「千日デパート火災」の版間の差分

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== 出火原因 ==
出火原因については、出火推定時刻22時27分(大阪市消防局推定){{sfn|村上|1986|p=60}}の直前まで3階東側の出火推定場所(ニチイ寝具・呉服売場付近)をタバコを吸いながら1人で歩き回っていた工事監督の失火であると推定された{{sfn|村上|1986|p=60}}。
 
工事監督の失火が火災原因とする根拠としては、以下のことが挙げられる。
# デパートビルの電気系統には漏電などで出火を起こすような原因は確認されなかった{{sfn|判例時報|1985|pp=31–32}}{{sfn|岸本|2002|p=56}}。21時30分ごろ(火災発生の1時間前)、ニチイ千日前店の店長が3階売場の点検を行ったところ、出火推定場所に異常は見られなかった<ref name=ASAHI-NP19720515PM10/><ref name=ASAHI-NPSS197205/>。また同時刻に保安係員2人によって3階の巡回が行われたが、北側と南側の二手に分かれて同階を点検したところ、出火推定場所に異常はなかった{{sfn|村上|1986|p=61}}<ref name=ASAHI-NP19720515PM10/><ref name=ASAHI-NPSS197205/>。
# 出火推定時刻に3階にいたのは工事監督1人と工事作業者4人だけである{{efn|name="3Fcyuza"}}だけである{{sfn|岸本判例時報|20021985|pp=56–5731–32}}{{sfn|判例時報岸本|19852002|pp=31–3256–57}}。
# 出火推定時刻の10分ほど前に、工事監督が出火推定場所である東側売場の方へ歩いていくのを工事作業者に目撃されている<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>。また出火推定時刻に作業現場を離れて出火推定場所付近を歩き回っていたのは工事監督1人だけである{{sfn|判例時報|1985|pp=31–32}}{{sfn|岸本|2002|p=57}}。
# 工事監督は「歩きながらタバコを2本吸い、火が点いたままの[[マッチ]]を商品の布団の上に捨てた」と供述している{{sfn|判例時報|1985|pp=31–32}}{{sfn|岸本|2002|p=57}}。
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大阪府警南署の取り調べに対し、工事監督は以下のように供述した。:
{{Quotation|工事終了後の予定であった北側の機械室から東側部分を今後の工事を確かめるため見て回ったり、店内を徘徊していたところ、火災現場に至って煙草が吸いたくなりパイプに煙草をさして口にくわえ、マッチで火をつけたが、その火の消えていないままのマッチをそのまま、布団の上に捨てたか、どこかでパイプに差した煙草に火をつけ、火災現場でパイプを吹いて火のついている煙草を布団の上に飛ばした。{{sic}}{{sfn|室崎|1981|p=60}}。{{sic}}|電気工事監督|危険都市の証言 1981}}
 
大阪地方検察庁は、1972年6月4日夜に勾留中だった工事監督を処分保留により釈放した。工事監督は、火災発生翌日の5月14日から現住建造物重過失失火などの容疑で大阪府警南署に逮捕されて取り調べを受け、その間に送検もされたが、拘留期限満了までに工事監督の供述を裏付ける証拠が得られず、物証の代わりとなる科学鑑定もまとまらなかったために勾留中の起訴ができなかったことによって為された措置である<ref>「サンケイ新聞」1972年6月5日 大阪本社版朝刊10面 </ref>。科学鑑定の一環として大阪府警[[捜査一課]]・南署捜査本部は、1972年6月22日10時から火災現場で工事監督の「タバコかマッチを布団の上に飛ばした(捨てた)」という供述の裏付けを取るため、出火状況を再現する燃焼実験を実施した{{sfn|村上|1986|pp=60,72}}。その結果、工事監督が布団売場の布団の上に火の点いたマッチを捨てたことが火災原因だと断定した{{sfn|村上|1986|pp=60,72}}。しかしながら大阪地方検察庁は1973年8月10日「工事監督の供述には一貫性がなく、起訴するに足る証拠がない」として工事監督を不起訴処分にしている{{sfn|室崎|1981|p=60}}。また防火管理責任者などに対する刑事裁判の判決文においても「工事監督の行動や供述を証拠上確定させることができない」として、公式には'''火災原因は不明'''とされた{{sfn|判例時報|1985|pp=319932}}{{sfn|判例時報|1988|p=57}}{{sfn|岸本|2002|p=57}}。
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「工事監督の供述に一貫性がない」とされるが、最初の供述は引用で記したとおり、曖昧で要領を得ず、はっきりしないものであった。「3階でタバコを吹かしながら歩いているうちに、パイプのタバコを吹かしたまま捨てた」と供述し、その後「火の点いたマッチの軸を捨てた」に変わり、そして「自分がマッチで放火した」と言い出した。さらに追及すると「火の点いたタバコを捨てた」「タバコを吸うときに点けたマッチの火が消えているのを確認しないで捨てた」などと言うなど、供述を二転三転させている(第75回国会・衆議院法務委員会政府委員、法務省刑事局長答弁から)<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>。工事監督の供述には客観的な状況と合わない部分も見られた。たとえば「火災報知機のボタンを押してすぐに6階へ119番通報のために走った」との供述をしたが、工事監督からの119番通報を大阪市消防局は受信していない{{sfn|室崎|1981|p=61}}。また「6階で119番通報をしたあと、4階へ降りたが、煙に巻かれたので再び6階へ昇り、6階の窓を破ってネオン修理用のタラップに飛び移り、2階へ降りて消防隊に救われた」との証言があるものの{{sfn|室崎|1981|p=33}}、その一方で大阪市消防局の質問調書には「工事人らが避難した後を追って1階へ逃げた」とも答えており{{sfn|室崎|1981|p=61}}、不起訴になった理由は、供述の一貫性のなさに加えて信用性のなさも影響している<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>。
 
直接的な証拠がないこと、失火の現場を見た目撃者がいないことも不起訴の理由となっている<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>。実際のところ、工事監督の自供以外に犯行を裏付ける証拠が存在せず、犯人であると断定するには証拠が乏しく、起訴したとしても公判を維持できないか、もしくは被疑者を有罪にできる可能性が極めて低いと判断したことから[[大阪地検]]は工事監督を不起訴処分にしたという(同答弁)<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>。仮に火の点いたままのマッチを布団の上に捨てた場合、どれくらいの量の布団に火が点けば本件のような火災になるのか、前記のとおり大阪府警は火災現場で燃焼実験を行ったが{{sfn|村上|1986|p=72}}<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>{{sfn|村上|1986|pp=60,72}}<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>、その結果は1メートル以上の高さの布団に火が点けば、本件火災のレベルに達することが判明した<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>。たとえ無意識であったとしても、常識的に考えて高さ1メートルに積まれた商品の布団の上に火の点いたままのマッチを投げ捨てることなどあるだろうか、という疑問と不自然さも不起訴に至った理由として挙げられている(同答弁)<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>。
 
不起訴に至った理由としてもう一つ挙げられるのは、工事監督以外に失火か放火に関与した者が別にいるのではないかと疑念が持ち上がったからである。火災発生2週間ほど前の4月30日夜、千日デパート4階・ニチイ千日前店の婦人服売り場で、何者かが商品の婦人服にいたずら書きをした事件があった<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>。さらに火災発生当夜、デパート閉店後に3階・E階段出入口の防火シャッターが閉鎖されていたことは保安係員によって確認されているが、なぜか火災発生時に防火シャッターは開いていた。この2つの事実が確認されているため、大阪地検は工事監督を起訴することに慎重にならざるを得なかった背景もある(同答弁)<ref name=75kokkaiSY-HMI15/>。