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二十世紀梨記念館の品種の項への追記等
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|英名 = Nashi Pear<br>Sand Pear<br>Russet apple pear
}}
'''ナシ'''('''梨''')は、[[バラ科]][[ナシ属]]の[[植物]]、もしくは[[果物]]として食用にされるその[[果実]]のこと。
 
主なものとして、'''和なし'''('''日本なし'''、{{lang|la|''Pyrus pyrifolia'' var. ''culta''}} )、'''[[チュウゴクナシ|中国なし]]''' (<!--''P. ussuriensis'' 和名ミチノクナシだが別名チュウゴクナシ。-->''{{lang|la|P. bretschneideri}}'') 、'''[[セイヨウナシ|洋なし]]'''('''西洋なし'''、''{{lang|la|P. communis}}'' )の3つがあり、食用として世界中で栽培される。日本語で単に「梨」と言うと通常はこのうちの'''和なし'''を指し、本項でもこれについて説明する。他のナシ属はそれぞれの項目を参照のこと。
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'''ナシ'''('''和なし'''、'''日本なし''')は、[[中華人民共和国|中国]]を原産とし中国や[[朝鮮半島]]、台湾、[[日本]]の本州、四国、九州に生育する野生種'''[[ヤマナシ]]'''(ニホンヤマナシ、{{lang|la|''P. pyrifolia'' var. ''pyrifolia''}} )を基本種とする[[栽培品種]]群のことである。
 
高さ15メートルほどの[[落葉樹林|落葉高木]]。葉は長さ12cm程の卵形で、縁に芒状の鋸歯がある。花期は4月頃で、葉の展開とともに5枚の白い[[花弁]]からなる[[花]]を付ける。8月下旬から11月頃にかけて、黄褐色または黄緑色で[[リンゴ]]に似た直径10 - 18センチメートル程度の球形の果実がなり、食用とされる。[[果肉]]は白色で、甘く果汁が多い。リンゴや[[カキノキ|カキ]]と同様、尻の方が甘みが強く、一方で芯の部分は酸味が強いためあまり美味しくない。しゃりしゃりとした独特の食感がナシの特徴だが、これは[[石細胞]]と呼ばれるものによる。石細胞とは、ペントザンや[[リグニン]]という物質が果肉に蓄積することで[[細胞壁]]が厚くなったものである。これは洋なしにも含まれるのだが、和なしよりもその量が少ないために、和なしと洋なしとで食感に大きな差が生じる。
 
野生のもの([[ヤマナシ]])は直径が概ね2 - 3センチメートル程度と小さく、果肉が硬く味も酸っぱいため、あまり食用には向かない。ヤマナシは人里付近にしか自生しておらず、後述のように本来日本になかった種が、栽培されていたものが広まったと考えられている。なお、日本に原生するナシ属にはヤマナシの他にも[[ミチノクナシ]](イワテヤマナシ) ({{lang|la|''Pyrus ussuriensis'' var. ''ussuriensis''}}) 、[[アオナシ]]({{lang|la|''Pyrus ussuriensis'' var. ''hondoensis''}}、和なしのうち二十世紀など果皮が黄緑色のものを総称する'''青梨'''とは異なることに注意)、[[マメナシ]] (''{{lang|la|Pyrus calleryana}}'') がある。
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* 「甘し(あまし)」
* 「性白実(ねしろみ)」
* [[漢語]]の「梨子(らいし)」の転じたもの
 
また、ナシという名前は「無し」に通じることからこれを忌んで、家の庭に植えることを避けたり、「ありのみ(有りの実)」という反対の意味を持たせた呼称が用いられたりすることがある([[忌み言葉]])。しかし、逆に「無し」という意味を用いて、盗難に遭わぬよう家の建材にナシを用いて「何も無し」、[[鬼門]]の方角にナシを植えることで「鬼門無し」などと、[[縁起]]の良さを願う利用法も存在する。
 
手紙を出しても返事のないことを「梨の礫(つぶて)」という。「梨」に「無し」を掛けた言葉である。したがって、「無しの礫」は意味の上では合っているのだが、誤記である。
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== 歴史 ==
日本でナシが食べられ始めたのは[[弥生時代]]頃とされ、[[登呂遺跡]]などから多数食用にされたとされる根拠の[[種子]]などが見つかっている。ただし、それ以前の遺跡などからは見つかっていないこと、野生のナシ(山梨)の自生地が人里周辺のみであることなどからにより[[アジア大陸]]から人の手によって持ち込まれたと考えられている。文献に初めて登場するのは『[[日本書紀]]』であり、[[持統天皇]]の[[693年]]の[[詔]]において[[五穀]]とともに「[[クワ|桑]]、[[カラムシ|苧]]、'''梨'''、[[クリ|栗]]、[[カブ|蕪菁]]」の栽培を奨励する記述<ref>卷第卅 七年(中略)丙午勅詔令天下勸殖桑苧梨栗蕪菁等草木以助五穀</ref>がある。
 
記録上に現れるナシには巨大なものがあり、5世紀の中国の歴史書『[[洛陽伽藍記]]』には重さ10斤(約6キログラム)のナシが登場し、『[[和漢三才図会]]』には落下した実にあたって犬が死んだ逸話のある「犬殺し」というナシが記述されている<ref>{{Cite web |url = {{NDLDC|898162/505}} |title = 和漢三才図会 巻第八十七 梨 |publisher = [[国立国会図書館]] 近代デジタルライブラリー |accessdate = 2015-05-15 }}</ref><ref>鈴木晋一 『たべもの史話』 小学館ライブラリー、1999年、pp50-54</ref>。
 
[[江戸時代]]には栽培技術が発達し、100をす[[栽培品種|品種]]が果樹園で栽培されていた。[[松平定信]]が記した[[狗日記]]によれば、「船橋のあたりいく。梨の木を、多く植えて、枝を繁く打曲て作りなせるなり。かく苦しくなしては花も咲かじと思ふが、枝のびやかなければ、花も実も少しとぞ。」とあり、現在の[[市川市|市川]]から[[船橋市|船橋]]にかけての江戸近郊では[[江戸時代]]後期頃には、既に梨の栽培が盛んだった事がわかっている。
 
[[明治時代]]には、現在の[[千葉県]][[松戸市]]において'''二十世紀'''が、現在の[[神奈川県]][[川崎市]]で'''長十郎'''がそれぞれ発見され、その後、長らくナシの代表格として盛んに生産されるようになる。一時期は全国の栽培面積の8割を長十郎で占めるほどであった。また、それまでは晩生種ばかりだったのだが、多くの早生種を含む優良品種が多数発見され、盛んに[[品種改良]]が行われた。
 
[[20世紀]]前半は二十世紀と長十郎が生産量の大半を占めていたが、[[戦後|太平洋戦争後]]になると[[1959年]]に'''幸水'''、[[1965年]]に'''新水'''、[[1972年]]に'''豊水'''の3品種(この3品種をまとめて「三水」と呼ぶこともある)が登場し普及した。そのため、現在では長十郎の生産はかなり少なくなっている。
 
== 栽培 ==
ナシの種子は乾燥に弱く、播種の際には注意を要する。発芽後は[[植木]]へ移して個別に栽培し、十分に生育してから圃場へ移す。定植された[[]]は長さ数cmにもなる[[棘]]を付けるが、これはバラ科としての形態形質の一端である。ちなみに、この棘はナシの幼若期に特有のものであり、花芽形成が始まる頃に伸びる枝には棘がない。
 
ナシの花弁は通常白色、5枚の[[離弁花類|離弁]]が基本であるが、色や花弁数には変異がある。また、[[雄蕊|おしべ]]は約20本、花柱は5本である。ナシは本来[[虫媒]]花であるが、[[自家不和合性 (植物)|自家不和合性]](同じ品種間では結実しない性質)が強く、栽培される場合には経済的な理由から他品種の花粉によって人工[[受粉]]が行われる。[[雌蕊|]](めしべ]]の柱頭に付着した花粉は[[花粉#花粉の発芽|発芽]]し、[[花粉管]]を伸長して[[胚珠]]に到達、[[重複受精]]を行う。果実の育成は[[植物ホルモン]]の影響を受ける為、人工的にこれを添加する事も行われる。また、結実数が多すぎる(着果過多)場合には、商品となる果実の大きさを維持する為に摘果が行われる。
 
[[受粉]]を確実にするため[[マルハナバチ]]などを[[養蜂]]もされている。
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=== 樹形と台木 ===
[[ファイル:Chuisihaitang.jpg|thumb|100px|台木として使われる[[カイドウ]]類]]
ナシは[[種子植物]]であり、果実内には1一個 - 十数個の[[種子]]が形成される。天然では[[鳥類|鳥]]などにより種子が[[種子#種子の散布|散布]]されるが、改良品種で種子繁殖が行われる事は稀であり、通常は[[接ぎ木]]によって増やされる。[[台木]]には[[和なし]]の他、[[マンシュウマメナシ]]や[[チュウゴクナシ]]、[[マルバカイドウ]]も用いられる。また、本来ナシは高さ10m程になる高木だが、栽培の際には[[台風]]などの風害を避けるため、十分な日照を確保するためなどの理由により棚仕立て(平棚に枝を誘導し、枝を横に広げる[[矮性]]栽培方法)が用いられる。
 
=== S因子による不親和性 ===
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|-
|}
ナシは同じ品種間で結実しない(自家不和合性)だけでなく、違う品種間でも結実しない(交配不親和性)組み合わせが多いが、これらはS因子という[[遺伝子]]による。これには、S<sub>1</sub> - S<sub>9</sub>の9種類が存在し、通常の細胞には2つのS因子があり、[[花粉]]や[[卵細胞]]はそのいずれか一方を持つ。受粉時にめしべ[[雌蕊]]のS因子の一方と花粉のS因子とが一致した場合には、めしべ雌蕊側のS因子産物であるS-RNaseの働きでS因子が一致する花粉管の[[リボ核酸|RNA]]が分解される。その為、花粉管が伸長せずに受精に至らず、結実しないのである。
 
; S因子型が完全に一致する場合
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二十世紀(にじっせいき)は青梨系の中生種で、和なし生産の13%を占める生産量第3位の品種である。また、鳥取県産なしの8割を占める。
 
青梨系の代表品種で、一般的な唯一の青梨。[[1888年]]に千葉県大橋村(現在の[[松戸市]])で、当時13歳の[[松戸覚之助]]が、親類宅のゴミ捨て場に生えていたものを発見した。松戸は「新太白」と名付けたが、[[1898年]]に[[渡瀬寅次郎]]によって、来たる[[新世紀]]([[20世紀]])における代表的品種になるであろうとの観測と願望を込めて新たに命名された<ref name="20matsudo">[http://www.city.matsudo.chiba.jp/miryoku/kankoumiryokubunka/meibutsu/hoka/20seikinashihassyou.html 松戸が二十世紀梨発祥の地です まつどの観光・魅力・文化|松戸市] 2017年6月10日閲覧</ref> <ref name="chiba">[https://www.pref.chiba.lg.jp/ryuhan/pbmgm/zukan/kajitsu/nashi.html 梨|旬鮮図鑑/千葉県] 2017年6月10日閲覧</ref>。その後、[[1904年]]に[[鳥取県]]に導入され、鳥取県の特産品となった。同県[[倉吉市]]には専門のミュージアム「[http://1174.sanin.jp/ 鳥取二十世紀梨記念館 なしっこ館]([[倉吉パークスクエア]]内)があり、花は鳥取県の県花に指定されている。
 
発祥の地は後に「[[二十世紀が丘]]梨元町」と名付けられ、覚之助の業績を記念している<ref name="20matsudo" />が、発祥の松戸市を含む関東地方では幸水や豊水が主で、現在殆ど栽培されなくなっている。
 
果皮は黄緑色で美しく、甘みと酸味のバランスが良いすっきりした味わいで果汁が多い<ref name="chiba" />。収穫時期が比較的遅く、(水分の多い)梨の需要が見込まれる夏・初秋に収穫できないのが欠点でもある。自家受粉が出来ない(これは二十世紀に限らず)、黒斑病に非常に弱いといった欠点を改良した品種もある(後述)。
 
=== 新高 ===
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:南水の収穫は9月下旬から10月上旬。栽培が難しい品種のため、高い技術レベルが必要。
; 長十郎(ちょうじゅうろう)
: [[1893年]]に神奈川県[[川崎市]]で当麻辰次郎(当麻長十郎)が発見した<ref>{{Cite web |last= |first= |author= NPO法人かわさき歴史ガイド協会|authorlink= |coauthors= |date= |url= http://www.city.kawasaki.jp/250/cmsfiles/contents/0000002/2286/5-2.pdf|title= 長十郎梨のふるさと|format= pdf|doi= |work= |publisher= |page= |pages= |language= |archiveurl= |archivedate= |accessdate= 2015-11-06|quote= |ref=}}</ref>。赤梨系の中生種。かつては和なしを代表する主要品種であったが現在はあまり生産されておらず、耐寒性に強いため東北地方の青森県、宮城県、秋田県の一部に産地が残る程度である。本来は十分に甘いが、収量を上げるために糖度を下げていることが多い。肉質は硬く、やや劣る。受粉用の花粉採取のためによく使われている。
; 愛宕(あたご)
: 赤梨系の晩生種。[[岡山県]]を中心に[[大分県]][[愛知県]]、鳥取県など西日本で生産が盛ん。1 - 1.5キログラムと非常に大きく、日持ちが良い。
; 晩三吉(おくさんきち)
: 10月下旬から11月上旬に収穫される晩生種で、貯蔵性に優れ翌年3月頃まで出回る。平均700gほどの大玉の品種で、やや酸味が強く、さっぱりした甘味がある。全国各地で生産される。「ばんさんきち」とも呼ばれるが、「おくさんきち」が正しい呼び方。
175行目:
: 祇園と豊水を掛け合わせて作られた、赤梨系の早生種。名前通り、「多摩川梨」の代表的な品種として[[神奈川県]]で生産が盛んであり、生産量の8割以上を神奈川県産で占める。
; 新水(しんすい)
: 君塚早生に菊水を掛け合わせた、赤梨系の早生種。農林4号。8月上旬から収穫されるが、病虫害への脆弱性や生育の悪さなどから生産量は少なく、[[石川県]][[兵庫県]]で少量生産される程度。
; あきづき
: 162-29(新高と豊水の交配種)に幸水を掛け合わせた、赤梨系の中生種。農林19号。500グラム以上の大型の品種で、非常に甘い。千葉県、福島県、茨城県、熊本県などで生産されている。
183行目:
: 埼玉県で開発された新高と豊水をかけあわせた大きく甘い品種。
; 稲城(いなぎ)
: 早生ではあるが大玉で果汁が多く、さわやかな甘みがある品種。東京都[[稲城市]]のナシ生産農家が努力を重ねて育成した品種で、稲城市、[[日野市]]、[[府中市 (東京都)|府中市]]、[[国立市]]など都下[[多摩地域]]で栽培されている。地元の直売で非常に人気が高く、市場には出回っていない。
; [[新甘泉]](しんかんせん)
: 「筑水」に「おさ二十世紀」を交配して育成されたもので、2008年に品種登録された。やや早生種で、育成地の鳥取県[[北栄町]]では8月下旬に成熟する。甘味はかなり高く、酸味は中程度で果汁が多い<ref>[http://www.hinsyu.maff.go.jp/vips/cmm/apCMM112.aspx?TOUROKU_NO=16027&LANGUAGE=Japanese 農林水産省生産局知的財産課 品種登録ホームページ 新甘泉]</ref>。
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; にっこり
: 栃木県農業試験場が、1984年に「新高」に「豊水」を交配して育成し1996年8月に品種登録した晩生種<ref name=":0">{{Cite web|url=http://tochigipower.com/staticpages/index.php?page=c-204nikkori|title=にっこり(梨)|accessdate=2017-04-29|work=カラダにとちぎ|publisher=一般社団法人とちぎ農産物マーケティング協会}}</ref>。栃木県内のみで生産されている。名称の由来は国際的観光地の[[日光市|日光]]と梨の音読み「リ」から<ref name=":0" />。
: 果実は大きく、重さが1.3kgくらいになるものもある。果肉は柔らかく、糖度が高く、酸味が少なく、果汁が多い。収穫時期は10月中旬から11月中旬まで。貯蔵性が良く、涼しいところで約2か月間保存できる<ref>[http://www.hinsyu.maff.go.jp/vips/cmm/apCMM112.aspx?TOUROKU_NO=5138&LANGUAGE=Japanese 農林水産省生産局知的財産課 品種登録ホームページ にっこり]</ref>。中華圏では大きくて濃い黄色をした特徴が[[風水]]信仰に合致し、縁起物の贈答品として珍重されている。香港での販売名は「スマイリングピア」(微笑み梨)<ref>[http://gyosei.mine.utsunomiya-u.ac.jp/2006joint/2006jointresumecommon.pdf 農産物のブランド化に対する行政の取り組み 宇都宮大学国際学部中村祐司研究室]</ref>。
 
; きらり
: [[栃木県]]農業試験場が、1994年に「おさ二十世紀」に「にっこり」を交配して育成し2007年2月に品種登録した晩生種。栃木県内のみで生産されている。県内で主に育成されている幸水(7月末から8月上旬)、豊水(8月中旬から9月下旬)、にっこり(11月)の生産連続性を高めるため、同時期に収穫されるが食味に劣る新高に変わる品種として開発された。果実はやや大きく、重さが1.0kgくらいになるものもある。果肉は柔らかく、糖度がにっこりより若干弱くさわやかな甘みで、酸味が少なく、果汁が多い。収穫時期は9月下旬から10月下旬。貯蔵性は10日程度と通常の品種に準ずる<ref>[http://www.hinsyu.maff.go.jp/vips/cmm/apCMM112.aspx?TOUROKU_NO=14786&LANGUAGE=Japanese 農林水産省生産局知的財産課 品種登録ホームページ きらり]</ref>。
 
=== その他の品種(青梨系) ===
[[ファイル:鳥取県のさまざま様々な青梨(夏さやか、なつしずく、真寿).jpg|thumb|right|二十世紀系のさまざま様々な新品種<br>夏さやか(上段)=八雲×おさ二十世紀<br>なつしずく(中段)=(幸水×菊水)×筑水<br>真寿(下段)=おさ二十世紀×新水]]
; ゴールド二十世紀
: 二十世紀に[[ガンマ線]]を照射して作られた改良品種で、黒斑病に強い。青梨系の中生種。[[1991年]]に作られ、「金のように価値がある」という意味で命名。
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== 日本における産地 ==
[[File:Nashi growing area.png|thumb|250px|ナシの都道府県ごとの栽培面積<br />(特産果樹生産動態等調査、2004年)]]
ナシは[[沖縄県]]を除く日本各地、[[北海道]][[道南|南部]](但し、[[道北|北部]]でも栽培収穫の例がある)から[[鹿児島県]]まで広く栽培されている。そのため、主産県でも収穫量におけるシェアはそれほど高くなく、上位10県合計でも全体の7割弱である。産地は東日本と九州地方に集中しており、特に関東地方で過半数を超える。土壌は[[火山灰]]土、砂地などが栽培適地となっているほか、風害の影響を受けやすいため、[[盆地]]や山間の[[扇状地]]に産地が発達している。
 
なお、主要産地の地方自治体ではナシの大敵である[[赤星病]]対策として[[イブキ|ビャクシン]]類の植栽を規制する[[条例]]を設けているところが多い。
 
=== 生産上位県 ===
*[[千葉県]] - 江戸時代から続く和梨産地で、古くは長十郎などを特産。また、幸水と豊水の人気が出てからは和なし生産量、収穫量、栽培面積とも1位をキープしている。そのうち7割は観光農園や直売所販売による。<ref>[https://www.pref.chiba.lg.jp/ryuhan/pbmgm/zukan/kajitsu/nashi.html 千葉県 教えてちばの恵み 旬鮮図鑑 梨]</ref>
:*主な産地:[[白井市]]<ref>[http://www.city.shiroi.chiba.jp/shisei/shokai/s02/1421731814917.html 白井市 しろいの梨]</ref>、[[市川市]]<ref>[http://www.city.ichikawa.lg.jp/eco02/1111000002.html 市川市 農水産業 市川のなしについて]</ref>、[[鎌ケ谷市]]<ref>[https://www.city.kamagaya.chiba.jp/shinogaiyou/tokusanbutsu/tokusanbutsu.html 鎌ケ谷市 特産物 鎌ヶ谷の梨]</ref>、[[船橋市]]<ref>[http://funanashi.myfuna.net 船橋のなし情報サイト]</ref>、[[松戸市]]<ref>[http://www.city.matsudo.chiba.jp/miryoku/kankoumiryokubunka/odekakemap/sanpo-map/nasimogi.html 松戸市 観光梨園(梨もぎ)]</ref>、[[柏市]](旧[[沼南町]])<ref>[http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/090300/p024239.html 柏市 農・食 梨の直売所]</ref>、[[八千代市]]<ref>[https://yachiyo-chiba.mypl.net/mp/pear_yachiyo/?sid=26305 まいぷれ八千代市 八千代市の梨のすべて]</ref>、[[市原市]]<ref>[https://www.city.ichihara.chiba.jp/kanko/nourinngyo/nourinkeikaku/tokusanhinshinko/gaiyo.html 市原市 特産品の概要 梨]</ref>、[[香取市]]<ref>[https://www.city.katori.lg.jp/smph/miryoku/katorino/suigounasi.html 香取市 カトリノ郷物語vol.16 水郷梨]</ref>、[[いすみ市]](旧[[岬町 (千葉県)|岬町]])<ref>[http://jaisumi.or.jp/farm_crops/127 JAいすみ 梨]</ref>、[[一宮町]]<ref>[http://www.ja-chosei.or.jp/toretate/brand.html JA長生 とれたて彩菜 長生ブランド]</ref>など。
*[[茨城県]] - 和なし収穫量第2位。千葉と比較して市場出荷の比率が高い。幸水収穫量第2位、豊水収穫量1~2位。
:*[[筑西市]](旧関城町)<ref>[http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/list/201708/CK2017080302000148.html 東京新聞 梨の出荷始まる 筑西のJA選果場]</ref>、[[下妻市]]<ref>[http://www.ibaraki-shokusai.net/present/p2012-08-17pr.cfm 茨城をたべよう]</ref>、[[八千代町]]、[[石岡市]](石岡市、旧八郷町)、[[小美玉市]](旧美野里町)、[[かすみがうら市]](旧千代田町)、[[土浦市]]など。
*[[栃木県]] - 和なし収穫量第3~6位。県独自ブランドの「にっこり」が知られる。
:*主な産地:[[宇都宮市]]<ref>[http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/sangyo/nougyou/tokusan/1006935.html 宇都宮市 特産物のご案内 梨]</ref>、[[芳賀町]]、[[大田原市]](大田原市、旧[[湯津上村]])、[[那須烏山市]](旧[[烏山町]])、[[小山市]]、鹿沼市、佐野市など。
*[[鳥取県]] - 和なし収穫量第3~6位。平成13年までは長らく第1位であった。今日では豊水や幸水などの赤梨の方が市場人気が高いのと二十世紀梨は栽培が比較的難しいため、生産農家が減少したためである。二十世紀収穫量第1位。二十世紀の全国シェアは53%。また、県内の和なし収穫量のうち79%が二十世紀だったが、幸水や豊水、県独自の品種、「[[新甘泉]]」など赤梨の比率も増加したため、今日では青梨の比率は減少している。
:*主な産地:[[湯梨浜町]](旧[[東郷町 (鳥取県)|東郷町]])、[[鳥取市]](旧[[佐治村]])、[[八頭町]](旧[[八東町]])、[[倉吉市]]、[[琴浦町]](旧[[東伯町]]、[[赤碕町]])、[[大山町]](旧[[中山町 (鳥取県)|中山町]])など。
*[[福島県]] - 和なし収穫量第3~5位。[[福島市]]の収穫量が圧倒的に多く、ブランド梨の萱場梨が知られる。ほかに[[須賀川市]]、[[相馬市]](磯部梨)、[[郡山市]](磐梯熱海梨)、[[いわき市]](サンシャインいわき梨)などに産地がある。<ref>[http://www.new-fukushima.jp/archives/50619.html ふくしま新発売。ふくしまの日本ナシ]</ref><!-- 大熊町は記述保留 -->。自治体単位では福島市が日本一の収穫量を誇り、萱場地区は日本一の梨密集産地となっている。<ref>[http://www.f-ichiba.jp/?p=280 一般社団法人 福島市公設地方卸売市場協会 ナシ(梨)]</ref>。幸水、豊水のほか、「あきづき」の産地となっている。
:*主な産地:[[福島市]]、[[須賀川市]]、[[相馬市]]、[[いわき市]]、[[郡山市]]など
*[[長野県]] - 和なし収穫量第4~6位。青梨の生産は鳥取に次いで多く、飯田地区で盛ん。「新水」を親に持つ県独自ブランドの「南水」が知られる。
:*主な産地:[[飯田市]][[松川町]][[高森町 (長野県)|高森町]]、[[塩尻市]]、[[下條村]]、[[豊丘村]]など。
 
=== その他都府県 ===
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*[[秋田県]]
:*[[男鹿市]]、[[潟上市]](旧[[天王町]]、旧[[昭和町 (秋田県)|昭和町]])など
*[[山形県]] - [[庄内地方]]の刈屋梨が知られる<ref>[http://syokunomiyakoshounai.com/ingredient/ingre-03/013.html 食の都庄内 刈屋梨]</ref>
:*[[酒田市]]など。
==== 関東地方 ====
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*[[東京都]] - 稲城の梨が知られる。古くは[[稲城市]]以外にも日野市、小平市、東村山市などに梨畑が展開しており、多摩湖梨と呼ばれ、数千トンを収穫する一大産地であったが、宅地化や都市化に伴う農器具の制限、他産地との競争などで規模が縮小した。
:*[[稲城市]]など。
<!-- :*多摩川梨:[[稲城市]][[日野市]][[府中市 (東京都)|府中市]][[国立市]][[昭島市]]などで生産。
:*多摩湖梨:[[東大和市]][[武蔵村山市]][[東村山市]]などで生産。|今日では生産量が少ないため記述保留 -->
*[[神奈川県]] - 川崎、横浜の内陸部に産地が展開するが、直売所販売、観光農園が主で、市場出荷は行っていない。川崎は多摩川梨、横浜ははま梨としてブランド化を勧めている。
:*[[川崎市]][[麻生区]]・[[多摩区]]、[[横浜市]][[緑区 (横浜市)|緑区]]、[[青葉区 (横浜市)|青葉区]]など。
==== 中部地方 ====
*[[新潟県]] - 和なし(主に「新高」「幸水」)和なし収穫量第7~11位。
:*主産地は[[新潟市]](新潟市、旧[[白根市]]、旧[[亀田町 (新潟県)|亀田町]]、旧[[横越町]]、旧[[月潟村]])[[三条市]][[加茂市]][[燕市]]など。
*[[富山県]] - 富山市、[[呉羽丘陵]]の呉羽梨がブランド品として知られる。
:*[[富山市]](呉羽梨)<ref>[http://www.shoku-toyama.jp/season/s029/ 越中とやま食の王国 富山食ブランド 呉羽梨]</ref>など。
*[[石川県]]
261行目:
:*[[美濃加茂市]]、[[大垣市]]など。
*[[静岡県]]
:*[[富士市]]、[[浜松市]]など。
*[[愛知県]]
:*[[安城市]]、[[豊橋市]]、[[豊田市]]、[[西尾市]](旧西尾市、旧[[吉良町]])、[[みよし市]]など
==== 近畿地方 ====
*[[三重県]] - 香良洲は全国に先駆け、ハウス梨栽培に取り組んだ産地。
:*[[津市]](旧[[久居市]]旧[[香良洲町]])など。
*[[京都府]] - 久美浜付近で京たんご梨として特産。
:*[[京丹後市]](旧久美浜町、旧網野町)
289行目:
:*[[高知市]]、[[佐川町]]など。
==== 九州地方 ====
*[[福岡県]] - 和なし収穫量第7~11位。
:*[[朝倉市]]、[[筑後市]]、[[八女市]]、[[うきは市]](旧[[浮羽町]])、[[筑前町]](旧[[夜須町 (福岡県)|夜須町]])、[[広川町 (福岡県)|広川町]]など。
*[[佐賀県]] - 伊万里市は全国有数の産地。
295行目:
*[[長崎県]]
:*[[南島原市]](旧[[有家町]])など
*[[熊本県]] - 和なし収穫量第7~12位。県が[[台風]]の通り道に位置するため風害の影響を受けやすく、収穫量は上下しやすい。主産地は[[荒尾市]](新高で知られる)<ref>[http://www.arao-kankou.jp/omote-nashi/ 荒尾梨でおもてなしMAP]</ref>
:*[[荒尾市]]、[[玉東町]]、[[熊本市]]、[[氷川町]](旧[[竜北町]])、[[宇城市]](旧[[豊野町 (熊本県)|豊野町]])、[[錦町]]、[[球磨村]]など。
*[[大分県]] - 和なし収穫量第7~11位。日田市は自治体単位で全国有数の生産高で、日田梨をブランド化している。<ref>[http://www.hitanashi.com 四季を通して日田の梨]</ref>
:*[[日田市]](日田市、旧[[天瀬町]])、[[由布市]](旧[[庄内町 (大分県)|庄内町]])、[[中津市]]など。
 
=== 収穫量 ===
和なし収穫量上位10県における、和なし合計と主要品種の収穫量・シェアを以下に示す。(出典:[[農林水産省]]統計情報、[[2006年]])
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== 食用 ==
[[File:Nashi-pear,katori-city,japan.JPG|thumb|right|200px|小切りされたナシ]]
ナシの主な利用法は食用、特に生食である。一般的なナシの剥き方は[[リンゴ]]に類似したもので、縦に8等分などして、皮を剥き中心部を取り除く方法である。また、[[シロップ]]漬けの[[缶詰]]にも利用されるが、ナシ単独の缶詰が売られていたり、それを食したりすることは稀であり、他の果物と混ぜてミックスフルーツとして販売・食用とされることが多い。
 
加工品としては[[清涼飲料水]]や、[[ゼリー]]、[[タルト (洋菓子)|タルト]]などの洋菓子に利用されているが、[[セイヨウナシ|洋なし]]と比べるとそれらを見かける機会は少ない。料理に用いられることは[[冷麺]]の具として用いる以外ほぼないが、産地などでは梨カレー[http://www.jan-agri.com/contents/cooking/nashi.html]などといった[[レシピ]]も開発されている。
 
一大産地の千葉県鎌ケ谷市[http://heartland.ocnk.net/product/101]、白井市では1980年代末に梨[[ワイン]]、梨[[ブランデー]]を商品化した。このほか、千葉県いすみ市、埼玉県久喜市[http://www.ms.kuki.tus.ac.jp/~kukiwiki/index.php?%B8%F8%CA%FD%CA%AA%B8%EC]、秋田県男鹿市[http://blog.livedoor.jp/kamihatopaz/archives/50646624.html]でも梨ワインが生産されている。
 
[[セイヨウナシ|なし]]は、[[果実酒]]([[ペリー (酒)|ペアサイダー]])、[[蒸留酒]]([[ブランデー]])などに利用されているが、[[#品種|和なし]]での梨ワイン、梨ブランデーの生産は、現在、日本のみである。
 
ナシは[[タンパク質分解酵素]]を持っているため、生の状態ですり下ろしたものを[[焼肉]]や[[プルコギ]]などの漬け込みだれとして利用するレシピがある。
 
2010年代より、二十世紀梨の産地である鳥取県や隣接する[[兵庫県]][[但馬国|但馬地方]]において、「梨の[[発泡ワイン|スパークリングワイン]]」の名称で和なしの[[シードル]](ペアサイダー)も商品化されている[http://www.a-aji.jp/products/pear_wine/index.html][http://www.hirooka-farm.com/]。千葉県鎌ケ谷市でも2012年から、豊水を原料とするスパークリングワインが商品化された(1980年代末から商品化されている梨ワインの原料は幸水)[http://www.kamata-nomoukai.com/item/460009/]<ref>ただし、[[ワイン]]とは厳密には[[ブドウ]]から作られた酒のみを表す物なので、[[和製英語]]になる。正確には、和梨の[[シードル]] ({{Lang-fr-short|[[:fr:cidre|cidre]]}}) 、[[ペリー (酒)|ペアサイダー]] ({{Lang-en-short|[[:en:pear cider|pear cider]]}}) 、[[ペリー (酒)|ペリー]] ({{Lang-en-short|[[:en:perry|perry]]}}) 、スパークリングペリー(梨のスパークリングワイン)、和梨の[[発泡酒]]、ポワレ({{Lang-fr-short|[[:fr:poiré|poiré]]}})などと呼ぶのが適切である。和梨のワインについては、和梨酒、または、和梨の[[果実酒]]である。</ref>。
 
和梨および洋梨の発泡酒は、[[酒税法]]第3条によると、発泡性酒類のその他の発泡性酒類に分類される。
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糖度は11 - 14%程度で、糖分としては[[スクロース|ショ糖]]、[[フルクトース|果糖]]、[[ソルビトール]]、[[グルコース|ブドウ糖]](多い順)を含む。[[酸度]]は0.1%程度で、[[リンゴ酸]]や[[クエン酸]]などである。
 
なし・洋なしともに[[果物]]としては[[ビタミン]]をほとんど含まず、栄養学的な価値は高くない。
 
; [[水|水分]]
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== 参考文献 ==
* 『果樹園芸大百科 4 ナシ』 編・出版:[[農山漁村文化協会]]、2000年
* 『植物の世界 5』 [[朝日新聞社]]、1997年
* 『図説 花と樹の事典』 監修:木村陽次郎、[[柏書房]]、2005年
* 『たべもの起源事典』 岡田哲、[[東京堂出版]]、2003年
* 『世界有用植物事典』 堀田満 他、[[平凡社]]、1989年
 
== 関連項目 ==