「著作権法 (アメリカ合衆国)」の版間の差分

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# 立法府の権限が複雑
#* 著作権法は連邦法と州法の二重構造 (特に1976年制定・1978年発効の著作権改正法以前は州法の存在が大きかった)
#* ただし、連邦法の立法権限は[[合衆国憲法]]内に{{仮リンク|著作権条項|en|Copyright Clause}}として明記されており、重要視されている{{Refnest|group="註"|日米で比較すると、日本国憲法第41条~第64条が「国会」に関する記述であるが、主に国会の運営方法について定められており、国会が有する権限 (なすべき役割) として著作権あるいはその上位概念の知的財産権保護という文言は登場しない<ref name=JPCons-2019>{{Cite web |title=日本国憲法 (昭和二十一年憲法) 第四章 国会 |url=http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=321CONSTITUTION#116 |publisher=総務省 e-Gov |accessdate=2019-02-14}}</ref>。}}<ref group="註">知的財産権は著作権 (文化の創造と表現の保護) と、[[特許権]]などの[[産業財産権]] (産業アイディアを促進) に分けられる。Copyright Clauseと一般的には呼ばれることが多いが、著作権と産業財産権の双方を包含した知的財産権全般を指している条項であることから、Intellectual Property Clauseの方がより正確である。</ref>
#* 多数の著作権改正法案が連邦議会に提出されているが、総じて可決率が低い{{Refnest|group="註"|もっとも、連邦議会への法案提出は他国と比較して容易であるため、著作権法に限らず全体的に廃案が多い。1973年1月~2019年1月の会期を通算すると、著作権法を含むすべての法案 (Bill) および両院合同決議 (Joint resolution) の可決率合計は1割前後である<ref name=GovTrack>{{Cite web |url=https://www.govtrack.us/congress/bills/statistics |title=Statistics and Historical Comparison {{!}} Bills by Final Status |publisher=Gov Track |accessdate=2019-05-16}}</ref>}}
#* しかし、著作権保有者からの[[ロビイング]] (政治的圧力) が強い業界分野のみ、他国より先んじて著作権保護が強化されやすい{{Sfn|岡本薫|2003|pp=14&ndash;16}}
# 著作物の利用に関する例外規定が充実している
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{{Wikisource|1=昭和五十年条約第四号|2=ベルヌ条約 (1971年パリ改正版)|3=日本批准時の日本語訳}}
{{Wikisource|1=千九百七十一年七月二十四日にパリで改正された万国著作権条約|2=万国著作権条約 (1971年改正版)|3=日本批准時の日本語訳}}
{| class="wikitable" style="width:6671%"
! style="width:89%" | 条約名 !! style="width:1719%" | 概要 !! style="width:5%" | 狭義の<br>著作権 !! style="width:5%" | 著作<br>隣接権 !! style="width:1011%" | 条約の効力状況 !! style="width:8%" | 加盟国数 !! style="width:1314%" | 米国の対応状況
|+ 著作権に関する主要条約{{Sfn|文化庁|2007|pp=69&ndash;71}}
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| [[WIPO著作権条約]] || デジタル著作物への対応強化を目的とし、「ベルヌ条約の2階部分」と呼ばれる || {{ya}} || || 1996年採択、2002年発効<ref name=WCT-WIPO-1>{{Cite web |title=Summary of the WIPO Copyright Treaty (WCT) (1996) |trans-title=1996年採択 WIPO著作権条約 (WCT) の概要 |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ip/wct/summary_wct.html |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref> || 世界102か国<ref name=WCT-WIPO-2/> || {{yes2|1997年署名、1999年批准、2002年3月6日から施行}}<ref name=WCT-WIPO-2>{{Cite web |title=Contracting Parties > WIPO Copyright Treaty (Total Contracting Parties : 100) |trans-title=WIPO著作権条約の加盟国 (閲覧時点で100か国加盟済) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=16 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref>
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| [[WIPO実演・レコード条約]] || デジタル著作物への対応強化を目的とするが、加盟にあたってローマ条約の遵守はも類似められない{{Sfn|山本隆司|2008|p=20}} || || {{ya}} || 1996年採択、2002年発効<ref name=WPPT-WIPO-1>{{Cite web |title=Summary of the WIPO Performances and Phonograms Treaty (WPPT) (1996) |trans-title=1996年採択 WIPO実演・レコード条約 (WPPT) の概要 |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ip/wppt/summary_wppt.html |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref> || 世界102か国<ref name=WPPT-WIPO-2/> || {{yes2|1997年署名、1999年批准、2002年5月20日より施行}}<ref name=WPPT-WIPO-2>{{Cite web |title=Contracting Parties > WIPO Performances and Phonograms Treaty (Total Contracting Parties : 100) |trans-title=WIPO実演・レコード条約の加盟国 (閲覧時点で100か国加盟済) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=20 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref>
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| [[視聴覚的実演に関する北京条約]] || 視聴覚著作物に限定し、実演家に著作財産権の一部および人格権を認める{{Refnest|group="註"|著作財産権のうち、映画などの固定著作物については、複製権・頒布権・貸与権・公表権の4種を、ライブ実演などの未固定著作物については、公衆送信権、公表権、および著作物の固定化の3種を認めており、固定と未固定で対応が異なる<ref name=Beijin-WIPO-1>{{Cite web |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ip/beijing/summary_beijing.html |title=Summary of the Beijing Treaty on Audiovisual Performances (2012) |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-06-22}}</ref>。}} || || {{ya}} || 2012年採択、未発効{{Refnest|group="註"|30か国以上が批准または加入手続を完了してから発効されるため<ref name=ref name=Beijin-WIPO-1/>。}} || 世界26か国 (署名済は74か国)<ref name=Beijin-WIPO-2/> || {{partial|2012年原署名、批准未済}}<ref name=Beijin-WIPO-2>{{Cite web |title=Contracting Parties > Beijing Treaty on Audiovisual Performances (Treaty not yet in force) |trans-title=視聴覚的実演に関する北京条約 (閲覧時点で未発効) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=841 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-06-22 |language=en}}</ref>
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! colspan="7" | 法的意義を終えた条約
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上述の米国独自の特徴は、米国内の特定業界への配慮や産業振興が背景にある。
; レコード業界
米国がローマ条約には加盟せず、レコード条約にのみ加盟したのは、著作隣接権の保護対象の違いである。著作隣接権とは著作者本人ではなく、著作物の流通に寄与する者 (著作隣接者) の権利であるが、ローマ条約では[[実演家]]、[[レコード製作者]]、[[放送事業者]]を包含している。しかし、レコード条約では実演家と放送事業者は除外されている。この理由は、1960年代頃からのレコード業界からの政治的圧力により、レコード製作者の権利は守る必要が出てきたが、著作隣接者すべての権利を守るとなると、ハリウッド映画業界が俳優 (実演家) に追加で利用料を払わなければならなくなるためである。そこでレコード業界とハリウッド映画業界の双方に配慮するため、米国においては著作隣接権は引き続き認めないが、レコード製作者のみは著作隣接者ではなく著作者とみなし、著作者本人の権利 (狭義の著作権) で保護することにしたのである{{Sfn|岡本薫|2003|pp=217&ndash;218}}<ref group="註">ローマ条約未加盟の理由として、合衆国憲法の特許著作権条項に基づき、未固定の著作物は保護しない方針だったことから、未固定の実演や放送著作物の保護を見送ったとの説もある。</ref>{{Sfn|山本隆司|2008|p=18|ps= -- 著者は「『特許著作権条項』(合衆国憲法第1条第8節第8項) によって未固定の著作物を保護できないので、固定されていない実演や放送を保護することを義務づけるローマ条約への加盟を見送ったようである」と不確実性を残した表現に留めている。}}。
 
; IT業界
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どのような種類の権利を、どのような著作物に対して付与し、どのような条件下で法的に保護するかを解説する。
==== {{Visible anchor|権利の内訳|著作者の有する排他的権利|支分権|第106条}} ====
著作権のうち、著作者本人の諸権利を日本の著作権法ではまとめて「[[著作権#支分権|支分権]]」と呼んでいるが、米国著作権法では「排他的な権利」(exclusive rights) という強い表現が使われているのが特徴である。具体的に排他的権利とは (1)「著作物のコピーまたはレコード複製」('''複製権''')、(2)「二次的著作物の作成」('''翻案権''')、(3)「販売、所有権の移転、貸与による頒布」('''頒布権''')、(4)「著作物を使った実演」('''実演権''')、(5)「著作物を使った展示」('''展示権''')、(6)「録音物の場合、デジタル音声送信による実演」('''デジタル実演権''') の6点だと定義されている ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section106&num=0&edition=prelim 第106条])<ref group="註">著作権者の支分権はもともと5種類だったが、録音物に対しては実演権が与えられていなかったことから、放送局との既得権益との妥協を経て、1995年制定の著作権法改正 (デジタル実演権法、The Digital Performance Right in Sound Recordings Act of 1995) が成立し、6種類目としてデジタル実演権が追加された。</ref>{{Sfn|山本隆司|2008|p=15}}。換言すると、複製や頒布などを著作者の許諾なしに第三者が行うと、著作権侵害になることを意味する ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section501&num=0&edition=prelim 第501条])。
 
{{Anchors|著作者人格権|第106A条|視覚芸術著作物}}
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また、原著作物を活用した「編集著作物」と「[[二次的著作物]]」も法の保護の対象となる。編集著作物とは、既存の素材またはデータを選択し、整理しまたは配列し、これらを収集し編成して作られた著作物である。二次的著作物とは、原著作物を用いて、翻訳、編曲、脚色、映画化、改訂するなどして創作された作品を指す ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section102&num=0&edition=prelim 第102条])。これらの編集ないし二次的著作物と、その素材となった原著作物の著作権は別個に存在する ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section103&num=0&edition=prelim 第103条])。
 
{{Quote box
著作物の定義に関し、米国著作権法が他の先進国と異なる点が「固定」(fixed) である。つまり、印刷物や録音・録画など何らかの媒体に記録されている必要があり (第102条)、固定されていない生の著作物は法的保護の対象外となってしまう。例えば、日米の大学間でインターネットを使って合同授業が行われており、それがライブ配信されていたとすると、その授業内容は米国側では著作権保護されない{{Sfn|岡本薫|2003|p=14}}。
|title = 連邦法による著作権の保護目的と対象
|quote = [[アメリカ合衆国議会|連邦議会]]は、著作者 (author) および発明者に対して、それぞれ著作 (writings) および発明に対する排他的権利を一定の期間に限り付与することにより、科学および有用な技芸の振興を促進する...権限を有する。
|source = [[合衆国憲法]] 第1条第8項第8条 (通称: {{仮リンク|著作権条項|en|Copyright Clause}}){{Sfn|山本隆司|2008|p=8}}
|width = 40%
|align = right
|quoted = 1
}}
著作物の定義に関し、米国著作権法が他の先進国と異なる点が「固定」(fixed) である。つまり、印刷物や録音・録画など何らかの媒体に記録されている必要があり (第102条)、固定されていない生の著作物は法的保護の対象外となってしまう{{Sfn|山本隆司|2008|p=13}}。例えば、日米の大学間でインターネットを使って合同授業が行われており、それがライブ配信されていとするとだけでは、その授業内容は米国側では著作権保護されない{{Sfn|岡本薫|2003|p=14}}。
 
さらに、上述の8種類のいずれかに該当し、固定されていたとしても、著作権で保護されないケースがある。その一つが「創作性」の有無である。合衆国憲法で定めた著作権条項の「著作者 (author)」の用法から、著作権には創作性 (originarity) が必要であり、また「著作 (writings)」から著作物は何らかの媒体に固定 (fixation) されていなければならないと解されている{{Sfn|山本隆司|2008|p=13}}。
 
;: {{Visible anchor|どこまでが著作物なのか}}
 
;: (1) 言語著作物
: 第101条の定義によると、言葉、数字、数学的な記号、符号などの著作物を指す。ただし、楽譜は符号だが音楽著作物に、演劇脚本は言葉だが演劇著作物に分類される。また判例上は、言語著作物に登場するキャラクターや、言語著作物の題名には著作物に該当しないと解されている{{Sfn|山本隆司|2008|p=23}}。キャラクターの保護を巡る裁判としては、「Warner Brothers Pictures, Inc. v. Columbia Broadcasting Systems, Inc.」(216 F.2d 945) (9th Cir. 1954) が知られている。
 
;: (4) 無言劇および舞踊の著作物
: (2) 音楽著作物 ~ (4) 無言劇および舞踊の著作物に関し、第101条で定義は示されていない。(4) については、言葉を使わず動きとジェスチャーで表現する演劇全般、および観客の前でのダンサーの動きを表現した記録や表記だと解されている。しかし、社交ダンスのステップのように、形式が決まっているものについては著作物として認められていない{{Sfn|山本隆司|2008|p=24}}。
 
;: (5) 絵画、図形および彫刻の著作物
: 第101条の定義によると、純粋な美術品だけでなく、写真や地図、模型、建築設計図などもこれに含まれる。ただし、単純な実用品 (useful article) のデザインは著作物として認められていない。これは実用的なデザインは著作権ではなく、意匠特許権で守られるべきと考えらえているからである。両者の線引きは、美しさの有無ではなく、美的「表現」なのか、デザインの「新たな発明」なのかの違いにある{{Sfn|山本隆司|2008|pp=24&ndash;25}}。実用デザインを巡る裁判としては、ダンサー像がデザインされた卓上ランプに関する「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#メイザー対ステイン裁判|メイザー対ステイン裁判]]」、およびチアリーディングのユニフォーム製造業同士で争った「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#スター・アスレティカ対ヴァーシティ・ブランズ裁判|スター・アスレティカ対ヴァーシティ・ブランズ裁判]]」も参照のこと。
 
;: (7) 録音物
: 第101条では、一連の音楽、会話その他音声の著作物だと定義されている。ただし、映画などの視聴覚著作物に含まれているセリフなどは除く。音楽レコードについては録音著作物に該当するが、アーティストである実演家と、レコード会社であるレコード製作者の共同著作物と考えられているため{{Sfn|山本隆司|2008|p=26}}、日本の著作権法のように、実演家やレコード製作者は著作隣接者としてはみなされていない。
 
;: (8) 建築著作物
: 建築の設計図は (5) 絵画、図形および彫刻の著作物に含まれるが、ベルヌ条約加盟以前は建築物そのものは著作物として保護されていなかった。これは実用的なデザインとみなされていたからである。1990年の改正法により、建築著作物も著作権保護が認められるようになった{{Sfn|山本隆司|2008|pp=26&ndash;27}}。
 
;: 編集著作物
: 日本ではデータベースは編集著作物ではなく別個の著作物としているが、米国およびその他諸外国はデータベースを編集著作物としている。編集著作物 (compilations) には集合著作物 (collective works) を含む。集合著作物の例は定期刊行物、選集、百科事典などが挙げられる{{Sfn|山本隆司|2008|p=27}}。
 
==== {{Visible anchor|保護されない著作物|著作権保護の例外と制約}} ====
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なお、日本を含む[[環太平洋パートナーシップ協定]] (TPP11) 締結各国は<ref name=MOFA-TPP-InForce>{{Cite web |title=環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉 |url=https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/index.html |publisher=外務省 |date=2019-04-05 |accessdate=2019-04-11 |quote=''現在までに (2019年4月5日の意),メキシコ,日本,シンガポール,ニュージーランド,カナダ,オーストラリア,ベトナムの7か国が国内手続を完了した旨の通報を寄託国ニュージーランドに行っており,2018年12月30日に発効しました。''}}</ref>、2018年12月に発効した同協定に基づいて著作権侵害の「非親告罪化」のための国内法手続を進めている<ref name=Bunka-TPP-InForce>{{Cite web |title=環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号)及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第70号)について |url=http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/kantaiheiyo_hokaisei/ |publisher=[[文化庁]] |accessdate=2019-04-11 |quote=''著作権等侵害罪の一部非親告罪化(第123条第2項及び第3項関係)''}}</ref>。[[親告罪]]とは、被害者本人あるいは法で定めた者 (法定代理人、親族など) からの[[告訴]]がない限り、刑事訴訟に至らない犯罪を指す。これを非親告罪化することはすなわち、著作権者以外の告訴によっても検察は刑事訴訟に踏み切れることになる。しかし米国はTPP交渉から途中離脱したため、非親告罪化を合衆国法典上で明文化する必要はなくなった。ただし合衆国法典では元々、著作権侵害罪が親告罪だとも明文化されていない。
{{Seealso|日本の著作権法における非親告罪化}}
 
=== 連邦著作権法と関連法の関係 ===
ここまでは連邦法としての著作権法を解説したが、ここからは密接に関係するその他の法律を取り上げ、その関係性について見ていく。
 
==== 州法との関係 ====
{{Seealso|アメリカ法#連邦法と州法の関係}}
[[#著作物の定義|上述のとおり]]、連邦法で守ることができる著作物には、何らかの媒体に固定されていること、また創作性が必要であることが合衆国憲法の著作権条項から解釈されている。しかし、合衆国憲法はあくまで連邦法であり、各州の州法とは別個に運用されている。そのため、連邦法で範疇外の対象であっても、州法の著作権法で権利保護を認めている州が一部ある。特に、未発表の著作物に対する複製権と頒布権の保護を「コモンロー・コピーライト (common law copyright)」と呼び、未発表の著作物が連邦法で十分カバーされていない場合でも、州法で保護されることがある{{Sfn|山本隆司|2008|pp=37&ndash;38}}。
 
たとえば[[カリフォルニア州]]の民法典では、その第980条で実演や演説などの未固定著作物も保護している。また同法典の第985条では、書簡その他の私信 (手紙) などは、その作成者の意に反して書簡の受領者が発表してはならないとされる。さらに、同法典の第982条によると、純粋美術の原作品を著作者が第三者に譲渡した場合であっても、譲渡契約書で特段の定めがない限りにおいて、著作者は複製権を持ち続ける。逆に芸術作品の著作権のみを譲渡した場合は、第988条の規定に則り、原則として著作者に作品の所有権は残る。加えて、その美術作品が販売された場合、かつ売り主がカリフォルニア州住民であるか、売買がカリフォルニア州で行われた場合は、その売買代金の5%相当を売り主から著作者に支払う義務が第986条で規定されている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=37&ndash;38}}。
 
==== 近接する各種連邦法との関係 ====
[[File:Copyright IdeaExpDivide Ja.png|米国のアイディア・表現二分論は横割りなのに対し、日本は実用的な産業財と文化的な芸術品で分ける縦割りの発想が強い。|thumb|400px]]
連邦法だけをとってみても、著作権とは[[知的財産権]]の一種であることから、著作権の姉妹にあたる法律が複数存在する。これら姉妹と著作権法は補完関係にあるわけだが、権利侵害が起こった時に具体的にどの法律が適用されるのかを切り分ける必要が出てくる。この問題は米国に限らず世界共通だが、米国では「[[アイディア・表現二分論]]」という階層的な横割りによって境界線を引いている。
 
これに対し、日本の著作権法は[[w:著作権法#第一節 通則|第2条]]において、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されている。この定義には、経済産業省 (特許庁) 対 文部科学省 (文化庁著作権課) という行政組織の縦割りがあり、産業の技術は特許法で、文化的な芸術は著作権法でそれぞれ守る棲み分けがなされている背景があると指摘されている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=11&ndash;13}}。よって、横割りの米国と縦割りの日本では、著作権法の姉妹にあたる各種法律の関係性が異なってくる。
 
{{Tree list}}
* 日本における知的財産権の一般的な分類方法
** 著作権
*** 著作者本人の権利 (狭義の著作権)
**** 著作財産権 (最狭義の著作権。著作者の財布を守る権利)
**** 著作者人格権 (著作者の心を守る権利)
*** 著作隣接権
** [[産業財産権]]
*** [[特許権]]
*** [[商標権]]
*** [[意匠権]]
*** ...など
{{Tree list/end}}
 
米国著作権法では著作者人格権の保護対象が狭い、と他国から批判を受けている。しかしこれに対し米国は、著作者人格権のうち、ベルヌ条約が求めている同一性保持権 (著作者に無断で内容を改変されない権利) と氏名表示権 (著作物を発表する際に、実名・変名・無名など著作者名の表記を選択できる権利) の2点については<ref group="">著作者人格権の一部である同一性保持権と氏名表示権については、ベルヌ条約発効時の原条約には含まれていなかったものの、1928年のローマ改正時に追加となっている。</ref>、米国内では著作権法ではなく、{{仮リンク|ランハム法|en|Lanham Act}}で保護されていると解されている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=9&ndash;19}}。ランハム法とは、日本の[[商標法]]に[[不正競争防止法]]の要素を足した法律であるが、純粋な産業財だけでなく、文化寄りの作品にも適用される。著作権法とランハム法の両方が問われた裁判として、[[ドワイト・D・アイゼンハワー|アイゼンハワー]]大統領による戦争回想録のテレビ番組を巡る「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#ダスター対20世紀フォックス裁判|ダスター対20世紀フォックス裁判]]」も参照のこと。
 
==== 合衆国憲法との関係 ====
主に合衆国憲法と著作権法の関係が問われるのは、著作権条項 (合衆国憲法 第1条第8項第8条)、州際取引条項 (合衆国憲法 第1条第1項第3号)、表現の自由 ([[権利章典_(アメリカ)#修正第1条|憲法修正第1条]]) の3点である。
 
;: 州際取引条項
: TRIPS協定では、未固定の音楽実演の保護を第14条第1項で求めている。しかし先述の通り、著作権条項に基づき、米国著作権法では固定された著作物しか保護されないと解されている。そこで、合衆国憲法第1条第1項第3号の「州際取引条項」に基づいて、米国著作権法の[http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section1101&num=0&edition=prelim 第1101条]で未固定の音楽実演の保護規定を追加し、TRIPS協定に対応している{{Sfn|山本隆司|2008|p=19}}。この規定に従うと、たとえば音楽バンドのライブ演奏会場で、観客が無断でビデオ撮影し、そのデジタルファイルをインターネット上にアップロードする行為は禁止される。ただし、州際取引条項は米国内の州をまたぐ (または国をまたぐ) 行為にのみ適用されるため{{Sfn|山本隆司|2008|p=32}}、仮に無断撮影したライブ音楽をCD-ROMに焼いて、どこかの州内に限って配ったり販売した場合には違法とはならない。
 
;: 表現の自由
: 憲法修正第1条は、メディアであれ個人であれ表現の自由を保障し、この自由を制限するような法律を連邦議会が制定してはならないと規定している<ref name=Cornell-1stAmend>{{Cite web |url=https://www.law.cornell.edu/constitution/first_amendment |title=First Amendment |publisher=[[コーネル大学]]ロースクール |accessdate=2019-06-23}}</ref>。著作権は著作物という表現を著作者が独占できる権利であり、無断で第三者が利用できなくなるため、結果的に著作者以外の人々の表現の自由を抑制しうるため、行き過ぎた著作権保護は違憲だとの主張がなされることがある。たとえば、通称「ミッキーマウス訴訟」とも呼ばれた「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#エルドレッド対アシュクロフト司法長官裁判|エルドレッド対アシュクロフト司法長官裁判]]」は、著作権の保護期間を延長する改正立法によって、表現の自由に抵触するとの訴えである。また、「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#ゴラン対ホルダー司法長官裁判|ゴラン対ホルダー司法長官裁判]]」では、パブリック・ドメインに帰していた外国著作物の権利を復活させた1994年の改正法により、著作物の自由な利用が妨げられるとして、憲法修正第1条の違憲性が問われた。「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#電子フロンティア財団対米国政府裁判|電子フロンティア財団対米国政府裁判]]」では、[[デジタルミレニアム著作権法]]によって[[リバースエンジニアリング]]が禁止され、他者のアイディアから学んで表現する自由が奪われたと主張されている。
 
: これらの主張の背景には、米国が著作権保護にあたって「産業政策理論」を採っていることが挙げられる。産業政策理論とは、著作権によって一定期間に限って著作者や発明者を動機づけし、保護期間終了後は、その成果物を公衆が利用することで、公共の利益を達成しようとする考え方である。つまり、連邦議会が著作権者に与える独占的権利は、無制限でもなければ私的恩恵を与える目的でもない。競争の自由を阻害する市場独占権は悪であり、これに対する強い警戒心が米国の根底に流れていると指摘されている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=9&ndash;11}}。
 
== 法改正の歴史 ==
435 ⟶ 509行目:
 
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法の基礎知識 |edition=第2版 |author=山本隆司 |publisher=太田出版 |year=2008 |isbn=978-4-7783-1112-4 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法 |last=Leaffer |first=Marshall A. |translator=牧野和夫 |series=LexisNexis アメリカ法概説 (5) |publisher=レクシスネクシス・ジャパン |origyear=2005 |year=2008 |isbn=978-4-8419-0509-0 |ref=harv}} - "''Understanding Copyright Law, 4th edition''" の日本語訳
* {{Cite book |和書 |author=岡本薫 |title=著作権の考え方 |publisher=岩波書店 |series=岩波新書 (新赤版) 869 |year=2003 |isbn=4-00-430869-0 |ref=harv}}
* {{Cite book |和書 |title=著作権法概説 |author=田村善之 |year=1998 |publisher=[[有斐閣]] |isbn=4-641-04473-2 |ref=harv}}