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LUE=42 (会話 | 投稿記録)
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*[[灰色植物]] {{sname||Glaucophyta}}
}}
'''植物'''(しょくぶつ、{{lang-la-short|plantae}})とは、[[生物]]区分のひとつ。日常語としての「植物」と生物学としての「植物」はその示す範囲が異なるが、日常語としては、[[草本|草]]や[[木]]などのように、[[根]]があって場所が固定されて生きているような生物のことで、[[動物]]と対比させられた生物区分<ref>広辞苑第五版</ref>。
 
それに対し[[生物学において]]で科学的知見が増えるにつれ、植物という語が指し示す範囲は歴史的に変遷してきており、た。2012年現在は[[陸上植物]]([[コケ植物]]、[[シダ植物]]、[[種子植物]])を含む[[単系統群]]として植物を定義するが、どの単系統を選ぶかにより複数の定義が並立している。狭い定義では陸上植物のみを植物として認めるが、より広い定義をでは[[緑色植物]]全体を植物としたり、[[紅色植物]]、[[灰色植物]]をも植物に含めたりする(詳細後述)。
 
一方、[[生物の分類|二界説]]ないし[[生物の分類|五界説]]のような古い学説では植物とみなされていた[[菌類]](キノコやカビ)、[[褐藻]]([[ワカメ]]など)は系統が異なる為、2012年現在は植物とみなされていない。
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===背景===
かつて植物」という単語は、広く[[光合成]]をする生物一般、すなわち[[光栄養生物|光合成生物]]全般を「植物」とみなしていたが、生物に関する科学的知見が深まるにつれ、この素朴な定義は大きく修正される事になった。その理由は主に3つある。第一の理由として、生物全体が[[真正細菌]]、[[古細菌]]、[[真核生物]]の3つのドメインに分かれる([[生物の分類|3ドメイン説]])事が分子系統解析によりわかった事が挙げられる。これは[[真正細菌]]に属する[[光合成細菌]]は[[真核生物]]である陸上植物とは異なる系統である事を意味する。したがって陸上植物を含む単系統群として植物を定義するのであれば、植物を真核生物に属するものに限定しなければならない。
 
第二の理由は真核生物がいくつかのスーパーグループに分類できる事が分子系統解析によりわかった事である。この分類に[[光栄養生物|光合成生物]]を当てはめてみると、下記のように[[多系統]]である事がわかる:
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|[[ハプト植物]]、[[太陽虫]]
|}
第三の理由は[[葉緑体]]の起源がわかった事である。真核光合成生物は、[[藍藻|シアノバクテリア]]に類似した原核生物を[[細胞内共生説|真核生物が取り込んだ]]事により誕生した(一次共生)<ref name=":0">[[利用者:LUE=42/sandbox/1#伊藤12|伊藤12]] pp. 6-8</ref>。そしてこのようにして誕生した真核光合成生物をさらに別の真核生物が取り込むことで新たな真核光合成生物も誕生した([[二次植物|二次共生]])<ref name=":0" />。二次共生は生物の歴史で何度も起こった事が知られており<ref name=":0" />、これが様々な真核生物のスーパーグループに光合成生物が属している理由である。それに対し、一次共生が起こり二次共生が起こっていない生物群は[[アーケプラスチダ]]と一致する事が知られている<ref name=":0" />。
 
したがって何を持って植物と呼ぶかという問いの一つの答えは、[[アーケプラスチダ]]に属する事、という事になる。2012年現在提案されている植物の定義の多くは、[[アーケプラスチダ]]もしくはそこに属する単系統部分群である。
 
なお、アーケプラスチダ以外にも、アルベオラータやエクスカパーダに属する生物もかつては色素体を持っていて、それを二次的に失ったという仮説を元に、これらの生物からなる「超植物界」という概念が提唱されているが<ref>{{Cite web|url=https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2007/09.html|title=植物の出生20億年の秘密を解き明かす “超”植物界 (“Super” Plant Kingdom) の復権|accessdate=2018/08/01|author=野崎久義|date=2007/6/12|publisher=[[東京大学]]東京大学大学院理学系研究科}}</ref>、2012年現在主流の説にはなっていない。
===分類===
 
そこで以下、アーケプラスチダに焦点をあてて、議論を進める。
2012年現在提案されている植物の定義として以下のものがある(狭いものから順に記述):
 
;=== [[アーケプラスチダ]] ===
; [[陸上植物]]
アーケプラスチダの系統樹は以下のようになる:
: [[コケ植物]]、[[シダ植物]]、[[種子植物]]からなる単系統。古くは後生植物ともいい、陸上で進化し、高度な多細胞体制を持つ。この群を植物界とする分類は[[リン・マーギュリス]]が唱え、マーギュリスにより改訂された[[五界説]]と共に広まった。しかし、非常に近縁な[[緑藻植物]]などが含まれておらず狭すぎるという点がある。
; [[ストレプト植物]]
: 陸上植物、[[車軸藻]]、[[接合藻]]からなる単系統。
; [[緑色植物亜界|緑色植物]]
: ストレプト植物と[[緑藻植物]]からなる[[単系統群]]。[[葉緑体]]が[[クロロフィル]] a/b をもつ事で特徴づけられ<ref>[[利用者:LUE=42/sandbox/1#伊藤12|伊藤12]] p 9.</ref>、葉緑体膜が2重である。単に「狭義の植物 ({{sname|Plantae ''sensu stricto''}})」と言った場合、これを意味することが多い。
; [[アーケプラスチダ]]
: 緑色植物、[[紅色植物]]、[[灰色植物]]からなる単系統群。葉緑体膜が2重である。[[シアノバクテリア]]を細胞内に共生させた生物を共通祖先とする単系統群であるという仮説に基づき、[[トーマス・キャバリエ=スミス]]がこの系統を植物と定義した。単に「広義の植物 ({{sname|Plantae ''sensu lato''}})」と言った場合、これを意味することが多い。ただし、より広義の意味と対比させ、「狭義の植物界」と呼ぶこともある。<ref>井上勲著『藻類30億年の自然史 第2版』、東海大学出版会、ISBN 978-4-486-01777-6</ref><ref>渡邉信 ・西村和子等編『微生物の事典』、朝倉書店、ISBN 978-4-254-17136-5 C3545</ref>
; [[バイコンタ]]
: アーケプラスチダ、[[クロマルベオラータ]]、[[リザリア]]、[[エクスカヴァータ]]からなる単系統。アーケプラスチダは[[側系統群]]であり、他のバイコンタはその子孫だが葉緑体を失った、という仮説に基づき、バイコンタを植物界とみなす説が出ている(Nozaki et al. 2007など)<ref>詳しくは「超植物界」のキーワードで検索のこと</ref>。非常に広いグループであり、全ての(真核)藻類と多数の非光合成単細胞生物をも含む。ただし、非主流の系統仮説に基づいており、また広すぎて実用的でないため、あまり受け入れられてはいない。
 
{| class="wikitable" style="background-color:#fff; margin-left: 0.5em; auto"
== 分類 ==
|+'''アーケプラスチダの系統樹'''<ref>[[植物#伊藤12|伊藤12]] p26</ref>
以下の表に、[[アーケプラスチダ]]についての日本語版wikipedia内で採用されている分類体系を示す。上位分類に関しては[[生物の分類]]を参照のこと。
 
現在、[[DNA]]解析などにもとづき、各分類群の[[単系統]]性について精査が進んでいる段階であるが、下記の各群はおおよそ最新分類の標準的なものである。なお、各分類群の階層(門や綱など)の割り振り方は各研究者によって異なることも多い。
 
{| class="wikitable" style="background-color:#fff; margin-left: 0.5em;"
|-
| colspan="23"| |[[シダ灰色植物]]  {{sname||PteridophytaGlaucophyta}}
|rowspan="15"| [[アーケプラスチダ|'''アーケ<br />プラスチダ''']]<br />[[:en:Archaeplastida|Archae-<br />plastida]]
|colspan="2" rowspan="2"| [[紅藻|紅色植物門]] {{sname||Rhodophyta}}
|colspan="5"| [[真正紅藻綱]] {{sname||Florideophyceae}}など
|-
| colspan="53"| |[[イデユコゴメ綱紅色植物]]  {{sname||CyanidiophyceaeRhodophyta}}
|-
|colspan rowspan="7"| |[[灰色藻|灰色植物]] {{sname [[:en:Viridiplantae||Glaucophyta}}Viridi-<br />plantae]]
([[クロロフィル]]<nowiki/>bの獲得)
| colspan="2" |[[プラシノ藻|プラシノ藻綱]]<ref group="注釈">この綱は多系統である事が知られている([[利用者:LUE=42/sandbox/1#伊藤12|伊藤12]] p10)</ref>
|-
| rowspan="123" | [[緑植物亜界|緑色<br />植物<br />亜界]]<br />  {{sname||Chlorophyta}}([[:en:Viridiplantae|Viridi-<br />plantaeフラグモプラスト]]型細胞分裂、
 
|rowspan="4"| [[緑藻植物門]]<br /> {{sname||Chlorophyta}}
MLS型鞭毛など)
|colspan="5"| [[緑藻綱]]  {{sname||Chlorophyceae}}
|-
|colspan="5"| [[トレボウクシア藻綱]]  {{sname||Trebouxiophyceae}}
|-
|colspan="5"| [[アオサ藻綱]]  {{sname||Ulvophyceae}}
|-
| rowspan="83" | [[ストレプト植物|ストレプト<br />植物]]<br /> {{sname||Streptophyta}}(多細胞化)
|colspan="5"| [[プラシノ藻]]類 (ペディノ藻、クロロデンドロン藻、ミクロモナス藻)
|{{仮リンク|コレオケーテ|en|Coleochaete}}類
|-
|[[車軸藻類|シャジクモ類]] {{sname||Charophyceae}}
|rowspan="8"| [[ストレプト植物|ストレプト<br />植物]]<br />{{sname||Streptophyta}}
|colspan="5"| [[車軸藻綱]] {{sname||Charophyceae}}、[[接合藻綱]]{{sname||Zygnematophyceae}}、等
|-
|rowspan="7"| [[陸上植物]]<br />(有胚植物)<br />  {{sname||Embryophyta}}
|colspan="4"| [[ゼニゴケ植物門]]([[苔類]]) {{sname||Marchantiophyta}}
|-
|colspan="4"| [[マゴケ植物門]]([[蘚類]]){{sname||Bryophyta}}
|-
|colspan="4"| [[ツノゴケ植物門]]{{sname||Anthocerotophyta}}
|-
|rowspan="4"| [[維管束植物|維管束<br />植物]]<br /> [[:en:Tracheophyta|Tracheo-<br />phyta]]
|colspan="3"| [[ヒカゲノカズラ植物門]] {{sname||Lycopodiophyta}}
|-
|rowspan="3"| [[真葉植物]]<br /> [[:en:Euphyllophyta|Euphyllo-<br />phyta]]
|colspan="2"| [[シダ植物門]] {{sname||Pteridophyta}}
|-
|rowspan="2"| [[種子植物]]<br /> [[:en:Spermatophyta|Spermato-<br />phyta]]
| [[裸子植物門]] {{sname||Gymnospermae}}
|-
| [[被子植物門]] {{sname||Angiospermae}}
|}
第三の理由は[[葉緑体]]の起源がわかった事である
なお、伝統的には、陸上植物は、種子植物、シダ植物、コケ植物、の3群に分けられる。[[シダ植物]]、[[コケ植物]]については、それぞれの項を参照のこと。また、陸上植物以外の植物は[[藻類]]として、ひとくくりに呼ばれる。
 
===分類===
 
上述の系統樹を踏まえ、2012年現在提案されている植物の定義として以下のものが提案されている(いものから順に記述):
 
;[[アーケプラスチダ]]
: 緑色植物、[[紅色植物]]、[[灰色植物]]からなる単系統群。葉緑体膜が2重である。[[シアノバクテリア]]を細胞内に共生させた生物を共通祖先とする単系統群であるという仮説に基づき、[[トーマス・キャバリエ=スミス]]がこの系統を植物と定義した。単に「広義の植物 ({{sname|Plantae ''sensu lato''}})」と言った場合、これを意味することが多い。ただし、より広義の意味と対比させ、「狭義の植物界」と呼ぶこともある。<ref>井上勲著『藻類30億年の自然史 第2版』、東海大学出版会、ISBN 978-4-486-01777-6</ref><ref>渡邉信 ・西村和子等編『微生物の事典』、朝倉書店、ISBN 978-4-254-17136-5 C3545</ref>
; [[緑色植物亜界|緑色植物]]
: ストレプト植物と[[緑藻植物]]からなる[[単系統群]]。[[葉緑体]]が[[クロロフィル]] a/b をもつ事で特徴づけられ<ref>[[利用者:LUE=42/sandbox/1#伊藤12|伊藤12]] p 9.</ref>、葉緑体膜が2重である。単に「狭義の植物 ({{sname|Plantae ''sensu stricto''}})」と言った場合、これを意味することが多い。
; [[ストレプト植物]]
: 陸上植物、[[車軸藻]]、[[接合藻]]からなる単系統。
; [[陸上植物]]
: [[コケ植物]]、[[シダ植物]]、[[種子植物]]からなる単系統。古くは後生植物ともいい、陸上で進化し、高度な多細胞体制を持つ。この群を植物界とする分類は[[リン・マーギュリス]]が唱え、マーギュリスにより改訂された[[五界説]]と共に広まった。しかし、非常に近縁な[[緑藻植物]]などが含まれておらず狭すぎるという点がある。
;
 
== 分類学以外の用語 ==
植物という語には、現代でもアリストテレスが意図したような「動かない生物が植物」という意味合いがあり、[[植物状態]]という表現もある。
 
また、本項の冒頭にもあるように「光合成をする生物」という意味合いもある。たとえば、植物プランクトンには、[[ハプト植物]]、[[クリプト植物]]などがあるが、これらでは光合成をするという意味で植物あるいは藻という語が使われている([[二次植物]]参照)。
 
動物の中にも植物的な性質を認める、[[植物性]]器官、植物極などの語がある。