「双安定性」の版間の差分

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[[力学系]]における'''双安定性'''({{Lang-en-short|bistability}})とはその系が二つの安定平衡状態を持つことを言う<ref name="Morris">{{Cite book|last=Morris|first=Christopher G.|title=Academic Press Dictionary of Science and Technology|publisher=Gulf Professional publishing|date=1992|pages=267|url=https://books.google.com/books?id=nauWlPTBcjIC&pg=PA267&dq=bistable+bistability|isbn=978-0122004001}}</ref>。'''双安定'''な系は二つの状態のいずれかを取り続けることができる。双安定的なふるまいは機械的な[[リンク機構]]、[[電子回路]]、[[非線形光学|非線形光学系]]、[[化学反応]]、生理学的ないし生物学的システムなどで見られる。双安定な機械装置の例には{{仮リンク|照明スイッチ|en|Light switch}}がある。スイッチのレバーは「オン」位置か「オフ」位置のどちらかで静止するよう設計されており、中間では止まらない。
 
{{仮リンク|保存力|en|Conservative force}}場における双安定性は、安定平衡点である[[位置エネルギー|ポテンシャルエネルギー]][[極値|極小点]]が二つあることに由来する<ref name="Nazarov">{{Cite book|last=Nazarov|first=Yuli V.|last2=Danon|first2=Jeroen|title=Advanced Quantum Mechanics: A Practical Guide|publisher=Cambridge University Press|date=2013|pages=291|url=https://books.google.com/books?id=w20gAwAAQBAJ&pg=PA291&dq=bistability+minimum|isbn=978-1139619028}}</ref>。極小値は大きさが異なっていても構わない。粒子が静止し続けられるのはエネルギーの局所最低である極小位置のいずれかのみである。二つの極小点の間には必ず不安定平衡点である[[極値|極大点]]が存在することが数学的に示せる。極大点は二つの平衡位置を隔てる障壁と見られる。障壁を乗り越えるのに十分な励起エネルギーを与えられると、系は一方のエネルギー極小状態からもう一方に遷移することができる(化学系については[[活性化エネルギー]]と[[アレニウスの式]]を参照せよ)。障壁位置に達した系は[[緩和時間]]と呼ばれる時間を経てもう一方の極小状態へ緩和していく。双安定系には本質的に[[ヒステリシス]]が伴う。すなわち、系の出力はその時点での入力の強さだけでなく、過去の履歴によって系がどちらの状態を取っているかに依存する<ref>{{Cite journal|author=Tao Cui, Yong Wang, and Daren Yu|year=2014|title=Bistability and Hysteresis in a Nonlinear Dynamic Model of Shock Motion|journal=Journal of Aircraft|volume=51|issue=5|pages=1373-1379|DOI=10.2514/1.C032175}}</ref>
 
双安定性は[[二進法|バイナリ]]データを記憶する[[デジタル回路|デジタル回路素子]]で広く利用されており、コンピュータやある種の[[半導体メモリ]]の基本構成要素である[[フリップフロップ]]回路の本質的な特性でもある。双安定デバイスの一つの状態に「0」、もう一つの状態に「1」を割り当てることで1[[ビット]]のバイナリデータを格納できる。{{仮リンク|弛張発振器|en|relaxation oscillators}}や[[マルチバイブレータ|マルチバイブレーター]]、[[シュミットトリガ]]にも双安定性が利用されている。{{仮リンク|光双安定性|en|Optical bistability}}はある種の[[光デバイス]]が持つ特性で、入力に応じて2つの共振伝送状態が安定になるというものである。生化学システムでも双安定性が発現することがあり、構成化学物質の濃度と活量によって0か1かのスイッチ的な出力が得られる。双安定性はこれらの系の[[ヒステリシス]]と関連していることが多い
二つの極小点の間には必ず不安定平衡点である[[極値|極大点]]が存在することが数学的に示せる。極大点は二つの平衡位置を隔てる障壁と見られる。障壁を乗り越えるのに十分な励起エネルギーを与えられると、系は一方のエネルギー極小状態からもう一方に遷移することができる(化学系については[[活性化エネルギー]]と[[アレニウスの式]]を参照せよ)。障壁位置に達した系は[[緩和時間]]と呼ばれる時間を経てもう一方の極小状態へ緩和していく。
 
双安定性は[[二進法|バイナリ]]データを記憶する[[デジタル回路|デジタル回路素子]]で広く利用されており、コンピュータやある種の[[半導体メモリ]]の基本構成要素である[[フリップフロップ]]回路の本質的な特性でもある。双安定デバイスの一つの状態に「0」、もう一つの状態に「1」を割り当てることで1[[ビット]]のバイナリデータを格納できる。{{仮リンク|弛張発振器|en|relaxation oscillators}}や[[マルチバイブレータ|マルチバイブレーター]]、[[シュミットトリガ]]にも双安定性が利用されている。{{仮リンク|光双安定性|en|Optical bistability}}はある種の[[光デバイス]]が持つ特性で、入力に応じて2つの共振伝送状態が安定になるというものである。生化学システムでも双安定性が発現することがあり、構成化学物質の濃度と活量によって0か1かのスイッチ的な出力が得られる。双安定性はこれらの系の[[ヒステリシス]]と関連していることが多い。
 
== 数理モデル化 ==
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: <math>
\frac{dy}{dt} = y (1-y^2).
</math>
 
この系は <math>\frac{y^4}{4} - \frac{y^2}{2}</math> の形を持つ曲線上を転がり落ちるボールを表しており、3つの平衡点 <math> y = 1 </math>、<math> y = 0 </math>、<math> y = -1</math> を持つ。真ん中の平衡点 <math>y=0</math> は不安定、ほかの二点は安定である。時間とともに <math>y(t)</math> がどのように増減するかは初期条件 <math>y(0)</math> に依存する。初期条件が正の場合( <math>y(0)>0</math> )解 <math>y(t)</math> は時間とともに1に近づくが、初期条件が負の場合( <math>y(0)< 0</math> )は&minus;1に近づく。この意味で系のダイナミクスは双安定である。終状態は初期条件によって <math> y = 1 </math> か <math> y = -1 </math> のどちらかになる<ref name="Chong">{{Cite journal|last=Ket Hing Chong|last2=Sandhya Samarasinghe|last3=Don Kulasiri|last4=Jie Zheng|year=2015|title=Computational techniques in mathematical modelling of biological switches|journal=MODSIM2015|pages=578–584}} For detailed techniques of mathematical modelling of bistability, see the tutorial by Chong et al. (2015) http://www.mssanz.org.au/modsim2015/C2/chong.pdf The tutorial provides a simple example illustration of bistability using a synthetic toggle switch proposed in {{Cite journal|last=Collins|first=James J.|last2=Gardner|first2=Timothy S.|last3=Cantor|first3=Charles R.|year=2000|title=Construction of a genetic toggle switch in Escherichia coli|journal=Nature|volume=403|issue=6767|pages=339–42|bibcode=2000Natur.403..339G|DOI=10.1038/35002131|PMID=10659857}}. The tutorial also uses the dynamical system software XPPAUT http://www.math.pitt.edu/~bard/xpp/xpp.html to show practically how to see bistability captured by a saddle-node bifurcation diagram and the hysteresis behaviours when the bifurcation parameter is increased or decreased slowly over the tipping points and a protein gets turned 'On' or turned 'Off'.</ref>。
 
この双安定領域の出現については、[[分岐 (力学系)|分岐パラメータ]] <math>r</math> の値によって超臨界[[ピッチフォーク分岐]]が起きるモデル系 <math>
 
: <math>\frac{dy}{dt} = y (r-y^2)</math>
</math> を通して理解できる。
 
</math> を通して理解できる。
 
非線形な結合振動子にノイズを加えた系では、二つの安定な[[リミットサイクル]]の間を前後に飛び移る「モードホッピング」と呼ばれる不安定性が現れることがあり、その[[ポアンカレ写像|ポアンカレ断面]]上では通常の双安定性と同様のふるまいが見られる<ref>{{Cite journal|author=Mathias L. Heltberg, Sandeep Krishna, and Mogens H. Jensen|year=2017|title=Time Correlations in Mode Hopping of Coupled Oscillators|journal=Journal of Statistical Physics|volume=167|pages=792-805|DOI=10.1007/s10955-017-1750-x}}</ref>。
 
== 生物学的・化学的システム ==
双安定な化学系は緩和速度論や{{仮リンク|非平衡熱力学|en|Non-equilibrium thermodynamics}}、[[確率共鳴]]、[[気候変動]]の分野とのかかわりで広く研究対象とされてきた<ref name="Wilhelm"/>{{Cite。生物学的・化学的なシステムが双安定性を持つには三つの必要条件を満たさなければならない。[[フィードバック|正フィードバック]]の存在、弱い刺激をフィルターするメカニズム、無限の出力増加を防ぐメカニズムである<ref journal|lastname="Wilhelm, T|year=2009|title=The smallest chemical reaction system with bistability|journal=BMC Systems Biology|volume=3|pages=90|DOI=10.1186"/1752-0509-3-90|PMID=19737387|PMC=2749052}}</ref>。空間的な広がりを持つ双安定なシステムでは局所相関の発生や進行波の出現が研究されている<ref name="Elf">{{Cite journal|last=Elf|first=J.|last2=Ehrenberg|first2=M.|year=2004|title=Spontaneous separation of bi-stable biochemical systems into spatial domains of opposite phases|journal=Systems Biology|volume=1|issue=2|pages=230–236|DOI=10.1049/sb:20045021|PMID=17051695}}</ref><ref name="Kochanzyck">{{Cite journal|last=Kochanczyk|first=M.|last2=Jaruszewicz|first2=J.|last3=Lipniacki|first3=T.|date=Jul 2013|title=Stochastic transitions in a bistable reaction system on the membrane|journal=Journal of the Royal Society Interface|volume=10|issue=84|pages=20130151|DOI=10.1098/rsif.2013.0151|PMID=23635492|PMC=3673150}}</ref>。
[[File:Stimuli.pdf|サムネイル| 双安定なモードを持つ細胞分化の[[不変測度]]を表した3次元グラフ。三つの軸はそれぞれ三種類の細胞の数を表している。<math>z</math>: [[前駆細胞]](P)、<math>y</math>: [[骨芽細胞]](O)、<math>x</math>: [[軟骨細胞]](C)。この計算例では骨芽細胞への分化を誘発する刺激が強められている<ref name="CME">{{Cite journal|last=Kryven|first=I.|last2=Röblitz|first2=S.|last3=Schütte|first3=Ch.|year=2015|title=Solution of the chemical master equation by radial basis functions approximation with interface tracking|journal=BMC Systems Biology|volume=9|issue=1|pages=67|DOI=10.1186/s12918-015-0210-y|PMID=26449665|PMC=4599742}} {{オープンアクセス}}</ref>。]]
 
<!--[[File:Stimuli.pdf|サムネイル| 双安定なモードを持つ細胞分化の[[不変測度]]を表した3次元グラフ。三つの軸はそれぞれ三種類の細胞の数を表している。<math>z</math>: [[前駆細胞]](P)、<math>y</math>: [[骨芽細胞]](O)、<math>x</math>: [[軟骨細胞]](C)。この計算例では骨芽細胞への分化を誘発する刺激が強められている<ref name="CME">{{Cite journal|last=Kryven|first=I.|last2=Röblitz|first2=S.|last3=Schütte|first3=Ch.|year=2015|title=Solution of the chemical master equation by radial basis functions approximation with interface tracking|journal=BMC Systems Biology|volume=9|issue=1|pages=67|DOI=10.1186/s12918-015-0210-y|PMID=26449665|PMC=4599742}} {{オープンアクセス}}</ref>。]]-->
[[細胞周期]]進行・[[細胞分化]]<ref name="Ghaffarizadeh">{{Cite journal|year=2014|title=Multistable switches and their role in cellular differentiation networks|journal=BMC Bioinformatics|volume=15|pages=S7+|DOI=10.1186/1471-2105-15-s7-s7|PMID=25078021|PMC=4110729}}</ref>・[[アポトーシス]]における意思決定プロセスという細胞機能の基本現象を理解する上でも双安定性は重要である。[[悪性腫瘍|癌]]発生や[[プリオン]]病の初期段階にともなう細胞恒常性の喪失や、新しい種の発生([[種分化]])ともかかわりがある<ref name="Wilhelm">{{Cite journal|last=Wilhelm, T|year=2009|title=The smallest chemical reaction system with bistability|journal=BMC Systems Biology|volume=3|pages=90|DOI=10.1186/1752-0509-3-90|PMID=19737387|PMC=2749052}}</ref>。
 
双安定性は正フィードバックループから生み出される。単純な「XがYを活性化させ、YがXを活性化させる」という{{仮リンク|ネットワークモチーフ|en|Network motif|label=モチーフ}}でも双安定性を作り出せるが、実際の細胞シグナル伝達では複数のフィードバックループが組み合わされてスイッチを構成し、重要な調節ステップの役割を担っている<ref name="O. Brandman, J. E 2005">O. Brandman, J. E. Ferrell Jr., R. Li, T. Meyer, Science 310, 496 (2005)</ref><refferrell>{{Cite journal|author=Onn Brandman, James E Ferrell Jr, Rong Li, Tobias Meyer|year=2005|title=Interlinked fast and slow positive feedback loops drive reliable cell decisions|journal=Science|volume=310|issue=5747|pages=496–498|DOI=10.1126/science.1113834}}</ref>。これまでの研究により、''Xenopus''(ツメガエル属)の[[卵母細胞]]の成熟<ref>{{Cite journal|last=FerrellJ. JEE. Ferrell Jr.|last2=Machleder EM|date=1998|title=The biochemical basis of an all-or-none cell fate switch in Xenopus oocytes.|journal=Science|volume=280|issue=5365|pages=895–8|bibcode=1998Sci...280..895F|DOI=10.1126/science.280.5365.895|PMID=9572732}}</ref>、哺乳類の[[カルシウムシグナリング|カルシウムシグナル]]伝達、[[出芽酵母]]の極性形成など多くの生物学的システムに正の{{仮リンク|テンポラル・フィードバック|en|Temporal feedback}}(速いループと遅いループの組み合わせ)、もしくは別タイミングで発動する複数のフィードバックループが組み込まれていることが分かっている[sci]。速さの異なるフィードバックの組み合わせには活性化時間と不活性化時間を別々に調節したり、ノイズへの過敏な反応を抑えたりといった利点がある[sci]<ref name=ferrell/>
 
パラメーターの特定範囲でのみ双安定性が発現する生化学システムも存在し、そのパラメータはフィードバックの強さと解釈されることが多い。典型ないくつかの例では、パラメータの値が小さいときには一つの安定[[不動点]]しか存在しない。パラメータが臨界値を超えると[[サドルノード分岐]]が起きて新たな不動点の対(一つは安定、もう一つは不安定)が生まれる。さらに増加すると別のサドルノード分岐により不安定解が最初の安定解と結合して消滅し、後で生まれた安定解のみが残ることがある。パラメータがそれらの臨界値の間にあるなら系は2つの安定解を持つことになる。そのような性質を持つ力学系の例には
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分泌シグナル伝達分子の一つで発生において重要な役割を果たす[[ソニック・ヘッジホッグ]] (Shh) の双安定性は、生物学的システムにおける代表的な例である。Shhは肢芽組織の分化のパターニングなど多くの発生プロセスで機能している。Shhシグナル伝達ネットワークは双安定スイッチとしてはたらき、細胞は決められたShh濃度で敏速に状態を切り替える。このシグナルによって[[転写 (生物学)|転写]]が活性化された ''gli1'' および ''gli2'' の遺伝子産物は ''gli1'', ''gli2'' 自身の発現をいっそう活発にするとともに、Shhシグナル伝達経路の下流にある標的遺伝子の転写活性化因子としてもはたらく<ref>Lai, K., M.J. Robertson, and D.V. Schaffer, The sonic hedgehog signaling system as a bistable genetic switch. Biophys J, 2004. 86(5): p. 2748-57.</ref>。この正フィードバックと並行して、Gli 転写因子が転写抑制因子の一つ (Ptc) の転写を促進するという負のフィードバックループがShhシグナル伝達ネットワークを調節している。これは鋭敏な感受性を持つ正負のフィードバックループの組が双安定スイッチを生み出している好例である。
 
生物学的・化学的なシステムが双安定性を持つには三つの必要条件を満たさなければならない。[[フィードバック|正フィードバック]]の存在、弱い刺激をフィルターするメカニズム、無限の出力増加を防ぐメカニズムである<ref name="Wilhelm">{{Cite journal|last=Wilhelm, T|year=2009|title=The smallest chemical reaction system with bistability|journal=BMC Systems Biology|volume=3|pages=90|DOI=10.1186/1752-0509-3-90|PMID=19737387|PMC=2749052}}</ref>。
 
双安定な化学系は緩和速度論や{{仮リンク|非平衡熱力学|en|Non-equilibrium thermodynamics}}、[[確率共鳴]]、[[気候変動]]の分野とのかかわりで広く研究対象とされてきた<ref name="Wilhelm">{{Cite journal|last=Wilhelm, T|year=2009|title=The smallest chemical reaction system with bistability|journal=BMC Systems Biology|volume=3|pages=90|DOI=10.1186/1752-0509-3-90|PMID=19737387|PMC=2749052}}</ref>。空間的な広がりを持つ双安定なシステムでは局所相関の発生や進行波の出現が研究されている<ref name="Elf">{{Cite journal|last=Elf|first=J.|last2=Ehrenberg|first2=M.|year=2004|title=Spontaneous separation of bi-stable biochemical systems into spatial domains of opposite phases|journal=Systems Biology|volume=1|issue=2|pages=230–236|DOI=10.1049/sb:20045021|PMID=17051695}}</ref><ref name="Kochanzyck">{{Cite journal|last=Kochanczyk|first=M.|last2=Jaruszewicz|first2=J.|last3=Lipniacki|first3=T.|date=Jul 2013|title=Stochastic transitions in a bistable reaction system on the membrane|journal=Journal of the Royal Society Interface|volume=10|issue=84|pages=20130151|DOI=10.1098/rsif.2013.0151|PMID=23635492|PMC=3673150}}</ref>。
 
双安定系には本質的に[[ヒステリシス]]が伴う。すなわち、系の出力はその時点での入力の強さだけでなく、過去の履歴によって系がどちらの状態を取っているかに依存する<ref>{{Cite journal|author=Tao Cui, Yong Wang, and Daren Yu|year=2014|title=Bistability and Hysteresis in a Nonlinear Dynamic Model of Shock Motion|journal=Journal of Aircraft|volume=51|issue=5|pages=1373-1379|DOI=10.2514/1.C032175}}</ref>。
 
非線形な結合振動子にノイズを加えた系では、二つの安定な[[リミットサイクル]]の間を前後に飛び移る「モードホッピング」と呼ばれる不安定性が現れることがあり、その[[ポアンカレ写像|ポアンカレ断面]]上では通常の双安定性と同様のふるまいが見られる<ref>{{Cite journal|author=Mathias L. Heltberg, Sandeep Krishna, and Mogens H. Jensen|year=2017|title=Time Correlations in Mode Hopping of Coupled Oscillators|journal=Journal of Statistical Physics|volume=167|pages=792-805|DOI=10.1007/s10955-017-1750-x}}</ref>。
 
== 機械的システム ==
[[ファイル:Ratchet_example.gif|サムネイル|ラチェットの動作。歯車のそれぞれの歯と溝が一つの安定状態に当たる。]]
機械的システムの設計に組み込まれた双安定性は一般に「オーバーセンター ({{Lang-en-short|over-center}})」と呼ばれることがある。機構を動かして部品がピーク位置を越えると(オーバーセンターすると)次の安定位置に移行し、変位が足りなければ最初の安定位置に戻る。このような機構はトグルスイッチとして機能する。身近な例として、壁に取り付ける一般的な電気スイッチがある。スイッチレバーは「オン」か「オフ」の位置にのみ静止するよう設計されており、その中間を越えて動かすと切り替わる。
 
 
身近な例として、壁に取り付ける一般的な電気スイッチがある。スイッチレバーは「オン」か「オフ」の位置にのみ静止するよう設計されており、その中間を越えて動かすと切り替わる。
 
 
[[ばね]]は双安定機構を実現する手段として一般的である。二つの安定位置を持つ[[ラチェット]]構造にばねを組み込んだ[[押しボタン|ボタン]]機構はノック式[[ボールペン]]の多くに採用されている。回転[[ラチェット]](歯車と歯止め)は精巧な多安定機構であり、不可逆運動を作るために使われる。歯車を順方向に回していくと歯止めは一つの歯を乗り越えて次の安定状態に移る。
 
 
 
柔軟な[[はり部材|梁]]が複数の安定な座屈状態を持つことを利用した双安定{{仮リンク|コンプライアント・メカニズム|en|Compliant mechanism|label=コンプライアント機構}}はがたつきがなく、[[潤滑]]を要せず、部品構成が単純で小型化に向いていることから[[MEMS|マイクロサイズの機構]]設計で広く用いられている<ref>{{Cite journal|author=A.G. Dunning, N. Tolou, P.J. Pluimers, L.F. Kluit, and J.L. Herder|year=2012|title=Bi-stable Compliant Mechanisms: Correction for Finite Element Modeling, Tuning the Stiffness and Preloading Incorporation|journal=Journal of Mechanical Design|volume=134|issue=8|page=084502|DOI=10.1115/1.4006961}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=小塚裕明他|year=2012|title=コンプライアントメカニズムを用いた円弧ばね関節を有する ばね―パラレルメカニズムによる精密位置決め装置の開発|journal=日本機械学会論文集(C編)|volume=78|issue=793|pages=3216-3226|DOI=10.1299/kikaic.78.3216}}</ref>。
[[ファイル:Ratchet_example.gif|サムネイル|ラチェットの動作。歯車のそれぞれの歯と溝が一つの安定状態に当たる。]]
 
== 関連項目 ==
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* [http://www.answers.com/topic/optical-bistability http://www.answers.com/topic/optic-bistability]
* [https://web.archive.org/web/20111008004330/http://www.innovision.us/LatchingReed.htm 双安定リードセンサー]
 
{{DEFAULTSORT:そうあんていせい}}
[[Category:デジタルエレクトロニクス]]