「次元解析」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
タグ: モバイル編集 モバイルウェブ編集
→‎例: 量の次元を参考に、次元の書き方を修正。
53行目:
== 例 ==
=== 調和振動 ===
例としてばねにつないだ物体の[[振動運動]]について考える。[[水平面]]上に質量 {{math|''m''}} の物体をおき、垂直に立った壁と物体との間を[[ばね定数]] {{math|''k''}} の[[ばね]]で結ぶ。ばねの自然長の状態から物体を {{math|''x''}} だけずらし、静かに手を離すと物体は振動運動を始める。このときの振動の[[周期]](1振動にかかる時間){{math|''T''}} を与える式を推測する。水平面との摩擦や空気抵抗は考えない。
 
式に含まれるであろう定数は、物体の質量 {{math|''m'' <math>[\mathsf{M}]</math>}、ばね定数 {{math|''k'' <math>[\mathsf{M T}^{-2}]</math>、初期変位 {{math|''x''}} の3つである。長さの次元を<math>[\mathsf{L}]</math>の3つで求めるべき周期''T'' 質量の[[量の次元|次元]]<math>\mathsf{TM}</math>である(長さ、時間の次元を<math>\mathsf{LT}</math>とすれば質量それぞれの定数および周期 {{math|''T''}} の次元<math>[m]=\mathsf{M}</math>、時間の次元を<math>, [k]=\mathsf{M T}^{-2}, [x]=\mathsf{L}, [T]=\mathsf{T}</math>とした)である。この中で長さの次元<math>\mathsf{L}</math>を含んでいるのは初期変位 {{math|''x''}} のみなので、式に含めることができない。なぜなら式の左辺と右辺では次元が一致しなくてはならず、初期変位を含めるならば両辺に同じだけかける必要があり、それならば無くても同じだからである。
 
次元が<math>\mathsf{T}</math>になるように {{math|''m''}} {{math|''k''}} を組み合わせる方法は一つしかない。結果次の式が求まる。
: <math>T = A \sqrt{\frac{m}{k}}</math>
 
比例係数 {{math|''A''}} は[[無次元量]]の定数で次元解析から求めることはできない。この運動の[[運動方程式]]を直接解くと周期は
: <math>T=2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}</math>
となり、{{math|''A'' {{=}} 2&pi;}} のもとで両者は見事に一致している([[固有振動]]も参照)。このように簡単な問題ならば次元を考えるだけで見通しが立つ。式の次元が合うことは必須の要請であるので、式の間違いをチェックする場合にも使える。
 
バッキンガムの&Pi;定理にしたがって考えると、物理量が {{math|''m'', ''k'', ''x''}} および {{math|''T''}} の4つで、次元が<math>\mathsf{M}, \mathsf{T}, \mathsf{L}</math>の3種類なので、次元行列は
: <math>M = \begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & -2 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}</math>
となる(列が {{math|''m'', ''k'', ''x'', ''T''}} に、行が<math>\mathsf{M}, \mathsf{T}, \mathsf{L}</math>に対応する)。{{math|null ''M'' {{=}} 1}} から、1個の無次元量があることが分かる。関係式はすなわちこの無次元量が定数ということである。
: <math>\frac{T}{\sqrt{m/k}} = A (=2\pi)</math>
 
80行目:
}}</ref>:
: <math> m \ddot{x} = -\gamma \dot{x} - k x </math>
式に現れる定数は、物体の[[質量]] {{math|''m'' <math>[\mathsf{M}]</math>}、[[粘性係数|粘性抵抗の比例係数]]'' {{math|&gamma;'' <math>[\mathsf{M T}^{-1}]</math>、[[ばね定数]] {{math|''k''}} の3つで、それぞれの次元は<math>[m]=\mathsf{M}, [\gamma]=\mathsf{M T}^{-1}, [k]=[\mathsf{M T}^{-2}]</math>の3つである。
 
この運動では、'''特徴的な時間尺度'''( (characteristic time scale ) が2つ存在する。即ち、
* 減衰時間:<math> \tau = \frac{m}{\gamma}</math>
* 固有周期:<math> \frac{1}{\omega} = \sqrt{\frac{m}{k}}</math>
の2つの時間が現象を特徴づけており、時間尺度の競合が起こる。つまり {{math|&tau;}} {{math|1/&omega;}} の大きさのバランスによって運動の様子が変わることが予想される。
 
&Pi;定理からも、物理量が {{math|''m'', &gamma;, ''k''}} の3つで、次元が<math>\mathsf{M}, \mathsf{T}</math>の2種類である(調和振動のときと同じ理由によって、初期変位は入れなくても良い)から、次元行列が
: <math>M = \begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 \\ 0 & -1 & 1 \end{pmatrix}</math>
となる。したがって1つの無次元量 {{math|&tau;&omega;}} の大きさで振動を定性的に分類できることがわかる。
 
実際、運動方程式を[[解析解|解析的に解く]]と、{{math|&tau;&omega; > 1/2}} のとき[[減衰振動]]、{{math|&tau;&omega; {{=}} 1/2}} のとき[[臨界減衰]]、{{math|&tau;&omega; < 1/2}} のとき[[過減衰]]となり、運動が[[定性的]]にも変化する。
 
=== 流体機械 ===
[[ポンプ]]、[[送風機]]や[[発電用水車]]などの[[ターボ機械]]は内部流れが複雑であるため、その挙動を表す[[ナビエ-ストークス方程式]]を直接解くことができない。しかしその運転状態は以下の条件を与えるとおおよそ決まることが分かっている:
* 作動流体の[[密度]] {{math|&rho; }} (次元は<math>[\rho]=\mathsf{M L}^{-3}]</math>
* 機械の大きさ {{math|''D'' }} (<math>[D]=\mathsf{L}]</math>
* [[回転速度]] {{math|''N'' }} (<math>[N]=\mathsf{T^{-1}}]</math>
* [[流量]] {{math|''Q'' }} (<math>[Q]=\mathsf{L}^3 \mathsf{T}^{-1}]</math>
このとき、次の未知量を推測する:
* [[圧力]] {{math|''P'' }} (<math>[P]=\mathsf{M L}^{-1} \mathsf{T}^{-2}]</math>
* [[動力|出力]] {{math|''L'' }} (<math>[L]=\mathsf{M L}^2 \mathsf{T}^{-3}]</math>
この場合は物理量は6つ、次元が3種類である。
 
107行目:
:<math>P = A \rho N^2 D^2 \left(\frac{Q}{ND^3}\right)^\alpha</math>
:<math>L = B \rho N^3 D^5 \left(\frac{Q}{ND^3}\right)^\beta</math>
ここで、{{math|''A'', ''B'', &alpha;, &beta;}} は次元解析から求めることはできないが、条件で考慮していない流体の[[粘度]]や機械の各部寸法バランスなどに依存する無次元量である。この場合の次元行列は
: <math>M = \begin{pmatrix} 1&0&0&0&1&1 \\ 0&0&-1&-1&-2&-3 \\ -3&1&0&3&-1&2 \end{pmatrix}</math>
で無次元数は {{math|null ''M'' {{=}} }}3つ存在する:
: <math>\phi=\frac{Q}{ND^3},\quad\psi=\frac{P}{\rho N^2 D^2},\quad\tau=\frac{L}{\rho N^3 D^5}</math>
無次元の関係式 {{math|''f'', ''g''}} で表すと
:<math>\psi = f(\phi),\quad\tau = g(\phi)</math>
となる。
126行目:
}}</ref>。
 
[[水素原子]]は[[電子]]が[[クーロン力]]で惑星のように[[陽子]]に束縛されている。その軌道の半径 {{math|''a''}} (<math>[a]=\mathsf{L}]</math> は、
* 電子の質量''m''  (次元は<math>[m]=\mathsf{M}]</math>
* [[電気素量]]''e''  (<math>[e]=\mathsf{TI}]</math>
* [[真空の誘電率]]&epsilon;{{sub|0}}  (<math>[\varepsilon_0]=\mathsf{M}^{-1} \mathsf{L}^{-3} \mathsf{T}^4 \mathsf{I}^2]</math>
で表されると考えられる。ここで、<math>\mathsf{M}</math> は質量、<math>\mathsf{L}</math> は長さ、<math>\mathsf{T}</math> は時間、<math>\mathsf{I}</math> は[[電流]]の次元を表す。ところが、これらの量をどう組み合わせても、長さの次元 <math>\mathsf{L}</math> を持った量を構成することができない。すなわち、水素原子は一定の大きさをとることができない。そこで[[ニールス・ボーア]]は、このようなミクロの世界では[[プランク定数]]''h''次元が <math>[\mathsf{M L}^2 \mathsf{T}^{-1}]</math> の[[プランク定数]] ''h'' が関係していると考えた。以上の4つの物理量を組み合わせて長さの次元を持つ量を作ると、
: <math>a = \frac{\epsilon_0 h^2}{m e^2}</math>
が導かれる。これは[[ボーア半径]]の {{math|&pi;}} 倍である。
 
以上の次元解析的議論により、ボーアは {{math|''h''}} が必須であることを確信した。
 
== 方向性次元解析 ==