「アニサキス」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
検査装置についての出典補足など
22行目:
* ''Anisakis ziphidarum''
}}
'''アニサキス'''(学名:''Anisakis'')は[[回虫]]目アニサキス科アニサキス属に属する[[線虫]]の総称。全ての種が[[魚介類]]に[[寄生]]する[[寄生虫]]であり、[[食中毒]](アニサキス症)の原因寄生虫として知られる
全ての種が[[魚介類]]に[[寄生]]する[[寄生虫]]であり、アニサキス症の原因寄生虫として知られる。
 
== 生活環 ==
[[ファイル:Anisakiasis 01.png|200px|thumb|left|アニサキスの生活環 ①海中に排泄された卵(0) ②a孵化した幼虫(1)は、b遊泳生活に移る(2) ③甲殻類に寄生して成長する(3) ④中間宿主を渡り歩く(3) ⑤感染期:海生哺乳類またはヒトへの感染能力を持つ(3) ⑥海生哺乳類の体内で成虫(4)となり産卵する ⑦症例期:ヒトの体内でアニサキス症を引き起こす(3)]]
[[終宿主]]おもに[[イルカ]][[クジラ]]など[[海獣|海生哺乳類]](種により異なる)で、成虫はその[[腸管]]に棲息する。卵は[[排泄物]]とともに海中へ放出されて[[孵化]]し、[[オキアミ]]などの[[甲殻類]]に寄生して第3期幼虫まで発育する。[[食物連鎖]]上位の魚類や[[イカ]](種により異なる)を[[中間宿主]]とし、その内などで更に成長する。中間宿主が最終宿主に捕食されると、その消化管から体内に侵入し成虫となる。
[[ヒト]]の体内では成虫にはなれず<ref>{{cite web|url=http://www.jomf.or.jp/report/kaigai/19/worm/c/c4/c4-1.htm|title=寄生虫ミニ辞典 - アニサキス|accessdate=2015-03-12}}</ref>、中間宿主でもないため、数日で死ぬか排泄される。
 
=== 終宿主 ===
42 ⟶ 41行目:
== アニサキス症 ==
[[ファイル:Anisakis.jpg|thumb|200px|right|取り出したアニサキス]]
激しい[[腹痛]]や[[吐き気]]などを伴う<ref>[http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000042953.html アニサキスによる食中毒を予防しましょう]厚生労働省(2018年5月29日閲覧)。</ref>(詳細は後述)。生きたアニサキスの第3期幼虫(体長は11-37mm位)を経口摂取して発症し、主に ''Anisakis simplex''、''Anisakis physeteris'' 及び ''Pseudoterranova decipiens'' の3種により引き起こされる。
 
1955年、オランダのStraubにより[[ニシン]]の寄生虫による症状が報告され、後にVan Thielにより原因がアニサキスであると特定された<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/10/9/10_9_598/_pdf Terranova decipiens による急性胃炎の発見] J-STAGE 日本農芸化学会</ref>。近縁の[[シュードテラノバ属]]([[鰭脚類]]に寄生する)''Pseudoterranova decipiens'' の幼虫による、同様の症状(シュードテラノバ症)を含める場合もある
近縁の[[シュードテラノバ属]]([[鰭脚類]]に寄生する)''Pseudoterranova decipiens'' の幼虫による、同様の症状(シュードテラノバ症)を含める場合もある。
 
中間宿主の[[魚介類]]([[サケ]]、[[サバ]]、[[アジ]]、[[イカ]]、[[タラ]]など)を、加熱が不十分なまま摂食すると感染するおそれがある。アニサキスの幼虫はおもに宿主の[[内臓]]に寄生しているため、これを非加熱で食べることは高リスクとなる。筋肉部にも侵入するため、内臓を避けても完全には防げない。
 
=== 日本 ===
[[刺身]]など[[生食]]文化があることから、感染リスクは高いと見られる。1965年ころまでは海産魚介類の寄生虫は無害とされ、生きた寄生虫は鮮度の証と見なされたという。
1999年にアニサキスが[[食品衛生法]]で[[食中毒]]の原因物質とされ、さらに2012年からは[[保健所]]への届出が義務づけられている<ref>[https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/314-anisakis-intro.html アニサキス症とは] 国立感染症研究所寄生動物部</ref>。
2007年度までは年間数例に留まっていたが、2012年以降急増した(2016年は124件)。
これは、[[厚生労働省]]が統計項目に加え実態把握が進んだこと、流通の発達と複雑化によりアニサキスが生きたまま食卓に到達する機会が増したことなどが指摘されている<ref>[https://mainichi.jp/articles/20170509/k00/00m/040/080000c 食中毒アニサキス生の魚介類で猛威] 毎日新聞(2017年5月8日)2017年5月9日閲覧</ref>。
 
ただしこれは届出を集計したものであり、実際には氷山の一角と見なせる。1997年の厚労省による検討<ref>[http://www1.mhlw.go.jp/houdou/0909/h0917-1.html 食品媒介の寄生虫疾患対策について 蠕虫類 - 生鮮魚介類により感染するもの]</ref>でも、年間7,147件との試算<ref>[https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/314-anisakis-intro.html アニサキス症とは]</ref>や、2-3千名以上との推定<ref>「日本におけるAnisakidosisの発生状況の解析(石倉肇、臨床と研究、72巻5号、1995年)」</ref>がげられていた。
 
なお、[[日本海]]と[[太平洋]]で[[マサバ]]の寄生種が大きく異なることが[[デオキシリボ核酸|DNA]]解析により判明しており、太平洋側で大半を占めるsimplex種(アニサキス症の原因3種のひとつ)が、日本海側(とくに南部)ではほとんど見られなかった。日本海側で多いpegreffii種は発症リスクが低い(simplex種の100分の1未満)ため、九州北部でサバを刺身など生食する習慣が根付いているのはこのことが原因と考えられる<ref>[http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/health/webversion/web28.html アニサキス症とサバのアニサキス寄生状況] 東京都健康安全研究センター</ref>。
 
=== 症状 ===
寄生部位(穿孔部位)により、胃アニサキス症、腸アニサキス症、腸管外アニサキス症に分けられる。
幼虫の多くは消化管壁を貫通出来ないが、貫通した場合は穿孔性[[腹膜炎]]や寄生虫性[[肉芽腫]]を発症することもある。
なお、激痛の原因は[[アレルギー#I型アレルギー|即時型アレルギー]]によるもの<ref>[http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201005/515124.html アニサキス症はアレルギー 虫体摘出は不要、抗アレルギー薬投与で十分] 日経メディカル 記事:2010年5月25日</ref>とする説がある。
 
71 ⟶ 69行目:
アニサキス自体に特異的な治療薬(特効薬)は、見つかっていない。
 
胃アニサキス症は、開腹あるいは[[内視鏡]]手術で幼虫を摘出するのが一般的で、すみやかに症状が消失することが多い。
襞(ひだの間に穿入し対処が困難な場合、[[造影剤]]の[[アミドトリゾ酸]]([[ガストログラフィン]]{{sup|&reg;}})<ref>串上 元彦ほか. 胃アニサキス内視鏡下摘出におけるガストログラフィン散布の有用性. 日本消化器内視鏡学会雑誌 1994;36(1):144-149. {{doi|10.11280/gee1973b.36.144}}</ref>や、[[メントール]]<ref>椎名正明、國分茂博、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/pde/87/1/87_49/_article/-char/ja/ 当院におけるアニサキス症の現況とl-メントール補助下の虫体摘出] Progress of Digestive Endoscopy, Vol.87 (2015) No.1 p.49-52, {{doi|10.11641/pde.87.1_49}}</ref>の散布により幼虫が腸管内へ戻り、摘出しやすくなることが報告されている。
 
腸アニサキス症は、[[腸閉塞]]など重篤な症状では開腹手術<ref>大島稔ほか. 小腸アニサキス症により腸閉塞をきたした1切除例. 日本腹部救急医学会雑誌 2011;31(3):589-92.</ref><ref>松村勝ほか. 食餌性イレウスで発症した小腸アニサキス症の1例. 日本腹部救急医学会雑誌 2012;32(7):1231-4.</ref><ref>川元真ほか. 腸アニサキス症で小腸穿孔をきたした1例. 日本腹部救急医学会雑誌 2013;33(6):1047-50.</ref>が行われる。
79 ⟶ 77行目:
一方、[[ステロイド系抗炎症薬]]<ref>鈴木淳、村田理恵、{{PDFlink|[http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/journal/2011/pdf/01-01.pdf わが国におけるアニサキス症とアニサキス属幼線虫] 東京都健康安全研究センター 究年報 第62号(2011)}}</ref>と抗アレルギー薬を投与すると駆虫はできずとも、症状が軽快する症例があることが報告されている<ref>山本馨、栗原毅、福生吉裕、「[https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/8/2/8_179/_article/-char/ja/ アニサキス症のユニークで簡便な治療法]」日本医科大学医学会雑誌 Vol.8 (2012) No.2 p.179-180, {{doi|10.1272/manms.8.179}}</ref>。
 
[[正露丸]]に含まれる木[[クレオソート]]にはアニサキスの運動抑制作用があり、症状の改善が期待できる。また[[内視鏡]]での摘出の際の前処置薬としても有効性が期待できる(特許取得済み)<ref>{{Cite press release |title= 大幸薬品が、胃アニサキス症の予防・症状改善のための薬剤として 木クレオソートの新たな活用方法を特許出願 |publisher= 大幸薬品 |date= 2010-12 |url= https://www.seirogan.co.jp/dl_news/file0095.pdf |accessdate=2018-05-16 }}</ref><ref>[https://biosciencedbc.jp/dbsearch/Patent/page/ipdl2_JPP_an_2010154686.html 公開特許公報(A)_消化器アニサキス症用薬剤]</ref>。
 
=== 予防 ===
アニサキスの中間宿主を生食しないことが、最も確実とえる。
 
それ以外では、60℃160℃で1分以上の熱処理、または長時間の[[冷凍]]によって、感染リスクを減少できる。冷凍温度と保持時間に関する規定は次の通り。
* 日本:-20℃以下で24時間以上([[厚生労働省]]の指導)
* オランダ:ニシンに対し、-20℃以下で24時間以上(1968年の法律で義務付け)
* アメリカ合衆国:生食用の魚に対し、-35℃以下で15時間、または-20℃以下で7日間([[アメリカ食品医薬品局]]の勧告)
* EU:[[欧州連合]](EU):生食用の海産魚に対し、-20℃以下で24時間以上(衛生管理基準による指示事項。視覚検査も義務付けられている)
 
近年では目視検査での見落としを減らし、[[紫外線]]、[[ブラックライト]]などを使ってアニサキスを発見する検査装置が、静岡産業社や[[イシダ|株式会社イシダ]]から販売されている<ref>[https://www.asahi.com/articles/DA3S13509579.html 【生で食べるをたどって】(3)アニサキスとの闘い]『朝日新聞』夕刊2018年5月24日(2018年5月29日閲覧)。</ref><ref>[https://www.nikkei.com/article/DGXLASJB27H4S_V00C17A7AM1000/ 「アニサキス」見逃さず イシダ、水産加工用検査装置 切り身に紫外線、光らせ検出]『日本経済新聞』ニュースサイト(2017年7月5日)2018年5月29日閲覧。</ref>。
近年ではアニサキスを発見・予防する装置として、[[イシダ|株式会社イシダ]]のアニサキス検査装置「i-Spector」といった専用の検査・検出装置もでている。
 
=== 予防効果の期待出来ないもの ===
* よく噛んで食べる:アニサキスの虫体はかなり強靱で、通常の[[咀嚼]]では噛み切れない。
:* 2017年5月9日放送のテレビ番組『[[スーパーJチャンネル]]にて傷つくとすぐ死ぬので、よく噛めば口の中で死滅させられると紹介された<ref>[https://www.j-cast.com/2017/05/12297769.html?p=all アニサキス、よく噛めば大丈夫なのか それだけで胃への侵入は防げない] J-CASTニュース</ref>が、アニサキスを噛み殺すことを意識して、念入りに咀嚼する必要があると見られる<ref>[http://www.outdoorfoodgathering.jp/outdoorfood/%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%82%B5%E3%82%AD%E3%82%B9/ 喰われる前に喰う!寄生虫界の裏番長・アニサキスを積極果敢に食べてみた] 野食ハンマープライス</ref>。
* 薄く切る:虫体を切断できないリスクが高く([[ルイベ]]は凍らせて固定している)、目視による除去が推奨されている。
* [[薬味]]([[ショウガ]]、[[ワサビ]]、[[ニンニク]])、[[酢]]による殺虫:人が食べられる濃度では殺虫効果はない<ref>{{PDFlink|[http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2003/pdf/54-1.pdf アニサキス症と天然物由来の有効化学物質の検索]}}東京都健康安全研究センター</ref>。
 
== アレルギー ==
生きた幼虫による即時型ではなく[[アルサス反応|アルサス型]]の[[アレルギー]]反応であり、初回感染時は無症状で再感染により発症する。
 
[[イカ]]、[[サバ]]、[[ブリ|ハマチ]]等を摂取した際、発疹及びじんま[[蕁麻]]などのアレルギー症状を示すが、検査において魚介類では陽性反応を示さない場合、アニサキスによるアレルギーが原因の場合がある<ref>[https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2406-iasr/related-articles/related-articles-446/7212-446r03.html アニサキスアレルギーによる蕁麻疹・アナフィラキシー] 国立感染症研究所 IASR Vol.38 p.72-74: 2017年4月号</ref>。
 
また本アレルギーの原因物質は、冷凍または加熱をしても残存するので、魚介類加工品を摂取した時も症状が現れる場合がある。ただし、鮮度の低下した魚介類の摂食による[[ヒスタミン]]型の食中毒を誤認している場合もある。