「ヘクシャー=オリーンの定理」の版間の差分

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'''ヘクシャー=オリーンの定理''' (Heckscher-Ohlin theorem) は、[[スウェーデン]]の[[経済学者]][[エリ・ヘクシャー]]と[[ベルティル・オリーン]]が構築した[[国際分業]]パターンの形成に関する定理であり、[[国際経済学]]における最も基本的な定理の1つである。この定理によれば、各国の輸出と輸入の構造を決定するのは、各国に存在する資本や労働などの[[生産要素]]の[[賦存]]比率(物量同士の比率)である<ref>この説明は、伊東光晴編『岩波現代経済学辞典』p.2046の「ヘクシャー=オリーンの定理」の記述を、全面的に踏襲したものである。</ref>。
{{出典の明記|date=2015年3月13日 (金) 19:02 (UTC)}}
'''ヘクシャー=オリーンの定理''' (Heckscher-Ohlin theorem) は、[[スウェーデン]]の[[経済学者]][[エリ・ヘクシャー]]と[[ベルティル・オリーン]]が構築した[[国際分業]]パターンの形成に関する定理であり、[[国際経済学]]における最も基本的な定理の1つである。この定理によれば、各国の輸出と輸入の構造を決定するのは、各国に存在する資本や労働などの[[生産要素]]の[[賦存]]比率(物量同士の比率)である<ref>この説明は、伊東光晴編『岩波現代経済学辞典』p.2046の「ヘクシャー=オリーンの定理」の記述を、全面的に踏襲したものである。</ref>。
 
この定理を構築したオリーンは、この功績が称えられ、[[1977年]]に[[イギリス]]の[[国際経済学者]][[ジェイムズ・ミード]]とともに[[ノーベル経済学賞]]を受賞した。
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生産要素が国際間で全く移動せず、2財、2要素、2国を想定したケース([[ヘクシャー=オーリン・モデル]])において、ヘクシャー=オリーンの定理は直観的には次のように説明できる。
 
自国の[[労働]]に比べて[[資本]]の賦存量が希少である国では、資本の価格である資本の[[レンタル率]]と比較して労働の価格である[[賃金率]]が低くなっている。そのため、労働を比較的多く使用する[[労働集約財]]の価格が、[[資本集約財]]よりも安価になる。これに対して、自国の労働に比べて資本の賦存量が豊富である国では、賃金率と比較して資本のレンタル率が低くなっている。このため、資本を比較的多く使用する資本集約財の価格が、労働集約財よりも安価になる。すなわち、労働豊富国の比較優位は労働集約財にある。したがって、労働豊富国が労働集約財を輸出、資本集約財を輸入し、資本豊富国が資本集約財を輸出し、労働集約財を輸入することになる。これが、ヘクシャー=オリーンの定理の意味していることである。さらに、生産要素が国際間で全く移動しなくとも、賃金率や資本のレンタル率などの要素価格が両国で均等化することが「要素価格均等化定理」として知られている{{Sfn|クルーグマンほか|2017|pp=第5章}}
 
== 応用 ==
ヘクシャー=オリーンの定理からは、2つの定理を導出することができる。1つは、労働量が増加すると労働集約財の生産は増加するが資本集約財の生産は減少し、逆に資本量が増加すると資本集約財の生産は増加するが労働集約財の生産は減少することを意味する{{仮リンク|リプチンスキーの定理|en|Rybczynski theorem}}、もう1つは、労働集約財の価格が上昇すると賃金率は増加するが資本のレンタル率は減少し、逆に資本集約財の価格が上昇すると資本のレンタル率は上昇し賃金率は減少することを意味する{{仮リンク|ストルパー=サミュエルソンの定理|en|Stolper–Samuelson theorem}}である{{Sfn|クルーグマンほか|2017|pp=第5章}}
 
リプチンスキーの定理からは生産パターンと生産要素賦存量との関係に関する洞察を、ストルパー=サミュエルソンの定理からは生産価格と所得分配との関係に関する洞察を、得ることができる。
 
== 批判 ==
ヘクシャー=オリーン=サミュエルソンの理論は、新古典派国際貿易論の標準的理論となっているが、クルーグマン=オブストフェルト<ref>Krugman, P.R., and M. Obstfeld『国際経済―理論と政策』石井菜穂子・竹中平蔵・松井均・浦田秀次郎・千田亮吉訳、新世社。</ref>{{Sfn|クルーグマンほか|2017|pp=第5章}}ほかに批判されているように、現実との整合性に乏しいほか、理論上・実証上、多くの問題点がある。
 
{{See also|[[:en:Heckscher–Ohlin model#Criticism]]}}
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===実証面===
HO理論は、新古典派の標準的な貿易論として受入れられているが、実証的な裏付けに乏しいという指摘がある<ref>{{Sfn|クルーグマン&オプストフェルト『国際経済学』 上(貿易編)・下(金融編)、山本ほか|2017|pp=第5子訳、ピアソン桐原、原著第8版、2010年。</ref>}}。また、実証的には多くの反例がある<ref>もっとも簡単には竹中俊平『国際経済学』東洋経済新報社、1995年、第5章第4節「リオンチェフ以降の実証研究」</ref>。[[:en:Daniel Trefler{{仮リンク|ダニエル・トレフラー]]|en|Daniel Trefler}}は、これらを「ミステリー」と呼んだ<ref>Trefler, Daniel 1995 The Case of the Missing Trade and Other Mysteries. ''American Economic Review'' '''85''': 1029–1046.</ref>コンウェイは、「ミステリー」というのは、理論が棄却されたという暗号名(code name)であると指摘している<ref>Conway, P. J. 2002 The case of the missing trade and other mysteries: Comment. ''American Economic Review'' '''92'''(1): 394-404.</ref>。
 
===適応可能範囲===
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これらの前提には、以下のような問題がある。
 
;生産要素 : 1. は資本が土地や労働(力)とおなじく賦存要素であることを意味する。しかし、資本は、企業活動の必要によって形成されるものであり、また貿易の対象である<ref>{{efn|資本は商品であり、商品は商品により生産される<ref>ピエロ・スラッファ『商品による商品の生産』菱山泉・山下博訳、有斐閣、オンデマンド版2001年</ref>。}}。国際貿易論では、「要素移転」とテーマで資本の国際間移動が分析されているが、賦存要素という設定と貿易不能という仮定に問題があるとされる。
;生産関数 : 2. は貿易に従事する各国の各産業(各企業)がすべて同じ生産技術と効率とをもつことを意味する。(1)これは競争が支配する資本主義経済とはいえない。貿易を担うのが企業であるという新々貿易理論の観点と対立する。(2)生産要素の投入比率が自由に変えられる生産関数という概念は、農業などには適用できても、複雑な設計図に基づく工業製品には適用できない<ref>Nadal, Alejandro. Choice of technique revisited: a critical review of the theoretical underpinnings. Frank Ackerman, F. and Alejandro Nadal (eds.) ''The Flawed Foundations of General Equilibrium: Critical essays on economic theory'', Routledge, Chap. 6, 99-116.</ref>。(3)資本と労働の代替により利潤と賃金率が決まるという生産関数の考え方は、1960年代の[[:en:Cambridge capital controversy|資本測定論争]]により破綻している。
; 完全利用 : 3. は労働力については完全雇用を意味する。ケインズ以前の考え方であり、自由貿易を正当化する論点先取となっている<ref>田淵太一『貿易・貨幣・権力』法政大学出版局、2006年、第5章「新古典派貿易理論の誕生―「ケインズ革命」への不感応」</ref>。
 
HO理論は、生産要素と完成財の2分法に基づいている。そのため、[[中間財貿易]]・投入財貿易が基本的に扱えない。理論分析も、中間財という第三の分類を導入して行なわれている<ref>Jones, R.W.(2000) ''Globalization and the theory of input trade'' MIT Press.</ref>。しかし、中間財の生産は、用途が指定されているとは限らない。[[加工貿易]]の理論が発展しなかったのは、部分的にはHO理論のこの性格による。
 
== 参照文献出典・脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
 
<references/>
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="†"|}}
{{Notelist|2|}}
 
=== 出典 ===
{{Reflist|3|}}
 
== 参照文献 ==
* {{Citation| 和書
| author1 = [[ポール・クルーグマン]]
| author2 = [[モーリス・オブズフェルド]]
| author3 = {{仮リンク|マーク・J・メリッツ|en|Marc Melitz}}
| year = 2017
| title = クルーグマン国際経済学 理論と政策 上:貿易編 〔原書第10版〕
| publisher = 丸善出版
| series =
| isbn =
| translator = [[山形浩生]], [[守岡桜]]
| ref = {{sfnref|クルーグマンほか|2017}}
}}(原書 {{Cite| 洋書
| author1 = Paul Krugman
| author2 = Maurice Obstfeld
| author3 = Marc Melitz
| year = 2015
| title = International economics : Theory and policy
| publisher = Pearson Education Limited
| isbn =
}})
 
== 関連項目 ==