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== 原因 ==
=== 事故の根本原因 ===
東京電力は事故原因について、事前の想定を大幅に超える未曽有の大津波が原発を襲ったことにあるとしている。当事故を調査した[[国際原子力機関]] (IAEA) の調査団は、2011年6月1日、日本の政府に査察の結果を提出し、事故の要因は高さ14 mを超える津波によって、非常用電源を喪失したことであると結論し、「日本の原発は津波災害を過小評価していた」とコメントし、日本の原子力発電所は安全対策の多重性確保を行って、あらゆる自然災害のリスクについて、適切な防御策を講じるべきだと述べた。事故後の対応については、厳しい状況でベストを尽くしたと評価した<ref name="IAEA1">{{Cite news |title=「津波災害を過小評価」=調査団、報告書要旨を提出-福島第1原発事故でIAEA |newspaper=時事ドットコム |date=2011-06-01 |url=http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&amp;k=2011060100399 |accessdate=2011-06-03}}{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref><ref>{{Cite news |title=津波の想定「過小評価」…IAEA報告書概要 |newspaper=YOMIURI ONLINE |date=2011-06-01 |url=http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110601-OYT1T00493.htm |accessdate=2011-06-03}}{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref>。
 
国会事故調は、東電は従来の想定を超えた地震・津波が襲来する可能性、そして原発がそれに耐えられない構造であることを、何度も指摘されていたにも関わらず、これを軽視し、十分な対策をらなかったことが事故の根本原因だとしている{{Sfn|国会事故調|2012|p=57, 82}}。
 
==== 津波想定 ====
今回の地震で実際に襲来した津波は[[津波#高さ|遡上高]]14m-15mといった規模であり、標高10mの1-4号機の敷地では津波の痕跡が4m-5mの高さの所にまで残っていた(標高13 mの5号機・6号機の敷地では0m-1m)<ref name="setsumei20110415">{{WAP |pid=6086248 |url=http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110413006/20110413006.pdf |title=東京電力(株)福島第一原子力発電所及び東京電力(株)福島第二原子力発電所における2011年東北地方太平洋沖地震により発生した津波の調査結果を踏まえた対応について(指示) |date=2013-01-15}}</ref>。東京電力は2011年[[7月8日]]、コンピュータ解析により、沖合30 [[キロメートル|km]]の地点で6つの断層破壊による津波は次々重なり地震発生約51分後津波の高さが13.1mに達し原発を襲ったと発表した<ref name="20110708-13m">"{{Cite Webweb |url=http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110708b.pdf |title=福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における平成 23 年東北地方太平洋沖地震により発生した津波の調査結果に係る報告(その2)【概要版】 |publisher=東京電力 |format=pdf |date=2011-07-08 |accessdate=2017-03-28}}"</ref>。
 
東電は2002年3月に、福島第一原発で想定する[[津波]]の高さを、[[土木学会]]が2002年に開発した、歴史的地震の文献や[[断層]]モデルを組み合わせる評価法によって計算していた<ref>{{Cite news |title=福島原発「多重防護」の甘さ露呈 「想定外」連鎖で深刻化 |url=http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110328/dst11032819280054-n2.htm |newspaper=msn産経ニュース |date=2011-03-28 |accessdate=2011-04-22}}{{リンク切れ|date=October 2012年10月}}</ref>{{Sfn|国会事故調|2012|p=83-85}}。この結果、津波想定を[[平均海水面|平均海面]](O.P.=小名浜港工事基準面……詳細は[[福島第一原子力発電所#海象状況の調査]]も参照)から高さ5.7 mとした。その後2006年9月に日本の[[原子力安全委員会]]の耐震設計審査指針<ref>{{Cite web |date=2006-09-19 |url=http://www.nsc.go.jp/shinsashishin/pdf/1/si004.pdf |title=発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針 |format=PDF |publisher=原子力安全委員会 |accessdate=2011-08-25}}{{リンク切れ|date=October 2012年10月}}</ref>が改定されたことを受けて、東京電力は土木学会の計算方法により津波想定を6.1mに引き上げた{{Sfn|国会事故調|2012|p=86}}。
 
政府の[[地震調査研究推進本部|地震調査委員会]]は2002年7月、三陸沖から房総沖にかけての[[日本海溝]]付近ではどこでも[[マグニチュード]]8クラスの地震が起きる可能性があるとの評価結果を発表した<ref>{{Cite Webweb |url=http://www.jishin.go.jp/main/chousa/kaikou_pdf/sanriku_boso.pdf |title=三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について |publisher=地震調査研究推進本部 |format=pdf |date=2002-07-31 |accessdate=2017-03-28}}</ref>。これを受け東京電力は2008年、[[明治三陸地震]]と同規模の地震が福島県沖で起こると仮定し、海水取水口付近で津波の高さは8.4 m〜10.2 m、遡上高は敷地南部で15.7 mとの計算結果を得た<ref>{{Cite Webweb |url=http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2403D_U1A820C1CR8000/|title=福島第1原発、10メートル超の津波想定 東電が08年試算 |publisher=日本経済新聞 |date=2011-08-24 |accessdate=2017-03-28}}</ref>{{Sfn|国会事故調|2012|p=85, 90}}<ref name="yomi20110825-1">読売新聞2011年8月25日13S版37面、[http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110824-OYT1T00991.htm 東電、15m超の津波も予測…想定外主張崩れる]{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref><ref>{{WAP |pid=8086313|url=http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/icanps/2011/08/25/0823kishakaiken.pdf |title=2011年8月23日畑村委員長記者会見;調査状況についての説明 |date=2013-03-04}}</ref>。2011年8月25日に東京電力は記者会見において、これらの試算は2008年6月の時点で原子力・立地本部副部長へ、2010年6月には副社長原子力・立地本部長へと報告していたと述べた<ref name="NHK20110825">{{Cite Webweb |url=http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20110825/ |title=10m津波想定 副社長も把握 |publisher=NHK |date=2011-08-25 |accessdate=2017-03-28}}</ref><ref name="yomi20110826-1">読売新聞2011年8月26日13S版1面および13版3面、[http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866918/news/20110825-OYT1T01165.htm 津波試算、副社長に報告…東電取締役会議論せず]{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref>。また、[[東北地方太平洋沖地震]]の4日前の[[2011年]][[3月7日]]には原子力安全・保安院へも報告されたが<ref name="NHK20110825"/>、東京電力は速やかな改修を保安院から指示されていなかったとしている<ref name="yomi20110826-1"/>。東京電力は15 mを超える津波の遡上も想定していたことになるが、これらの試算を基にした具体的な津波対策を執っていなかった{{Sfn|国会事故調|2012|p=83}}<ref name="yomi20110825-1"/><ref>{{Cite Webweb |url=http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20111226/2215_shisan.html|title=10m超の津波試算も対策取らず |publisher=NHK |date=2011-12-26 |accessdate=2017-03-28}}</ref>。これらを受けて8月25日[[枝野幸男]][[内閣官房長官]]は「十分に対応する時間的余裕があった」と述べた<ref>{{Cite news |title=「十分に対応する時間的余裕があった」 東電の津波被害試算で枝野氏 |newspaper=msn産経ニュース |date=2011-08-25 |url=http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110825/dst11082512430018-n1.htm |accessdate=2011-08-27}}{{リンク切れ|date=October 2012年10月}}</ref>。事故後、[[澤田哲生]]は「防潮堤にコストがかかるならディーゼル発電機などを津波から守るための対策に目を転じることが出来た筈だ」とし、6号機が土木学会の津波評価を受けて非常用ディーゼル発電機の電動機嵩上げを実施した例を提示している{{Sfn|澤田哲生|2012|p=95-96}}。
 
また、東電は2009年9月、[[貞観地震]]の津波も評価し、取水口付近に8.7 m〜9.2 mの津波が襲来するものの陸上への遡上はいとした報告を[[原子力安全・保安院]]へ行っている<ref name="yomi20110825-1"/>{{Sfn|国会事故調|2012|p=86}}。
 
[[産業技術総合研究所]]活断層・地震研究センターの[[岡村行信]]センター長らは、[[2004年]]頃から[[貞観地震|貞観津波]]が残した地中の土砂を調査し、痕跡が宮城県[[石巻市]]から福島第一原子力発電所に近い福島県[[浪江町]]まで分布し、内陸3 - 4 kmまで入り込んでいることを確認した<ref>{{Cite web |author=岡村行信 |coauthors=宍倉正展et al. |date=2007-09-28 |url=http://unit.aist.go.jp/actfault-eq/seika/h18seika/pdf/shishikura.pdf |title=活断層・地震研究センターホーム>研究成果>活断層・古地震研究報告 第7号(2007年)・石巻平野における津波堆積物の分布と年代 |format=PDF |publisher=産業技術総合研究所 |accessdate=2011-03-27 |deadlink=2017-03-29}}</ref>。[[2009年]]の国の審議会(原発の耐震指針の改定を受け電力会社が実施した耐震性再評価の中間報告書について検討する審議会)で、大地震や津波を考慮しない理由を東京電力に対して問い質したが、東京電力は「まだ十分な情報がない」「引き続き検討は進めてまいりたい」と答えるにとどまった。震災発生後、岡村センター長は、警告されたデータが完全でないことを理由にリスクを考慮しないという姿勢はおかしいと述べ、「原発であればどんなリスクも当然考慮すべきだ。あれだけ指摘したにもかかわらず、東京電力からは新たな調査結果は出てこなかった。『想定外』とするのは言い訳に過ぎない。もっと真剣に検討してほしかった」と話した<ref>毎日新聞2011年3月27日14新版1面「大津波再来」の指摘軽視、および[http://mainichi.jp/select/today/archive/news/2011/03/26/20110327k0000m040036000c.html 福島第1原発:東電「貞観地震」の解析軽視(2011年3月26日)]{{リンク切れ|date=October 2012年10月}}</ref><ref>東京新聞2011年3月24日11版S 18面「国会で津波議論済み」</ref><ref>[http://www.kyoto-np.co.jp/country/article/20110326000121 大津波、2年前に危険指摘 東電、想定に入れず被災]{{リンク切れ|date=2017年3月}} 京都新聞 2011年3月26日</ref><ref name="yomi110410">読売新聞2011年4月10日13版5面「東日本大震災4月9日対策強化指示・大津波の脅威ようやく直視」</ref>。
 
2012年[[6月13日]]の朝日新聞と翌[[6月14日|14日]]の読売新聞によれば、東京電力は2005年12月から2006年3月まで原子力技術・品質安全部設備設計グループが5号機がどの程度の津波に耐えられるか、想定の津波高さ5.7mを超え津波高さ13.5mから14mが襲った場合の分析を入社3年目の技術系社員の社内研修の研究課題とし、分析と報告させ非常用ディーゼル発電機やバッテリーなどすべての電源を失い、原子炉を冷却できなくなるという結果を得ていた。津波対策の費用も5号機および6号機周辺に約1.5km長の防潮壁を建設する場合は約80億円、建屋の出入り口の防水工事などに約20億円と試算した。これら研究成果と報告を幹部が把握したか不明であり、安全対策として反映されなかった<ref>[http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20120613-OYT1T01006.htm 東電、06年に福島第一の大津波対策費を試算]{{リンク切れ|date=2017年3月}}読売新聞2012年6月14日13S版37面</ref><ref>{{Cite Webweb |url=http://www.asahi.com/special/10005/TKY201206120810.html |title=東電、06年にも大津波想定 福島第一、対策の機会逃す |publisher=朝日新聞 |date=2012-06-13 |accessdate=2017-03-28}}</ref>。
 
2011年4月11日、福島県を訪れた東京電力社長[[清水正孝]]は、記者団の「津波への事前の対策が不十分だったのでは」との問いに「国の設計基準に基づいてやってきたが、現実に被災している。今後は国の機関などと津波対策を検討する必要がある」と語った<ref>読売新聞2011年4月12日13S版9面記者団との一問一答「津波対策 国の基準通りやった」</ref><ref>{{Cite news |title=東電・清水社長 一問一答 |url=http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/enterprises/manda/20110412-OYT8T00305.htm |newspaper=YOMIURI ONLINE |date=2011-04-12 |accessdate=2011-04-16 |archiveurl=http://web.archive.org/20110412040757/www.yomiuri.co.jp/atmoney/enterprises/manda/20110412-OYT8T00305.htm |archivedate=2011-04-12}}</ref>。また東京電力の皷紀男副社長は2011年5月1日、訪問先の福島県飯舘村で「個人的には」としたうえで本事故について、「人災だと思う」、「原発事故は想定外だったという意見もあるが(飯舘村の皆さんのことを考えると)想定外のことも想定しなければならなかった」と述べた<ref>{{Cite news |url=http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110501/t10015651011000.html |archiveurl=http://web.archive.org/20110503062435/www3.nhk.or.jp/news/html/20110501/t10015651011000.html |title=東電副社長“事故は人災”|newspaper=NHK |date=2011-04-11 |archivedate=2011-12-04}}</ref>。
 
==== 地震動との関係 ====
東電は地震の揺れによる設備被害は事故の原因にならなかったとしているが{{Sfn|東電事故報告|2012|p=4}}、原子力安全・保安院長は4月27日の衆議院経済産業委員会で、倒壊した受電鉄塔が津波の及ばなかった場所にあったことを認めた<ref>{{Cite video |title=2011年4月27日 衆議院経済産業委員会 議題:産業活力再生・産業活動革新特別措置法改正法案 質疑者:吉井英勝 質疑開始時刻:16時40分 |url=http://www.shugiintv.go.jp/jp/wmpdyna.asx?deli_id=40942&amp;media_type=wb&amp;lang=j&amp;spkid=20399&amp;time=04:17:42.4 |format=asx |language=日本語 |publisher=衆議院TV |accessdate=2011-09-12}}</ref><ref>{{Cite Webweb |url=http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-04-30/2011043004_04_0.html |title=外部電源喪失 地震が原因 |publisher=しんぶん赤旗 |date=2011-04-30 |accessdate=2017-03-28}}</ref><ref group="注">ただし、福島第一原子力発電所よりも強い地震加速度を計測している[[東北電力]][[女川原子力発電所]]では、3系統6回線の外部電源で鉄塔の倒壊は皆無であり、地震直後も松島幹線 (275kV/50Hz) 2号の給電は続いていた。避雷器の損傷で受電不可となった牡鹿幹線 (275kV/50Hz) は3月12日中に、[[碍子]]に損傷を受けた松島幹線1号は3月17日までに復旧している。残る1系統の塚浜支線 (66kV/50Hz) は原発設備の損傷はなかったが、広域停電のため給電停止していた。</ref>。また1号炉について津波到達前に原子炉建屋内の放射線量が急上昇していることから、地震の揺れによって配管の一部が破断したのではないかという疑いは残されている<ref>{{Cite news |title=東日本大震災(福島原発)(ニュース特集) |url=http://www.kyodonews.jp/feature/news05/2011/10/post-3764.html |newspaper=一般社団法人 共同通信社 |date=2011-10-21 |accessdate=2012-02-26}}{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref><ref>{{Cite Webweb |url=http://rokamoto.sakura.ne.jp/fukushima/JSA_Fukuoka_Symp2_110724o.pdf |title=福島第一原発は地震では壊れなかったのか? |publisher=岡本良治 |format=pdf |accessdate=2017-03-28}}</ref>{{Sfn|国会事故調|2012|p=13}}。国会事故調報告書では、少なくとも1号機A系の非常用交流電源喪失は、津波によるものではない可能性があることが判明した、としている{{Sfn|国会事故調|2012|p=31}}。
 
==== 過酷事故対策の不備 ====
日本では事故前、原発事故の原因として自然災害などの外部事象を想定せず、発電所内のトラブルや設計ミスだけを想定していた{{Sfn|国会事故調|2012|p=28}}。また過酷事故対策は電力会社の自主性に任されていた{{Sfn|国会事故調|2012|p=28}}。原子力政策を管轄する[[原子力安全委員会]]は従来、長時間の全交流電源喪失 (SBO) の防止や、全交流電源喪失の発生後の対処を想定した、是正勧告をメーカーや電力会社に形式上は行ってはいたが、有名無実であり、実際には特に対策はされなかった(これはGE社はじめ原子炉メーカー数社の本国、[[アメリカ合衆国]]など、他国においてはこの限りではない<!--参考:検索キーワード:米国 ブラウンズフェリー 発電機 8機…NHK ETV特集『アメリカから見た福島原発事故 』で現地取材リポ http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2011/0814.html -->。[[原子力安全委員会#原発における長期間の全電源喪失は、日本では想定外]] も参照)。
 
産経新聞や東京新聞によると、米国のカーネギー国際平和財団は[[2012年]][[3月6日]]、[[原子力安全・保安院]]や[[東京電力]]が国際的基準に沿って津波などに対する安全対策を強化していたならば事故は防げたとする専門家の報告書を発表した<ref>英文:カーネギー国際平和財団 ([[:en:Carnegie Endowment for International Peace|Carnegie Endowment for International Peace]])、[http://carnegieendowment.org/2012/03/06/why-fukushima-was-preventable/a0i7 Home >Publications >Why Fukushima Was Preventable]、Carnegie Paper – Tuesday, March 6, 2012, James M. Acton, Mark Hibbs</ref>。諸外国の対策と[[国際原子力機関|IAEA]]の指針を示し「日本は国際基準や対策事例の導入が遅れており、これが事故の原因となったことを示す証拠が多くある。なぜ津波のリスクを過小評価したのかを探るのが最も重要な課題だ」と指針を満たしていなかったと指摘し、福島第一原子力発電所は他国の原発に比べて電源喪失による被害が起きやすかったとしている<ref>{{Cite news |title=原発事故防げたと米専門家 津波リスクを過小評価 |url=http://sankei.jp.msn.com/world/news/120306/amr12030619200008-n1.htm |newspaper=産経ニュース |date=2012-03-06 |accessdate=2012-03-11}}{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref>。
 
事故直後より、[[東北電力]][[女川原子力発電所]]および[[日本原子力発電]][[東海第二発電所]]が過酷事故に至らなかったことと比較する動きが、インターネット上で見られた。その結果、東北電力が震災前から発行していた女川原子力発電所の震災・津波に対する評価の資料で、近代観測が始まる以前の文献に遡って評価し、現立地が選ばれたことが知れ渡り、それに対して、福島第一原子力発電所では津波対策を怠っていたとして東京電力は激しい非難の矢面に立たされることになった。東北電力はその後、2014年に震災発生前の震災・津波の評価と実際の震災発生時の被害をまとめた総括資料を発行した<ref>{{Cite Webweb |url=http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/282467.pdf |title=女川原子力発電所の概要および東日本大震災時の対応状況 |publisher=東北電力 |format=pdf |date=2014-11-11 |accessdate=2017-03-28}}</ref>が、その中に、東京電力を強く非難した内容をも盛り込んでいる<ref group="注">東京電力の原子力発電所はすべて東北電力管内にある(東京電力管内の原子力発電所は[[日本原子力発電|日本原電]][[東海発電所]](震災発生前の1997年に営業運転終了、現在廃炉作業中)と[[東海第二発電所]]のみ)。</ref>。
 
産経新聞のインタビューで、1999年までIAEAの事務次長を務めた原子力工学専門家ブルーノ・ペロードは、1992年に東京電力に対して、福島県に設置されているMark I型軽水炉の弱点である格納容器や建屋を強化し、電源や水源を多重化し、水素爆発の防止装置をけるように、などと提案したが、東京電力の返答は、GE社から対策の話が来ないので不要と考えているというもので、以後も対策はられなかったという。また、2007年のIAEA会合で東京電力に対し、福島県内の原発は地震や津波対策が不十分だと指摘した際、東京電力は「対策を強化する」と約束したものの、津波対策をしなかった。ペロードは、この事故は天災ではなく人災で「チェルノブイリ原発事故はソ連型事故」、「福島原発事故は東電の尊大さが招いた東電型事故」と指摘した<ref>{{Cite news |title=IAEA元事務次長「防止策、東電20年間放置 人災だ」 |newspaper=msn産経ニュース |date=2011-06-11 |url=http://sankei.jp.msn.com/world/news/110611/erp11061120200006-n1.htm |accessdate=2011-06-20}}{{リンク切れ|date=October 2012年10月}}</ref>。
 
また、東海大学教授の[[高木直行]]は東京電力に勤務していた際、当時の上司だった吉田昌郎と共にフィルター付きベント(ドライベント)を設置するべきか検討作業を行ったが、圧力抑制室にてウェットベントを実施すれば問題は無いとしてフィルターベントを不要と判断したという<ref>フィルターベントの設置を見送った背景は{{Harvnb|澤田哲生|2012|p=119-120}}</ref>。
 
[[2006年]][[10月27日]]、[[吉井英勝]]([[京都大学]]原子核工学科卒業、[[日本共産党]])は、国会質問で当時の[[原子力安全委員会]]委員長の[[鈴木篤之]]に対して、福島第一原子力発電所を含む43基の[[原子力発電所]]は、地震によって送電線が倒壊したり、内部電源が故障したりすることで引き起こされる電源喪失状態、または大津波に伴う引き波によって冷却水の取水が不可能になるとった理由で炉心溶融にいたるのではないか、そうなった時どう想定しているのかと質問した<ref group="注">大津波による敷地や施設の冠水については特に大きな問題とはしていない。</ref><ref name="k061027">{{Cite Webweb |url=http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/165/0002/16510270002003a.html |title=第165回国会 内閣委員会 第3号 |publisher=国会 |date=2006-10-27 |accessdate=2017-03-28}}</ref>。これに対し鈴木篤之は、電源喪失状態となり燃料溶融に至る事故は非常に低い確率論としては存在すると答え、吉井に対して、電力会社には、さらに激しい地震の影響を想定させると約束した<ref>{{Cite Webweb |url=http://jp.wsj.com/public/page/0_0_WJPP_7000-211334.html |title=福島第1原発事故、昨年議員が同様な事故の可能性警告 |publisher=ウォール・ストリート・ジャーナル |date=2011-03-28 |accessdate=2017-03-28}}</ref><ref name="k061027"/>。 吉井は同年[[12月13日]]にも、「巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書」<ref>{{Cite Webweb |url=http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a165256.htm |title=巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問主意書 |publisher=吉井英勝 |date=2006-12-13 |accessdate=2017-03-28}}</ref>を[[内閣]]に提出し、原発の最悪の事故を念頭に、津波の引き潮により冷却水が喪失する可能性の指摘や、非常用ディーゼル発電機の事故によりバックアップが機能停止した過去事例の提示要求などを行ったが、当時の内閣総理大臣[[安倍晋三]]は、「我が国において、非常用ディーゼル発電機のトラブルにより原子炉が停止した事例はなく、また、必要な電源が確保できずに冷却機能が失われた事例はない」と回答した<ref>{{Cite Webweb |url=http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b165256.htm |title=衆議院議員吉井英勝君提出巨大地震の発生に伴う安全機能の喪失など原発の危険から国民の安全を守ることに関する質問に対する答弁書 |publisher=内閣総理大臣 安倍晋三 |date=2016-12-22 |accessdate=2017-03-28}}</ref><ref>{{Cite Webweb |url=http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2010-03-01/2010030101_05_1.html |title=チリ地震が警鐘 原発冷却水確保できぬ恐れ |publisher=しんぶん赤旗 |date=2010-03-01 |accessdate=2017-03-28}}</ref>。また、吉井は[[2010年]][[4月9日]]にも衆議院経済産業委員会で同じ問題を取り上げたが、当時の経済産業大臣の[[直嶋正行]](民主党)は、「多重防護でしっかり事故を防いでいく、メルトダウンというようなことを起こさせない、このための様々な仕組みをつくっている」<ref>{{Cite Webweb |url=http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/174/0098/17404090098007a.html |title=第174回国会 経済産業委員会 第7号 |publisher=国会 |date=2010-04-09 |accessdate=2017-03-28}}</ref>と説明した。
 
2011年3月15日の米ABCによると、米[[ゼネラル・エレクトリック]] (GE) 社の技術者Dale G. Bridenbaugh(和表記:ブライデンボー)は、[[1975年]]の時点で「Mark I」型原子炉では冷却装置が故障した場合に格納容器に動的負荷がかかることを勘案した設計が行われていないと次第に認識しつつ退社に至ったと語ったとのことである<ref>{{Cite news |title=Fukushima: Mark 1 Nuclear Reactor Design Caused GE Scientist To Quit In Protest, Damaged Japanese Nuclear Plant Has Five Mark 1 Reactors|url=http://abcnews.go.com/Blotter/fukushima-mark-nuclear-reactor-design-caused-ge-scientist/story?id=13141287 |newspaper=[[ABCニュース (アメリカ)|ABCニュース]] |date=2011-03-15 |accessdate=2011-03-24 |language=英語 |trans_title=MarkI原子炉の設計欠陥に抗議しGE科学者退社}}<!--見出しには抗議protestとあるが国内外各紙のどこにも、抗議して辞職したとは記述がない--></ref>。その後は米原子力規制委員会と協力しながらMark I原子炉の廃止を訴え続けたと一部で報道されている<ref>[http://www.wa-dan.com/article/2011/03/post-83.php 75年に同僚2人とともにGEを退職すると、米原子力規制委員会と共同戦線を張ってマークIの製造中止を訴えてきた。]{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref><ref>[http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/archive/news/2011/03/30/20110330k0000e030026000c.html 上司は「電力会社に操業を続けさせなければGEの原子炉は売れなくなる」と議論を封印。ブライデンバーさんは76年、約24年間勤めたGEを退職した。直後、米議会で証言]{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref>。
 
同日の米ニューヨーク・タイムズによると、福島第一原発など日本にも9基ある「Mark I」型軽水炉について、アメリカ原子力規制委員会 (NRC) は1972年、格納容器が小さいことを問題視した。水素がたまって爆発した場合、格納容器が損傷しやすいとして「使用を停止すべきだ」と指摘していたことを報じた<ref name="akahata_genpastu03">{{Cite Webweb |url=http://www.jcp.or.jp/akahata/html/senden/2011_genpatsu/index03.html |title=原発の源流と日米関係(3) |publisher=しんぶん赤旗 |date=2011-06-09 |accessdate=2017-03-28}}</ref><ref name="NY0315">{{Cite Webweb |url=http://www.nytimes.com/2011/03/16/world/asia/16contain.html?_r=1|title=Experts Had Long Criticized Potential Weakness in Design of Stricken Reactor |publisher=ニューヨークタイムズ |date=2011-03-15 |accessdate=2017-03-28}}</ref>。
 
2011年3月16日のブルームバーグによると、アメリカ原子力規制委員会 (NRC) は20年前に、GE社製Mark I型を含むいくつかの原子炉は、地震被害により付帯設備(非常用ディーゼル発電機、貯水タンクなど)の故障が起きて、高確率で冷却機能不全が起こると内部文書「NUREG-1150」で警告しており、2004年6月に原子力安全・保安院が公表した資料「リスク情報を活用した原子力安全規制の検討状況」の中でもその内容が紹介されているという。この記事中インタビューにおいて、元[[日本原子力研究所]]研究員で現在は[[核・エネルギー問題情報センター]]の事務局長を務める舘野淳は、NRCのリポート(NUREG (NUREG-1150)1150) が提示したリスクへの対応策について「東電は何も学ばなかったのか?天災が非常に希であり、想定外の規模であれ、言い訳は許されない」などとコメントした<ref name="ブルームバーグ">[http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920000&amp;sid=a.lK3UI3LjpM ブルームバーグ【福島原発の事故、米NRCが20年前に警鐘】 2011年3月16日]{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref>。
 
また同日の読売新聞によると、露独占事業研究所の研究員は報道各社のインタビューに応じ「[[2004年]]の[[スマトラ島沖地震 (2004年)|スマトラ島沖地震]]など強大な地震が起こったのに、事業者は原子炉だけでなく、冷却装置などの関連施設の強化を怠った」と地元の新聞に述べた<ref>読売新聞「露は「人災説」展開」2011年3月17日13S版9面[http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110316-OYT1T00740.htm チェルノブイリ経験露専門家、日本入国足止め]{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref>。
 
2011年3月17日、[[チェルノブイリ原子力発電所事故]]の被害者団体「チェルノブイリ同盟ウクライナ」([[キエフ]])代表の元原発技師のユーリー・アンドレエフは[[共同通信社]]など報道各社のインタビューに応じ「チェルノブイリ原発事故では、4号機爆発の影響で漏れた冷却水が隣の2号機に入り込み、冷却装置やバックアップ電源のシステムが故障したが、辛うじて連鎖事故を回避した。福島第一原発は電源装置がチェルノブイリ同様に原子炉の直下にあり、津波などの水が入り込めば電気供給やバックアップシステムが壊れる。チェルノブイリ事故後も電源供給体制を見直さなかったのは残念」と述べた<ref>{{Cite news |title=東日本大震災 チェルノブイリ、教訓生かされず 被害者団体代表 |url=http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/110319/cpb1103190502000-n1.htm |newspaper=Sankei Biz |date=2011-03-19 |accessdate=2011-03-25}}{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref><ref>[http://www.kyodonews.jp/feature/news05/2011/03/post-33.html チェルノブイリの教訓生かされず 福島原発事故で被害者団体]{{リンク切れ|date=2017年3月}}[[共同通信社]]2011年3月18日</ref><!--sonetニュースは二次配信媒体なので削除…見出しから共通47ニュースがソースであると類推され、重複ですので-->。
 
2011年3月22日の読売新聞によると、[[2007年]]2月、[[静岡地方裁判所]]での[[証人尋問]]で非常用発電機や[[制御棒]]など重要機器が複数同時に機能喪失することまで想定していない理由として「割り切った考え。すべてを考慮すると設計ができなくなる」と証言した[[内閣府]][[原子力安全委員会]][[委員長]]の[[班目春樹]]は、「当時の原子力安全委員会としての見解ではあったが、今は個人的に責任を感ずる」と答弁し謝罪した。3月22日の[[参議院]][[予算委員会]]での[[社会民主党 (日本 1996-)|社民党]][[党首]]、参議院議員の[[福島瑞穂]]の質問に対するものである<ref name="yomi110410"/>。
 
2011年3月23日付の東京新聞で、[[1970年]] - [[1980年]]頃に4号機を除く5機の設計や安全性の検証を担った東芝の元技術者達は、「事故や地震で[[タービン]]が壊れ飛び原子炉を直撃する可能性を想定し、安全性が保たれるかどうかを検証した。M9レベルの地震や、航空機墜落で原子炉に直撃する可能性を想定するよう進言したが、『千年に一度のことを想定する必要は無い』と一笑に付され、起こる可能性の低い事故は次々に想定から外された。当時は『M8以上の地震は起きない』と言われ、大津波は設計条件に与えられていなかった」「今回のような大津波やマグニチュード9の地震は、想像もできなかった」などと語ったと報じている<ref>{{Cite news |title=「大津波やM9、想定却下」 福島原発 設計者ら証言 |url=http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011032390071412.html |newspaper=東京新聞 TOKYO Web |date=2011-03-23 |archiveurl=http://www.asyura2.com/11/genpatu7/msg/592.html |archivedate=2011-03-23 |accessdate=2011-09-26}} - 阿修羅アーカイブ</ref>。なお1980年代の米国内、原子力規制委員会(NRC) (NRC) でも同様に、電力業からの圧力でNRC技術者の災害リスク提言は委員会内で相次いでもみ消されていったとのことであり、当時の国際的な流れであったことがうかがえる<ref>[http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2011/0814.html NHK ETV アメリカから見た福島原発事故]</ref>。
 
2011年6月9日付のしんぶん赤旗によると、日本共産党の吉井英勝議員は2011年5月27日の衆院経済産業委員会で、福島第1原発事故に伴うGE社の製造者責任を追及。外務省の武藤義哉審議官は「現在の[[日米原子力協定]]では旧協定の免責規定は継続されていない」と答弁し、協定上は責任を問うことができるとの見解を示した<ref>{{Cite web |date=2011-06-09 |url=http://www.jcp.or.jp/akahata/html/senden/2011_genpatsu/index03.html |title=原発の源流と日米関係(3)軍事優先の開発/原潜からはじまった |work=しんぶん赤旗 |publisher=日本共産党 |accessdate=2011-10-08}}</ref>。しかしながら米国側の反応としては3月15日付のNYタイムズに見られるように「GEの責任は限定的」という論調が目立っている模様である<ref name="NY0315"/>。
 
福島第一原発事故発生以前、[[原子力安全基盤機構]]が製作した[[シミュレーション]][[アニメ]]が存在する<ref>ECO JAPAN [http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110622/106729/ 動画で見る炉心溶融 求められる実態の解明]{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref>。当時の政府・経済産業省のメルトダウン・メルトスルーに対する認識度がうかがえる。
 
=== 現場の事故対応上の問題点 ===
全電源喪失になると[[非常用炉心冷却装置#非常用復水器|非常用復水器(IC, イソコン)]]の弁が自動で閉じることが現場作業員に周知されていなかったため、1号機が最初に注水停止し危険な状態に陥っていることが認識されていなかった。また現場作業員は誤った認識に基づいて非常用復水器を手動停止させていた。また第一原発の幹部は13日、3号炉の[[非常用炉心冷却装置#高圧炉心注水系|高圧炉心注水系(HPCI) (HPCI)]] が手動停止している事実を知らなかったために、7時間にわたって注水作業が遅れてしまい、状況を悪化させた一因となったとされている<ref>{{Cite news |title=福島原発事故調 中間報告 |url=http://www.tokyo-np.co.jp/feature/tohokujisin/nucerror/report1226/ |newspaper=東京新聞 TOKYO Web |date=2011-12-27 |accessdate=2012-02-26}}{{リンク切れ|date=2017年3月}}</ref>。とはえ上記のように、福島第一原発では地震・津波対策が不十分だったうえ、過酷事故時の対応マニュアルも不十分だったため、全電源を喪失した時点で、その後現場で打てる手は限られたもので、十分教育されていなかった作業員の判断の問題ではなく東電の組織的問題だと国会事故調は指摘している{{Sfn|国会事故調|2012|p=13-14}}。
 
==== 1号機のIC作動状況の誤認 ====
地震によって外部電源を喪失した後、1号機では非常用復水器(IC) (IC) が自動起動した。非常用復水器は、原子炉内の蒸気を格納容器外のプール内の細管へ導いて冷却し、再び原子炉内へ戻して注水する原子炉冷却装置で、ポンプなどの動力を必要とせず自然循環によって動作する。非常用復水器にはその構造上、電源喪失時に一旦自動で弁が閉じ作動を停止する安全装置が付いているのだが、1・2号機中央制御室の現場作業員はICの運転経験がなく、誰もそのことを認識していなかった。政府事故調の報告によれば、津波により全電源を喪失した際に、ICの4つの弁のうち、格納容器外側にある弁2・3は閉止し、格納容器内側の弁1・4は閉止動作途中に動力源となる電源を失って「中間開」の状態となった{{Sfn|内閣事故調中間|2011|p=98-100}}。電源喪失後、中央制御室の制御盤は表示が消えてICの操作ができなくなっていたが、18時18分頃、一時的にバッテリーが回復して弁2・3が閉じていることを示したため、作業員は安全装置がはたらいて弁が閉まっていたことに気付き、制御盤で開操作を行った{{Sfn|内閣事故調中間|2011|p=105}}。しかし、作動中に発生するはずの蒸気を目視で確認できなかったため、「空焚き」により非常用復水器が破損し放射性物質が外に放出される可能性があるという誤った懸念を抱き、18時25分頃再び弁3を閉じてICを停止させた{{Sfn|内閣事故調中間|2011|p=106-107}}。実際には非常用復水器は空焚きによって破損することはないのだが、現場作業員はそれを理解していなかった。その後、制御盤の表示灯が再び消灯しそうになり、消灯すれば再起動できなくなると考え、21時30分頃に再度弁を開き、その後表示灯が消えて操作できなくなった{{Sfn|内閣事故調中間|2011|p=107-108}}。こうした操作にも関わらず、1号機ICによる冷却機能はほとんど発揮されなかったとみられる{{Sfn|内閣事故調中間|2011|p=102}}。弁1・4が中間開の状態で十分に蒸気がICへ流れなかった可能性があり、津波到達以降は作業員の弁開閉操作が原子炉に与えた影響は小さかったとみられる{{Sfn|内閣事故調中間|2011|p=102}}。
 
免震重要棟の対策本部でも、電源喪失によってICが自動停止した可能性を指摘する者はいなかった{{Sfn|内閣事故調中間|2011|p=108-109}}。18時18分頃弁を開く操作をしたことが報告されたが、それまでICが停止していたことには注意は向けられなかった。18時25分頃再び停止させたことは対策本部に十分伝わらず、対策本部ではICが作動していると認識されていた{{Sfn|内閣事故調中間|2011|p=109}}。そのため、3月11日夕方から夜にかけては、対策本部ではRCICの運転状況が不明だった2号機が最も危険だと認識され、1号機の注水が停止し炉心露出が始まっているという危機意識はなかった{{Sfn|国会事故調|2012|p=151}}{{Sfn|内閣事故調中間|2011|p=109}}。
 
一方、[[#事故調査委員会|国会事故調]]は、1号機ICについて、安全装置により自動停止したのではなく、炉心損傷によって早期のうちにICの蒸気管に非凝縮性の水素ガスが充満し、そのために自然循環が阻害され、ICが機能喪失していたと推測している{{Sfn|国会事故調|2012|p=14, 236-239}}。
 
==== 1号機ベント操作の遅れ、水素爆発の原因 ====
政府の事故調査・検証委員会による1号機水素爆発に関する事情聴取から、現場側がベント操作が手間取ったことについて、現場には長時間の全電源喪失を想定した対応マニュアルがなく、よって手動によるベント手順も整備されておらず、設計図などから新規に手順作成しなければいけなかったこと、全電源喪失のためベント弁操作用バッテリーが必要とされた際、機材形式の連絡に不備があり、本社が調達し発送した多機種が一斉に搬入され必要機種の選別に手間取ったり、必要な機材が福島第二原発やJビレッジに誤配されて取りに行く手間が増えたなど、本社の援護が乏しく、突然の非常事態に現場側の混乱も多かったためとされている。
 
水素爆発については、多忙な現場では誰も水素爆発まで予見できなかったとされる。仮に津波がきて全電源を喪失し冷却ポンプが作動しなくなっても、非常用復水器(IC, (IC、ISO (Isolation) CONDENSER, イソコン) など各炉冷却系が起動し冷却するはず、という程度の甘い認識だった<ref name="kensyo20110817">{{Cite news |title=福島第1原発:東電、水素爆発予測せず ベント手順書なし |url=http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110817k0000m040142000c.html |newspaper=毎日jp |date=2011-08-17 |accessdate=2011-08-27}}{{リンク切れ|date=2014-01-28}}</ref><ref name="gen20110603">{{Cite Webweb |url=http://gendai.ismedia.jp/articles/-/6821 |title=隠されていた決定的ミス 東電はベントの方法を間違った! |publisher=現代ビジネス |date=2011-06-03 |accessdate=2017-03-28}}</ref>。
 
=== 災害対策に関する問題点 ===
==== 国際基準 (IAEA) の災害対策の導入見送り ====
2006年3月に原子力安全委員会は、国際基準(IAEA基準)を国の原子力防災指針に反映し(放射性物質が放出される恐れがある場合、即時に原発から3〜5キロ圏の住民は避難する)改善・導入の検討を開始したが、当時の原子力安全・保安院院長である[[広瀬研吉]]が強固に反対し、防災の強化が見送られた。防災の強化を行っていれば、今回の事故で近隣の住民の被爆がけられたと報道される<ref>[http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20120606ddm002040038000c.html 原子力安全・保安院&gt;院長、改善意見を黙殺 原発防災「現行体制で」--06年 - 毎日新聞 ]{{リンク切れ|date=2012年10月}}</ref>
<ref>[http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20120606ddm002040038000c.html 原子力安全・保安院&gt;院長、改善意見を黙殺 原発防災「現行体制で」--06年 - 毎日新聞 ]{{リンク切れ|date=October 2012}}</ref>
 
== 教訓と再発防止策 ==