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多くは'''自然気胸'''(原発性自然気胸 Primary spontaneous pneumothorax および続発性自然気胸 Secondary spontaneous pneumothorax)で、[[肺胞]]の一部が[[嚢胞]]化したもの(ブラ Bulla)や[[胸膜]]直下に出来た[[嚢胞]](ブレブ Bleb)が破れ、吸気が胸腔に洩れる事でおこる。胸痛をきっかけに受診することが多い。知名度が低いため、[[気管支喘息|喘息]]などと勘違いして放置されることもあるが、それほど珍しい病気ではない。
 
年配の人の気胸の場合[[肺気腫]]・[[結核]]・[[肺癌]]などの基礎疾患に伴う続発性気胸が多い。女性の場合は[[子宮内膜症]]が[[横隔膜]]や肺に広がり[[月経]]とともに剥がれ落ちて起こる、月経随伴性気胸の場合もある。交通事故などによる[[肋骨骨折]]が原因となるものや、[[点滴静脈注射#中心静脈路|点滴]]誤穿刺、[[気管支鏡|気管支鏡検査]]による合併症、[[鍼]]による肩背部・胸部などへの直深刺などによる外傷性気胸もある。
 
静脈や動脈の損傷を伴う場合([[血胸]])を伴う場合は血気胸と呼ばれる。
 
== 疫学 ==
自然気胸は、「背が高く」「痩せ型で」「10〜20代の若い」「男性」に起こりやすい傾向がある。[[ボディマス指数|BMI]]が20前後の男性では、6[[パーセント]]程度にブレブの発生が見られた<ref>Tamura M, Ohta Y, Sato H. "Thoracoscopic appearance of bilateral spontaneous pneumothorax." ''Chest.'' 2003 Dec;124(6):2368-71. PMID 14665522</ref>。しかし背のい人身長者太った人肥満者、年配者、女性が発病する事も稀ではない。
 
嚢胞が発生する原因や破れる原因は明確になっておらず、故に「自然」気胸と呼ばれる。喫煙や運動、猫背などの姿勢、気圧変化(夏よりも秋から冬にかけての発症が多い)などによって肺に強い負担がかかったため、成長期の骨の急成長に肺の成長が間に合わず肺が引き伸ばされてしまったため、心的ストレスや睡眠不足等の生活習慣の悪化のためとも考えられているが、いずれも確証は得られていない。
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多くは突然発症する。呼吸をしても大きく息が吸えない、激しい運動をすると呼吸ができなくなるなどの[[呼吸困難]]、[[酸素飽和度]]の低下、[[頻脈]]、動悸、咳などが見られる。発症初期には肩や鎖骨辺りに違和感、胸痛や背中への鈍痛が見られることがあるが、肺の虚脱が完成すると胸痛はむしろ軽減する。痛みは人によって様々で、全く感じない人もいれば、軽微の気胸で激痛を感じる人もいる。
 
自然気胸の場合、両方の肺同時に発症することは稀だが、片方の肺が発症するともう一方に負担がかかるので、可能性は少なからずある。この両肺で同時に発症した場合は酸素が供給されないため危険である。症状が悪化すると、胸部の皮膚に気泡のようなもの([[皮下気腫]] [[:en:Subcutaneous emphysema]])が現われることもある。
 
=== 緊張性気胸 ===
胸腔に漏れ出した空気が著しく多く、陽圧になって対側の肺や心臓を圧迫している状態を'''緊張性気胸'''という。この場合は血圧低下、ショックを来たし、緊急に胸腔穿刺を行わなければ死に至る。これは、心臓は勿論肺も、血液が体内を一巡するごとに必ず通る臓器だからである。しかも肺の毛細血管の還流圧は低いため、血液が肺の毛細血管を通過できなくなる(心臓に戻って来られなくなる)という事を意味する。本症においては、処置に時間の掛かるドレナージではなく、迅速な穿刺を行わなければならない。関連して、左の気胸との気胸では左の方が肺よりも心臓に近いため左肺の気胸が、[[ショック死]]などのリスクが高い。
 
緊張性気胸による呼吸困難に対し、[[人工呼吸]]は禁忌である。胸腔内圧を更に上げる事になり、肺の虚脱が亢進する。緊張性血気胸・血胸では緊急手術となることもある。
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[[File:Pneumot rax bullae.JPG|thumb|240px|肺表面にできたブレブの拡大図。何らかの原因で発生し、これが破れる事により肺がパンクする。自然気胸の大半は、これが原因である。]]
 
* [[聴診]]において、肺に空気が送られる音がしないなどの呼吸音減弱が見られる。これは[[聴診器]]で確認できるが、程度が小さい場合は発見しにくいので、専門医にてもらうの断察望ましい。
* 胸部[[X線写真]]で血管影を伴わない空虚な領域は気胸と疑われる。[[血胸]]・血気胸では血液を含む[[胸水]]によるX線透過性の低下した像を認める。
* 胸部[[コンピュータ断層撮影|CT]]によって比較的大きな嚢胞であれば場所が確認できる。
* [[胸腔穿刺]]は胸水の性状を確認するため施行される。
 
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|-
! 緊張性気胸
| | 高度気胸で、さらに肺から空気がもれ続けると、胸腔内が陽圧になっている状態。
|}
 
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# [[急性冠症候群]]([[不安定狭心症]]と[[急性心筋梗塞]])
# [[解離性大動脈瘤]]
# [[心タンポナーデ]](心のう内出血や心膜炎)
# 緊張性気胸・血胸
# [[肺塞栓]]
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== 治療 ==
* 軽度の気胸では無理な姿勢や運動をせず、無理な呼吸をしないで、安静にするのみで[[自然治癒]]を待つ。これが気胸の基本的な治癒方法で、自覚症状が無いまま完治してしまうこともある。胸腔内は密閉空間なので漏れ出た空気の逃げ道が無いが、軽度であれば数週間かけて粘膜から空気が吸収されて元に戻る。ただし自然治癒の場合は、外科手術に比べて再び穴が開いて再発する確率がはるかに高いため、再発を繰り返す場合は以下に示す中程度以上の処置が必要となる。
* 中程度の気胸は、激しい痛みや呼吸困難に襲われた場合である。その際は緊急処置として胸部の脇の部分を数mm切開し、[[胸腔ドレナージ]]による吸引を行う。これは胸腔内を脱気し肺が膨らみやすくなるようにするのが目的で、原因病巣の治療は自然治癒を含む他の手段に求める。ただし、肺が萎縮した結果として塞がっていた病巣が、肺が膨らむと再開放してしまうことがあるため、状況によってはドレナージを見合わせることがある。
* 繰り返す自然気胸に対してドレーン処置を行っても改善しない場合は、[[手術]]によって嚢胞の切除が行われる。現在では[[胸腔鏡]]下で行われるのが一般的だが、場合によっては[[開胸術|開胸]]する事もある。施術前に胸部CTで原因病巣と思しき大きな嚢胞を探して目標とするが、実際に破れたのはCTで確認できないような小さな嚢胞という場合もある。穴の開いた部分を縫い合わせる手術もある。
* 化学熱傷をわざと起こす[[胸膜癒着|胸膜癒着術]]は、肺が萎縮しなくなるため根本治療となり得るが、癒着が不十分だと再発の可能性が残る。再発時は癒着しなかった部分のみ萎縮するため軽度・中程度の気胸に留まるものの、治療に際してドレーンを挿入できなくなる事がある。また手術を行う時は、癒着を剥がす必要があるために癒着のない場合より困難を来し、開胸を要する可能性が高くなる。
* 最近{{いつ|date=2017年3月}}では空気漏れを起こす嚢胞を切除した後、その部分に吸収性メッシュシートを貼り付けて補強する治療法も開発されている。これにより再発率が抑えられるようになった。
 
== 予後 ==
基礎疾患の無い自然気胸でも、再発を繰り返す場合がある。対側に起こる場合も多い<ref>Huang TW, Lee SC, Cheng YL, Tzao C, Hsu HH, Chang H, Chen JC. "Contralateral recurrence of primary spontaneous pneumothorax." ''Chest.'' 2007 Oct;132(4):1146-50. Epub 2007 Jun 5. PMID 17550937</ref>。再発率の統計は、自然治癒(もしくは胸腔ドレナージ術のみ)の場合、約50パーセントと非常に高い。胸腔鏡下手術の場合5 - 10パーセント、開胸手術の場合0.5 - 3パーセントであり、個人差はあるが外科手術によって再発率が劇的に低くなる。一方で[[閉塞性肺疾患]]などが基礎にある場合はさらに難治性となる。
 
治療後も暫くは安静を要する。気道内の大きな圧力変化をもたらす事象、即ち[[飛行機]]への搭乗(鉄道や自動車・バスでも峠越えなど<!-- 新幹線は密閉されている -->)、[[管楽器]]演奏、[[スキューバダイビング]]などは事前に医師の許可を得る事が望ましい。勿論、喫煙は厳禁であるし、[[咳]]はできるだけ我慢して早めに咳止めを服用する必要がある。1か月程度安定状態が続けば運動も再開できるようになる。
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== 歴史 ==
[[15世紀]]頃の[[オスマン帝国]]([[中世]][[トルコ]])で、外科医の「[[セレフェディン・サボンジュール]]」が、胸腔から空気を吸引する簡易的な治療を行った記録が残っている<ref name=Anatolia>{{cite journal | author = Kaya SO, Karatepe M, Tok T, Onem G, Dursunoglu N, Goksin I | title = Were pneumothorax and its management known in 15th-century anatolia? | journal = Texas Heart Institute Journal | volume = 36 | issue = 2 | pages = 152–153 | date = September 2009 | pmid = 19436812 | pmc = 2676596 }}</ref>。気胸の外科手術は、記録が残っている中でこれが最も古いとされている。
 
[[1803年]]には、気胸に関する疫学と、その大半は結核が原因だとする研究が、フランスの医師[[ジャン・イタール]][[ルネ・ラエンネック]]によって発表された<ref>{{cite book | author=Laennec RTH | title=Traité de l'auscultation médiate et des maladies des poumons et du coeur - part II | language=French | location=Paris | year=1819}}</ref>。しかし[[1932年]]には、結核以外を原因とする自然気胸の存在も、[[デンマーク]]の医師[[Hans Kjaergaard]]によって発表された<ref>{{cite journal | author=Kjærgard H | title=Spontaneous pneumothorax in the apparently healthy | journal=Acta Medica Scandinavica | year=1932 | volume=43 Suppl | pages=1–159 | doi=10.1111/j.0954-6820.1932.tb05982.x}}</ref>。
 
[[1941年]]には、外科医のタンソンとクランドールによって、気胸の原因となる嚢胞の切除手術が初めて導入された<ref>{{cite journal | author=Tyson MD, Crandall WB | title=The surgical treatment of recurrent idiopathic spontaneous pneumothorax | journal=Journal of Thoracic Surgery | year=1941 | volume=10 | pages=566–70}}</ref>。この時点で、初めて気胸に対する根本的治療が確立された。
 
[[20世紀]]初頭には、気胸で縮んだ肺の大きさを可視化するために、[[X線撮影]]が用いられるようになった。
 
[[1941年]]には、外科医のタンソンとクランドールによって、気胸の原因となる嚢胞の切除手術が初めて導入された<ref>{{cite journal | author=Tyson MD, Crandall WB | title=The surgical treatment of recurrent idiopathic spontaneous pneumothorax | journal=Journal of Thoracic Surgery | year=1941 | volume=10 | pages=566–70}}</ref>。この時点で、初めて気胸に対する根本的治療が確立された。
 
== 脚注 ==