「絶対収束」の版間の差分

en:Absolute convergence 20:37, 18 June 2020‎ から半ノルムの場合など
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(en:Absolute convergence 20:37, 18 June 2020‎ から半ノルムの場合など)
[[数学]]において、[[級数]]が'''絶対収束'''(ぜったいしゅうそく、{{lang-en-short|''convergeabsolutely convergent''}})、あるいはもとの[[数列]]が'''絶対総和可能'''(ぜったいそうわかのう、{{lang-en-short|''absolutely summable''}})であるとは、その各項の[[絶対値]]を取って得られる級数の和が[[有限]]の値になるきにいう。きちんと述べれば、実または複素数の級数 {{math|&sum;&thinsp;''a''<sub>''n''</sub>}} は
: <math>\sum_{n=0}^\infty |a_n| < \infty</math>
となるとき、'''絶対収束する''' (''{{en|''converge absolutely''}}'') と言う。
 
絶対収束が無限級数の研究において重要であるのは、それが有限和の場合に成立する(が必ずしも全ての収束級数が持つわけではない)性質を持つようにするためにきわめて強力な条件であるとともに、それ自身が一般的な内容を議論するのに(その強い制約条件にもかかわらず)十分広範な級数のクラスを定めるからである。
 
== 基本的な一般の式化 ==
=== ノルム・アーベル群導入場合 ===
定理: 絶対収束する級数は収束する。
実数や複素数の級数に限らず、各項 {{mvar|a{{sub|n}}}} が任意の[[位相アーベル群]]の要素であるような列に対して、級数<math display="inline">\sum_{n=0}^{\infty} a_n </math>を考えることが出来る。このような級数に絶対収束の概念を導入するためには[[ノルム]]の構造が必要である。
 
証明:
{{math|(''a{{sub|n}}'')}} は実数列とし、{{math|&sum;{{subsup||''n'' {{=}} 1|∞}}{{mabs|''a''<sub>''n''</sub>}}}} は収束するとする。第 {{mvar|k}} 部分和を {{math|1=''s{{sub|k}}'' = &sum;{{subsup||''n'' {{=}} 1|''k''}}''a''<sub>''n''</sub>}} と書くと、自然数 {{math|''k'' < ''l''}} に対し、
:<math>|s_l - s_k| = \left| \sum_{n=k+1}^l a_n \right| \leq \sum_{n=k+1}^l |a_n| </math>
である。{{math|&sum;{{subsup||''n'' {{=}} 1|∞}}{{mabs|''a''<sub>''n''</sub>}}}} は収束するから、{{math|''k'', ''l'' &rarr; ∞}} でこの式の右辺は0に収束する。すなわち {{mvar|s{{sub|k}}}} は[[コーシー列]]である。従って {{mvar|s{{sub|k}}}} はある点に収束する。
 
複素数列の場合は、{{math|1=''z{{sub|n}}'' = ''a{{sub|n}}'' + ''ib{{sub|n}}''}} とすると、{{math|{{mabs|''a''<sub>''n''</sub>}} + {{mabs|''b''<sub>''n''</sub>}} &le; 2{{mabs|''z''<sub>''n''</sub>}}}} だから実数の場合に帰着できる。(証明終り)
 
収束するが絶対収束しないような級数は[[条件収束]]すると言う。このような級数の例として[[調和級数#交替調和級数|交替調和級数]]がある。級数の収束判定法の多くのもの、例えば[[ダランベールの収束判定法]]や[[コーシーの冪根判定法]]などは、絶対収束性を判定する。それは、実用的に重要な[[冪級数]]が[[収束円]]の内部で絶対収束するためである。
 
== 一般化 ==
実数や複素数の級数に限らず、各項{{mvar|a{{sub|n}}}}が任意の[[位相アーベル群]]の要素であるような列に対して、級数<math>\sum_{n=0}^{\infty} a_n </math>を考えることが出来る。このような級数に絶対収束の概念を導入するためには[[ノルム]]の構造が必要である。
 
=== ノルムの導入 ===
[[アーベル群]] {{mvar|G}} 上で定義された非負実数値関数 {{math|1=''x'' {{mapsto}} {{norm|''x''}}}} が次の条件
 
# 全ての {{math|''x'', ''y'' &isin; ''G''}} について {{math|{{norm|''x'' + ''y''}} &le; {{norm|''x''}} + {{norm|''y''}}}}
 
を満たすとき、{{math|{{norm|''x''}}}} はノルムと呼ばれる。ノルムが導入されれば、任意 {{math|''x'', ''y'' &isin; ''G''}} に対して距離関数 {{mvar|d}} をとき {{math|1=''d''(''x'', ''y'') ={{coloneqq}} {{norm|''x'' − ''y''}}}} と定義することにより、{{mvar|G}} に[[距離空間]]の構造を導入できる。ノルムの利用(とくより、{{mvar[[位相空間|G}} に値位相]])とる級数に対しても絶対収束の定義ができる。すなわち、{{mvar|G}} 上の級数に対しては、<math>\sum_{n=0}^{\infty} \|a_n\| < \infty</math> ならば、級数は絶対収束する、と定義する導く
 
これにより、{{mvar|G}}-値級数は <math display="inline">\sum_{n=0}^{\infty} \|a_n\| < \infty</math> であるとき、'''絶対収束する'''と定義する。
 
とくに、実または複素級数の場合には、[[絶対値]] {{math|{{abs|&bull;}}}} をノルムとして、これらの主張がすべて満たされている。
 
=== 半ノルム空間の場合 ===
ノルム空間とは限らない[[位相線型空間]]においても、半ノルムの意味での「絶対」収束を論じることができる。位相線型空間 {{mvar|X}} において、{{mvar|X}} の元からなる(一般には非可算の)族 {{math|(''x{{sub|α}}''){{sub|''α''∈''A''}}}} が'''絶対総和可能'''であるとは、以下の二つの条件がみたされるときにいう{{sfn|Schaefer|1999|pp=179-180}}:
# {{math|(''x{{sub|α}}''){{sub|''α''∈''A''}})}} は {{mvar|X}} において総和可能{{efn|この非可算無限族が総和可能とは、添字集合 {{mvar|A}} の有限部分集合が[[包含関係]] {{math|&sube;}} に関してなす[[有向集合]]を <math display="inline">\mathcal{F}(A)</math> と書くとき、有限和 <math display="inline">x_H := \sum_{i \in H} x_i</math> 全体の成す[[有向点族]] <math display="inline">(x_H)_{H \in \mathcal{F}(A)}</math> に関する極限 <math display="inline">\lim_{H \in \mathcal{F}(A)} x_{H}</math> が {{mvar|X}} 内で収束することを言う}};
# {{mvar|X}} 上定義された任意の連続半ノルム {{mvar|p}} に対し、実数からなる族 {{math|(''p''(''x{{sub|α}}''})){{sub|''α''∈''A''}}}} が {{mathbf|ℝ}} において総和可能。
{{mvar|X}} が[[ノルム化可能空間|ノルム付け可能]]である場合には、{{math|(''x{{sub|α}}''){{sub|''α''∈''A''}})}} が絶対総和可能であるとき、必然的に[[ほとんど (数学)|可算個の例外を除くすべての]] {{mvar|x{{sub|α}}}} は {{math|0}} に等しい。
 
絶対総和可能族は[[核型空間]]の理論において重要な役割を果たす。
=== 完備性との関連 ===
ノルム空間 {{mvar|G}} においては、絶対収束級数の収束性と、距離に関する完備性とは同値である。すなわち次の二つの条件が同値になる。
 
=== 完備性収束との関 ===
# {{mvar|G}} は距離に関して[[完備]]。すなわち {{mvar|G}} は[[バナッハ空間]]である。
#; {{mvar|G}}定理: 上の絶対収束する実または複素級数は必ず収束する。
これについて、完備性とコーシー列に基づく「コーシーの判定法」による簡明な証明がある:
; 証明:
: {{math|(''a{{sub|n}}'')}} は実数列とし、{{math|&sum;{{subsup||''n'' {{=}} 1|∞}}{{mabs|''a''<sub>''n''</sub>}}}} は収束するとする。第 {{mvar|k}} 部分和を {{math|1=''s{{sub|k}}'' = &sum;{{subsup||''n'' {{=}} 1|''k''}}''a''<sub>''n''</sub>}} と書くと、自然数 {{math|''k'' < ''l''}} に対し、
:: <math>|s_l - s_k| = \left| \sum_{n=k+1}^l a_n \right| \leq \sum_{n=k+1}^l |a_n| </math>
: である。{{math|&sum;{{subsup||''n'' {{=}} 1|∞}}{{mabs|''a''<sub>''n''</sub>}}}} は収束するから、{{math|''k'', ''l'' &rarr; ∞}} でこの式の右辺は0に収束する。すなわち {{mvar|s{{sub|k}}}} は[[コーシー列]]である。従って {{mvar|s{{sub|k}}}} はある点に収束する。
: 複素数列の場合は、{{math|1=''z{{sub|n}}'' = ''a{{sub|n}}'' + ''ib{{sub|n}}''}} とすると、{{math|{{mabs|''a''<sub>''n''</sub>}} + {{mabs|''b''<sub>''n''</sub>}} &le; 2{{mabs|''z''<sub>''n''</sub>}}}} だから実数の場合に帰着できる。(証明終り)
 
上記の証明ではコーシー列が収束するという完備性とノルムが満たす[[三角不等式]]のみが用いられているから、これは完備な[[ノルム空間]]である[[バナッハ空間]]に対するものに容易に修正できる:
証明:
; 定理: 任意のバナッハ空間 {{math|(''X'', {{norm|&bull;}})}} において、絶対収束する級数は収束する
1⇒2 は、先の複素数値級数の場合と形式的にまったく同様に示せる。
{{math proof|drop=yes| {{mvar|X}} 内の級数 {{math|&sum;''x{{sub|n}}''}} が {{mvar|X}} において絶対収束するとする。部分和 <math display="inline">\sum_{k=1}^n\|x_k\|</math> のなす列は実数からなるコーシー列であり、任意の {{math|ε &gt; 0}} に対し十分大きな[[自然数]] {{math|''m'' &gt; ''n''}} をとれば <math display="block">\left|\sum_{k=1}^m\|x_k\|-\sum_{k=1}^n\|x_k\|\right| = \sum_{k=n+1}^m\|x_k\|< \varepsilon</math> とできる。
 
ノルム {{math|{{norm|&bull;}}}} に対する三角不等式から <math display="inline">\left\|\sum_{k=1}^m x_k-\sum_{k=1}^nx_k\right\| = \left\|\sum_{k=n+1}^m x_k\right\| \le \sum_{k=n+1}^m\|x_k\|<\varepsilon</math> が直ちに得られるから、<math display="inline">\sum_{k=1}^nx_k</math> は {{mvar|X}} 内のコーシー列であり、したがって {{mvar|X}} において収束する。<ref>{{citation
2⇒1: {{mvar|a{{sub|n}}}} は {{mvar|G}} 上のコーシー列とする。そこで {{mvar|a{{sub|n}}}} のある部分列 {{mvar|a{{sub|n{{sub|k}}}}}} で {{math|{{norm|''a{{sub|n{{sub|k}}}}'' − ''a''{{sub|''n''{{sub|''k'' − 1}}}}}} < 2{{sup|−''k''}}}} となるようなものが取れる。{{mvar|G}} 上の列 {{mvar|y{{sub|i}}}} を、<math>y_1 = a_{n_1}, y_i = a_{n_i} - a_{n_{i-1}}</math> と定義する。すると、
| last = Megginson | first = Robert E. | authorlink = Robert Megginson
| title = An introduction to Banach space theory
| series = Graduate Texts in Mathematics
| volume = 183
| publisher = Springer-Verlag
| location = New York
| year = 1998
| isbn = 0-387-98431-3
| page = 20
}} (Theorem 1.3.9)</ref>
}}
逆に、絶対収束⇒収束が成り立つ[[ノルム空間]]はノルムの導く距離に関して完備、したがって[[バナッハ空間]]となることが示せる。
{{math proof|drop=yes
2⇒1:|1= {{mvar|a{{sub|n}}}} は {{mvar|G}} 上のコーシー列とする。そこで {{mvar|a{{sub|n}}}} のある部分列 {{mvar|a{{sub|n{{sub|k}}}}}} で {{math|{{norm|''a{{sub|n{{sub|k}}}}'' − ''a''{{sub|''n''{{sub|''k'' − 1}}}}}} < 2{{sup|−''k''}}}} となるようなものが取れる。{{mvar|G}} 上の列 {{mvar|y{{sub|i}}}} を、<math>y_1 = a_{n_1}, y_i = a_{n_i} - a_{n_{i-1}}</math> と定義する。すると、
:<math> \sum_{i=1}^{\infty} \|y_i\| = \sum_{i=1}^{\infty} \| a_{n_i} - a_{n_{i-1}} \| =\sum_{i=1}^{\infty} 2^{-i} < \infty</math>
すなわち <math> \sum_{i=1}^{\infty} y_i </math> は絶対収束するから、仮定よりある {{math|''A'' &isin; ''G''}} があって <math> \sum_{i=1}^{\infty} y_i </math> は {{mvar|A}} に収束する。よって
= 2^{-k} \to 0 ( k \to \infty)</math>
すなわち部分列 {{mvar|a{{sub|n{{sub|k}}}}}} は {{mvar|A}} に収束する。{{mvar|a{{sub|n}}}} は {{mvar|G}} 上のコーシー列であったから、{{mvar|a{{sub|n}}}}も {{mvar|A}} に収束する。(証明終り)
}}
 
収束するが絶対収束しないような級数は[[条件収束]]すると言う。このような級数の例として[[調和級数#交調和級数|交調和級数]]がある。級数の収束判定法の多くのもの、例えば[[ダランベールの収束判定法]]や[[コーシーの冪根判定法]]などは、絶対収束性を判定する。それは、実用的に重要な[[冪級数]]が[[収束円]]の内部で絶対収束するためである。
== 無条件収束との関連 ==
ノルムつきアーベル群 {{mvar|G}} 上に値を持つ級数 <math>\sum_{n=0}^{\infty} a_n</math> と、自然数の[[置換]] {{mvar|&sigma;}} が与えられたとする。このとき、<math>\sum_{n=0}^\infty a_{\sigma(n)}</math> は元の級数の並べ替えと呼ばれる。任意の並べ替えが同じ値に収束するとき、この級数は[[無条件収束]]すると言われる。(注: 無条件収束の定義として、単に任意の並べ替えが収束することだけを条件とし、同じ値に収束することは要求しない場合もある。実はその場合でも、任意の並べ替えが収束するならば同じ値に収束することが証明できる。<ref>{{Harvnb| Heil|1997|p=21}}</ref>)
 
== 無条件収束との関 ==
{{mvar|G}} が完備なら絶対収束から無条件収束が導かれる。すなわち、ノルムつきアーベル群 {{mvar|G}} がノルムに関して完備とすると、{{mvar|G}}上の級数<math>\sum_{n=0}^{\infty} a_n</math> は絶対収束するなら無条件収束する。次節ではノルムが完備でない場合も含めて証明する。
{{main|無条件収束}}
ノルムつきアーベル群 {{mvar|G}} に値を持つ級数 <math display="inline">\sum_{n=0}^{\infty} a_n</math> と、自然数の[[置換]] {{mvar|&sigma;}} が与えられたとする。このとき、<math display="inline">\sum_{n=0}^\infty a_{\sigma(n)}</math> は元の級数の並べ替え (rearrangement) と呼ばれる。任意の並べ替えが(置換の選び方によらず)同じ値に収束するとき、この級数は[[無条件収束]]すると言われる。(注: {{efn|無条件収束の定義として、単に任意の並べ替えが収束することだけを条件とし、同じ値に収束することは要求しない場合もある。実はその場合でも、任意の並べ替えが収束するならば同じ値に収束することが証明できる。<ref>{{Harvnbsfn| Heil|1997|p=21}}</ref>)}}。
 
{{mvar|G}} が完備なら絶対収束から無条件収束が導かれる。すなわち、ノルムつきアーベル群 {{mvar|G}} がノルムに関して完備とすると、{{mvar|G}}上の級数<math display="inline">\sum_{n=0}^{\infty} a_n</math> は絶対収束するなら無条件収束する。次節ではノルムが完備でない場合も含めて証明する。
=== 定理 ===
{{mvar|a{{sub|n}}}} は一般の(完備性を仮定しない)ノルム空間上の列であり、<math>\sum_{i=1}^\infty a_i=A<\infty</math>, <math>\sum_{i=1}^\infty \|a_i\|<\infty</math> とする。{{mvar|&sigma;}} は自然数 {{mathbf|N}} の任意の置換とする。このとき、<math>\sum_{i=1}^\infty a_{\sigma(i)}=A</math> である。すなわち収束かつ絶対収束する級数は無条件収束する。(完備とは限らない空間においては絶対収束性から収束性を導けないので、収束性と絶対収束性の両方を仮定する必要がある)
 
; 定理
=== 証明 ===
: {{mvar|a{{sub|n}}}} は一般の(完備性を仮定しない)ノルム空間上の列であり、<math display="inline">\sum_{i=1}^\infty a_i=A<\infty</math>, <math display="inline">\sum_{i=1}^\infty \|a_i\|<\infty</math> とする。{{mvar|&sigma;}} は自然数 {{mathbf|N}} の任意の置換とする。このとき、<math display="inline">\sum_{i=1}^\infty a_{\sigma(i)}=A</math> である。すなわち収束かつ絶対収束する級数は無条件収束する。(完備とは限らない空間においては絶対収束性から収束性を導けないので、収束性と絶対収束性の両方を仮定する必要がある)
 
{{math proof|drop=yes|1=
{{mvar|a{{sub|n}}}} は絶対収束および収束するから、任意の {{math|''&epsilon;'' > 0}} に対して、ある <math>\kappa_\varepsilon,\lambda_\varepsilon \in \mathbb{N}</math> が選べて、
:<math>
</math>
これは<math>\sum\limits_{i=1}^\infty a_{\sigma(i)}=A</math>を意味する。(証明終り)
}}
 
数およびまたは複素数列に対しては、[[リーマンの級数定理]]の対偶として、[[無条件収束]]から絶対収束が導かれることも言える。すなわち、実数およびまたは複素数列に対しては無条件収束と絶対収束は同値である。さらに、有限次元ノルム空間に値を持つような級数は、各次元に射影した成分が絶対収束するなら絶対収束するから、<math>\mathbb{R}^n</math>値の列に対して絶対収束性と無条件収束性が同値であることを導くのは容易である。
=== 無条件収束と絶対収束 ===
実数および複素数列に対しては、[[リーマンの級数定理]]の対偶として、[[無条件収束]]から絶対収束が導かれることも言える。すなわち、実数および複素数列に対しては無条件収束と絶対収束は同値である。さらに、有限次元ノルム空間に値を持つような級数は、各次元に射影した成分が絶対収束するなら絶対収束するから、<math>\mathbb{R}^n</math>値の列に対して絶対収束性と無条件収束性が同値であることを導くのは容易である。
 
一般的なノルムつきアーベル群{{mvar|G}}上の列においては、絶対収束と無条件収束は区別される。完備なノルム空間であっても無条件収束から絶対収束は導かれない。例えば[[ヒルベルト空間]]<math>\ell^2</math>において、<math>\{e_n\}_{n=1}^{\infty}</math> を直交基底としたときの列 <math>a_n = \frac{1}{n} e_n</math>による級数は無条件収束するが絶対収束はしない。もっと一般に、[[Dvoretzky–Rogersの定理]]によれば、すべての無限次元バナッハ空間には無条件収束するが絶対収束しないような級数が存在する。{{sfn|Dvoretzky|Rogers|1950}}{{sfn|Singer|1964}}
 
もっと一般的に、[[Dvoretzky–Rogersの定理]]によれば、すべての無限次元バナッハ空間には無条件収束するが絶対収束しないような級数が存在する。<ref>{{Harvnb|Dvoretzky|Rogers|1950}}</ref><ref>{{Harvnb|Singer|1964}}</ref>
 
== 級数の積と絶対収束 ==
=== 積の分配法則 ===
実数または複素数二つの絶対収束する二つの実または複素級数の積もまた絶対収束する。すなわち二つの収束する級数 <math display="inline">\sum_{n=0}^\infty a_n = A \,,\,quad \sum_{n=0}^\infty b_n = B.</math> がともに絶対収束するならば、級数
:<math>\sum_{n\in \mathbb{N}} a_n \sum_{m \in \mathbb{N}} b_m =
\sum_{m\in \mathbb{N}} b_m \sum_{n \in \mathbb{N}} a_n =
\sum_{(m,n)\in \mathbb{N}\times\mathbb{N}}^{}a_n b_m </math>
和の順序によらず収束し(無条件収束=、したがって絶対収束)、その値は<math>\ {{mvar|AB\}} </math>に等しい。これは、絶対収束する級数同士の積においては、有限和の場合と同様に積と和の[[分配法則]]が成り立つことを意味する。<ref>{{Harvnbsfn|高木|1983|p=178}}</ref>
絶対収束する級数において無条件収束すなわち和の順序も自由に交換できた(無条件収束)から、絶対収束する級数はおおむね有限和に近い性質を持つといえる。
 
=== コーシー積 ===
{{main|コーシー積}}
実または複素数を項とする二つの収束級数 <math display="inline">\sum_{n=1}^\infty a_n,\quad \sum_{n=1}^\infty b_n</math> [[コーシー積とは、各級数の係数列の[[畳み込み]] <math display="inline"> c_n = \sum_{k=1}^n a_k b_{n-k}</math> を項として定まる級数 &sum;''c''<sub>''n''</sub> である。これは少なくともどちらか一方が絶対収束するならば、各級数の収束値の積に収束する。すなわち
;定理: <math display="block">\sum_{n=1}^\infty a_n = A,\quad \sum_{n=1}^\infty b_n = B</math> であるとき、その'''少なくとも一方'''が絶対収束ならば <math display="block">\sum_{n=1}^\infty c_n = AB</math> が成立する。{{sfn|高木|1983|p=178}}
であるとき、これらのコーシー積とは、各級数の係数列の[[畳み込み]]
:<math> c_n = \sum_{k=1}^n a_k b_{n-k}</math>
を項として定まる級数 &sum;''c''<sub>''n''</sub> で、<math>a_n</math> または <math>b_n</math> の'''少なくとも一方'''の和が絶対収束するならば
:<math>\sum_{n=1}^\infty c_n = AB</math>
が成立する。<ref>{{Harvnb|高木|1983|p=178}}</ref>
 
== 無限積 ==
絶対収束は無限積の収束性を判定することもできる。
 
複素数列の級数<math display="inline">\sum_{i=1}^{\infty} a_i</math>が絶対収束するならば、無限積<math display="inline">\prod_{i=1}^{\infty}( 1+a_i) </math>も収束する。
 
; 証明{{sfn|高木|1983|p=178}}: <math display="inline">\sum_{i=1}^{\infty} |a_i|</math>は仮定より収束するからその値を<math>\ S\ </math>とする。また、<math>p_n = (1+a_1)(1+a_2)\cdots (1+a_n)</math>、および<math>y_1=p_1,\, y_n = p_n - p_{n-1} = (1+a_1)(1+a_2)\cdots (1+a_{n-1})a_n</math>とする。すると、<math>p_n = \sum_{i=1}^{n} y_i</math>および、<math>\ y_n = p_{n-1}a_n\ </math>である。そこで
::<math>|p_n|\leq \prod_{i=1}^{n}(1+ |a_i|) \leq \prod_{i=1}^{n} \exp (|a_i|) = \exp \left(\sum_{i=1}^{n}|a_i| \right) </math>
::<math>\leq \exp \left( \sum_{i=1}^{\infty}|a_i| \right) = e^S</math>
:より、
::<math> |y_n| = |p_{n-1}a_n| \leq e^S |a_n| </math>
:となる。よって<math display="inline">\sum_{i=1}^{\infty} | y_i | \leq e^S \sum_{i=1}^{\infty}|a_i| = e^S S.</math> すなわち<math display="inline">\sum_{i=1}^{\infty} y_i </math>は絶対収束するから、<math display="inline">\sum_{i=1}^{n} y_i = p_n = \prod_{i=1}^{n}( 1+a_i) </math>も収束する。(証明終り)<ref>{{Harvnb|高木|1983|p=178}}</ref>
 
== 積分の絶対収束 ==
実数値または複素数値関数の、{{math|''A'' &sub; '''R''' (or '''C''')}} における[[定積分]] <math display="inline">\int_A f(x)\,dx</math> は、<math display="inline">\int_A \left|f(x)\right|\,dx < \infty</math> となるとき「絶対収束する」と言う。またこのとき {{mvar|f}} は[[絶対可積分]]と言う。
 
<math>\ display="inline">A = [a,b]\ </math>を有界閉区間とすると、<math>\ {{mvar|A\}} </math>上のすべての連続関数は[[可積分]]であり、{{mvar|f}} が連続ならば{{math|{{mabs|''f''}}}}も連続だから、有界閉区間上のすべての連続関数は絶対可積分である。
 
しかし、<math>\ display="inline">[a,b]\ </math>上の絶対可積分関数は可積分である、ということは一般いえない。それは次のような例を考えればわかる:
<math display="inline">S \subset [a,b]</math>はルベーグの意味で[[非可測]]な部分集合とし、<math display="inline">\chi_S</math>を {{mvar|S}} の[[定義関数]]とする。<math display="inline">f := \chi_S - \frac{1}{2}</math>は[[ルベーグ可測]]ではないが、{{math|{{mabs|''f''}}}}は定数関数であり、したがって[[可測関数]]であり可積分。
 
標準的な結果としては、{{mvar|f}} が[[リーマン可積分]](または[[ルベーグ可積分]])なら {{math|{{mabs|''f''}}}} も同様である、といえる。
 
一方で、関数{{mvar|f}}が[[ヘンストック・カーツヴァイル積分]] ({{Sname||Henstock–Kurzweil integra}})または[[ゲージ積分]]可能であったとしても、{{math|{{mabs|''f''}}}}がそうであるとは限らない。これは[[広義積分|広義リーマン可積分]]関数の例を含んでいる。
同じ様に<math>\ {{mvar|A\}} </math>が長さ無限の[[区間 (数学)|区間]]であるとき、絶対可積分でないような広義リーマン可積分関数が存在することはよく知られている。
 
実際のところ、任意の級数 <math display="inline">\sum_{n=0}^{\infty} a_n </math> が与えられたとき、<math>\ display="inline">f_a([n,n+1)) = a_n\ </math> で定義される[[階段関数]] <math display="inline">f_a \colon [0,\infty) \rightarrow \mathbb{R}</math> を考えることが出来る。このとき、<math display="inline">\int_0^{\infty} f_a dx</math>
は、対応する <math display="inline">\sum_{n=0}^{\infty} a_n </math>の収束性に応じて絶対収束、条件収束、あるいは発散する。
:<math>\int_0^{\infty} f_a dx</math>
は、対応する
:<math>\sum_{n=0}^{\infty} a_n </math>
の収束性に応じて絶対収束、条件収束、あるいは発散する。
 
他にも、収束するが絶対収束しない広義リーマン積分の例として、<math display="inline"> \int_{\mathbb{R}} \frac{\sin x}{x} dx</math>がある。
 
任意の可測空間 {{mvar|A}} において、実数値関数のルベーグ積分は正部分、負部分によって定義される。
# {{mvar|f}} が可測なら {{math|{{mabs|''f''}}}} の可積分性から {{mvar|f}} の可積分性が導かれる。
 
は本質的にルベーグ積分の定義に組み込まれている。特にルベーグ積分論を集合 {{mvar|S}} 上の[[可算測度]]に応用することで、ムーア ({{Sname||E. H. Moore}}) とスミス ({{Sname||Herman L. Smith}}) により[[ネット (数学)|ネット]]を使って構成された級数の非順序和の概念を再構築できる。<math display="inline">S = \mathbb{N}</math> が自然数の集合のとき、ルベーグ可積分性と級数の非順序和可能性(無条件収束性)と絶対収束性は同値な概念になる。[[数え上げ測度]]も参照のこと。
 
最後に、これらのすべてはバナッハ空間に値を持つ積分に対しても成り立つ。バナッハ空間に値を持つリーマン積分の定義は普通の積分の自然な拡張である。
*[[フーリエ級数の収束]]
*[[条件収束]]
*{{仮リンク|収束モードの種別|en|Modes of convergence}}
*[[コーシー列]]
*[[フビニの定理]]
 
== 注 ==
=== 定理注釈 ===
{{notelist}}
=== 証明出典 ===
{{Reflist}}
 
== 参考文献 ==
* {{Citation|last1= Dvoretzky |first1=A.|last2=Rogers|fist2= A. C.| title = Absolute and unconditional convergence in normed linear spaces| journal = Proc. National Academy of Science of U.S.A.| year = 1950 | volume = 36| pages = 192-97| doi = 10.1073/pnas.36.3.192 |url = |format = |accessdate = }}
* {{Citation|last= Heil |first =Christopher |year=1997 |title=A Basis Theory Primer |journal= electronic manuscript |volume= |issue= |pages= |doi = |url = http://people.math.gatech.edu/~heil/papers/bases.pdf |format =PDF |accessdate = 2010-12-18}}
* {{Citation |last= Rudin |fist=Walter|title= Principles of Mathematical Analysis |edition = |year= 1964 |publisher= McGraw-Hill | location= New York |isbn= 0070856133 |pages= }}
*{{Citation|last1= Dvoretzky |first1=A.|last2=Rogers|fist2= A. C.| title = Absolute and unconditional convergence in normed linear spaces| journal = Proc. National Academy of Science of U.S.A.| year = 1950 | volume = 36| pages = 192-97| doi = 10.1073/pnas.36.3.192 |url = |format = |accessdate = }}
* {{cite book | last=Schaefer | first=Helmut H.| title=Topological Vector Spaces | publisher=Springer New York Imprint Springer | series=[[Graduate Texts in Mathematics|GTM]] | volume=3 | publication-place=New York, NY | year=1999 | isbn=978-1-4612-7155-0 | oclc=840278135 | ref=harv}}
* {{Citation|last = Singer|firt = Ivan| title = A proof of the Dvoretzky-Rogers theorem | journal = Israel Journal of Mathematics| year = 1964| volume = 2 |issue = 4| pages = 249-250| doi = 10.1007/BF02759741 |url = |format = |accessdate = }}
 
* {{Citation |last= Rudin |fist=Walter|title= Principles of Mathematical Analysis |edition = |year= 1964 |publisher= McGraw-Hill | location= New York |isbn= 0070856133 |pages= }}
* {{Cite book|和書|last= 高木|first=貞治 |title= 解析概論 |edition = 改訂第三版 |year= 1983 |publisher= 岩波書店 | location= |isbn= 4000051717 |pages= }}
* {{Cite book|和書|last= 日本数学会 |first= |title= 数学辞典 |edition= 第2版 |year= 1982 |publisher= 岩波書店 |location= |isbn= |pages= }}
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