「揚水発電」の版間の差分

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可変速揚水発電
アンシラリーサービス
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[[File:Markersbach Kaverne.JPG|300px|thumb|揚水発電所 発電機室]]
[[ファイル:20101130奥吉野発電所.jpg|300px|thumb|[[関西電力]]・[[奥吉野発電所]](左・下池[[旭ダム]]と右・上池[[瀬戸ダム]]]]
'''揚水発電'''(ようすいはつでん、{{lang-en|Pumped-storage hydroelectricity}})は、夜間・休日昼間などの需要の少ない時間帯に[[電力系統]]の[[電力]]・[[周波数]]・[[電圧]]・[[力率]]の調整のため、他の[[発電]]所の余剰電力で下部貯水池(下池)から上部貯水池(上池ダム)へ水を汲み上げておき、平日昼間・夕方電灯点灯時などの需要が増加する時に、上池ダムから下池へ水を導き落とすことで[[発電]]する[[水力発電]]方式である<ref name="jika">{{Cite book |和書 |author=武智昭博 |year=2012 |title=自家用電気設備の疑問解決塾 改訂2版 |page=168}}</ref>。
 
数分以内に揚水・発電の切り替えができるため、大規模電源脱落・需要の予測以上の増加に備えた予備力、大規模[[停電]]時の[[電力系統]]復旧用の初期電源として重要である。また、[[原子力発電]]・大規模[[汽力発電]]・流れ込み水力発電所・[[地熱発電]]・[[太陽光発電]]・[[風力発電]]など調整力の小さい電源の占める割合の大きな需要の少ない時間帯に、即応性の調整力として利用されている。
 
== 概 ==
=== 役割 ===
ボイラーを使用する火力発電や原子炉を使用する原子力発電では電力需要に応じた出力調整が難しい<ref name="jika" />。かつては火力発電やを常時稼働させ、昼夜の電力調整を水力発電で補う火主水従と呼ばれる電力構成が用いられたこともあった<ref name="jika" />。しかし産業の発展とともに水力発電だけでは補いきれなくなった<ref name="jika" />。電力の安定供給のため、停止していても数分以内に最大電力供給できる出力調整が容易な[[電力貯蔵]]施設である揚水式発電が導入された。
設備利用率が特に悪化する夜間に既存揚水発電設備発電する役割は、大容量[[電力貯蔵]]水をくみ上げ、需要がピークとなる昼間に発電を行うことで、ピークとオフピークの差を埋めることができ、設備利用率の全体的な向上が図れる。電力需要・供給の平準化を狙う[[蓄電]]を目的した、ダムの[[水]]を用いて、電力を[[位置エネルギー]]として蓄える巨大な[[二次電池|蓄電池]]、あるいは[[蓄電]]所と言うべきものである。
 
電力需要は、夏季の昼間の冷房需要・冬季の夕方の電灯点灯と暖房の同時使用などの時に最高となり、深夜に最低となる。そのため、高負荷時は電力供給力、低負荷時は調整力が問題となる。また、太陽光発電所など[[再生可能エネルギー]]の割合の高い休日昼間の調整力が特に問題となっている。
一般的に電気は1日の昼間に多く消費され、夜間は需要が小さくなるため、ピークとオフピークには大きな差ができる。しかし、電力エネルギーは発電と消費がほぼ同時であり貯蔵しておくことが難しいエネルギーである<ref name="jika" />。そのため電力会社は仮にピークの時間が僅かであっても、そのピークに対応できる発電設備を保有しなくてはならない。それゆえピークに備えた電力設備は大部分の時間で利用されないため、設備利用率は一般的に低く、設備投資の削減の観点からもピークとオフの差は小さいことが望ましい。
 
揚水式発電は、発電で電力供給力・揚水で調整力供給するため、深夜・休日昼間に揚水、夏季の昼間・冬季の夕方に発電する<ref>{{Cite web |date=2018-10-26 |url=http://www.kanaloco.jp/article/367964 |title= 水抜かれ空っぽ 城山湖、10年ぶり点検で珍しい姿に|publisher=神奈川新聞 |accessdate=2018-10-30}}</ref>
設備利用率が特に悪化する夜間に既存発電設備の発電する電力で水をくみ上げ、需要がピークとなる昼間に発電を行うことで、ピークとオフピークの差を埋めることができ、設備利用率の全体的な向上が図れる。電力需要・供給の平準化を狙う[[蓄電]]を目的した、ダムの[[水]]を用いて、電力を[[位置エネルギー]]として蓄える巨大な[[蓄電池]]、あるいは[[蓄電]]所と言うべきものである。
 
揚水発電は世界的にも行われているが、電力系統が他国から独立し、電力需要のピークとオフピークの差が大きい日本で特に普及した蓄電方法である。
発電する電気量に対し、水を汲み上げるために、消費される電気量がおよそ30%割増ではあるが、大量の電力を貯蔵できる設備は、現在のところ揚水式発電所が唯一である。
 
====アンシラリーサービス====
揚水式発電所アンシラリーサービスは、電力系統の電力需要と発電量を一致させ、電力・周波数・電圧・力率を調整するためとも使用され、供給信頼度を確保することである。
 
*周波数制御数 : 数秒以下の変動に対してははずみ車効果によって、数秒~1分程度の変動に対してはガバナ制御によって、1分~数分程度の変動に対しては負荷周波数制御によってそれぞれ制御することができる。
=== 役割 ===
*電圧制御 : 調相運転によって無効電力・自動電圧調整で有効電力を供給する
電力需要は、夏季の昼間の冷房需要・冬季の夕方の電灯点灯と暖房の同時使用などの時に最高となり、深夜に最低となる。そのため、高負荷時は電力供給力、低負荷時は調整力が問題となる。また、太陽光発電所など[[再生可能エネルギー]]の割合の高い休日昼間の調整力が特に問題となっている。
*潮流調整 : 大規模電源脱落・[[系統連系]]設備事故時の過負荷に対し、瞬時に揚水遮断・発電出力調整し、系統の安定度の維持・過負荷の解消・大規模停電の防止を行う。
*ブラックスタート : 広範囲停電が発生した場合の系統復旧用の初期電源
*試験負荷 : 大容量発電所の遮断試験
*環境規制がある場合の火力発電の代替 : 大気汚染警報時など
 
====需給制御====
揚水式発電は、発電で電力供給力・揚水で調整力供給するため、深夜・休日昼間に揚水、夏季の昼間・冬季の夕方に発電する。<ref>{{Cite web |date=2018-10-26 |url=http://www.kanaloco.jp/article/367964 |title= 水抜かれ空っぽ 城山湖、10年ぶり点検で珍しい姿に|publisher=神奈川新聞 |accessdate=2018-10-30}}</ref>
ボイラーを使用する火力発電や原子炉を使用する原子力発電では電力需要に応じた出力調整が難しい<ref name="jika" />。かつては火力発電やを常時稼働させ、昼夜の電力調整を水力発電で補う火主水従と呼ばれる電力構成が用いられたこともあった<ref name="jika" />。しかし産業の発展とともに水力発電だけでは補いきれなくなった<ref name="jika" />。電力の安定供給のため、停止していても数分以内に最大電力供給できる出力調整が容易な[[電力貯蔵]]施設である揚水式発電が導入された。
 
====経済運用====
揚水発電は世界的にも行われているが、電力系統が他国から独立し、電力需要のピークとオフピークの差が大きい日本で特に普及した蓄電方法である。
一般的に電気は1日の昼間に多く消費され、夜間は需要が小さくなるため、ピークとオフピークには大きな差ができる。しかし、電力エネルギーは発電と消費がほぼ同時であり貯蔵しておくことが難しいエネルギーである<ref name="jika" />。そのため電力会社は仮にピークの時間が僅かであっても、そのピークに対応できる発電設備を保有しなくてはならない。それゆえピークに備えた電力設備は大部分の時間で利用されないため、設備利用率は一般的に低く、設備投資の削減の観点からもピークとオフの差は小さいことが望ましい。
 
設備利用率が特に悪化する夜間に既存発電設備の発電する電力で水をくみ上げ、需要がピークとなる昼間に発電を行うことで、ピークとオフピークの差を埋めることができ、設備利用率の全体的な向上が図れる。
 
=== 現状と課題 ===
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!過渡時
|-
|定速機|| ||100%||100% ||基準||50-100%||一定||0-100%<br />/60秒||不能
|-
|可変速||より低水位で運転可能||105%||140%||最大出力時0.5%増<br />中間負荷時 2.5%増||30-100%||70-100%||0-100%<br />/60[[]]||0MW20MW/0.1秒
|-
|可変速の備考|| ||回転子<br />変換器||ロータ<br />励磁装置||回転速度を変えることで<br />高効率運転が可能||水車の特性向上||入力は速度の三乗に比例||電気的に制御||慣性エネルギーを電気エネルギーに高速変換可能
|}
 
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!上池
!下池
! style="padding-right:17px" |種類<br />&nbsp;<sub><ref group="備">「混」は混合揚水、「純」は純揚水、「可」可変速揚水ユニット設置されているものを示す。</ref></sub>
! style="padding-right:17px" |運用開始<br />&nbsp;<sub><ref group="備">発電所としての運用開始年を示す。建設中の発電所について、1台も水車発電機が稼働していない場合は運用開始予定年をかっこ内に示した。</ref></sub>
! style="padding-right:17px" |所在地<br />&nbsp;<sub><ref group="備">水車発電機が置かれた地点に属する都道府県名を示す。</ref></sub>
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* {{Cite journal|和書 |author=新井秀忠|coauthor=太田仁志・ほか |year=2003 |title=国内外水力発電所への最新技術の適用 |journal=東芝レビュー |volume=58 |issue=7 |pages= |publisher=東芝|url=http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2003/07/58_07pdf/b06.pdf|format=PDF|naid=80016122654}}<!--『[http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2003/07/index_j.htm 東芝レビュー 58巻 7号]』2003年。-->
*[[電気学会]]・[[国立情報学研究所]]『電気のデジタル博物館』「[http://dbnst.nii.ac.jp/junior/detail/1363 世界初400MW可変速揚水発電システムの開発・実用化]」
*東芝電力システム社 火力・水力事業部『[http://www.toshiba.co.jp/thermal-hydro/hydro/products/aspss/index_j.htm 可変速揚水発電システム]』
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