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|観点=2019年12月}}
[[File:breastfeeding infant.jpg|thumb|upright=1.36|A baby breastfeeding]]
'''母乳栄養'''(ぼにゅうえいよう)とは、[[栄養]]のために[[母乳]]を[[乳児]]に[[授乳]]すること。[[粉ミルク]]による人工栄養と対となる。乳児に栄養を与える手段として最善であり、特に女性の[[乳房]]の[[乳首]]を直接乳児に吸わせることが望ましいとされている。以下、断りのないかぎり「授乳」を「母乳栄養」および「直接乳房から母乳を与えること」の双方の意味で用いる。「乳児」には[[新生児]]も含める。
[[感染]]のリスクや特定の[[先天性代謝異常症]]のなどの例外を除いて、母乳は多くの[[乳児]]の健康にとって最良の食事である。母乳中の栄養構成は、母親の食事の影響を受ける。
多くの薬品で「授乳中は服用を避けるように」と表示されている。これは授乳中の服薬の安全性について直接的な証拠を得ることが倫理的に困難なためであって、母乳に移行する薬剤は微量に過ぎないことも多い。児の健康のためには母親の体調も重要である。自己判断だけで服薬や授乳を中止するようなことは避け、服薬の調整や授乳可能かについて医師などと相談することが大切だ <ref name="ncchd">{{Cite web |url = https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/index.html | title = 授乳中にお薬を使うにあたって知っておいていただきたいこと | publisher = 国立成育医療研究センター | accessdate = 2020-12-06 }}</ref>。授乳中に安全に使用できると考えられる薬の一覧や、電話を含む相談方法、各都道府県における「妊娠と薬外来」の所在地については、[[国立成育医療研究センター]]妊娠と薬情報センター<ref name="ncchd" />のウェブサイトで確認できる。
[[世界保健機関]](WHO) は行き過ぎた宣伝を抑止するために1981年に「母乳代替品のマーケティングに関する国際基準」をまとめた<ref name="International Code"/>。その5条では一般消費者に宣伝すること自体が禁止されている。[[米国小児科学会]](AAP)など、多くの政府機関や国際機関、学会が母乳栄養を推奨している。
== 乳汁合成 ==
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母乳栄養の利点は身体、精神両面にわたり、母子両者に及ぶ。子供は母体からの栄養素と抗体が得られる。授乳はまた心理的に母子の絆を強める。また、母乳栄養を行うと正常な[[腸内細菌叢]](フローラ)が早期に形成され、[[下痢]]の防止と免疫機能に役立つ。
2007年の世界がん研究基金とアメリカがん研究協会による報告では、子どもを病気やがんのリスクを増やす肥満から守るとし、6か月以上の母乳哺育をがん予防のため推奨している<ref>{{cite book|author=World Cancer Research Fund and American Institute for Cancer Research|url=http://wcrf.org/int/research-we-fund/continuous-update-project-cup/second-expert-report |title=Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: A Global Perspective|year= 2007|publisher=Amer. Inst. for Cancer Research|isbn= 978-0972252225}} 日本語要旨:[http://www.wcrf.org/sites/default/files/SER-SUMMARY-(Japanese).pdf
=== 乳児の死亡率の低下 ===
死亡した乳児(新生児を除く)を対象として調査した結果(1957年東京都)によれば、母乳栄養、混合栄養、人工栄養の各栄養法による死亡率比は、成熟児については、ほぼ1:2:3、未熟児については、ほぼ1:2:4の値を示していた<ref name=aikawa/>。
健康な母体の母乳を飲んでいる子は[[乳幼児突然死症候群]] (SIDS) 等の危険が少なく、SIDSの発症率は母乳を飲む場合が1のとき非母乳は4.8である<ref>{{Cite web|url=http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/tthc/eisei/tobacco/materials/files/manual_ch.3-5.pdf|title=妊娠・出産・育児とたばこ|work=「中学生向け防煙教材マニュアル」 3 中学生向け防煙教材 <基礎知識編>|format=PDF|publisher=[[東京都福祉保健局]]|accessdate=2010-10-15}}</ref>。[[厚生労働省]]は、SIDSの予防として母乳栄養を推奨している<ref name="mhlw">{{Cite web|url=
=== 子どもにとっての利点 ===
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* 授乳中の妨害、中断。
* 母親から長時間引き離された場合。
* 風邪でもしばしば授乳が困難になる<ref>[http://www.kellymom.com/health/illness/baby-illness.html My baby is sick
* [[嚥下困難]]、耳や咽の炎症による痛みなどで。
* [[外科学|外科]]的[[疼痛]]([[割礼]]、血液検査、[[ワクチン]]接種、など無麻酔で行われるもの<ref>[https://web.archive.org/web/20060105104945/http://aappolicy.aappublications.org/cgi/content/full/pediatrics%3b108/3/793 The Assessment and Management of Acute Pain in Infants, Children, and Adolescents -- Committee on Psychosocial Aspects of Child and Family Health 108 (3): 793 -- AAP Policy](2006年1月5日時点の[[インターネットアーカイブ|アーカイブ]])、
子供が成長し、歯が生えてくると授乳に困難をきたすようになる。断乳のチャンスでもあるが、なんとか授乳を続けることもできる。
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[[ω-3脂肪酸]]である[[ドコサヘキサエン酸]](DHA)は脳などの[[リン脂質]]に含まれる脂肪酸の主要な成分であり、胎児、乳児はDHAを多く必要とする。DHAを多く含む[[シーフード]]をたくさん摂取するところほど[[母乳]]内のDHAは高く、産後うつ病の有病率は低かった。母体から胎児への転送により、妊娠・出産期には母親には無視できないω-3脂肪酸の枯渇の危険性が高まり、その結果として産後のうつ病の危険性に関与する可能性がある<ref name=saitama>岡田斉、萩谷久美子、石原俊一ほか「Omega-3多価不飽和脂肪酸の摂取とうつを中心とした精神的健康との関連性について探索的検f討-最近の研究動向のレビューを中心に」『人間科学研究』(30),2008,pp87-96. {{NAID|120001859287}}</ref>。ω-3脂肪酸である[[α-リノレン酸]]からヒトの体内でDHAを合成することもできる。[[植物油]]は[[ω-6脂肪酸]]である[[リノール酸]]を多く含むものが多く、バランスよくω-3脂肪酸を摂取する必要がある。
魚に水銀が含まれるため摂取の仕方に推奨があるが、魚に含まれるω-3脂肪酸は胎児の発育を促し、水銀の少ない魚類の平均的な摂取量であれば問題は生じない<ref name="pmid20974411">{{cite journal |authors=Skerrett PJ, [[ウォルター・ウィレット|Willett WC]] |title=Essentials of healthy eating: a guide |journal=J Midwifery Womens Health |volume=55 |issue=6 |pages=
授乳中に完全に禁止される食品はないが、母親が何か特殊なものを摂取した場合、赤ん坊にはそれに対する感受性があるかもしれない。授乳アドバイザーによっては、赤ん坊が夕暮れ泣き(baby colic、生後6 - 8週程度の新生児が決まって夕方になると泣くこと)や[[屁|おなら]]を始めたら[[豆]]のようなガスを生ずる食品を控えるように指導する。
牛乳タンパク質は、乳製品を食べた母親の母乳中からも検出される<ref name="pmid20416019">{{cite journal |authors=Alexander DD, Schmitt DF, Tran NL, Barraj LM, Cushing CA |title=Partially hydrolyzed 100% whey protein infant formula and atopic dermatitis risk reduction: a systematic review of the literature |journal=Nutrition Reviews |volume=68 |issue=4 |pages=
母乳栄養を行う母親は[[喫煙]]と[[ニコチン]]摂取に注意すべきである。母親がヘビースモーカー(一日当たり20本を超える)である場合、母乳の生成が減少することや、[[嘔吐]]、下痢、[[頻脈]]、落ち着きのなさの原因になることが知られている。こういった場合、母乳栄養の利点と、ニコチンによって引き起こされる可能性のある問題のどちらが大きいかは現在研究中である。喫煙環境では乳幼児突然死症候群(SIDS)が起りやすいことも知られている<ref>[https://web.archive.org/web/20030621224728/http://www.sids.org/nprevent.htm American Sudden Infant Death Syndrome Institute](2003年6月21日時点の[[インターネットアーカイブ|アーカイブ]])</ref>。喫煙者の母親は、授乳開始前から授乳中にかけて煙草を吸わないようカウンセリングされ、節煙や禁煙について誰かに手助けしてもらうことを勧められる。
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授乳中の母親が[[カフェイン]]をとりすぎると、落ち着きのなさ、不眠、神経質、多飲といった状態が子供に起こりうる。<!-- 適量(一日1 - 2杯)ならば通常全く問題がない。※コーヒーなのか?、だとしても表現があいまいすぎる -->授乳中の母親はカフェインを控えるべきだとアドバイスされる。
[[マリファナ]]に含まれるような[[カンナビノイド]]はAAPによって乳汁移行性のある化合物として挙げられている<ref>山本郁男、「大麻文化科学考(その11)
== さまざまな授乳のしかた ==
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伝統的に日本では家庭で出産し、乳房をマッサージしながら母乳を直接授乳した。断乳は遅めで、稀な例では思春期の初めごろまで母乳を与えることがあった。第二次世界大戦後、(近代西洋医療の)医療機関の普及にともない、病院(産院)での出産が増え、そこでは新生児は新生児室に入れられ粉ミルクを与えられた。アメリカでの粉ミルクのブームもあり、1950年頃からは母乳栄養が衰退し、人工栄養が増加した。WHOと厚生省はこれを憂慮し、厚生省は[[1974年]]に母乳栄養推進運動を開始、母乳栄養の利点を広めた。その後、劇的に母乳栄養が復活し社会に定着した<ref>[http://www.meiji-hohoemi.com/mamapapa/history/0304index.html ミルクの歴史:育児情報ひろば!|株式会社 明治]</ref>。
ユニセフと世界保健機関は「母乳育児がうまくいくための10のステップ」を策定し <ref>{{Cite web |url=
厚生労働省による「授乳・離乳の支援ガイド」が2019年3月に改訂され <ref>{{Cite web |url=
一方、「完全母乳栄養児と混合栄養児との間に肥満発症に差があるとするエビデンスはなく、育児用ミルクを少しでも与えると肥満になるといった表現で誤解を与えないように配慮」すべきことも注記された。
これを受けて、朝日新聞社は、「粉ミルクを併用する混合栄養でも肥満リスクが上がらないことが明記されることになった」と報道した <ref>{{Cite web |url=
=== カナダにおける母乳栄養 ===
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=== 先進国 ===
[[1981年]]、118ヵ国の賛成で「母乳代替品のマーケティングに関する国際基準
=== 公共の場での授乳 ===
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アメリカ合衆国では「授乳権法」the "Right to Breastfeed Act" (HR 1848)が法文化された(1999年9月29日)。連邦のいかなる施設<!--federal property-->でも女性は自分の子に授乳することができる。しかしながら、州によってはその州の施設について同様の法制化が行われていないこともある。子供が育児を受ける権利を明文化しようという動きは[[オハイオ州]]では成功したが、[[ウェストバージニア州]]他では失敗した。2005年6月までに、35の州で授乳する母親とその子供を守る法律が制定された。いかなる公共の施設でも授乳は合法である。
イギリスの保健省Department of Healthは調査の結果、ほとんど(84%)の人々が独立した場所で行われる限りにおいて公共の場での授乳を認めていると発表した<ref>[https://archive.is/20040519035042/http://www.dh.gov.uk/PublicationsAndStatistics/PressReleases/PressReleasesNotices/fs/en?CONTENT_ID=4081944&chk=b8wDo%2B Myths stop women giving babies the best start in life](2004年5月19日時点の[[archive.is|アーカイブ]])</ref>。それと対照的に、67%の母親は公共の場での授乳が世論の糾弾<!-- general opinion being against public breastfeeding -->を浴びるのではないかと案じている。スコットランドではこのような脅威と戦うために、公共の場で授乳する女性を守る法案<ref>{{PDFlink|[http://www.scottish.parliament.uk/bills/pdfs/b15s2pm.pdf]}}{{リンク切れ|date=2017年8月}}</ref>が提出され議会を通過した<ref>[http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/3682824.stm MSPs approve breastfeeding move]</ref>。許可された場での授乳を妨害すると
カナダでは「人権と自由の憲章」(the Canadian Charter of Rights and Freedoms) において男女差別問題に関係してある程度の保護がある。しかし、授乳の権利は明文化されていない。1989年、カナダ最高裁は妊娠は女性特有の状態の一つであって、妊娠をもとにした差別は男女差別の一つであるという判決を下した (Brooks v. Canadian Safeway Ltd.)。カナダの判例はまた、男性と同様女性も自分の胸を露出することが許されるともいっている。[[ブリティッシュコロンビア州]]では、ブリティッシュコロンビア人権会議・方針と手続きの手引き (the British Columbia Human Rights Commission Policy and Procedures Manual) が女性勤労者が授乳を望んだ場合それを権利として認めることを定めている。
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