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'''セイバーメトリクス''' (''SABRmetrics'', ''Sabermetrics'') とは、[[野球]]においてデータを[[統計学]]的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法である。

== 概要 ==
セイバーメトリクスとは、野球ライターで野球史研究家・野球統計の専門家でもある[[ビル・ジェームズ]](George William “Bill” James, 1949年 - )によって1970年代に提唱されたもので、[[アメリカ野球学会]]の略称'''SABR''' (Society for American Baseball Research) と測定基準 (metrics) を組み合わせた造語である。ジム・アルバート、ジェイ・ベネットが著した『メジャーリーグの数理科学(原題Curve Ball)』はセイバーメトリクスについてわかりやすく解説している。
 
野球には、様々な価値基準・指標が存在するが、セイバーメトリクスではこれらの重要性を数値から客観的に分析した。それによって野球における采配に統計学的根拠を与えようとした。しかし、それは野球を知っているものならば「常識」であるはずのバント・盗塁の効力を否定するなど、しばしば野球の従来の伝統的価値観を覆すものであると同時に、ジェームズ自身が本格的に野球をプレーした経験が無く、無名のライターに過ぎなかったこともあって当初は批判的に扱われた。この理論が一般的に知られるようになった現在でも「野球はデータではなく人間がプレーするもの」という信念を持つ人々からは歓迎されていない風潮がある。一方、メジャーリーグは、公式記録にセイバーメトリクスに基づく指標を複数使用している。
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セイバーメトリクスは[[令和]]期に入っても日本球界に定着しているとは言い難く、2020年の報道では専門家が「セイバー的には送りバントは勝ちにつながる作戦とはいえない」と指摘すると「そうなんですか!」と驚いた解説者がいたという<ref>[https://toyokeizai.net/articles/-/369801 送りバントを妄信する日本球界が気づかぬ現実(1/5ページ)] 東洋経済ONLINE 2020/08/20 11:30 (2020年8月20日閲覧)</ref>。
 
== セイバーメトリクスの歴史 ==
軍隊を退役した後に缶詰工場に警備員として勤務していたジェームズが「夜勤の暇つぶしに」自分の趣味である野球データの分析をしていたことがセイバーメトリクスの始まりである。彼は[[1977年]]に ''Baseball Abstract 1977 : Featuring 18 Categories of Statistical Information that You Just Can’t Find Anywhere Else'' (直訳すると、『野球梗概 1977 : 知られざる18種類のデータ情報』。後述のルイスの著書の邦訳版では『野球抄』と訳された)という68ページの小冊子を[[自費出版]]した。この本でジェームズは「エラーという概念が実情にあっていないこと」などいくつかの従来の常識を覆す仮説の提示と分析を行った。この本の購入者はたった75人であったが、同時期のコンピュータの発達とともにデータ分析の自由度が増し、''Baseball Abstract'' は年を重ねるごとに購読者を増やしていった。読者数の増加とともに野球データの分析を行うファンの数も増えていった。そして、ジェームズはこのデータ分析を”セイバーメトリクス”と名づけた。''Baseball Abstract'' はスポーツ専門雑誌「[[スポーツ・イラストレイテッド]]」のライターの目に留まり、[[1982年]]にニューヨークの出版社から販売されベストセラーとなった。
 
[[1980年代]]に入るとアメリカでは一般にも広く知られた存在となり、統計の専門家も趣味としてデータの分析に当たるようになった。しかし、保守的な勢力が強いメジャーリーグはこのような動きに対して興味を示そうとしなかった。メジャーのデータを管理していたエライアス・スポーツ・ビューロー社もセイバーメトリクス愛好家(セイバーメトリシャン)にはデータを一切提供しようとしなかった。そのため、ジェームズは知人が設立したデータ分析専門の会社、[[STATS]](スタッツ)社(後述)で独自にデータを集計した。さらに、メジャー球団に集計したデータを提供しようとしたが、これも相手にされなかった。STATS社は方針転換し、集計したデータを野球ファン向けに販売した。これが当たって会社は急成長し、スポーツ専門テレビ局[[ESPN]]や全国紙[[USAトゥデイ]]が顧客となり、野球ファンの貴重な情報源となっていった(その後、[[1999年]]にSTATS社は大手テレビ局[[FOXニュース]]に吸収合併された)。
 
しかし、セイバーメトリクスはジェームズの本来の目的である実際の球団運営には反映されることはなかった。一部の実業家は実際に球団のオーナーとなりこれを実践しようとしたが、選手・監督・スカウトの理解を得られず挫折していった。ジェームズは一向に変わらない状況に徐々に熱意を失い、12冊目の ''Baseball Abstract'' を発行した後、執筆活動をやめてしまった(後に再開)。
 
[[1983年]]に[[オークランド・アスレチックス]]の[[ゼネラルマネージャー|GM]]となった[[:en:Sandy Alderson|サンディ・アルダーソン(Sandy Alderson)]]は、元は[[弁護士]]でプロ選手経験が全く無く、過去の常識に縛られることがあまり無かった。そのため、セイバーメトリクスに興味を持ち、出塁率を徹底重視することをマイナーの選手たちに説いた。[[1995年]]にオーナーの交代によってチームの財政状況が厳しくなると、より効率的に資金を運用するためにメジャーチームでも出塁率・長打率を重視して球団運営を行うようになった(これにより、伝統的価値観を重んじる当時の監督[[トニー・ラルーサ]]との確執は決定的となり、この年限りでラルーサは監督を辞任することになる)。
 
[[1990年代]]後半にはメジャーリーグでもチーム戦略の一環として重視されるようになった(セイバーメトリクスを重視するチームは'''新思考派'''と呼ばれる)。特にアルダーソンの後任として[[1997年]]にアスレチックスのGMとなった[[ビリー・ビーン]]の球団運営戦略を紹介したノンフィクション『[[マネー・ボール]]』(マイケル・ルイス著)により、日本でも一般的に知られるようになった。しかし、日本の野球界ではまだ伝統的価値観が支配的であり、戦略として積極的にセイバーメトリクスを取り入れるチームは少なく、千葉ロッテマリーンズがデータ解析専門家にポール・プポを招聘している程度である。
 
アメリカでは、セイバーメトリクス専門のシンクタンクがいくつか誕生しており、特にベースボール・プロスペクタス(Baseball Prospectus、通称BP)が有名である。このBPはセイバーメトリクスを駆使して個々の選手の未来の成績を予測するコンピュータ・システム'''PECOTA'''(Player Empirical Comparison and Optimization Test Algorithmの略)を開発。[[2003年]]から毎年シーズン前に「活躍予報」を発表している。
 
メジャーリーグでは、セイバーメトリクスに基づく指標 ([[OPS (野球)|OPS]]、[[WHIP]]、RF: [[レンジファクター|アウト寄与率]]、[[P/IP]]、 [[ゴロ/フライ比率|GB/FB]]、[[K/BB]]、[[三振#奪三振率|K/9]]、[[四球#与四球率|BB/9]]、[[守備率#守備効率|DER: 守備効率]]、など) を公式記録に使用している。
 
また、セイバーメトリクスの各種指標によるメジャーリーグの選手成績や記録等を、[[ESPN]]、[[スポーツ・イラストレイテッド]]、[[CNN]]、[http://www.baseball-reference.com/ Baseball-Reference]、[[MSN]](マイクロソフト)、三大放送局ネットワークの[[NBC]]、[[CBS]]、[[アメリカン・ブロードキャスティング・カンパニー| ABC]]などの主要なメディアが公表している。([[セイバーメトリクス#外部リンク|参照]])
 
== セイバーメトリクス以前 ==
野球と統計の関わりはジェームズの研究から始まったものではない。[[1800年代]]からすでに野球をデータ化する試みは始まっていた、[[1845年]]には[[ボックス・スコア]]が発明されていた。そして、野球における最もポピュラーな指標といえる[[打率]]も[[1859年]]には誕生している。イギリス人[[ジャーナリスト]][[ヘンリー・チャドウィック]]によって生み出されたこの指標は打者の攻撃能力を測る指標だが、チャドウィックが「[[四球]]は完全に投手のミスによる産物である」としたために、四球は含まれず[[安打]]のみで算出されるものとなった(これにより[[出塁率]]は長きに渡って打率に比べ低い扱いを受けることとなる)。チャドウィックは[[打点]]という指標も作ったが、打点を打者個人の手柄にしてしまった(塁上に走者がいるか否かは打者側から見れば偶然の要素が大きい。仮に偶然で無いならば寧ろ走者になった選手の貢献が打者より大きいはずである)。このように、正確性を期そうと単純化を図るあまりに当時の指標には現実と乖離したものが多かった。
 
ジェームズと同様の統計的な研究を行うものもいた。製薬会社に勤めていた[[ディック・クレイマー]]はコンピュータで独自の野球理論の検証を行い、より詳細なデータを集めるために、同様の趣味を持つ軍事企業勤務の[[ピート・パーマー]]とSTATS社を設立した。なお、クレイマー、パーマーは後にジェームズと共同で[[OPS (野球)|OPS]]を開発したセイバーメトリシャンである。
 
== 関連書籍 ==