「エントロピー弾性」の版間の差分

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'''エントロピー弾性'''(エントロピーだんせい)とは、外部の力によって規則的に[[配列]]していた[[分子]]が、[[エントロピー増大則]]に従って元の不規則な状態へ戻ろうとする性質<ref name="Toko">「[https://www.titech.ac.jp/news/pdf/tokyotechpr_141202_inaba.pdf  ガラスがゴムになる -エントロピー弾性を示す酸化物ガラスを実現]」、[[東京工業大学]]、2014年12月2日。2018年8月11日閲覧。</ref>のこと。[[温度]]を一定にして[[体積]]を変化させたときの[[エントロピー]]変化により生じる[[弾性]]力。
 
== 概要 ==
通常、[[固体]]は[[圧縮]]すると発熱する。ところが[[ゴム]]は伸長する時に発熱して、圧縮すると冷たくなる([[グー・ジュール効果]])。1805年に盲目の科学者グー(J. Gough)によって発見されたこの性質を、[[熱力学]]の観点から[[ジュール|ジュール(J. P. Joule)]]が深く検討したことで、ゴムの熱力学的性質が明らかとなり、エントロピー弾性という概念が誕生した<ref>野口徹「[https://www.srij.or.jp/newsite/magazines/mame/mame_pdf/mame10.pdf  盲目の科学者ゴフとエントロピー弾性]」『[[日本ゴム協会]]誌』第74巻8号、2001年。2018年8月11日閲覧。</ref>。
 
具体的には閉空間に閉じ込めた[[気体]]や、[[高分子]]系物質に外力を加えて引き伸ばした際に[[エントロピー]]が低下し、エントロピー増大則によって[[ミクロブラウン運動]]が(高分子系の場合は)起こり、元の形状に戻ろうとする力が生じている。
 
気体は全てエントロピー弾性である。ゴムに代表される高分子系物質は[[常温]]から高温においてはエントロピー弾性であるが、低温になると分子[[結晶化]]により固体としての[[エネルギー弾性]]が支配的<ref>高野良孝「[https://wwwdoi.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/38org/10.2324/38_10_898/_pdfgomu.38.898 加硫ゴムの耐寒性]」『日本ゴム協会誌』 1965年 38巻 10号、1965年 p.898-911, {{doi|10.2324/gomu.38.898}}, 日本ゴム協会。2018年8月11日閲覧。</ref>になる。また[[形状記憶合金]]の性質にもエントロピー弾性が働いていると考えられる。
 
もう1種の弾性として固体の「エネルギー弾性」がある。エネルギー弾性と比較した時、エントロピー弾性には[[吸熱]]を伴って 巨大な[[収縮]]を生じさせるという特徴が見られる<ref name="Toko" />。
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[[内部エネルギー]]E、[[熱力学温度]]T、[[エントロピー]]Sとして、長さLのゴムを引っ張った時の[[張力]]fは、[[熱力学第一法則]]、同[[熱力学第二法則|第二法則]]、[[自由エネルギー|ヘルムホルツ自由エネルギー]]の三つから以下のように表される。(自由エネルギーをFとする)
:<math>\begin{align}
f= \left( \frac{\partial F}{\partial L} \right)_{T} =\left( \frac{\partial E}{\partial L} \right)_{T} &-T\left( \frac{\partial S}{\partial L} \right)_{T}
\end{align}</math>
ここで右辺の第一項がEによるエネルギー弾性、第二項がSによるエントロピー弾性である。エントロピーを[[実験]]測定することは難しいが、[[マクスウェルの関係式]]を用いることで、全てを計測可能な[[量]]だけの式に[[変換 (数学)|変換]]できる。
:<math>\begin{align}
f= \left( \frac{\partial E}{\partial L} \right)_{T} &+T\left( \frac{\partial f}{\partial T} \right)_{L}
\end{align}</math>
{{仮リンク|K. H.メイヤー|en|Kurt Heinrich Meyer}}・[[C. フェリー]]の実験から、ゴム張力と[[絶対温度]]の間には[[比例]]関係f=CT(Cは定数、c>0)が成り立つことが知られているので、これを先の式に[[代入]]すれば <math>\begin{align}( \partial E/\partial L)_{T} = 0\end{align}</math>が導かれて、ゴムの弾性に関して内部エネルギーは完全に無視できる。すなわち、ゴムの弾性力はまさしくエントロピー弾性だと言える(証明終了)。
 
あらためてゴム張力を式の形で表すなら以下の通り。
 
:<math>\begin{align}
f= -T\left( \frac{\partial S}{\partial L} \right)_{T}
\end{align}</math>(証明終了)
注意点として、メイヤー・フェリーの実験においてゴムと絶対温度に比例関係が成り立つのは<math>\begin{align}T\doteqdot 230K\end{align}</math>以上の温度帯に限られている<ref>草水純男「[https://wwwdoi.jstage.jstorg/10.go2324/gomu.jp/article/gomu1944/48/6/48_6_378/_pdf エントロピー弾性の熱力学的証明.378 試験機器からみた試験方法 (4)]」『日本ゴム協会誌』 1975年 48巻 6号、1975年 p.378-384, {{doi|10.2324/gomu.48.378}}, 日本ゴム協会。2018年8月11日閲覧。</ref>。したがって、[[低温]]状態([[摂氏]]だと約-43℃以下)のゴムに関してはこの限りではない。
 
== 脚注 ==
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==関連項目==
* [[エントロピー的な力]]
* [[熱力学]]
* [[ガラス転移点]]
* [[高分子]]
* [[物性物理学]]
 
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