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また[[エリスロポエチン]](EPO)の[[半減期]]を延長するために糖鎖を増加したダルベポエチンα(商品名ネスプ)が開発されている。エリスロポエチンは3つのN-結合糖鎖と1つのO-結合糖鎖をもち、糖鎖の末端に存在するシアル酸の数を減少させると、in vitroの活性は増加するが、逆にin vitroの活性は減少することが知られていた。ダルベポエチンαはEPOの5箇所のアミノ酸残基を改変し、新たに2箇所N-結合糖鎖を付加させることにより、受容体へのEPO結合親和性は減少し、血中半減期がEPOの約3倍に延長した結果、in vivo活性が増加した<ref>J Am Soc Nephrol. 1999 Nov;10(11):2392-5. PMID 10541299</ref>。それゆえ、従来の週3回投与から週1回投与が可能となった。
 
== 高分子医薬品のドラッグデリバリーシステム ==
== ターゲティング ==
'''DDS(drug delivery system、[[ドラッグデリバリーシステム]])'''とは薬物を作用部位へ選択的かつ望ましい薬物濃度-時間パターンのもと送達することを目的とした新しい投与システムである。DDSは放出の制御、吸収の制御、標的指向性の制御に分類できる。薬物の放出制御は'''コントロールドリリース'''といわれ、製剤からの薬物の放出を制御することで必要なときに必要な量の薬物を供給するための技術である。薬物吸収を改善することを目的としたDDSとしては[[吸収促進薬]]、蛋白質分解酵素阻害薬といった[[添加物]]の利用、[[プロドラッグ]]化など薬剤の分子構造修飾、薬物の剤形修飾などがあげられる。なお薬物の分子修飾や剤形修飾は薬物の吸収だけではなく薬物の分布も変化する場合がある。標的指向性は[[ターゲティング]]とも言われる。一般に生体内に投与された薬物のうち作用部位まで到達する割合はごくわずかである。そこで標的部位に指向する性質を薬物に与えて、標的部位に選択的に薬物を送達し薬理効果を発現させようという標的指向性が必要となる。
薬物に生体内で標的部位に指向する性質を与えることを[[ターゲティング]]という。生体機能を積極的に利用する試みを能動的ターゲティング(active targeting)といい、生体内の非特異的な物質輸送の特性を受身的に利用する場合は受動的ターゲティング(passive targeting)という。ターゲティングには特定の物質とのコンジェゲートする場合と微粒子キャリアを用いる場合がある。
 
=== 吸収や分布の制御 ===
=== 特定の物質とのコンジェゲート ===
高分子医薬品の吸収や分布を変更する方法論として[[吸収促進薬]]などの[[添加物]]を利用する方法、薬剤の分子構造修飾、薬剤の剤形修飾といった方法がある<ref>Pharmacol Ther. 2020 Mar 20:107537. PMID 32201316</ref>。
 
==== 吸収促進薬の利用 ====
{{main|吸収促進薬}}
[[胆汁酸]]<ref>Molecules. 2015 Aug 10;20(8):14451-73. PMID 26266402</ref>および[[カプリン酸]]<ref>Biomaterials. 2013 Jan;34(1):275-82. PMID 23069717</ref>などの[[脂肪酸]]および脂肪酸誘導体が強力な吸収促進作用を有することは1980年代からひろく知られている<ref>Eur J Pharm Sci. 2000 Apr;10(2):133-40. PMID 10727879</ref><ref>Int J Pharm. 1999 Nov 25;191(1):15-24. PMID 10556736</ref>。臨床応用としてアンピシリンおよびセフチゾキシムの小児用坐薬にカプリン酸ナトリウムが用いられた例がある。これは唯一の吸収促進薬の臨床応用である。吸収促進効果が強い吸収促進薬は粘膜障害が強い傾向があり開発が困難であった。吸収促進薬の作用機序は[[タイトジャンクション]]の開口作用あるいは吸収細胞膜の脂質2分子膜の撹乱作用が提唱されるが未だに定説には至っていない<ref>[https://doi.org/10.1016/0168-3659(94)90072-8 Mechanisms of absorption enhancement and tight junction regulation Journal of Controlled Release 1994 Mar 29(3) 253-267]</ref>。[[細胞膜透過ペプチド]]や[[タイトジャンクション]]モジュレーターなど新しいタイプの吸収促進薬も開発されている。吸収促進薬は従来、消化管吸収経路に用いられてきたが近年は経鼻、経肺、口腔、直腸、経皮など各種粘膜吸収経路のほか、[[血液脳関門]]の通過技術としても利用される。
 
==== 薬剤の分子構造修飾 ====
[[吸収促進薬]]を利用する場合は対象薬物以外の非特異的な物質が通過するため副作用が懸念される。そのため薬物の分子構造自体に何らかの修飾基によって化学修飾することがある。この方法は実用例も多く[[アンピシリン]]の[[プロドラッグ]]であるピバンピシリンや[[タランピシリン]]などが知られている。よく用いられる化学修飾は脂肪酸修飾、糖修飾、胆汁酸修飾、ジペプチド化、[[トランスフェリン]]による修飾、[[細胞膜透過ペプチド]]など塩基性アミノ酸による修飾がある。糖修飾では[[グルコーストランスポーター]]、[[胆汁酸]]では胆汁酸トランスポーター、ジペプチド化では[[ペプチドトランスポーター1]]を利用しトランスサイトーシスの機序で吸収を促進すると考えられている。
 
==== 薬物の剤形修飾 ====
微粒子キャリアを用いて剤形修飾する場合がある。
 
=== 標的指向性の制御 ===
薬物に生体内で標的部位に指向する性質を与えることを標的指向性の制御あるいは[[ターゲティング]]という。生体機能を積極的に利用する試みを能動的ターゲティング(active targeting)といい、生体内の非特異的な物質輸送の特性を受身的に利用する場合は受動的ターゲティング(passive targeting)という。ターゲティングには特定の物質とのコンジェゲートする場合と微粒子キャリアを用いる場合がある。
 
==== 特定の物質とのコンジェゲート ====
[[抗体]]、[[リガンド]]、[[細胞膜透過ペプチド]]あるいはポリエチレングリコール(PEG)や[[糖鎖]]などを結合してターゲティングを行うことができる。
 
==== ;糖修飾 ====
[[ガラクトース]]あるいは[[マンノース]]を有する高分子・微粒子がそれぞれ肝細胞に発現するアシアロ糖タンパク質レセプター、[[クッパー細胞]]および[[類洞]]内皮細胞に発現するマンノースレセプターを介して特異的に取り込まれる現象を利用してこれらの細胞に薬物ターゲティングが可能である。
 
==== ;PEG化 ====
ポリエチレングリコール(PEG)で化学修飾することをPEG化(PEGylation)という。インターフェロンα、アスパラギナーゼ、[[顆粒球コロニー刺激因子]]などで肝臓、腎臓の代謝・排出を抑制し、生体内半減期を大幅に延長した。
 
==== ;膜透過ペプチド ====
{{main|細胞膜透過ペプチド}}
[[膜透過ペプチド]](cell penetrating peptide、CPP)は細胞内に導入したい高分子と結合させることで高分子を細胞内に導入させる機能のあるペプチドのベクターである。代表的な膜透過性ペプチドベクターとしてはHIVのTatタンパク質のアミノ酸配列48-60位に対応するペプチド配列(Tatペプチド)やオリゴ[[アルギニン]]などの塩基性アミノ酸に富むもの、Drosophiaのantennapediaタンパク質由来ペプチド(penetratin)などの塩基性部分と疎水性部分を有する両親媒性ペプチド、神経ペプチドgalaninとハチ毒mastroparanのキメラペプチドであるtransportan、あるいはその短縮形であるTP10など、疎水性配列に若干の塩基性配列を含むペプチドなどがあげられる。特にTatペプチド、オリゴアルギニン、penetratinがよく用いられる。Tatペプチド、オリゴアルギニンではアルギニンのグアニジノ基が膜透過の本質を担っていると知られている。そのためグアニジノ基を有するβ-ペプチド、ペプトイド、カルバメートなど天然アミノ酸以外のポリマー、直鎖構造を持たない[[デンドリマー]]型分子や糖鎖の誘導体など新しいベクターも開発されている。Tatペプチド、オリゴアルギニンを含む高分子の細胞内の取り込みにはクラスリンエンドサイトーシスに加えマクロピノサイトーシスが関与することが知られている。Tatペプチド、オリゴアルギニンが正に帯電しており細胞表面の[[プロテオグリカン]](負に帯電)と相互作用によりマクロピノサイトーシスが促進すると考えられている。
 
==== ;抗体薬物複合体 ====
抗体は高い抗原特異性を有することから、これに他の化合物を結合することで抗原を発現する細胞への特異的ターゲティングが可能である。例えば抗CD20マウスモノクローナル抗体に放射性同位体を結合すれば、CD20陽性細胞の近傍に放射性同位体をターゲティングしてβ線やγ線でCD20陽性細胞を傷害することができる。このような医薬品の代表例が[[ゼヴァリン]]である。また[[カドサイラ]]は乳癌の治療薬であるが抗HER2ヒト化モノクローナル抗体である[[トラスツズマブ]]にチューブリン重合阻害薬のDM1を結合している。また[[ゲムツズマブオゾガマイシン]]は急性骨髄性白血病細胞に高発現するCD33に対する抗体と、強力な殺細胞効果をもつ[[抗がん剤]]の[[カリケアミシン]]を結合させたものである。
 
==== 微粒子キャリア ====
微粒子キャリアには[[脂質ナノ粒子]](lipid nanoparticle、LNP)と高分子マトリクス微粒子がある。LNPには[[リポソーム]]、[[リピッドマイクロスウェア]]、[[高分子ミセル]]が知られている。
 
==== ;リポソーム ====
1964年にBanghamは[[レシチン]](卵黄ホスファジルコリン)の懸濁液を電子顕微鏡で観察し、ラメラ構造の二分子膜からなる小胞の形成を見出した。後にその小胞はリポソームと呼ばれるようになった。脂質分子は極性基と疎水性基からなる両親媒性物質で、水中では安定な二重膜構造をとりリポソームを形成する。リポソームは脂溶性薬物を膜内の疎水性部分に、水溶性薬物を内水相に包含できるためDDSキャリアとして有用である。リポソームは小さな一枚膜リポソーム(SUV)、大きな一枚膜リポソーム(LUV)、巨大な一枚膜リポソーム(GUV)多重層リポソーム(MLV)が知られている。調整法や調整に用いる脂質を選択することで粒子径、表面荷電、硬さなどを調節することができ、安定性や臓器への分布を制御することができる。リポソームの改善法としてステルス化(PEGリポゾーム)、トランスフェリンや糖鎖の修飾などが知られている。リポソーム製剤としては[[抗真菌薬]]の[[アムビゾーム]](リポソームアムホテリシンB)や[[カポジ肉腫]]治療薬の[[ドキシル]]などが知られている。アムホテリシンBをデオキシコール酸で懸濁させた注射薬のファンギゾンが、深在性真菌症治療薬として使用されてきたが副作用のため十分な投与量、投与期間が確保できなかった。アムビゾームはアムホテリシンBとコレステロール複合体がリポソーム膜に組み込まれた構造をしており、その平均粒子径が100nmと小さいため網内系細胞に取り込まれにくい。血中でリポソーム構造を維持したまま安定に存在し、正常組織においては血管から漏出しにくいのに対して、感染部位においては血管透過性の亢進によりリポソームが漏出し存在する真菌に特異的に作用し抗真菌活性を示す。2017年現在はがんのターゲティングに好適な100nm程度の粒径ならばリポソームでも作成することができるがそれよりも小さな粒径の場合は高分子ミセルでなければ作成することができない。
 
==== ;リピッドマイクロスフェア ====
[[高カロリー輸液]]に用いられる脂肪乳剤は精製大豆油を高度精製卵黄レシチンで乳化した脂肪微粒子(Lipid microsphere、リピッドマイクロスフェア)から成り立っている。脂肪乳剤は臨床においては[[イントラリポス]]、イントラファット等の名で使用され、安全性や安定性は十分に確立されている。脂肪性の薬物をこの脂肪微粒子に溶解させ、これをキャリアとして薬物の安定化や病巣へのターゲティングを狙ったものをリポ剤とよぶ。リポ剤の例としては関節リウマチ治療薬のデキサメサゾンパルミコート(リメタゾン)、[[NSAIDs]]のフルルビプロフェンアキセチル(ロピオン、リップフェン)、慢性動脈閉塞症の治療薬のアルプロスタジル(パルクス、リプル)、静脈麻酔薬の[[プロポフォール]](ディプリバン)などが知られている。
 
==== ;高分子ミセル ====
高分子ミセルは高分子から成るミセル構造のことである。高分子ミセルを薬物キャリアとしての研究は1980年代に始まったものでリポゾームなどの他のキャリアに比べると新しい部類になる。代表的な構成は親水性の鎖(A鎖)と疎水性の鎖(B鎖)からなるブロックコポリマーが、B鎖の部分を内核として数十~数百個の高分子が会合して形成する構造で内核に疎水性の薬物を内包する。B鎖としては疎水性鎖以外にも、鎖間に相互作用を生じる種類の高分子を用いることも可能である。例えば、イオン相互作用を生じる荷電性高分子鎖である。水溶性のA鎖としてはポリエチレングリコール(PEG)が用いられることが多い。最も標準的な構造は疎水性の低分子薬物を内包する球状[[ミセル]]である。リポソームでは水相に親水性の低分子薬物を内包することができるが標準的な高分子ミセルでは親水性薬物の封入が困難であるなど高分子ミセルとリポソームではいくつかの違いがある。高分子ミセルは疎水性薬物に対して大きな内包量をもつこと、10~100nmの小さな粒径が得られること、薬物放出速度の広い範囲での制御が可能なことなどはリポソームと比べて遊離な点である。しかし親水性薬物の封入が困難なこと、薬物封入法が未発達なこと、比較的に高度な高分子設計・合成が必要なことなどはリポソームより不利な点である。
 
[[核酸医薬]]など親水性の高分子はPICミセルなど特殊なミセルを用いる。天然高分子と異なり化学合成した高分子には分子量にばらつきがあり分子量分布があるという。分子量は平均分子量で表現される。
 
==== 核酸搭載微粒子キャリア ====
[[遺伝子治療]]で用いる[[プラスミド]]DNAや核酸医薬である[[アンチセンス核酸]]、[[siRNA]]などを想定し、これらを送達する微粒子キャリアについて述べる。[[リポプレックス]]、[[ポリプレックス]]、リポポリプレックスといった微粒子キャリアが知られている。どのキャリアでも以下のような機能が付加されていることが多い。
;PEG化
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細胞に内在化してから細胞内に放出されるまでの動態を制御することができる。例えば[[エンドサイトーシス]]により細胞内に取り込まれた後に、リサイクリング経路によって細胞外へ排出されたり、分解経路によって失効してしまうのを防ぐべく、[[エンドソーム]]内ではpHが低下して還元環境となる性質を利用して、封入した[[核酸医薬]]を放出したりエンドソームからの脱出を狙ったりするためのシステムを搭載できる。
 
===== リポプレックス =====
リン酸基に由来する負電荷を豊富にもつ核酸分子をカチオン性リポソームと混合すると静電的相互作用によって自発的に複合体を形成する。この複合体をリポプレックスという<ref>Adv Drug Deliv Rev. 2015 Jun 29;87:68-80. PMID 25733311</ref>。基本的に正電荷を帯びるリポプレックスは負電荷を帯びる細胞表面に吸着後、細胞内へ効率的に取り込まれ、エンドソームから細胞質内に移行した核酸は機能を発揮することができる。In vitroで培養細胞に遺伝子を導入するためのトランスフェクション試薬として開発された種々のカチオン性脂質とエンドソームからの放出を高める膜融合性の中性脂質を混合したリポソームなどがin vivoでも応用されている。ガラクトース、マンノースといった糖鎖や葉酸などで表面を就職してレセプターを介して細胞特異的に送達されるリポプレックスも開発されている。
 
Tekmira社がリポソームの脂質成分を徹底的にスクリーニングして開発したSNALPがよく知られている<ref>Nat Biotechnol. 2010 Feb;28(2):172-6. PMID 20081866</ref>。膜融合活性に優れた独自のpH応答性カチオン性脂質を含み、エンドソーム内の酸性環境下で中性からカチオン性に変化して効率的に膜融合を誘起する特徴をもつ。パチシランはSNALPを用いて静脈内投与にて肝臓にsiRNAを送達してトランスサイレチン型アミロイドーシスを治療する核酸医薬である<ref>Orphanet J Rare Dis. 2015 Sep 4;10:109 PMID 26338094</ref>。
 
===== ポリプレックス =====
カチオン性ポリマーと核酸分子との複合体がポリプレックスである。高分子ミセルがその代表であり、主に悪性腫瘍を対象として開発されている。高分子ミセルではPICミセルがよく知られている。[[東京大学]]大学院工学系研究科の[[片岡一則]]教授らはDNAを内核に保持し、外殻を生体適合性物質で覆うナノ粒子キャリアに注目している。PICミセル(ポリイオンコンプレックスミセル)は親水性で生体適合性の高い[[ポリエチレングリコール]](PEG)鎖とカチオン性高分子鎖をブロック状に連結したブロック共重合体が、水中でポリアニオンであるDNAやRNAと静電相互作用を駆動力として自律的に多分子会合した構造物を形成したものである。PICミセルは効率的に[[プラスミド]]DNAやアンチセンスDNAやsiRNAを内包することができる。しかし鎖長の短い核酸を内包したPICミセルは安定性が十分ではなく、一定の濃度以下では[[ミセル]]の解離が起こってしまう。
 
===== リポポリプレックス =====
カチオン性リポソームとカチオン性ポリマーの両キャリアを併用して調整した核酸分子との複合体がリポポリプレックスである。リポポリプレックスにPEG修飾や膜透過性ペプチドの導入をはじめ様々な機能を組み込んだものが[[北海道大学]]の原島秀吉らが開発したMEND(multifunctional envelope nano device)である。
 
== 吸収や分布の制御 ==
高分子医薬品の吸収や分布を変更する方法論として[[吸収促進薬]]などの[[添加物]]を利用する方法、薬剤の分子構造修飾、薬剤の剤形修飾といった方法がある<ref>Pharmacol Ther. 2020 Mar 20:107537. PMID 32201316</ref>。
 
=== 吸収促進薬の利用 ===
{{main|吸収促進薬}}
[[胆汁酸]]<ref>Molecules. 2015 Aug 10;20(8):14451-73. PMID 26266402</ref>および[[カプリン酸]]<ref>Biomaterials. 2013 Jan;34(1):275-82. PMID 23069717</ref>などの[[脂肪酸]]および脂肪酸誘導体が強力な吸収促進作用を有することは1980年代からひろく知られている<ref>Eur J Pharm Sci. 2000 Apr;10(2):133-40. PMID 10727879</ref><ref>Int J Pharm. 1999 Nov 25;191(1):15-24. PMID 10556736</ref>。臨床応用としてアンピシリンおよびセフチゾキシムの小児用坐薬にカプリン酸ナトリウムが用いられた例がある。これは唯一の吸収促進薬の臨床応用である。吸収促進効果が強い吸収促進薬は粘膜障害が強い傾向があり開発が困難であった。吸収促進薬の作用機序は[[タイトジャンクション]]の開口作用あるいは吸収細胞膜の脂質2分子膜の撹乱作用が提唱されるが未だに定説には至っていない<ref>[https://doi.org/10.1016/0168-3659(94)90072-8 Mechanisms of absorption enhancement and tight junction regulation Journal of Controlled Release 1994 Mar 29(3) 253-267]</ref>。[[細胞膜透過ペプチド]]や[[タイトジャンクション]]モジュレーターなど新しいタイプの吸収促進薬も開発されている。吸収促進薬は従来、消化管吸収経路に用いられてきたが近年は経鼻、経肺、口腔、直腸、経皮など各種粘膜吸収経路のほか、[[血液脳関門]]の通過技術としても利用される。
 
=== 薬剤の分子構造修飾 ===
[[吸収促進薬]]を利用する場合は対象薬物以外の非特異的な物質が通過するため副作用が懸念される。そのため薬物の分子構造自体に何らかの修飾基によって化学修飾することがある。この方法は実用例も多く[[アンピシリン]]の[[プロドラッグ]]であるピバンピシリンや[[タランピシリン]]などが知られている。よく用いられる化学修飾は脂肪酸修飾、糖修飾、胆汁酸修飾、ジペプチド化、[[トランスフェリン]]による修飾、[[細胞膜透過ペプチド]]など塩基性アミノ酸による修飾がある。糖修飾では[[グルコーストランスポーター]]、[[胆汁酸]]では胆汁酸トランスポーター、ジペプチド化では[[ペプチドトランスポーター1]]を利用しトランスサイトーシスの機序で吸収を促進すると考えられている。
 
=== 薬物の剤形修飾 ===
微粒子キャリアを用いて剤形修飾する場合がある。
 
== 関連項目 ==