「オドントティラヌス」の版間の差分

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「インド」は、現在ではパキスタン内
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[[File:Thomas-de-Kent-Bnf-fr24364-fol54v-dent tyrant.jpg|thumb|300px|ダン・ティラン<!--dent-tyrant-->(オドントティラヌス)がマケドンニア兵を襲う図<br />{{right|{{small|—14世紀の写本、{{仮リンク|トマス・ド・ケント|en|Thomas de Kent}}のアレクサンドロス記より(フランス国立図書館所蔵)}}<ref name=cary>{{cite book|last=Cary |first=George |title=The Medieval Alexander|publisher=University of Cambridge Press |year=1956 |url=http://books.google.com/books?id=rCg9AAAAIAAJ&pg=PA35 |pages=35–36}}</ref>}}]]
 
'''オドントティラヌス'''({{lang-la|odontotyrannus, dentityrannus}}{{Refn|group="注"|他 dentes tirannus, dentestyrannus。}})または'''オドントテュランノス'''は{{Refn|group="注"|{{lang-gr|όδοντοτύραννος}}。}}、[[アレクサンドロス大王]]の一行がインド([[インダス川]]流域、現・パキスタン領内)で野営中に襲われたという巨大な三角獣。
 
「アレクサンドロスよりアリストテレスに宛てたインドに関する書簡」という文書{{Refn|group="注"|ラテン語原題は ''Epistola Alexandri ad Aristotelem''。}}に記述があり、[[アレクサンドロス・ロマンス]]にも言及されている<ref name=harf-lancner/>。オドントティラヌスは「歯の[[僭主]]」を意味する{{sfnp|Stoneman|2012|p=9}}。
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ラテン語で保存される「アレクサンドロスよりの書簡」によれば、頭は黒色の馬面で、額から三本の角を生やした、[[ゾウ]]を超えた巨大さの生物であった。火で脅しても怖じず、[[マケドニア]]軍の26人を殺し{{Refn|group="注"|異本では36人。}}、52人を戦闘不能にしたが、ついには狩猟用の槍で刺して仕留められた。インド現地人のあいだでは「歯の僭主」という名で呼ばれていた{{Refn|group="注"|ラテン語では dentityrranus, odontatyrannus 等と記述される。「アレクサンドロスよりの書簡」の版本では dentityrranus とするものがあるが、幾つかの写本や、 Kübler 編本では odontatyrannus (オドン<u>タ</u>ティラヌス) と綴る{{sfnp|Rypins|1924|p=88 n2}}{{r|gunderson}}。}}{{sfnp|Orchard|2003|pp=126–7}}。
 
ラテン語のアレクサンドロス記として有名なものに{{仮リンク|ユリウス・ウァレリウス・アレクサンデル・ポレミウス|en|Julius Valerius Alexander Polemius|label=ユリウス・ウァレリウス}}がで表した『マケドニア王アレクサンドロスの事績』{{Refn|group="注"|ラテン語原題は ''Res gestae Alexandri Macedonis''。}} (4世紀初頭)があるが、この出例では、オドントティラヌスの表記{{Refn|group="注"|odontotyrannusの綴り。}}が見られる。また、この怪物を仕留めた後、その屍体を川から引き上げるのに300人を要したとも付記されている{{Refn|group="注"|ラテン原文は".. vix trecentorum hominum manus nisu extractus de flumine"。}}{{sfnp|Skeat|1886|pp=221, 309n}}{{r|gunderson}}
 
[[シリア語|シリア訳]]『偽カリステネス』では、怪物には違った名称'''マシュケラト'''または'''マシュケレト'''が充てられるが{{Refn|group="注"|{{lang-syr|ܡܫܩܠܬ}}; Mashḳělath, Mashklet。}}<ref>{{harvnb|Budge|1896|p=150, n1}}</ref>{{r|perkins-woolsey}}、死傷者などの記述に差はない{{Refn|group"注"|ここでも怪物は26のマケドニア兵の人命を奪ったとされ、300人で死骸を溝から曳きあげている。}}{{sfnp|Budge|1889|pp=98}}。[[アルメニア語|アルメニア訳]]『偽カリステネス』になると、同じ怪物の名は一角獣とされており、同じ引き揚げ労働に強いられた人数は1300人に増えている{{r|wolohojian}}{{r|pritchard}}。
 
[[エチオピア語|エチオピア訳]]では、ゾウに匹敵する大きさの怪物とされ、象牙かイノシシの牙のようなものを生やしていた。名称は記されていない。腹を裂くと、胃の内容物から[[サソリ]]や牛ほどの大きさの巨魚が発見された{{sfnp|Budge|1896|pp=149–150}}。{{仮リンク|ガラティアのパラディオス|en|Palladius of Galatia|label=パラディオス}}著『ブラフマン列伝』(5世紀){{Refn|group="注"|英訳題名は ''On the Life of the Brahmans''。3つの校本があるが、バチカン本の抄本であるバンベルク本を "Commonitorium Palladii de Bragmanis" とも称す({{Harvnb|Stoneman|2012|pp=xxv; 113n}})。}}や、{{仮リンク|ゲオルギオス・ハマルトロス|en|George Hamartolos}}の編年誌(5世紀)によれば、オドントテュランノスは{{Refn|group="注"|όδοντοτύραννος}}水陸両棲の食肉獣で、ゾウを丸呑みできたという{{sfnp|Stoneman|2012|pp=38, 31–32}}。
 
古フランス語文学では、{{仮リンク|アレクサンドル・ド・ベルネー|en|Alexandre de Bernay}}{{Refn|group="注"|アレクサンドル・ド・パリとも称す。}}の『アレクサンドル物語』に「ティラン(tirant)」{{r|perkins-woolsey}}、 {{仮リンク|トマス・ド・ケント|en|Thomas de Kent}}の『全騎士道物語』に「ダン=ティラン(dent-tyrant)」として登場する{{r|cary}}。[[中英語]]『{{仮リンク|キング・アリサンダー|en|King Alisaunder}}』では「ドゥティランス(deutyrauns)」である{{r|perkins-woolsey}}{{r|weber}}。
 
==実在動物の比定==
これが自然界に実在するどの動物に該当するかの考察については、様々な意見がある。[[ウォーリス・バッジ|E・A・ウォーリス・バッジ]]等は、[[ガンジス川]]流域に生息する[[ワニ]]類だろうとし、怪物のシリア名は、ヒンドゥー神話の[[マカラ (神話)|マカラ]]の転訛ではないかとした(マカラは、ワニ・ゾウなどの上半身と魚尾をもつ合成獣){{sfnp|Budge|1889|pp=98}}。あるいは[[クテシアス]]の『インド誌』に記された長い一対の歯を持つ肉食の巨虫{{仮リンク|スコレックス (伝説の虫)|en|Indus worm|label=スコレックス}}に由来するともいわれる{{sfnp|Stoneman|2012|p=xxiii}}。マカラ由来説や、スコレックスの影響説は、近年のグンダーソン等も支持している{{sfnp|Gunderson|1980|pp=103ff}}{{r|pritchard}}。他にも[[サイ]]由来説があるが、まるっきり伝説上の生物の可能性も否定できない<ref name=rookmaaker>{{cite web|url=http://www.rhinoresourcecenter.com/pdf_files/132/1327191137.pdf |title=Source Book of the Rhinoceros |publisher=Rhino Resource Center |author=Dr Kees Rookmaaker |accessdate=2015-09-13}}</ref>。
 
==元のサンスクリット名==
オドントティラヌスはあくまでギリシア語の意訳名であり、元来は「歯の僭主(タイラント)」を意味するインド名である。19世紀、[[クリスチャン・ラッセン (東洋学者)|クリスティアン・ラッセン ]]は、元の[[サンスクリット語|サンスクリット]]名を復元するならそれは「歯の主」を意味するダンテーシュヴァラ(*danteśvara)であろうと主張した<ref>{{cite book|url=https://archive.org/stream/bub_gb_4mRpAFdkpvsC#page/n391/mode/2up|title=Indische Alterthumskunde|volume=3|year=1858|location=Leipzig|publisher=L. A. Kittler|page=375}}</ref>。これは danta 「歯」と[[:en:Ishvara|īśvara]] (イーシュヴァラ)「主」から成る複合語であるが、これは示される用例がない。ロジャー・グーセンスはこれを否定し{{sfnp|Goossens|1929}}、元の語は「歯の主」とも「爬虫類(など卵生の生き物)の主」とも二重の意味を兼ねるドヴィジャラージャ(dvijarāja)であると提唱した<ref>{{citation|last=Seldeslachts |first=Erik |title=Translated Loans and Loan Translations as Evidence of Graeco-Indian Bilingualism in Antiquity |journal=L'antiquité classique: revue semestrielle |volume=67 |year=1998 |page=286 |url= http://www.persee.fr/doc/antiq_0770-2817_1998_num_67_1_1320}}</ref><ref>{{citation|last=Jalabert |first=Louis |title=Bulletin du Byzantinisme |journal=Recherches de science religieuse |volume=20 |year=1930 |page= 468–469 |url=https://books.google.com/books?id=ncQnAQAAIAAJ}}</ref>。
 
== 脚注 ==