「リアリズム法学」の版間の差分

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=== 前史① ホームズ――法予言説 ===
著名な裁判官であったり、プラグマティズム法学の泰斗としても知られる[[オリバー・ウェンデル・ホームズ・ジュニア|オリバー・ウェンデル・ホームズ]](Oliver Wendell Holmes)の議論が、リアリズム法学の前史の一つとして挙げられる。彼は、19世紀末まで有力であった自然法思想を排し、法学は善悪の問題から切り離されるべきであって、裁判官が実際にどのような解釈を行うかを予言する学問となるべきだとする、法予言説を主張した。ホームズは次のように述べている。<blockquote>それ(法律の研究)が職業であり、人々が彼らのために弁論し、彼らに助言するように法律家に金銭を支払う理由は、私たちのもののような社会においては、一定の場合において、公権力の命令は裁判官に委ねられており、彼らの判決や命令を実行するためにもし必要ならば、すべての国家権力が発揮されるからである。人々は、彼ら自身よりもはるかに強力なものに直面するリスクをどのような状況で、どこまで背負うのかを知りたがるため、この危険がいつ見つけ出されるべきかを見つけることが仕事になる。ならば、私たちの研究の目的は、予言、すなわち裁判所という道具を通した公権力の発生の予言である。<ref>Oliver Wendell Holmes (2009) ''The Path of the Law and the Common Law'', Kalpan Publishing, p.1. なお訳出は、戒能通弘(2011)「近代英米法思想の展開(4・完)」『 同志社法学』63巻1号、p.657に依る</ref></blockquote>このように、紙の上での法解釈よりも裁判官の実際の行動に着目する議論が、リアリズム法学によっては引き継ぎ、発展させられていくことになる。
 
=== 前史② パウンド――社会学的法学 ===
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=== 社会的文脈 ===
前史に続き、リアリズム法学興隆の社会的文脈について触れる。19世紀末から20世紀初頭にかけて、保守的な裁判官らによって、進歩的な立法が違憲とされ、無効とされており、司法に対し大きな不満がたまっていた。たとえば、その象徴的事件とされる、1905年の「ロックナー対ニューヨーク州事件」<ref>Lochner v. New York, 198 U.S. 45 (1905)</ref>では、パン屋で労働する者を保護するために最大労働時間を規制する法律が無効にされ、1923年の「アドキンス対子供病院事件」<ref>Adkins v. Children's Hospital, 261 U.S. 525 (1923)</ref>では、最低賃金を定める法律が無効とされた。
 
加えて、1929年の大恐慌により、[[ニューディール政策|ニュー・ディール政策]]による治癒が求められるところであったが、連邦裁は政治からの法の独立を強調し、ニュー・ディール政策による立法を阻害していた。法の政策性を強調するリアリズム法学は、こうした時代背景の影響を受けて力を付けたのであり、現に多くのリアリズム法学者と呼ばれる人の多くが、ニュー・ディールを指揮した[[フランクリン・ルーズベルト]](Franklin Roosevelt)政権下でスタッフとして働いていたのである<ref>ただし、こうした事実から、リアリズム法学の核心をニュー・ディール的な思考に還元することは正確ではないことにつき、中山竜一(2000)『二十世紀の法思想』岩波書店、pp.67-68</ref>。
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*[[プラグマティズム法学]]
*[[批判法学]]
*[[法と経済学]]
 
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