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== 語義と語源 ==
「ハイジャック」とは、輸送中の貨物や輸送機関そのもののを強奪したり乗っ取ったりする行為を指す<ref name=britanica-ja/>。狭義では特に航空機に対して用いられる<ref name=britanica-ja/>。航空機におけるハイジャックとは、乗客や乗員らが不法に航空機を奪取したりその運航を支配したりする行為であり、これらの未遂や加担行為も含まれる{{sfn|稲坂|2006|p=36}}{{sfn|安藤|2014|p=32}}。ハイジャックを行う手段としては、[[武器]]や[[暴力]]などによる[[脅迫]]、あるいは[[威嚇]]や詐術などが挙げられる{{sfn|稲坂|2006|p=36}}{{sfn|安藤|2014|ppp=3271–76}}<ref name=hijacking-jk/><ref name=britanica-ja/>
 
ハイジャックの元来の意味は、乗り物そのものや運送貨物を強奪することであり、特に[[アメリカ合衆国における禁酒法|禁酒法]]が施行されていた[[1920年代]]のアメリカ合衆国で、密造酒を輸送するトラックや船舶から積荷を強奪する行為を指した<ref name=britanica-ja/><ref name= japan_hijack/>。「ハイジャック」の語源として、以下のように諸説が挙げられている。
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反政府ゲリラやテロ組織などの政治的意図や信念に基づいて実行されたハイジャックである{{sfn|稲坂|2006|pp=41, 48–50}}{{sfn|Thomas|2008|pp=103–104}}。逃亡や金品強奪のためではなく、[[収監]]されている仲間の釈放要求や政治的アピールの手段としてハイジャックが利用された{{sfn|稲坂|2006|pp=41, 48–50}}{{sfn|Thomas|2008|pp=103–104}}。革命や社会改革を掲げつつ身代金も要求するといった複数の目的を伴う事件も起きている{{sfn|稲坂|2006|pp=50–51}}。また、宗教間対立に由来するハイジャック事件も政治的ハイジャックに分類される場合もある{{sfn|稲坂|2006|p=41}}。
 
政治的ハイジャックを行なった組織として、[[パレスチナ解放人民戦線]] (PFLP) や[[日本赤軍]]、南米の左翼ゲリラ、[[イスラム原理主義|イスラム原理主義組織]]などが挙げられる{{sfn|稲坂|2006|pp=41, 48–50}}{{sfn|Thomas|2008|pp=103–104}}。特に、PLFPは1970年前後に立て続けにハイジャックを行ない、狙われた西側諸国の航空会社を震撼させた{{sfn|稲坂|2006|p=49}}。その過激さは他の解放組織からも強く批判されるほどだった{{sfn|稲坂|2006|p=49}}。2001年9月11日の[[アメリカ同時多発テロ事件]](以下、9.11事件)では、イスラム原理主義者が4機の旅客機をハイジャックし、乗客を道連れに自爆テロ攻撃を行ったことで約3千人もの命が奪われた{{sfn|稲坂|2006|pp=3–19, 49–50}}。
 
=== それ以外の事件 ===
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[[第二次世界大戦]]後、国際民間航空の発達や国際航空運送業務の運営に関して各国が協力することを目的に、[[国際連合]]の専門機関としてICAOが設置された<ref>{{Cite web |title=国際民間航空機関(ICAO)|publisher=外務省 |url=http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page22_000755.html |accessdate=2018-02-19}}</ref>。ICAOによってハイジャック対策のための国際条約が作成され、航空保安に関する国際標準や勧告なども定められている{{sfn|川久保|2010|pp=30–31}}。ICAOの取り決めは、新たなリスクに対応する形で改定が重ねられてきた{{sfn|林|2014|p=4}}{{sfn|川久保|2010|pp=30–31}}。
 
2001年9.11日に事件が発生した[[アメリカ同時多発テロ事件]](以下、9.11事件)以降後には、保安措置のより確実な履行が各国に求められ、ICAOによる監査も行われるようになった{{sfn|林|2014|p=4}}。かつて9.11事件までハイジャック対策は、ハイジャッカーが生存を前提に行動するという考えに立っていた。しかし、9.11事件では最初から自爆を意図してハイジャックが行われたことで、以降ハイジャック対策方針転換が図られた{{sfn|稲坂|2006|p=145}}。
 
=== 空港での保安検査 ===
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1970年代には390件に達したハイジャックの発生件数は、1980年代に284件、1990年代には263件と減少傾向を示していた{{sfn|稲坂|2006|p=40}}。
 
1990年代になると、組織的で大規模な[[テロリズム|テロ活動]]の背後にある資金源を断つ必要性が認識されるようになった{{sfn|安藤|2014|p=44}}。既存の条約では資金供与について明示的に扱われていないことを踏まえ、1999年、国連において[[テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約]]が採択された{{sfn|安藤|2014|p=44}}。この条約では、テロ行為の準備行為となる資金提供や収集自体を犯罪と定め、そうした行為を行った者を訴追や処罰することでテロ行為を防止することを狙いとした{{sfn|安藤|2014|p=45}}。当初、この条約に対して署名や批准を行うことに消極的な国が少なくなかった{{sfn|安藤|2014|pp=44–45}}。しかし、2001年に[[アメリカ同時多発テロ9.11事件]]が発生し、[[ウサーマ・ビン・ラーディン]]が事件の実行犯たちへ資金提供を行なっていた疑いが強まり、テロ活動の資金源に対する関心が高まった{{sfn|安藤|2014|pp=44–45}}。
 
[[File:UA Flight 175 hits WTC south tower 9-11 edit.jpeg|thumb|ユナイテッド航空175便が世界貿易センタービル南棟に突入した瞬間]]
2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件(以下、9(9.11事件)は、史上最大の犠牲者を出したハイジャック事件となった<ref name=britanica/>。[[テロリスト]]がアメリカで4機の旅客機を乗っ取り自爆攻撃を行なった事件である<ref name=britanica/>。
 
[[アメリカン航空11便テロ事件|アメリカン航空11便]]と[[ユナイテッド航空175便テロ事件|ユナイテッド航空175便]]は、ハイジャックされて[[ワールドトレードセンター (ニューヨーク)|ワールドトレードセンター]]のノースタワーとサウスタワーにそれぞれ突入した<ref name=asn-20010911-0>{{ASN accident |id=20010911-0 |title=ASN Aircraft accident Boeing 767-223ER N334AA New York, NY |accessdate=2017-12-15}}</ref><ref name=asn-20010911-1>{{ASN accident |id=20010911-1 |title=ASN Aircraft accident Boeing 767-222 N612UA New York, NY |accessdate=2017-12-15}}</ref>。航空機の衝突後にタワーは相次いで崩壊し、両機の搭乗者全員と地上で巻き込まれた犠牲者を合わせて約3,000人が死亡した<ref name=asn-20010911-0/><ref name=asn-20010911-1/>{{refnest|group="注釈"|name=wtc_note|なお、衝突と倒壊は短時間で発生しており、2機それぞれの犠牲者数を特定することは困難である<ref name=asn-20010911-0/><ref name=asn-20010911-1/>。}}。同じ頃ハイジャックされた[[アメリカン航空77便テロ事件|アメリカン航空77便]]は、[[アメリカ国防総省]]の[[ペンタゴン]]に突入した<ref name=asn-20010911-3>{{ASN accident |id=20010911-3 |title=ASN Aircraft accident Boeing 757-223 N644AA Washington, DC |accessdate=2017-12-15}}</ref>。衝突により爆発炎上し、搭乗者64人全員と地上の125人が死亡した<ref name=asn-20010911-3/>。[[ユナイテッド航空93便テロ事件|ユナイテッド航空93便]]も同様にハイジャックされ、機体の操縦を奪われたが、乗客たちの抵抗により犯人の意図した目標へ到達する前に墜落した<ref name=20010911-2>{{ASN accident |id=20010911-2 |title=ASN Aircraft accident Boeing 757-222 N591UA Shanksville, PA |accessdate=2017-12-15}}</ref>。同便では、搭乗者44人全員が死亡した<ref name=20010911-2/>。