「血液脳関門」の版間の差分

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=== 血液脳関門の透過性を促進させる方法 ===
一般に受動拡散により血液脳関門を通過して脳内に到達できる薬剤は概ね450Da未満の低分子で、脂溶性かつ[[水素結合]]数6個以下という特性を有するものに限定される<ref>Neurobiol Dis. 2010 Jan;37(1):13-25, {{PMID|19664713}}</ref>。したがって高分子医薬品を全身投与で中枢神経系に送達するためには効果的な血液脳関門通過性[[ドラッグデリバリーシステム]]が必要である。このようなドラッグデリバリーシステムには脳微小血管内皮細胞の内部を通過する経路、すなわち[[経細胞経路]](transcellular route)を用いるものと脳微小血管内皮細胞の間隙を通過する経路、すなわち[[傍細胞経路]](paracellular route)を用いるものに分類できる<ref>Ther Deliv. 2014 Oct;5(10):1143-63. {{PMID|25418271}}</ref><ref>Int J Mol Sci. 2019 Jun 25;20(12). PMID 31242683</ref>。
 
==== 経細胞経路を用いるドラッグデリバリーシステム ====
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;マンニトール
高張液の[[マンニトール]]を頸動脈よりなど頚動脈的に投与し、血液脳関門の[[密着結合]]を物理的に破壊し細胞間隙を開口させる方法がある。この方法は1970年頃から報告されている<ref>J Comp Neurol. 1973 Dec 15;152(4):317-25. PMID 4784295</ref><ref>J Cell Biol. 1969 Mar;40(3):648-77. PMID 5765759</ref><ref>Ann N Y Acad Sci. 1986;481:250-67. PMID 3468860</ref>。この処置によって、脳微小血管内皮細胞は脱水により形が変形し細胞間隙が20nmまで開口する<ref>Cell Mol Neurobiol. 2000 Apr;20(2):217-30. PMID 10696511</ref>。この手法は手法そのものに[[て抗がかん]]発作誘発するリスクがあるものの、[[脳腫瘍]]患者の[[抗がん剤]]デリバリー送達させる方法として複数の臨床での使用が認可されている。しかし脳毒性を示すタンパク質の脳内への流入などの問題点から長期的な安全性は疑問視さ試験も行われており応用は限定的である<ref>CellsJ Neurooncol. 20182020 Mar 23Apr;7147(42):261-278. PMID 2957065932076934</ref>、臨床応用もされている<ref>Adv Pharmacol. 2014;71:203-43. PMID 25307218</ref>。マイクロカテーテルを用いて特定の部位の脳微小血管内皮細胞に高張のマンニトールと薬剤(抗[[EGF受容体]]抗体である[[セツキシマブ]])を連続的に投与する技術を臨床試験の例としては用いた脳腫瘍治療の臨床試験が進められており、重篤な副作用は報告されていない<ref>J Neurooncol. 2016 Jul;128(3):405-15. PMID 26945581</ref>。しかし、てんかん発作や脳卒中のリスクを高めること、繰り返し入院が必要となること、しばしば全身麻酔が必要となることといった問題点があり脳腫瘍の標準治療にはなっていない<ref>Pharmaceutics. 2015 Aug 3;7(3):175-87. ISBN 26247958</ref>。脳毒性を示すタンパク質の脳内への流入などの問題点から長期的な安全性は疑問視されており応用は限定的である<ref>Cells. 2018 Mar 23;7(4). PMID 29570659</ref>。
 
;集束超音波
[[子宮筋腫]]や[[本態性振戦]]などの治療に用いられている集束超音波の医療技術を活用するものである。限られた領域に超音波エネルギーを集中させ、外科的処置を必要とせずに一過性の密着結合の開口が可能となるため、侵襲性が低いと考えられる。この方法で核酸やプラスミド、DNA、神経栄養因子などのタンパク質の輸送が可能となることが報告されている<ref>J Control Release. 2015 Dec 10;219:61-75. PMID 26362698</ref><ref>Pharmaceutics. 2015 Sep 21;7(3):344-62, {{PMID|26402694}}</ref>。収束超音波を用いたDDSは脳腫瘍やアルツハイマー病など様々な疾患で臨床試験が行われている<ref>Front Pharmacol. 2019 Feb 7;10:86. PMID 30792657</ref>。しかし収束超音波を用いた方法は無菌性の炎症を誘発するという報告もある<ref>Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Jan 3;114(1):E75-E84, {{PMID|27994152}}</ref>。
 
;アデノシン受容体の活性化