「ジャングル (森林の型)」の版間の差分

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== 定義 ==
ジャングルという語は必ずしも[[生物学]]用語とは見なされておらず、岩波生物学事典にも取り上げられていない。また各種の植物学事典でも取り上げられていない例が多い。そかでオックスフォード植物学事典には記載があり、そこには[[つる植物]]、[[タケ]]類、[[ヤシ]]類などが生い茂った亜極相熱帯雨林とある。さらにいわゆる[[極相]]の熱帯雨林は森林内の下層を構成する植生がまばらであって見通しが悪く通り抜けるのが困難、ということはなく、それに対して[[伐採]]を受けたり、あるいは川岸などで普通の森林内より光り条件がよい場所に特徴的なのがこのような森林であると説明されている<ref>駒嶺監訳 (2004) p.191.</ref>。
 
== 由来と内容 ==
ジャングルという言葉は、元来は[[ヒンディー語]]の jangal に由来し、これは元々は居住地の周辺にあって踏み込むことのできないような森林や低木林を指していた<ref>ホイットモア/熊崎+小林 (1993) ,p.2</ref>。
 
熱帯雨林では、大きなギャップが生じると蔓植物が繁茂することが多く、木性の蔓植物は強行を得ると一気に生長し、例えば伐採などの後にはそれらが広く繁茂するので、人の立ち入ることのできない状態の森林が出来上がる。これがジャングルである。そのような蔓草は密なカーペットのような形をなし、低木の上を覆い尽くす。樹木が次第に生長すると、これを持ち上げてゆくことになり、次第に本来の森林の形態にもどるが、その進行はとても遅くなる<ref>ホイットモア/熊崎+小林 (1993) ,p.121</ref>。
 
ジャングルとは蔓性のヤシである[[トウ]]類が生い茂った森のことである、と初島 (1978) は述べている<ref>初島(1978),p.2125</ref>。彼によると、トウ類は陽性の植物であり、森林内では光不足のために成長できず、高さ30cm程度で成長を止めてしまい、そのまま何年もその状態でいる。そこで森林が伐採されたり、暴風などで高木が倒れたりといった理由で林床に光が入るようになると一斉に成長を始め、密林を作る。彼等の茎や葉柄には多くの棘があり、また葉の先端からは逆棘のある鞭状の蔓が出るため、彼等は互いに引っかかり合い、人などが侵入するのはほぼ不可能になる。これがつまりジャングルであり、これは本来の熱帯雨林ではなく、それが破壊されて生じる二次林である、という。これも上記のような記述とよく符合し、むしろ駒嶺監訳 (2004) に示されているヤシ類というのがトウ類だ、ということだと思われる。
 
== 熱帯多雨林の意味で ==
他方、熱帯多雨林を指す言葉として、ジャングルは広く通用するようになっている。例えば上記の初島 (1978) がジャングルが通常の熱帯多雨林ではないと力説しているシリーズでも竹内 (1978) はアマゾンの森林生態に関する記述の題名にアマゾン・ジャングルを採用し、そのなか典型的な熱帯多雨林(いわゆるジャングル)と書いてある<ref>竹内 (1978) ,p.2843</ref>。ビジュアル博物館シリーズの『ジャングル』もこれと同じく、その記述の最初に「ジャングルとは?」と題し、ジャングルすなわち熱帯雨林と書き出し、その価値の高さ、多様性と未知について述べている<ref>グリーナウェイ/寺島監訳 (1995) p.6</ref>。
 
日本語辞書においても、多少記述の詳しい書では、例えば小学館『[[日本国語大辞典|日本国語大事典]]』第2版では樹木が密生し下生えの繁茂した熱帯の森林としたうえ熱帯雨林を指すこともあるが、その周辺の森林を指すことが多い、と正確に示されている<ref>日本国語大辞典、2版p.1181</ref>。[[広辞苑]]第七版の場合、主に熱帯の高温多湿の地にある、繁茂した草木で覆われた地。密林。とあり、これが熱帯多雨林を指すものか、それとも異なるのか曖昧である。『[[岩波国語辞典|岩波国語事典]]第三版』では「密林。おもに熱帯地方の[[原生林|原始林]]」とあり、これは多分に熱帯多雨林を指していると取れる。
 
他方で興味深いのは英和辞典で、jungleの訳として「ジャングル」があるのは当然として、完全日本語としてはほぼ必ず「密林」が示されている。むしろそこに熱帯雨林がある例がほとんどないようである。
 
== 派生的な意味 ==
ジャングルという語は森林ではないものに対しても当てられることがある。例えば「都会のジャングル」という表現は書籍の題名などにも見ることが出来できる。これは広辞苑』などにも見られないが、他方で英和辞典では例えば岩波英和大辞典(1970) には2番目に「密生したもの、絡み合ったもの」があげられ、さらに3番目にはアメリカの俗語として「浮浪者の宿」が挙がっている。これはむしろこの語のもとの意味、つる草が生い茂って通り抜けるのが難しい森、に由来するのであろう。本来の熱帯多雨林がそうでないことは上に述べたとおりである。
 
== 出典 ==
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== 参考文献 ==
* T. C. ホイットモア/熊崎実+小林繁男、『【熱帯雨林】総論』、(1993)、築地書館
* 駒嶺穆監訳、『オックスフォード植物学事典』、(2004)、朝倉書店
* 初島住彦、「トウ」:『朝日百科 世界の植物 8』、(1978)、朝日新聞社:p.2125.
* 竹内正幸、「アマゾン・ジャングル」:『朝日百科 世界の植物 11』、(1978)、朝日新聞社:p.2843-2848.
* テレサ・グリーナウェイ/寺島司郎監訳、『ビジュアル博物館 第54巻 ジャングル』、(1995)、同朋舎出版
* 『日本国語大辞典 第二版 第6巻』、(2001)、小学館
 
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