「絶縁ゲートバイポーラトランジスタ」の版間の差分

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1982年に発表されたIGRやCOMFETはスイッチングスピードが遅く、ラッチアップしやすい欠点があったが、1983年にはBaligaやA.M. Goodman等によって電子線照射によってスイッチングスピードが改善され<ref>{{Cite journal|year = 1983|title = Fast-switching insulated gate transistors|journal = Electron Device Letters|volume = 4|first = B. J.|last = Baliga|publisher = IEEE|pages = 452-454}}</ref><ref>{{Cite conference|year = 1983|title = Improved COMFETs with fast switching speed and high-current capability|conference = IEEE International Electron Devices Meeting|first1 = A. M.|last1 = Goodman|coauthors = et al.|pages = 79–82|others = Technical Digest}}</ref>、また、ラッチアップ耐量向上の努力がなされた。1983年にはGEがサンプル出荷を始めたが、ラッチアップは克服されなかった。GEの素子は大電流密度でサイリスタ動作してしまい、応用は限定され、その動作はJ.D. Plummerの特許の範囲であった。
 
完全なラッチアップの抑制は1984年、中川明夫等がIEDMで論文発表したノンラッチアップIGBTの発明によって初めて実現された<ref name=":2" />。このノンラッチアップIGBTの設計概念は「IGBTの飽和電流をラッチアップする電流値よりも小さく設定する」というもので、1984年に特許出願された<ref>中川他、特許1778841、特許1804232、A.Nakagawa, H. Ohashi, Y. Yamaguchi, K. Watanabe and T. Thukakoshi, "Conductivity modulated MOSFET" US Patent No.6025622 (Feb.15, 2000), No.5086323 (Feb.4, 1992) andNo.4672407 (Jun.9, 1987)</ref>。完全にラッチアップしないことを証明するため、{{Val|1200|ul=V}} の素子を {{Val|600|u=V}} のDC電源に直結して負荷なしで {{Val|25|ul=us}} の期間、素子をオンさせた。{{Val|600|u=V}} の電圧が素子に直接印加され、流れるだけの短絡電流が素子に流れたが、素子は破壊せずに {{Val|25|u=us}} 後に電流をオフできた。この素子特性は負荷短絡耐量と呼ばれるものでIGBTで初めて実現された<ref>A. Nakagawa et al., "Experimental and numerical study of non-latch-up bipolar-mode MOSFET characteristics", IEEE International Electron Devices Meeting Technical Digest, pp. 150–153, 1985</ref>。これによって、Hans W. BeckeとCarl F. Wheatleyによって特許提案された「素子の動作領域全体でラッチアップしないIGBT」が1984年に実現した。ラッチアップが完全に抑制されたノンラッチアップIGBTでは電流密度と電圧の積は {{Val|5|e=5|ul=W/cm2}} に達した<ref>{{Cite journal|year = 1987|title = Safe operating area for 1200-V non-latch-up bipolar-mode MOSFETs|journal = IEEE Trans. on Electron Devices|volume = 34|pages = 351–355|first = A.|last = Nakagawa}}</ref>。この値はバイポーラトラジスタの理論限界 {{Val|2|e=5|u=W/cm2}} を超えており、ノンラッチアップIGBTは破壊耐量が強く、安全動作領域が広いことが検証された。ノンラッチアップIGBTの実現によってHans W. BeckeとCarl F. Wheatleyの特許がIGBTの概念上の基本特許となり、中川等が発明したノンラッチアップIGBTの設計原理が実際にIGBTを実現する上での基本特許となった。これにより現在のIGBTが誕生した。
 
== 特徴 ==