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== 治療法 ==
治療法は[[抗がん剤]][[化学療法 (悪性腫瘍)|化学療法]]、[[放射線療法]]、[[支持療法]]を単独で、もしくは組み合わせて行う。[[造血幹細胞移植]]を行うこともある。疾患毎に、病期や予後因子等によって推奨される治療法は異なるので、詳細は各疾患の治療の項目を参照されたい。
 
== 悪性リンパ腫による神経系障害 ==
悪性リンパ腫の神経系障害は圧迫、直接浸潤、遠隔効果によるものに大別される。圧迫によるものの代表例はリンパ腫の転移性硬膜外腫瘍による圧迫性[[脊髄症]]がよく知られている。直接浸潤は浸潤する部位により中枢神経系に浸潤する中枢神経リンパ腫症(CNS lymphoma)、末梢神経系に浸潤する神経リンパ腫症(neurolymphomatosis)、筋肉に浸潤する筋リンパ腫症(muscle lymphoma)に大別される。また免疫不全に伴う場合は免疫不全関連リンパ増殖性疾患(IDLPD)として区別される<ref>Semin Diagn Pathol. 2013 May;30(2):113-29. PMID 23537912</ref>。遠隔効果によるものは[[傍腫瘍性神経症候群]]である。
 
=== 中枢神経系 ===
悪性リンパ腫による中枢神経系の障害には中枢神経リンパ腫症、腫瘤形成による圧迫、[[傍腫瘍性神経症候群]]がある。
 
==== 中枢神経リンパ腫症 ====
中枢神経リンパ腫症には全身性リンパ腫の中枢神経系浸潤、中枢神経系原発リンパ腫(primary CNS lymphoma、PCNSL)、[[血管内リンパ腫]]症(intravascular lymphomatosis)に大別される。
 
===== 全身性リンパ腫の中枢神経系浸潤 =====
全身性リンパ腫の中枢神経系浸潤の大半はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫である。診断時より中枢神経系浸潤している場合と治療後に中枢神経系に再発する場合がある。浸潤様式に脳実質内腫瘤形成型と髄膜播種型と両者の合併が知られている。浸潤した部位によって[[麻痺]]や[[失語]]のような巣症状、認知機能低下や性格変化など非局在性症候や頭蓋内圧亢進症による頭痛、嘔気などが認められる。比較的高頻度にみられる症状は脳神経麻痺であり特に外眼筋麻痺と顔面神経麻痺が多い。全身性リンパ腫の中枢神経系の再発は5%と比較的稀である<ref>Blood. 1998 Feb 15;91(4):1178-84. PMID 9454747</ref><ref>Ann Oncol. 2002 Jul;13(7):1099-107. PMID 12176790</ref><ref>Ann Oncol. 2007 Jan;18(1):149-157. PMID 17018708</ref>。しかし予後は不良であり50%生存期間は6ヶ月であり、2年生存率は27%という報告もある<ref>Cancer Sci. 2012 Feb;103(2):245-51. PMID 22044593</ref>。治療は高用量[[メソトレキセート]]の全身投与が優れているが副作用も多い<ref>J Clin Oncol. 1998 Apr;16(4):1561-7. PMID 9552066</ref>。
 
その他ステロイドや抗がん剤の髄腔内投与や全脳放射線照射などが行われる。リツキシマブの髄腔内投与の報告もあるが一般的ではない<ref>Haematologica. 2004 Jun;89(6):753-4. PMID 15194546</ref><ref>J Clin Neurosci. 2014 May;21(5):709-15. PMID 24725453</ref>。
 
===== 原発性中枢神経系リンパ腫 =====
眼球を含む中枢神経系に原発する中枢神経系に原発する悪性リンパ腫であり、中枢神経系以外には悪性リンパ腫が存在しないものである。病理学的には大多数がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫である。臨床症状と画像所見が極めて多彩であり「すべての神経疾患の鑑別に[[サルコイドーシス]]と悪性リンパ腫を挙げよ」ともいわれる。原発性脳腫瘍の3.1%を占め、年間人口10万人あたり約0.5人が発症する<ref>Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2010 Mar 1;76(3):666-78. PMID 20159361</ref>。免疫不全に伴い発症する原発性中枢神経系リンパ腫はEBウイルスの関与が示唆されている<ref>Semin Diagn Pathol. 2013 May;30(2):113-29. PMID 23537912</ref>が免疫能正常の患者の発生原因は不明である<ref>Leukemia. 2011 Dec;25(12):1797-807. PMID 21818113</ref>。
 
全身性リンパ腫の中枢神経系浸潤と同様に脳実質内腫瘤形成型と髄膜播種型の浸潤様式があるが原発性中枢神経系リンパ腫で髄膜播種型のみを示すことは極めて稀である。この稀な病態をprimary leptomeningeal lymphomaという<ref>Neurology. 2013 Nov 5;81(19):1690-6. PMID 24107866</ref>。また特殊な病態としてlymphomatosis cerebriというものが知られている<ref>Dement Geriatr Cogn Disord. Mar-Apr 1999;10(2):152-7. PMID 10026390</ref>。これは腫瘤を形成せず、びまん性に白質脳症が両側性に出現するという原発性中枢神経系リンパ腫の特殊系である。亜急性に進行する認知機能障害、性格変化、歩行時のふらつきといった非局在性の神経症状が中心である。lymphomatosis cerebriの予後は不良で治療をしても半年以内に死亡することが多い。
 
原発性中枢神経系リンパ腫は通常中枢神経系に限局し、他部位に浸潤、転移することは極めて稀である。複数回中枢神経系に再発しても全身転移は稀である。治療としては高用量MTXの全身投与などが行われ2年生存率が50~70%であり5年生存率が20~40%である<ref>Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2010 Mar 1;76(3):666-78. PMID 20159361</ref>。
 
===== 血管内リンパ腫症 =====
[[血管内リンパ腫]]症(intravascular lymphomatosis)は主に節外臓器の微小血管内を閉塞性に進展する悪性リンパ腫である。病理学的にはびまん性大細胞型B細胞細胞リンパ腫の亜型である。血管内リンパ腫症で血管腔の血管[[内皮]]に細胞が集まりやすい理由は、細胞の表面に発現される分子によると考えられている。血管内リンパ腫症は極めて稀であり、欧米では100万人あたり1人とされているがアジアでの頻度は不明である。皮膚症状や神経症状が主体のWestern variantと[[血球貪食症候群]]を合併するAsian variantが知られている<ref>J Clin Oncol. 2007 Jul 20;25(21):3168-73. PMID 17577023</ref><ref>Lancet Oncol. 2009 Sep;10(9):895-902. PMID 19717091</ref>。一般に発症は亜急性で経過は急速進行性であり、約6ヶ月~2年の経過で多臓器不全により死亡し、病理解剖で確定診断されることが多かった。しかしランダム皮膚生検など診断法の改善やCHOP療法とリツキシマブとの併用療法の普及により予後は改善してきている。
 
;亜型
;;Western variant
神経症状(39%)と皮膚症状(39%)が主症状である。典型的な皮疹は有痛性の発赤病変である。認知症や末梢神経障害など急激に進行する神経徴候を伴うことが多い。骨髄(32%)、脾臓(26%)、肝臓(26%)も障害されることが多い<ref>Br J Haematol. 2004 Oct;127(2):173-83. PMID 15461623</ref><ref>Acta Neurol Scand. 1995 Jun;91(6):494-9. PMID 7572046</ref>。
 
;;Asian variant
神経症状(27%)、皮膚症状(15%)である。貧血(63%)、血小板減少(29%)、白血球減少(24%)や血球貪食症候群(59%)といった血球異常が認められる。骨髄(75%)、脾臓(67%)、肝臓(55%)も障害されることが多い。B症状も認められることが多い<ref>Blood. 2007 Jan 15;109(2):478-85. PMID 16985183</ref><ref>Br J Haematol. 2000 Dec;111(3):826-34. PMID 11122144</ref>。
 
;;Cutaneous variant
皮膚に限局するタイプである。
 
;臨床症状
血管内リンパ腫は[[不明熱]]、易疲労感などの全身症状、発疹、紅斑といった皮膚症状や認知機能障害や意識障害などの進行性の神経症状が認められる。
 
;;不明熱
血管内リンパ腫は不明熱と多臓器不全を起こす疾患として知られており、特に不明熱とPS不良の症例で疑う。
 
;;皮膚症状
血管内リンパ腫に認められる皮膚病変は多彩である。1999年にKrausらが外見上異常がない皮膚でも血管内リンパ腫の病変が認められることを報告している<ref>Am J Med. 1999 Aug;107(2):169-76. PMID 10460050</ref>。
 
;;神経症状
血管内リンパ腫は全経過を通してみると85%以上で認められる。最も多いのが[[脳血管障害]](76%)であり、脊髄・神経根障害(38%)、亜急性脳症(27%)、脳神経障害(21%)、眼科的障害(16%)、[[末梢神経障害]](5%)、[[ミオパチー]](3%)である<ref>Cancer. 1993 May 15;71(10):3156-64. PMID 8490846</ref>。脳血管障害は[[脳梗塞]]が多く、亜急性脳症は[[意識障害]]や精神症状を示す。脊髄・神経根障害ではくも膜腔から脳実質内の小血管内腔に腫瘍細胞が充満し頸髄から腰髄まで広範囲にわたる虚血性の壊死病変を認める。好発部位は腰髄から仙髄であり対麻痺、感覚障害、膀胱直腸障害を示す。
 
==== 中枢神経の傍腫瘍性神経症候群 ====
悪性リンパ腫の遠隔効果として辺縁系脳炎、亜急性小脳変性症、亜急性壊死性脊髄炎、[[スティッフパーソン症候群]]、オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群、肉芽腫性脳血管炎が知られている<ref>Blood. 2014 May 22;123(21):3230-8. PMID 24705493</ref>。
 
=== 末梢神経系 ===
悪性リンパ腫による末梢神経系の障害には末梢神経リンパ腫症(neurolymphomatosis)、腫瘤形成による神経組織の圧迫、血管内リンパ腫による虚血性病変、遠隔効果による[[傍腫瘍性神経症候群]]が知られている。
 
==== 末梢神経リンパ腫症 ====
末梢神経リンパ腫症(neurolymphomatosis)は悪性リンパ腫が末梢神経へ浸潤することである。末梢神経原発のものが狭義の末梢神経リンパ腫症であり、それ以外に全身性リンパ腫の末梢神経浸潤や全身性リンパ腫の治療後末梢神経再発などが考えられる。典型的には有痛性の多発神経障害や多発神経根障害が起こる。[[MRI]]やFDG-PETで評価する。
 
==== 血管内リンパ腫症 ====
血管内リンパ腫症の末梢神経障害は多彩な表現型をとる。神経生検や筋生検で診断される例もある<ref>Neurology. 1996 Oct;47(4):1009-11. PMID 8857736</ref><ref>Intern Med. 1997 Apr;36(4):304-7. PMID 9187572</ref>。
 
==== 末梢神経の傍腫瘍性神経症候群 ====
悪性リンパ腫の遠隔効果として亜急性感覚性ニューロノパチー、感覚性ニューロパチー、運動性ニューロパチー、感覚運動性ニューロパチー、CIDP、血管炎性ニューロパチー、神経ミオトニアが知られている。亜急性感覚性ニューロノパチーで血清にTrk抗体が認められる例もある。
 
=== 筋肉 ===
悪性リンパ腫の筋肉の障害には末梢神経障害による神経原性筋萎縮、筋自体への浸潤である筋リンパ腫症(muscle lymphoma)、血管内リンパ腫の筋内血管病変、傍腫瘍性神経症候群の[[筋炎]]、骨髄穿刺に伴う殿筋血腫、感染症合併による筋[[膿瘍]]、[[アミロイドーシス]]によるミオパチー、同種移植後のGVHDとしての筋炎などがある。また神経筋接合部の傍腫瘍性神経症候群としては[[重症筋無力症]]と[[ランバート・イートン症候群]]が知られている。
 
==== 神経原性筋萎縮 ====
筋生検をしても筋内神経にリンパ腫細胞が認められることは稀である。
 
==== 筋リンパ腫症 ====
筋リンパ腫症(muscle lymphoma)は悪性リンパ腫が筋肉へ浸潤することである。筋肉が原発の場合と全身性リンパ腫の筋肉浸潤が考えられる。通常、血清CK値は上昇しない。組織学的に筋周鞘血管周囲や筋内鞘にリンパ腫細胞が浸潤する。進行すれば筋を置換するような形になる。また再発による筋リンパ腫もある。
 
==== 血管内リンパ腫症 ====
筋肉MRIで異常信号を呈した部位の筋生検で診断ができず、腎生検で血管内リンパ腫症と診断した例がある<ref>[https://www.neurology-jp.org/Journal/members_pdf/052050336.pdf 臨床神経2012;52:336-343]</ref>。異常信号は神経原性筋萎縮と考えられる。筋肉しばしば血管内リンパ腫症の組織診が行われる。
 
==== 筋肉の傍腫瘍性神経症候群 ====
悪性リンパ腫を合併する筋炎や悪性リンパ腫を合併する[[重症筋無力症]]や[[ランバート・イートン症候群]]が知られている。
 
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
*brain and nerve Vol.66 No.8 2014 ASIN B00GOIIH02
*brain and nerve Vol.63 No.5 2011 ASIN B004YWN03E
*神経内科 Vol.73 No.1 2010 ASIN B00FXIUMHA
 
== 関連項目 ==