「シアン化カリウム」の版間の差分

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== 毒性 ==
{{詳細記事|シアン化物中毒}}
人体に有害な[[毒|毒物]]で、経口致死量は成人の場合150200〜300mg/人と推定されている<ref name="nihon">{{Cite web|title=その13 青酸化合物|url=http://jsct-web.umin.jp/shiryou/archive2/no13/|website=一般社団法人日本中毒学会|date=2018-10-03|accessdate=2020-05-10|language=ja}}</ref>。全血中のシアン濃度が1.0~2.5μg/mlで意識障害、2.5~3.0μg/mlで昏睡、それ以上では死亡するとされる<ref name="nihon" />。体内で[[チオシアン酸]]に[[代謝]]され、30〜60mg-CN/hであれば、[[肝臓]]で解毒できるとされる。[[慢性中毒]]を起こす最小中毒量(TDL<sub>0</sub>)14mg/kg、[[許容濃度]] 5 mg-CN/m<sup>3</sup>。長期又は反復曝露による[[甲状腺]]、[[腎臓]]、[[肝臓]]、[[脾臓]]、[[中枢神経系]]の障害のおそれがある(参考: [[ラット]]経口 [[毒性学#毒性の種類|LD<sub>50</sub>]] 5〜10 mg10mg/kg)。
 
[[胃酸]]により生じた[[シアン化水素]]が呼吸によって[[肺]]から血液中に入り、重要臓器を細胞内低酸素により[[壊死]]させることで個体死に至るとされる。このため中毒した人の初期症状は頭痛・眩暈・頻気をうのは危険・頻脈である。摂取しり、重症例では固定散瞳・意識障害・昏睡・痙攣・無呼吸・徐脈・血圧低下・チアノーゼといっ場合の中枢神経症状としては、めまい、[[嘔吐]]、激しい動悸と[[頭痛]]などの急速な全身循環器系症状に続いて、[[アシドーシス]](血液のpH急低下早期から出現するとされる<ref>{{Cite journal|和書 |author =千葉宣孝,木下浩作,佐藤順,蘇我孟群,磯部英二,内ヶ崎西作,丹正勝久 |date =2013 |title =シアン化カリウムによる痙攣が起きる急性中毒の1救命例 |journal =日本救急医学会雑誌 |pages=871-876 |volume=24 |issue=10 |publisher =日本救急医学会 | doi=10.3893/jjaam.24.871|issn=1883-3772}}|ref = harv }} </ref>{{要出典範囲|致死量を超えている場合、適切な治療をしなければ15分以内に死亡する。死因は[[静脈]]血が明赤色([[一酸化炭素中毒]]と同じ)などから判断できる。これは、シアン化カリウムは水溶液中で[[電離]]してカリウムイオンとシアン化物イオンとなるが、このシアン化物イオンは[[一酸化炭素]]と同様に[[ヘモグロビン|ヘム鉄]]に[[配位結合]]して酸素との結合を阻害することにより、[[呼吸]]による酸素の供給ができなくなるためである|date=2020年5月}}
 
{{要出典範囲|また、[[皮膚]]から吸収することによっても中毒を起こす。さらには細菌以上の動物[[ミトコンドリア]]の[[シトクロムcオキシダーゼ|シトクロム酸化酵素]] (COX) [[複合体]]と結合・封鎖し、[[電子伝達系]]を阻害することで[[アデノシン三リン酸|ATP]]生産量を低下させ細胞死を引き起こすとされる。この点で植物ミトコンドリアはシアン耐性経路であるAOX酵素 (alternative oxidase) を備えるため[[耐性]]を持つ|date=2020年5月}}
 
{{要出典範囲|[[水生生物]]への毒性が非常に強く、水質の[[環境基準]]では検出されないこと(定量限界0.1mg/L未満)、一律[[排水基準]]では1mg/Lとされている。分析法としてはJIS K 0102K0102 [[吸光光度法]]と[[イオン電極]]法が規定されているが、いずれも蒸留操作が必須で熟練と操作時間を要する。そのほか、自動分析装置が各社にて開発されている|date=2020年5月}}
 
== 治療法 ==
塩類の摂取による[[中毒]]は、[[シアン化水素]][[気体|ガス]]の吸入によるものに対し進行が遅く、救命できる可能性が高い。ただし、マウストゥマウスの人工呼吸は厳禁である<ref name="jireitai">{{Cite web|title=生物・化学戦(BC)の対処法(化学) - 血液剤(シアン化合物) {{!}} 緊急災害医療支援学 - Disaster Medical Logistics Support Research - {{!}}|url=http://www.group-midori.co.jp/logistic/bc/chemistry/blood_agents.php|website=www.group-midori.co.jp|accessdate=2020-05-10}}</ref>
 
拮抗剤としては、亜硝酸アミル、亜硝酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム(米国ではこれらのキット)があるが、国内では亜硝酸ナトリウムの製品はなく、院内調製となる<ref name="nihon"></ref>。亜硝酸はメトヘモグロビンを形成させ、これにCNを結合させることにより、cytochrome oxidaseへの結合と競合させ、チオ硫酸はCNと結合して尿中に排泄可能なチオシアン酸を形成させることにより、CNの排泄を促進させる<ref name="nihon"></ref>。
まず医療機関に連絡する。シアンによる中毒であることを忘れずに伝える。救助者が患者の呼気を吸わないように対策を行ってから開始する。当然、マウストゥマウスの[[人工呼吸]]は厳禁。摂取量が少なく、患者に意識があるなら、吐かせて[[胃洗浄]]を繰り返す。用意があるなら、[[酸素吸入]]と[[亜硝酸アミル]]の吸入(15秒嗅がせ、15秒空気または酸素を吸入させる措置を、5回繰り返す)を行う。または[[亜硝酸ナトリウム]]を静脈注射するが、これは原則として医師の処置による(シアン化合物を扱う事業所では、小型酸素吸入器と亜硝酸アミルの試薬を用意しておくべきかもしれない)。[[シアン化物#シアン化合物の解毒剤]]も参照のこと。
 
[[シアン化物#シアン化合物の解毒剤]]も参照のこと。
 
== 廃棄処理 ==
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== その他 ==
摂取して胃酸と反応すると[[アーモンド]]または[[オレンジ]]臭、[[アンズ]]臭、[[梅]]臭を発するという。ここでいうアーモンド臭とは、収穫前のアーモンドの臭いであるが[[菓子|製菓]]遺伝的用いるアーモンド[[エッセンス]]半数甘い香りと感知できる甘酸っぱ<ref name="jireitai"></ref>。また、シアン化カリウムは、空気よ軽く高い揮発性を有するため、効果的濃度以上であれば高い殺傷力を有すが、それ以下では効果がない<ref name="jireitai" />
経口・[[注射]]の両方で同程度の致死量である。また、[[粘膜]]からは[[皮膚]]以上に吸収される。
 
青酸カリによる中毒死体の特徴として、鮮紅色の死斑が見られるほか、主な病変として流動血、肝腎細胞の混濁腫脹、漿膜下の出血斑、粘膜下の充血や出血、肺肝脾腎のうっ血といった共通病変が見られる<ref>{{Cite journal|和書|date=1958|title= 急性青酸カリ中毒屍剖検例|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/kds/12/1/12_KJ00003927573/_article/-char/ja/|journal=九州歯科学会雑誌 |volume=12|issue=1|pages=85–88|author=高野義臣,浦郷篤史,金子義郎|doi=10.2504/kds.12.85|issn=0368-6833}}</ref>。
長期間空気中に置いておくと毒性を失う。これは空気によって酸化し、[[炭酸水素カリウム]]や[[炭酸カリウム]]に変化したためによるものである。歴史上、青酸カリによる[[暗殺]]の事例は多数あったが、保存法が誤っていたために毒性を失った物を使用したことによる暗殺未遂もそれ以上に発生している。
 
前述の通り、青酸カリは昆虫標本の作製などに用いられ、薬局や文房具店で比較的容易に入手できたため、その威力が分かると青酸カリ自殺が流行した<ref>{{Cite journal|和書|author=槌田満文|date=1989|title=青酸カリ事件の思い出|url=http://id.nii.ac.jp/1351/00005266/|journal=文藝論叢|volume=25|pages=28-29|publisher=文教大学女子短期大学部文芸科|ref=harv}}</ref>。昭和11年1月10日付けの読売新聞には「昨年十一月浅草の校長毒殺事件が起って以来といふもの猫も杓子も『自殺は青酸加里……』といふことに相場がきまってしまった」と書かれたという。
[[ミステリ|ミステリー]]などでは「あらかじめ塗っておいた」といった描写があるが、前述の通り空気中では炭酸水素カリウムや炭酸カリウムに変化してしまうし、変化していなくても致死量を経口投与するには無理がある。同じく「食品に混入」という描写もあるが、風味は苛烈なうえ、強アルカリ性なので口内に激痛が走るため、通常は[[嚥下]]が困難で大半を吐き出すことになる。
 
摂取して胃酸と反応すると[[アーモンド]]または[[オレンジ]]臭、[[アンズ]]臭、[[梅]]臭を発するという。ここでいうアーモンド臭とは、収穫前のアーモンドの臭いであり、[[菓子|製菓]]に用いるアーモンド[[エッセンス]]の甘い香りとは異なる甘酸っぱい香りである。
 
青酸化合物による中毒死体の[[死斑]]を一律に、ピンク色であるとする解説もあるが、実際の青酸塩類による中毒の場合にはそういった所見がない場合も多い。青酸ガス中毒の死斑であればピンク色というのは確かだが、青酸カリなどを服用した場合には体表面に特徴的な死斑が現れない場合も多く、見分けるポイントとはなりにくい。なお解剖時に胃が鮮紅色となっている場合は多い。
 
== 法規制 ==
シアン化カリウムは様々な法規制下に置かれている。
=== 毒物 ===
[[毒物及び劇物指定令]]で無機シアン化合物として[[日本の毒物一覧|毒物]]に指定されており、[[毒物及び劇物取締法]]に規定された取り扱いが必要である。
 
=== 労務管理 ===
[[労働安全衛生法]]で名称等を通知すべき有害物に指定されている。また、毒物のため、[[MSDS]]の交付などが義務付けられる。
 
[[毒物及び劇物指定令]]で無機シアン化合物として[[日本の毒物一覧|毒物]]に指定されており、[[毒物及び劇物取締法]]に基づいた購入時の身元確認や販売記録の保管、鍵がかかる倉庫などでの保管や在庫量の記録が求められている<ref>{{Cite web|title=青酸カリ脅迫 管理厳重、入手元は?|url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41945710R00C19A3CC0000/|website=日本経済新聞 電子版|accessdate=2020-05-10|language=ja}}</ref>。しかし、ずさんな管理による紛失流出が相次いでおり、[[2006年]](平成18年)には東京大学の研究室で3000人分の致死量に相当する青酸カリ500グラム入りのビンが紛失した<ref>{{Cite web|title=青酸カリ脅迫 入手ルート、流出品悪用の可能性|url=https://www.sankeibiz.jp/compliance/news/190219/cpd1902191208005-n1.htm|website=SankeiBiz(サンケイビズ)|date=2019-02-19|accessdate=2020-05-10|language=ja-JP}}</ref>。
=== 排出管理 ===
[[PRTR法]]で無機シアン化合物として第一種指定化合物となっている。[[化審法]]番号は (1)-1086。
 
その他、[[船舶安全法]]、[[航空法]]、[[海洋汚染防止法]]、[[大気汚染防止法]]、[[水質汚濁防止法]]、[[土壌汚染対策法]]、[[化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律]]、[[特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律]]、[[労働安全衛生法]]などの法規制がある<ref>{{Cite web|url=https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C004-721-22A&bcPtn=5&shMd=0&txNumSh=MTUxLTUwLTg=&ltNumTp=1&ltNumMh=0&txNmSh=&ltNmTp=&ltNmMh=1&txNmSh1=&ltNmTp1=&txNmSh2=&ltNmTp2=&txNmSh3=&ltNmTp3=&txMlSh=&ltMlMh=0&ltScDp=&ltPgCtSt=100&rbDp=0&txScSML=&txScSML2=&ltScTp=1&txUpScFl=null&hdUpScPh=&hdUpHash=&rbScMh=1&txScNyMh=&txMlWtSt=&txMlWtEd=&err=|title=NITE 化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)シアン化カリウム|publisher=NITE-CHRIP|accessdate=2020-05-10}}</ref>。
=== その他 ===
[[船舶安全法]]、[[航空法]]に毒物類として、[[海洋汚染防止法]]にP物質として、[[水質汚濁防止法]]、[[土壌汚染対策法]]にシアン化合物として規定がある。
 
== 脚注 ==