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'''脚気'''(かっけ、{{lang-en-short|beriberi}})は、[[ビタミン欠乏症]]の一つであり、[[チアミン|ビタミンB1(チアミン)]]の欠乏によって[[心不全]]と[[末梢神経]]障害をきたす[[疾患]]である。[[心不全]]によって[[|下肢]]のむくみ、神経障害によって、下肢の[[しびれ]]が起きることから脚気の名で呼ばれる。[[心臓]]機能の低下・不全('''衝心'''しょうしん))を併発したときは、'''脚気衝心'''と呼ばれる。最悪の場合には[[死亡]]に至る。
 
[[日本]]では、[[白米]]が流行した[[江戸]]で疾患が流行したため『'''江戸患い'''』と呼ばれた。[[大正]]時代には、[[結核]]と並ぶ二大国民亡国病と言われた。1910年代にビタミンの不足が原因と判明し治療可能となったが、死者が1千人を下回ったのは1950年代である。その後も1970年代に[[ジャンクフード]]の[[偏食]]によるビタミン欠乏、1990年代に点滴輸液中のビタミン欠乏によって、脚気患者が発生し医療問題となった。
 
== 日本における歴史 ==
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日本で、脚気が「いつから発生していたのか」は定かではないが、『[[日本書紀]]』に脚気の症状を呈する病の記述がある。[[元禄]]年間には、[[コメ]]を精製する習慣が広まり、特に[[江戸]]で多く発生して「江戸患い」と呼ばれ、経験的に他の精白されていない穀物を食べた。[[明治時代]]に入り[[1870年]](明治3年)には翌年にかけて脚気が流行。明治末までに6,500人から15,085人死亡したとみられる。
 
[[大日本帝国海軍]]で軍医の[[高木兼寛]]は、[[イギリス]]の[[根拠に基づく医療]]に依拠して、[[タンパク質]]が原因だと仮定して、洋食、[[麦飯]]を試み、1884年(明治17年)の導入により、1883年の23.1%の発症率を2年で1%未満に激減させた。理論こそ誤っていたものの、[[疫学]]の[[エビデンス|科学的根拠]]を得ていたということである。だが、当時医学の主流派は、理論を優先するドイツ医学を模範としていたことから高木は批判され、また予防成績も次第に落ち様々な原因が言われ、[[胚芽米]]も導入された。これに対抗して、[[大日本帝国陸軍]]は白米を規則とする日本食を採用、『明治二十七八年役陸軍衛生事蹟』によれば、死者総計の約2割、約4000人が脚気が原因であり、陸軍はその後も脚気の惨害に見舞われた。農学者の[[鈴木梅太郎]]は、1910年(明治43年)に動物を白米で飼育すると、脚気様の症状が出るが、米糠・麦・玄米を与えると、快復することを報告。これを基に翌年、糠中の有効成分を濃縮し「オリザニン」として販売したが、医界においては伝染病説と中毒説が支配的であり、また医学界の外にあった鈴木が提唱したこともあって栄養欠乏説を受け入れなかった。1912年にポーランドの[[カシミール・フンク|カジミェシュ・フンク]]がビタミンという概念を提唱したが、なおも国内提唱の栄養説を俗説とさげずみ、外来の栄養説を後追いした。陸軍主導の調査会には、真因を追及する能力はなかったとも指摘される<ref>松田誠『脚気をなくした男 高木兼寛伝』講談社、1990年。pp.118-120,</ref>。陸軍が白米を止め、麦3割の麦飯を採用したのは、海軍から遅れること30年の大正2年だった<ref name="江戸わずらい">[[浅田次郎]]『パリわずらい江戸わずらい』[[小学館]]、2014年。pp.138-143.</ref>
 
[[大正]]以降、[[チアミン|ビタミンB1]](チアミン)を含まない精米された[[白米]]が普及するとともに安価な移入米が増加し、[[副食]]を十分に摂らなかったため、脚気の原因が解明された後もビタミンB1の純粋単離に成功した後も、多くの患者と死亡者を出し、[[結核]]とならび脚気は二大国民病といわれた。ちなみに統計上の脚気死亡者数は、[[1923年]](大正12年)の26,796人がピークであり、[[1915年]](大正4年)から[[日中戦争]]の拡大と移入米の減少によって食糧事情が悪化する[[1938年]](昭和13年)まで年間1万人~2万人で推移した翌1939年12月1日、白米禁止と7分つき米強制された死者がようやく1千人を下回ったのは、ビタミンB1誘導体を主成分とする[[アリナミン]]とその類似品が社会に浸透する1950年代後半のことであった。
これに対抗して、[[大日本帝国陸軍]]は白米を規範とする[[日本料理]]を採用、『明治二十七八年役陸軍衛生事蹟』によれば、死者総計の約2割、約4000人が脚気が原因であり、陸軍はその後も脚気の惨害に見舞われた。農学者の[[鈴木梅太郎]]は、1910年(明治43年)に動物を白米で飼育すると、脚気様の症状が出るが、米糠・麦・玄米を与えると、快復することを報告。
 
これを基に翌年、糠中の有効成分を濃縮し「オリザニン」として販売したが、医界においては伝染病説と中毒説が支配的であり、また医学界の外にあった鈴木が提唱したこともあって栄養欠乏説を受け入れなかった。1912年にポーランドの[[カシミール・フンク|カジミェシュ・フンク]]がビタミンという概念を提唱したが、尚も国内の栄養説を俗説と蔑んだものの、外来の栄養説を後追いした。陸軍主導の調査会には、真因を追及する能力はなかったとも指摘される<ref>松田誠『脚気をなくした男 高木兼寛伝』講談社、1990年。pp.118-120,</ref>。陸軍が白米を止め、麦3割の麦飯を採用したのは、海軍から遅れること30年の大正2年だった<ref name="江戸わずらい">[[浅田次郎]]『パリわずらい江戸わずらい』[[小学館]]、2014年。pp.138-143.</ref>。
 
[[大正]]以降、[[チアミン|ビタミンB1]](チアミン)を含まない精米された[[白米]]が普及するとともに安価な移入米が増加し、[[副食]]を十分に摂らなかったため、脚気の原因が解明された後もビタミンB1の純粋単離に成功した後も、多くの患者と死亡者を出し、[[結核]]とならび脚気は二大国民病といわれた。ちなみに統計上の脚気死亡者数は、[[1923年]](大正12年)の26,796人がピークであり、[[1915年]](大正4年)から[[日中戦争]]の拡大と移入米の減少によって食糧事情が悪化する[[1938年]](昭和13年)まで年間1万人~2万人で推移した。翌1939年12月1日、白米禁止と7分つき米が強制された。死者がようやく1千人を下回ったのは、ビタミンB1誘導体を主成分とする[[アリナミン]]とその類似品が社会に浸透する1950年代後半のことであった。
 
=== 第二次世界大戦以後 ===
[[1975年]](昭和50年)頃から[[ジャンクフード]]の普及による栄養の偏りから脚気が再発した<ref name="急性多発性神経炎">高橋和郎 「[http://ci.nii.ac.jp/naid/40002994995/ 心拡大,高度浮腫を伴った急性多発性神経炎]」『日本内科学会雑誌』Vol.64、 No.10、1975年10月、1140-1152頁, {{naid|130000889782}} , {{doi|10.2169/naika.64.1140}}</ref><ref name="急性多発性神経炎続">高橋和郎、北川達也「[http://ci.nii.ac.jp/naid/40002994942/ 心拡大,高度浮腫を伴った急性多発性神経炎-続-その疫学ならびに成因としてのビタミンB1欠乏症]」『日本内科学会雑誌』Vol.65、 No.3、1976年3月、256-262頁, {{naid|130000889987}}, {{doi|10.2169/naika.65.256}}</ref>。また、[[高カロリー輸液]]の点滴にビタミンB1を欠いたことから死亡を含む脚気の重症例が相次ぎ、1997年(平成)に厚生省は輸液に際してビタミンB1を投与するという通達を出した<ref name="点滴">{{Cite journal |和書|author1=藤山二郎 |author2=木ノ元景子 |author3=山村修 |author4=et al. |date=2007-06-25 |title=絶食患者におけるビタミン非添加末梢静脈栄養時の血中水溶性ビタミン濃度の変化 |journal=静脈経腸栄養 |volume=22 |issue=2 |pages=181-187 |doi=10.11244/jjspen.22.181 |url=http://doi.org/10.11244/jjspen.22.181}}</ref>。[[アルコール依存症]]患者にも多い。2014年にも、高齢者が食品購入の不自由さから、副食を食べず白米のみを食す食生活でビタミンを摂取できず発症する例が報告されている<ref>桑原昌則ほか、[http://doi.org/10.11281/shinzo.46.893 ショック, 意識障害をきたした高齢者のビタミンB{{sub|1}}欠乏症 (脚気) の1症例] 心臓 Vol.46 (2014) No.7 p.893-899</ref>。現代のジャンクフードは、例えばインスタントラーメンなどにビタミンB1が添加されているため脚気の心配は少なくなった。
 
== 病態 ==