「尻啖え孫市」の版間の差分

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m 暗雲が立ち込め→暗雲が垂れ込め
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が、孫市の目的はそれのみではなかった。無類の女好きであるこの男の目当ては先年京で見初めた想い女であり、それが上洛の際に同道した信長の末の妹であると聞いて足を運んできたのだった。しかし信長の妹にそのような者はいない。孫市の思い違いであったが、秀吉は雑賀党との同盟を結ぶため信長の遠縁の娘を孫市の想いの「姫君」にしたて上げて彼と娶せようと考える。以後秀吉は孫市と行動を共にすることになるが、孫市という男は人心をつかむことにかけては天才的な才能を持つ秀吉ですら扱いかねる難物だった。城下で平気で鉄砲を撃つ。神出鬼没でいたかと思えば不意にふらりと姿を消す。さながら虎を宥め賺して連れているようなものだと秀吉は嘆息するが、それでいて命がけの[[殿 (軍事用語)|殿軍]]を務めることになった秀吉に力を借すなど熱い義侠心も持っており、秀吉はいつしか孫市に対して奇妙な友情を感ずるようになっていた。孫市の方でも秀吉に好意を持つようになっていたが、やがて秀吉が引き合わせた「姫君」が偽物であることを見抜き、「信長は信用できぬ」と言い残して織田家との縁を切って雑賀庄に戻っていった。
 
ところが故郷へ戻った孫市は、意外にも想いの「姫君」がすぐ足下の紀伊国にいたことを知る。「姫君」は紀州屈指の名族の令嬢・萩姫であり、近年爆発的な流行を見せている一向宗([[浄土真宗]])の熱心な門徒でもあった。一向宗の教えなど全く関心のない孫市だったが、「姫君」目当てで一向宗の[[講]]に出向いてみると、そこには信照という本願寺法主・[[顕如]]の侍僧をしている青年僧がいた。目下、本願寺と信長の間には暗雲が立ち垂れ込めつつある。信長は本願寺のある[[摂津国]]石山([[大坂]])を巨城を築くに格好の地と考え立ち退きを要求してきていた。これに対して本願寺は断固はねつける構えであり、早晩戦が始まるのは避けられず、信照によれば本願寺は門徒武士を率いる侍大将として孫市を望んでいるということだった。束縛を嫌い宗門を好まない孫市には容易に受け入れられることではなかったが、とはいえ雑賀庄にも門徒は大勢おり、頭目といえどもその意思を無視することはできない。さらに想いの萩姫にも説得されるや、孫市はつい曖昧に頷いてしまった。
 
戦のための鉄砲の買い付けに[[堺]]に赴いてみると、そこには鉄砲伝来の地・種子島の領主一族の血を引く小みちという娘がいた。孫市は小みちの魅力に心惹かれるが、彼女もまた一向宗の門徒であり孫市が大将になることを望んでいた。そこにいよいよ信長が攻めてくるという知らせが飛び込んできて、孫市はやむなく大将の任を受けることにする。そして城郭さながらの巨大寺院である本願寺本山に門徒たちが続々と集結する中、ついに織田軍が[[野田城・福島城の戦い|摂津国に襲来した]]。孫市はあざやかな指揮ぶりで緒戦を大勝利に導き、門徒たちの期待に見事に応える。門徒になる気は今でも毛頭なかったが、しかし天下の信長相手に戦うことは漢の冥加ではないかとも孫市は考えるようになっていた。やがて外交僧たちの奔走により反織田大名たちが攻囲を強め、信長は退陣せざるを得なくなる。