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[[ファイル:Portable fish farm at growing power.jpg|サムネイル|250x250ピクセル|小型のアクアポニックスシステム。アクアポニックスという用語は、養殖(aquaculture)と水耕農業(hydroponic agriculture)からの造語。]]
 
'''アクアポニックス'''は、従来の[[養殖]]と[[水耕栽培]]を組み合わせたシステムのことで、巻き貝、魚、エビなどの飼育と水耕栽培とで[[共生]]環境を形成することを特徴としている。
 
'''アクアポニックスの基本原理'''
 
== 概要 ==
アクアポニックスの基本原理は、魚(水生生物を総称してここでは魚と記述します。)の糞尿及び残餌に由来する魚毒性の強いアンモニア、亜硝酸を魚毒性の少ない硝酸まで微生物及びエアレーションによって酸化することで閉鎖環境の中で魚を長期間生存あるいは増殖させることを目指している。一方で、時間の経過とともに硝酸が水中に蓄積してくるため、その硝酸を系から定期的に引き抜くことが必要となるが、この引き抜きの役割を硝酸を肥料として利用できる植物で行っている。この時、利用する植物に蔬菜や果菜を用いることで水産物と農産物の両方を生産しようとすることがアクアポニックスの一つの特徴である。
 
 アクアポニックスは一般的にはアンモニアを亜硝酸から硝酸まで酸化する硝化のプロセスと硝酸が植物が利用しやすい窒素肥料として一般的であることを組み合わせたシステムとして理解されているが、実際には、より複雑で柔軟性のあるシステムであることを理解することがアクアポニックスシステムを上手に活用する上で有益である。
 
'''== 好アンモニア性植物と好硝酸性植物の利用''' ==
[[ファイル:アクアポニックスの新しいモデル.png|サムネイル|462x462ピクセル|好アンモニア性植物と好硝酸性植物という概念を取り入れたアクアポニックスの新しい基本モデル。栽培植物の選定、硝化機能の低下する冬季に適した植物の選定が容易など従来よりもより利用度の高いモデルとなっている。]]
例えば、植物には、アンモニア、亜硝酸、硝酸をそれぞれ、直接肥料成分として利用できるものがある。作物分類の中では、[http://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=11622 好アンモニア性植物]、[http://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=11692 好硝酸性植物]という分類がある。好アンモニア性植物には、イネ、チャ、クランベリー、ブルーベリー、サトイモ、パイナップルなどがあり、アクアポニックスでよく利用されるレタスは好アンモニア性植物である。
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 アクアポニックスに好アンモニア性植物と好硝酸性植物という植物分類を組合せるという考え方は、飯島朗(飯島アクアポニクス)島田敏(島田設備株式会社)が国内では初めて提唱したものである。飯島らが2018年に第17回世界湖沼会議(いばらき霞ヶ浦2018)において配布資料として作成した小冊子 AQUAPONICS TECHNIQUE  BOOKLET ~Further  Aquaponics  Technique~つくば3Eフォーラム バイオマスタスクフォース 研究プロジェクト 飯島アクアポニクスチーム)で紹介している。 
 
== 栽培方式 ==
 
 
'''アクアポニックスの栽培方式'''
 
アクアポニックスの栽培方式には、メディアベッド、DWC(Deep Water Culture system)、NFT(Nutrient Film Technique)の3つの基本方式が採用されている。
 
*'''メディアベッド'''は、水槽に入れた栽培のための培地(発泡レンガ、軽石、砂利など)に水棲生物を飼育する水(養魚水)をポンプ等で直接投入することで植物を栽培する方法である。栽培培地と固形物のろ過・分解、アンモニアの微生物による酸化(硝化)を兼ねた多機能の枠割を担っている。また、オートサイフォンと呼ばれる間歇排水装置を設置することで常時、培地の空気の入れ替え行うことで、植物の根への酸素供給、メタンなどの根に悪影響を及ぼす固形物分解に由来するガスの排出、硝化に必要な酸素の供給、培地内に捕捉された固形物の重力方向への移動の促進による自浄機能などの複合的な機能を果たしている。簡単な方法で多岐な機能を持たせられるため、アクアポニックスでは最もポピュラーな手法である。一方で水槽に培地を設置するため、装置の重量が重くなること、培地に植えた植物を移動できないこと、栽培後培地に根が残るため後作前に培地を洗浄又は掃除する必要があるということ、機能部であるオートサイフォンに植物の根が絡みつき水が水槽からあふれるなどのトラブルがあるため定期的にオートサイフォンに伸びてきた根を掃除する必要があるというデメリットがある。メディアベッドでは、直接培地に植えるため様々な植物を育てることができる。しかし、産業用の生産を考えた場合、培地の清掃頻度を減らすため植え替えの少ない果菜類等の栽培により適した栽培方法であると考えられる。
**'''メディアベッドの改良(根域制限メディアベッド(Root restricted media bed system(RRMBS))) '''従来のメディアベッドのデメリットを改善する方法の一つとして飯島朗・島田敏によって'''根域制限メディアベッド'''が、2015年に開発された。(特許JP6053088B1)。従来のメディアベッドは、栽培植物の根が培地の目詰まりやオートサイフォンなどの機能部の閉塞をもたらすというトラブルが発生したが、根域制限メディアベッドでは、植物の根が伸長する根域を防根透水シートで分離することでこれらのトラブルが発生することを解決した。根域を制限したことで、トラブルを解決するだけでなく異なるメリットが得られるようになった。例えば、根域を制限したことで栽培植物に水ストレスを与えることのができるため'''高糖度の果菜類生産'''が可能となったこと。給液が主に毛管現象で行われるため、'''不足する肥料成分を施肥できるようになったため健康な植物生産が可能'''になったこと。栽培用の培地と水質浄化機能部の培地を異なったものにできるようになり、'''培養土など植物栽培に適した培地'''を利用することができるようになったこと。栽培部分のみの入れ替えが可能なため、'''植え替え時に水質浄化部の機能が低下しない'''こと。などが挙げられる。飯島朗・島田敏は、さらに'''根域制限メディアベッドを活用し、ケイ酸分を多く含むもみ殻堆肥を使った培土を設計'''し、微量元素等の安定化、培土の軽量化、循環型資源の活用とともに'''ケイ酸の働きによるアクアポニックス栽培での病虫害抵抗性の向上効を確認'''した。ケイ酸は、多くの作物で、光合成を向上させ生育向上や果実の糖度アップなど品質向上にも寄与することが知られており、アクアポニックスでも同様の効果を付与することができた。根域制限メディアベッドの開発とその応用により、従来のメディアベッドによるアクアポニックスでは、これまでできなかった肥料成分の安定化・病虫害への防疫効果・メンテナンスの容易化・植物植え替え時の水質浄化機能の安定化、という多くの問題点を解決し、根域制限、施肥の組合せによる果菜類の高糖度化など新たな可能性が発見された。'''根域制限メディアベッドは、実際に使用してみると、従来のメディアベッドに比べて、その実用性が大幅に向上し、果実の高糖度化が実現し家庭菜園や食育などで大幅に利用価値を向上させられることを実感した(飯島らが2017年度科学の甲子園ジュニア全国大会のエキシビジョンで中学生に高糖度ミニトマト試食体験を実施、2019年つくばサイエンスラボで小中学生に試食体験を実施した)。さらにアクアポニックスで課題となっていた病虫害の問題に、もみ殻堆肥由来のケイ酸で対応する方式を確立できたことなど、メディアベッドの課題を大幅に改善するとともに、従来のアクアポニックスシステムにはなかった品質改善、病虫害予防対策などの工夫が加わったユニーク方式といえた'''。このため、メディアベッド、DWC(Deep Water Culture system)、NFT(Nutrient Film Technique)の3つの基本方式に加えた'''4番目の基本方式、あるいはメディアベッドを発展させた3.5番目(第二世代のメディアベッド方式)の基本方式として将来普及する可能性'''があると考えられた。一方、施設の大規模化による農業生産施設としての可能性の模索など、生産性に関する課題については、今後さらに検討すべき課題が残されている。
 
 
'''アクアポニックスと栽培・養殖環境'''
 
== 養殖環境 ==
アクアポニックスは、養殖(飼育)と栽培を同時に行う。多くの場合、アクアポニックスは、水棲生物、植物、微生物を中心に制御要素を語られる場合が多いが、実際には、水棲生物、植物、微生物だけでなく気温(水温)、光、空気、水、肥料、エネルギーの確保といった環境条件の制御が最も重要である。身土不二という言葉があるように、環境と主体は一体である。水棲生物、植物、微生物などからなる生物相での循環が安定して行える環境条件(気温(水温)、光、空気、水、肥料、エネルギー)がしっかり確保できれば循環システムはおのずと安定して立ち上げることができる。野鳥と木の実ハンドブック(叶内拓哉 写真・文 文一総合出版)に野鳥が来る庭造りとして、鳥が好きな実のなる木を庭に植えるのがおすすめと書かかれている。庭に野鳥を寄せるには、野鳥が集まりやすくなるように庭の環境を整えることが大切なのだ。アクアポニックスも同様で、魚や植物が育つ(あるいは好んで育つ)環境を整備してあげることが最も重要で、その組み合わせを考えて実際に試せるところがアクアポニックスの強みであり楽しみである。鳥が好きな実のなる木を植えるということは、同時にいくつもの環境(餌、とまり木、安全な隠れ家など)が、同時に作り上げられる具体的なツールである。上記項目で説明した根域制限メディアベッドは、水質環境と栽培環境をそれぞれ別々に制御できるため植物も水棲生物もそれぞれ上手に育てやすいツールである。アクアポニックスは、小さいながらも地球システムそのものである。水質環境の悪化は水棲生物の斃死を引き起こす。また、植物の病気発生の多くは、水質環境の悪化のバロメーターである場合が多い。地球システムの実際、環境制御の失敗によるシステムの末路、生き残った水生生物、植物の再生、システム全体の再生、水質環境の短期的安定化技術、通年での安定化技術など環境悪化に対する対策技術を身に着けることは現在の地球環問題を解決するための重要な知識・経験となる。また、植物を健全に育てる技術、水棲生物を増殖される技術、栄養価が高く美味しい農産物や健全で美味しい水棲生物を養殖する技術は、日々の暮らしや生計を支える生産や職業への応用が可能な生きるための技術となる。
 
== 病虫害防除 ==
 
'''アクアポニックスと病虫害防除'''
 
 アクアポニックスでは、養殖魚への影響の高い殺虫剤など農業生産で一般的に用いられる薬剤の利用ができないなど、植物栽培に関する薬剤の利用が大きく制約される。一方、植物生産の視点からは、養殖で用いられる抗生物質やホルモン類などは、生産される植物にも残留する可能性があるため、植物同様、薬剤使用には制限を受ける(残留性については今後研究が必要)。一方で、多くのアクアポニックスの取組において薬剤利用の制約があることを積極的に捉えて、薬剤を使わないことをアクアポニックスの長所として位置づけている。薬剤を積極的に使えないということは、見方を変えれば無農薬であるとも言える。食の安全性をアピールする上で有効な手段でもあるため積極的に無農薬で生産する手法を確立していくことがアクアポニックスの長所を伸ばすことにつながる。
 
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アクアポニックスでは、窒素肥料成分の入った養魚水での植物栽培が行われる。日照が十分に確保されている場合には、溶液栽培として液肥が十分に供給されるため他の肥料成分等が十分にあるなど栽培条件が整えば効果的な成長が期待できる。しかし、悪天候が続くなど日照不足に陥ると露地同様に植物が徒長し茎葉も軟弱になってしまう。そこで、病虫害が発生しやすくなってしまうのは、通常の露地栽培と同様である。根域制限メディアベッドのように培土を用いることができる場合は、もみ殻堆肥などのような有機質を用いることで照度不足の影響を緩和することができる。
 
== ウキクサとの関わり ==
 
'''アクアポニックスとウキクサ'''
 
アクアポニックスを実際に運用してみると、メディアベッド、DWC(Deep Water Culture system)、NFT(Nutrient Film Technique)いずれの場合にも水の滞留する場所にウキクサが発生することがある。例えば、濾過槽など、水の動きの遅い場所などにはウキクサが大量に発生し、排水口を詰まらせるなど厄介者として知られている。ウキクサは、ウキクサ、アオウキクサやコウキクサなど小さなウキクサが多い。ウキクサは比較的光の弱い場所でも繁茂し、その増殖速度は2~3日で2倍くらいに増殖するものもある。([http://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005300401_00000&p=box 動画])観察してみるとわかるが、ウキクサが良く繁茂する場所は、水の滞ったところである。また、ウキクサは、好アンモニア性植物であり、アンモニア態窒素を積極的に利用することのできる植物である。このため、汚泥が沈殿し水の流れの少ない濾過槽のようなところにはよく生育することができるわけである。ウキクサをの生育をコントロールする方法には、水がゆっくりと流れる場所をつくらないことや、ウキクサが生育しやす場所に光が入らないように板や遮光ネットなどで蓋をしてしまうことである。反対に、ウキクサを積極的に繁茂させる槽を設けて、定期的にウキクサをすくいあげて水中のアンモニアなどを積極的に除去する方法もある。すくいあげたウキクサは、もみ殻などと混ぜ堆肥化したり、メタン発酵を用いて液肥化するなどの手法も有効である。つくば3Eフォーラムバイオマスタスクフォースでは[https://www.tsukuba-network.jp/soshiki/3e/no27/2-2.pdf 、アクアポニックス技術のマニュアル化及びアクアポニックスへのバイオマス技術の新たな活用の ための試行(継続)~アクアポニックス・バイオマス研究開発によって得られた知見の湖沼浄化 への発信~]というテーマの研究プロジェクトで、アクアポニックスで発生したウキクサを試料として、メタン発酵によるガス発生の有無について確認した。水棲生物養殖時の水質浄化用植物としてウキクサを用いることは、それ自体アクアポニックスともいえる。ウキクサは英語でduckweedと翻訳され、カモなども食べることのできる植物である。FAOの出版物[http://www.fao.org/ag/againfo/resources/documents/DW/Dw2.htm 「DUCKWEED: A tiny aquatic plant with enormous potential for agriculture and environment」]によれば、ウキクサはタンパク質が豊富で、魚、鶏、豚、牛などの補助的な飼料として実際に世界中で利用されてきたことが記されている。ただし、ウキクサのみを飼料とした場合、生育は悪くなってしまうため、あくまで補助的な飼料として利用することが重要である。小規模なアクアポニックスでは、コンポスト化など肥料として用いることが簡便である。