「発掘調査」の版間の差分

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広義には、地表面からは確認できない遺構の所在を確認するための'''試掘調査'''(しくつちょうさ、trial excavations)や遺構の性格の概要までを把握する'''確認調査'''(かくにんちょうさ)を含む遺跡の調査総体をいう。[[トレンチ調査 (考古学)|トレンチ]](試掘坑、trial trench)とよばれる溝を、通常幅1m~2mくらいの任意の幅で、交差する二方向ないし平行に掘っていき、それによって遺構の広がりの確認をおこなう。また、10mの方眼([[グリッド]])を調査区全体に設定して、一定の間隔で短いトレンチを入れたり、2mの方眼を一区おきに表土をはがして、遺構の有無を確認する場合もある。
 
遺跡の有無を広域にわたって把握するために踏査を行なって遺物の表面採集を行なうものを'''[[一般調査]]'''(general survey、遺跡分布調査、単に'''分布調査'''ともいう。)といい<ref name="hirose21">[[#広瀬|広瀬(2007)pp.21-22]]</ref>、遺構や遺跡の有無を確認するために、1地点をスコップで掘り下げたり、ボーリング棒([[検土杖]])を突き刺すことがあるが、主として地表面から確認できる範囲で遺跡の所在を確認することが主体の調査であって、通常は発掘調査のカテゴリーには含まれない。森林の伐採や考古学的知見の増加といった客観的ないし主観的な条件が変化したことによって調査成果が大きく変わる可能性があり、水田遺跡などは遺物をほとんど伴わないので検出は一般に困難をともなう<ref name="hirose21" />。しかし、古墳や中世城館、窯跡、集落遺跡などは、全体の状況を把握するうえで分布調査は欠かせない<ref name="hirose21" />
 
古墳や寺院跡、山城などについては、現状の測量だけでも形状や規模がある程度確認できるものについては、'''実測調査'''をおこなう必要がある<ref name="hirose21" />。前方後円墳などは、これだけでも編年や地域色、設計企画などといった研究に資するところが大きい<ref name="hirose21" />。
 
=== 学術調査と土地開発行為にともなう調査(緊急調査) ===
[[File:Kyoto-hakkutu-huukei.jpg|thumb|土地開発行為にともなう京都市内の調査(江戸時代の層の下に秀吉時代の盛土層、室町、平安、古墳、弥生などの文化層がつづく)]]
 
[[平城宮]]跡や[[藤原宮]]跡など、範囲が判明し、その重要性が指摘されている遺跡は、[[特別史跡]]や[[史跡]]などの[[文化財]]指定がなされ、'''学術調査'''がなされる<ref name="hirose27">[[#広瀬|広瀬(2007)pp.27-28]]</ref>。学術調査は、通常、年度をまたぐ調査計画が立てられ、計画にもとづき、遺跡保存を前提にしておこなわれる調査である。その多くは公有化が進められ、研究成果にもとづき往時の姿に復元される<ref name="hirose27" />。遺構や遺物には保存の措置が講じられ、史跡公園などとして国民にひろく公開されることが多い<ref name="hirose27" />
 
いっぽう、建築物を建てる際や[[道路]]、[[鉄道]]などを通す際の土地の再利用の際に破壊が予測される遺跡を記録保存するために[[地方公共団体]]、財団法人の埋蔵文化財調査事業団もしくは[[埋蔵文化財センター]]、地方公共団体が[[大学]][[教授]]などに依頼して組織された発掘調査団、[[遺跡調査会]]などがおこなう発掘調査を特に'''緊急発掘調査'''(あるいは単に'''緊急調査''')<ref group="注釈">Wikipedia英語版には、''development-led excavation(excavation''(開発行為に伴う発掘調査)と表現されていることがある。[[コーリン・レンフリュー|レンフリュー]]は、''salvage excavations'' と呼んでいる (Renfrew, C. et. al. 1991, 1996, pp. 526-7)。</ref>と呼ぶことがある<ref name="hirose26">[[#広瀬|広瀬(2007)pp.26-27]]</ref>。学術目的の調査は、予算・期間・組織的な制約もあって小規模なものであったが、各種開発工事にともなう発掘調査は、場合によっては数万平方メートルにおよぶ大規模なものも稀ではなく、おびただしい数の考古資料が検出されたので、いきおい考古学のあり方そのものを変質させたし、調査方法や調査体制も変化した<ref name="hirose26" />
 
[[周知の埋蔵文化財包蔵地|埋蔵文化財包蔵地]]でなくても工事中に偶然遺跡が発見される(不時発見)ことがしばしばあるが、多くは発掘調査終了後に記録として保存されるのみで遺跡は破壊される場合が多い。しかしその中でも本来の計画を変更し、歴史公園などとして保存する例もある。そういった例では、工業団地造成のための発掘調査で大規模な集落跡が見つかった[[佐賀県]]の[[吉野ヶ里遺跡]]が特に有名である。同様に、[[青森市]]の[[三内丸山遺跡]]は野球場建設、[[大阪府]][[藤井寺市]]の[[はさみ山遺跡]](梨田地点)は住宅建設にともなう調査であり、いずれも保護措置(現状保存)がとられた。
 
===整理作業と発掘調査報告書===
発掘で得られた図面や遺物は、遺跡調査団体の作業室に送られ「整理作業」が行われる。整理作業では、遺物の[[実測図 (考古学)|実測]]図作成や写真撮影、遺構図面作成等を行う<ref name="hirose21" />。同時に、遺跡概要や調査経緯・考察を述べる本文執筆が行われる。出来上がった本文・図面・写真図版などを編集し、[[発掘調査報告書 (考古学)|発掘調査報告書]]として発行する。報告書の発行をもって発掘調査は完結するのである<ref name="hirose21" />
 
報告書は「現状で保存できなかった埋蔵文化財に代わって後世に残る公的性格をもった重要な存在」と位置付けられており<ref>[http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/pdf/hokoku_06.pdf 文化庁 2004年(平成16年) 報告 pp.11]</ref>、各地の公立[[図書館]]や大学付属図書館、[[博物館]]などに所蔵されており、閲覧することができる。[[奈良文化財研究所]]の運営する[[機関リポジトリ]]である[[全国遺跡報告総覧]]でも閲覧できる。
 
=== 遺跡発掘調査に必要なこと ===
遺跡の構造を解明していくためには、分布調査や実測調査のみでは不十分であり、発掘調査という方法を用いることなしに考古資料にふくまれる情報を十分にとりだすことは困難である<ref name="hirose21" />。発掘調査には、分布調査・実測調査以上に豊富な技術・知識・経験が求められ、十分な経費や調査計画、調査組織も必要である<ref name="hirose21" />。遺跡は、一度掘ってしまうと、遺構の形状や切り合い関係、共伴関係、あるいは遺物の出土状況、層位といった一切が二度と元には戻らない<ref name="hirose21" />。慎重さを欠いた調査は、遺跡の「破壊」にほかならないのである<ref name="hirose21" />。
 
== 古生物学における発掘調査 ==
== 参考文献 ==
* [[文化庁]]文化財保護部『埋蔵文化財発掘調査の手びき』[[国土地理協会|(財)国土地理協会]]、1966.11
* {{Cite book|和書|author=高橋一夫|chapter=発掘調査の実施|editor=安蒜政雄(編)|year=1997|month=11|title=考古学キーワード|publisher=[[有斐閣]]|series=有斐閣双書|isbn=4-641-05860-1|ref=高橋}}
* {{Cite book|和書|author=[[広瀬和雄]]|year=2007|month=5|title=考古学の基礎知識|publisher=角川学芸出版|isbn=978-4-04-703409-9|ref=広瀬}}
*[http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/pdf/hokoku_06.pdf 『行政目的で行う埋蔵文化財の調査についての標準(報告)』]2004年(平成16年)10月29日 文化庁(埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査研究委員会)