「膜タンパク質」の版間の差分

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=== 膜タンパク質における注意点 ===
可溶性のタンパク質については比較的容易に立体構造を決めることができるが膜タンパク質に関しては非常に困難である。X線結晶構造解析法における最大の問題点は膜タンパク質の結晶化にある。膜タンパク質を結晶にするためには適切な[[界面活性剤]]を用いて膜から可溶化する必要があるがこの条件設定および界面活性剤存在下での結晶化は非常にデリケートで根気が必要である。膜タンパク質は通常の蒸気拡散法を用いた結晶化では良質な結晶が得られにくい。脂質キュービック相法(LCP法)やHiLiDe法やBicelle法などが膜タンパク質の結晶化に有効な方法として注目されている。特に脂質キュービック相法は蒸気拡散法の次に報告例が多い結晶化法である。脂質キュービック相法は1996年にLandauとRosenbuschによって提唱された<ref>Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Dec 10;93(25):14532-5. PMID 8962086</ref>。Kobilkaらのグルーブによってβ2アドレナリン受容体と[[G蛋白質]]の複合体が脂質キュービック相法により結晶化され構造解析された例は、脂質キュービック相法の大きな成果のひとつである<ref>Nature. 2011 Jul 19;477(7366):549-55. PMID 21772288</ref>。脂質キュービック相法はタンパク質の結晶化に通常用いられる蒸気拡散法と異なりキュービック相とよばれる三次元的に連続した脂質層中に膜タンパク質を再構成させて結晶化を行う手法である。界面活性剤に覆われた膜タンパク質領域が脂質に置き換わるため密に集まりやすく高分解能の結晶が得られる傾向がある。また[[理化学研究所]]の[[横山茂之]]らは[[大腸菌]]由来のCECF法の[[無細胞タンパク質合成系]]を用いて膜タンパク質を合成する方法を2009年に開発した<ref>Protein Sci. 2009 Oct 18(10) 2160-71. PMID 19746358</ref>。その後、界面活性剤による可溶化を行わずに試料を高濃度に生成できる可溶性膜断片法(S-MF法)が開発された<ref>Sci Rep. 2016 Jul 28 6 30442. PMID 27465719</ref>。なお結晶化だけではなく膜タンパク質は発現量が低いことも解析を難しくしている。
 
X線結晶構造解析法以外に構造の情報を得る方法としては分子動力学法をはじめとする計算機シミュレーションやトポロジーを予測するハイドロパシー解析がある。これらの手法は構造解析を行うことなく、構造情報が得られる。また膜タンパク質の可溶化に成功して安定に精製できれば、良質の結晶が得られなくともX線以外の方法でなんらかの構造情報が得られる。立体構造決定が可能な手法としては[[電子顕微鏡]]、NMR法、電子スピン共鳴法などが知られる。電子顕微鏡には主に2つの構造解析法がある。1つは2次元結晶を用いる方法であり電子線結晶法ともよばれている。高い分解能で立体構造決定が可能であるが、2次元結晶(単分子膜構造)の作成が必要である。もう一つは単粒子解析法であり、タンパク質分子像を数多く個別に集めて統計平均を取ることで解析精度を向上させる手法である。電子顕微鏡ではいずれの手法でも電子線によるタンパク質の物理的損傷が大きな問題となっており、サンプルを極低温にして測定を行っている。NMR法はサンプル状態の違いにより溶液NMR法と個体NMR法に分類される。溶液NMR法は界面活性剤などで完全可溶化することが必須であるが、高い分解能での立体構造決定やリガンドなどとの分子間相互作用の解析が可能である。溶液NMR法は構造解析に完全可溶化状態を要求する点で他の手法と大きく異なるが、逆に可溶化条件の検討という点では最も優れた手法である。固体NMR法は様々なサンプル状態での解析が可能であることや極低温条件下で感度の大幅な向上が可能である。電子スピン共鳴法ではスピンラベルとよばれる反応性の低いラジカルを膜タンパク質に複数導入することでラジカル間距離を得る。多数のラジカル間距離を集めることで低分解能ながら立体構造を決定することができる。