「オウィディウス」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
→‎『変身物語』: 最後の詩人の一節による自身の名声の不滅を宣言する内容が変わっていたので訂正
108行目:
 
===『恋の技法』===
<blockquote class="" style=""><poem>
Si quis in hoc artem populo non novit amandi,
hoc legat et lecto carmine doctus amet.
128行目:
『変身物語』( ''Metamorphoses''、メタモルポーセース)全十五巻はオウィディウスの最も野心的な作品でありかつ、最も人気のある作品である。内容面ではギリシア・ローマ神話において変身が行われる伝説を集めたカタログであると言うことができ、形式面では一貫して「英雄的六歩韻脚(ダクテュロス・ヘクサメトロス、叙事詩に多い)」用いられていることが指摘できる。ただし、歴史神話的構造は比較的緩い。全体で12,000行近くに及び、その中で250種の神話伝説が語られる。各神話の舞台は、死すべき運命の者たちが外的な影響に対して脆弱である屋外に設定される。本作品は、[[ヘーシオドス]]の『[[名婦列伝(エーホイアイ)]]』や[[カリマコス|カッリマコス]]の『起源(アエティア)』、[[ニカンドロス]]の『ヘテロエウメナ』、[[パルテニオス]]の『変身物語(メタモルポーセース)』といった、複数の起源神話を次々と歌っていく詩作の伝統に連なるものである。
 
第一巻は[[天地開闢]]、人間の時代、[[大洪水]]、アポローによる[[ダプネー]]の略奪、[[ユーピテル]]による[[イーオー]]の略奪の神話を収める。第二巻は[[パエトーン]]の物語を詠ったのち、ユーピテルに愛された[[カリストー]]と[[エウローペー]]の物語を詠う。第三巻はテーバイの神話に焦点が当てられ、[[カドモス]]、[[アクタイオーン]]、[[ペンテウス|ペンテウース]]の変身物語を収める。第四巻は[[ピュラモスとティスベ]]、[[サルマキス]]と[[ヘルマプロディートス]]、[[ペルセウス]]と[[アンドロメダー]]という、3組の恋人たちの神話を収める。第五巻は[[ムーサ]]の歌に焦点を当て、[[プロセルピナ]]の略奪について詠う。第六巻は、死が運命付けられた儚い命を持つ者たち(人間やニンフ)が、神々に追い駆けられて変身する物語を集める。[[アラクネー]]の物語から始まり、[[ピロメーラー]]の物語で終わる。第七巻は[[メーデイア|メーデーア]]や[[ケパロス]]、[[プロクリス]]の変身譚を収める。第八巻は[[ダイダロス]]の飛行、[[カリュドーンの猪]]狩り、敬虔な[[バウキスとピレーモーン]]と邪悪な[[エリュシクトーン]]の対比を収める。第九巻は[[ヘーラクレース]]の物語と、[[近親相姦|実の兄に恋をしてしまった]][[ビュブリス]]の物語が中心である。第十巻は[[ヒュアキントス]]を想って歌を唄う[[オルペウス]]のような、報われぬことが運命付けられた恋の物語が中心である。その他に[[ピュグマリオーン]]、[[ミュラー (ギリシア神話の人物)|ミュラー]]、[[アドーニス]]の物語を収める。第十一巻は[[ペーレウス]]と[[テティス]]の結婚と、[[ケーユクス]]と[[アルキュオネー]]の愛とが対比される。第十二巻は神話の世界から歴史叙事に題材を取り、[[アキレウス]]の偉業、[[ケンタウロス|半人半馬族]]と[[ラピテース族]]との戦い、[[イーピゲネイア]]の生贄の物語を叙述する。第十三巻はアキレウスの武具を巡る戦いのほか、[[ポリュペーモス]]について議論する。大十四巻ではイタリアに舞台を移し、アイネイアースの旅について記述する。そして[[ポーモーナ]]、[[ウェルトゥムヌス]]、[[ロームルス]]の物語を語る。最終第十五巻は[[ピタゴラス|ピュタゴラス]]による哲学的講義に始まり、[[ガイウス・ユリウス・カエサル]]の神格化が語られる。そして、アウグストゥス帝へ賛美の詩句が捧げられ、本詩作により自分の名前は不滅のものになったであろうというオウィディウスの確信が表明されて、全巻の終幕となる。
 
過去の学者たちは『変身物語』を分析する際、オウィディウスが膨大な素材をまとめている点に注目した。地理、主題、対比により物語どうしを関連づけるという手法により、興味深い効果がもたらされ、常に読者につながりを評価させる力学が生じる。また、オウィディウスは歌ごとに語り口と素材をさまざまなかたちに多様化させた。古典学者のジアン・ビアッジョ・コンテは『変身物語』を「これら多様な文学ジャンルのギャラリーのようなもの」と評した<ref>Conte, G. pg.352</ref>。オウィディウスは語り口と素材の多様化という目的を心に抱いて、過去の定評ある詩作をあらゆる角度から研究し、先行する[[変身譚]]を扱う作品より優れた作品を生み出そうとした。オウィディウスは、本詩作でアレクサンドリア派の叙事詩の形式、すなわち悲劇的対句を用いた。これは伝統的な叙事詩の形式に、登場人物の心の動きを重視する様式を彼なりに融合させた結果である。