物を殺すことを否定している<ref>森本達男 p105</ref>。
 
バラモンを批判したジャイナ教は自身も非暴力を徹底し極端な菜食主義を続けているが、[[仏教]]では厳密には肉食を禁止しなかった<ref>榊原英資 p149</ref>。バラモン階級はインドの[[カースト]]の最上位に位置し菜食主義についても厳格に対応しているが、バラモンに続く上位階層も菜食主義を模倣している<ref>「朝倉世界地理講座 4」p20</ref>。なお一部のヒンドゥー教寺院、例えば[[コルカタ]]のカーリーガート寺院では現在でも毎日[[ヤギ]]が[[生贄]]として捧げられている<ref>前原利行「インド黄金伝説」旅行人 2002年発行 p155</ref>。
 
==インドの菜食主義の範囲==
[[File:India vegetarian labels.svg|right|thumb|200px|インドの食品に付されるラベル。緑がベジタリアン用、赤がノン・ベジタリアン用]]
厳密に動物性の食物を口にしないベジタリアン([[ヴィーガン|ピュア・ベジタリアン]])もいるが、[[乳製品]]や卵、あるいは魚を食べるベジタリアンも存在する。その人が何を食べるが、何が食べられないかはその人の家系(宗教やカースト)によって決まっている。インドでは「血を流す」ことが大いなる穢れとみなされるため<ref>森本達男  p155</ref>、血を流さずに入手できる乳製品を食べるラクト・ベジタリアンや、乳製品に加えて卵を口にするオボ・ラクト・ベジタリアンもいる。一般に上位カーストの人ほど食物に対する規制が厳しい<ref>森本達男  p102</ref>。
 
ピュア・ベジタリアンにはジャイナ教徒、保守的なヒンドゥー教徒、厳格なバラモン家系の人、修行者などがいる<ref>インドを知る辞典p114</ref>。野菜の中でも根菜類は「採取時に地中の虫を殺すことがある」ため、非暴力を重視するジャイナ教徒<ref>榊原英資  p150</ref>や、[[カシミール地方]]のバラモン階級の人<ref>朝倉世界地理講座 4p21</ref>は、これらを食べない。[[ベンガル地方]]のバラモン階級の人は、特別な日を除いて[[]]を食べることが許されている<ref>朝倉世界地理講座 4p20</ref>が、他地域のベジタリアンは[[精進料理]]の[[鰹節]][[出汁]]でとった[[味噌汁]]も飲まない<ref>榊原英資  p150</ref>。
 
インドの人口の約12%12%を占める[[イスラム教]]や同じく2%2%を占める[[スィク教]]は、肉食を禁じていない。
 
===菜食主義の規律===
個人の菜食主義のレベルは生まれた家系で決まっており、カーストと同様に変更できないものであった。[[マハトマ・ガンディー]]が若い頃に肉食をしたが、[[ロンドン]]留学に際し親戚から肉食を禁じられたためロンドンでは菜食を通したことや<ref>朝倉世界地理講座 4p21</ref>、1940年代に所属するカーストの決まりに反してチキンを食べた若者が長老会議にかけられた<ref>大谷幸三  p148</ref>などの逸話がある。しかし現在ではバラモン階級でも肉食への[[タブー]]は揺らぎつつある<ref>インドを知る辞典p118</ref>。
 
==菜食主義と飲酒==
インドでは[[飲酒]]は悪弊として比較的忌避される<ref>インドを知る辞典p173</ref>が、肉食のように「不可」と言うわけではない。インド人が酒を飲まない理由は「酔っ払って判断力が鈍ると、ベジタリアン料理とノン・ベジタリアン料理が区別できなくなってしまうから」である<ref>榊原英資  p151</ref>。
 
==エア・インディアの機内食==
エア・インディアでは、ベジタリアンが肉類を残し食品廃棄物を増加させていることに着目。2017年より[[エコノミー]]席向けの機内食で、肉類を提供することをやめることを公表している<ref>[https://www.cnn.co.jp/business/35104097.html 印航空会社、一部機内食を「肉なし」に  コスト削減へ] CNN(2017年7月11日)2017年7月11日閲覧</ref>。
 
==脚注出典==
{{脚注ヘルプ}}
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==参考文献==
*榊原英資 「インド・アズ・ナンバーワン2011年  [[朝日新聞社]]
*森元達雄 「ヒンドゥー教-インドの聖と俗中公新書1707  2005年  [[中央公論新社]]
*大谷幸三 「インド通2013年  [[白水社]]
*朝倉世界地理講座  -大地と人間の物語-4  南アジア」 2012年  [[朝倉書店]]
*インドを知る辞典2007年  [[東京堂出版]]
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