「労働協約」の版間の差分

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**非組合員等特定の労働者に労働協約の一般的拘束力を適用することが諸般の事情から見て著しく不合理であるとみなされる特段の事情があるような場合には、拡張適用は認められない([[朝日火災海上保険]](高田)事件。最三小判平成8年3月26日)。
* 一の地域において従業する同種の労働者の大部分が一つの労働協約の適用を受けるに至った時は、当該労働協約の当事者の双方又は一方の申立てを経て、[[労働委員会]]の決議により、[[厚生労働大臣]]又は[[都道府県知事]]は当該地域において従業する他の同種の労働者及びその使用者も当該労働協約の適用を受けるべきことの決定をすることができる([[b:労働組合法第18条|第18条]])。
**第17条は労働協約の締結状況だけが要件とで自動的に適用されるのに対し、第18条では大臣又は知事の決定によってはじめて効力を生じる。もっとも[[企業別労働組合]]が圧倒的な主流である日本では、第18条によって拡張適用が実現された例はきわめて少数しかない<ref>厚生労働省労政担当者参事官室編「労働組合法・労働関係調整法(5訂新版)」(労務行政研究所、2006年)p.658~によれば、労働組合法施行後、第18条による拡張適用は8件のみであり、1989年(平成元年)に愛知県で決定されたものを最後に例がない。</ref>。
 
== 労働契約・就業規則・労働協約の関係 ==
{{See also|就業規則#効力関係}}
効力の優先順位は優位のものから順に、[[法令]]、労働協約、就業規則、[[労働契約]]となる。使用者が一方的に作成・変更できる就業規則や、使用者と個々の弱い立場での[[労働者]]が結ぶ労働契約よりも、労働者の団体である労働組合が使用者と結んだ労働協約が優先する。労働協約に定める'''労働条件その他の労働者の待遇に関する基準'''に違反する労働契約の部分は[[無効]]となり、労働契約に定めのない部分についても、基準の定めるところによる('''規範的効力'''、[[b:労働組合法第16条|第16条]])。また、就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない([[労働基準法]]第92条)と規定され、労働協約の就業規則に対する優先性を明らかにしている。
 
もっとも、労働協約が就業規則より優越するとはいっても、労働協約は原則として当該組合員にしか適用されないので、非組合員がいれば、均等待遇(労働基準法第3条)の要請から、実際には労働協約の趣旨に沿った就業規則の改定が行われなければ、労働協約の内容は実現できない(特に、労働協約によって労働条件を労働者の不利益に改定する場合に問題となる)。
 
労働協約が失効した場合、労働協約の内容を反映して規定された就業規則がある場合には、当該協約失効後はその就業規則によるべき(いわゆる「余後効」)である([[香港上海銀行]]事件。最一小判平成元年9月7日)。また、具体的な労働協約の内容が、どれほど組合員にとって不利益であっても、当該規定の内容が、特定のまたは一部の組合員をことさらに不利益に扱うことをあらかじめ目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して締結されたような場合以外は'''規範的効力に支障はない'''(朝日火災海上保険(石堂)事件。最一小判平成9年3月27日)。つまり、労働協約については、たとえ労働契約の定めた内容の方が労働者に有利であっても労働協約の効力が優先する<ref>産業別労働組合が主流である諸外国では労働協約は最低基準を定めるものにすぎないが、企業別労働組合が主流である日本では、労働協約は最低基準ではなく画一的標準を定めるものとなる。よって個々の労働契約の有利を認めてしまうと労働組合の集団的規制が損なわれてしまう。もっとも、労働協約が自ら個々の労働契約の有利な労働条件を許容している場合にまでこれを否定する必要はなく(判例として、[[ネッスル]]事件(大阪高判昭和63年3月28日))、実際には有利原則は一律に定まるものでなく個々の労働協約の解釈により決せられる。</ref>(労使交渉は相互譲歩の取引であり、労働者に不利な合意のみを取り出して協約の効力を否定するのでは、労使交渉全体が成立しない)。一方、就業規則については、就業規則の定める基準に達しない労働条件を定める労働契約を無効にするが、基準を上回る労働条件を定める労働契約は無効にはならない。
 
== 労働協約の現況 ==
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== 公務員の場合 ==
[[国家公務員]]、[[地方公務員]]の「[[職員団体]]」(民間の労働組合に相当)には「団体協約」(労働協約に相当)は認められていない([[国家公務員法]]第108条の5第2項、[[国会職員法]]第18条の2、[[外務公務員法]]第3条、裁判所職員臨時措置法、[[地方公務員法]]第55条第2項等)<ref>国家公務員について、団体協約締結権を認めていない国家公務員法の規定は、[[日本国憲法第28条|憲法28条]]に違反するものではない(国立新潟病院事件、最判昭和53年3月28日。</ref>。ただし、現業公務員の労働組合については[[特定独立行政法人等の労働関係に関する法律|特定独立行政法人等労働関係法]]第8条や[[地方公営企業等の労働関係に関する法律|地方公営企業等労働関係法]]第7条で組織の管理及び運営を除いた事項について労働協約権が認められている。
 
== 脚注 ==