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== 問題点 ==
森林の保水力が失われる結果、[[土壌]]栄養分の流亡や[[洪水]]、[[土砂崩れ]]を引き起こすことがある([[水源涵養機能]]の低下)。また[[水質]]・[[大気]]浄化能力を低下させる。さらに、[[二酸化炭素]]の固定機能の低下の結果[[地球温暖化]]につながると指摘される。[[生態]]学的な観点から見た場合、陸上[[生態系]]の基盤となる森林を失うことで生態系自体の安定性を低下させ、森林で生きる動植物や[[昆虫]]の住みかを奪うことになる。
 
熱帯雨林は高温多湿で有機物の分解が早く、土壌がやせている。伐採による裸地ができると、土壌浸食・不毛化が進みやすい{{Sfn|石|2003|p=65}}。
 
基本的かつ[[公共]]性の高い[[社会資本]]の喪失という側面もあるため、[[途上国]]における森林破壊は国際的な[[経済格差]]拡大の原因のひとつともなっている。
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=== 木材としての伐採による森林破壊 ===
 
1950年代から欧米や日本の木材需要が増え、各国の森林が伐採されて輸出された。マレーシアでは[[サラワク州]]を中心に伐採が進み、1970年代には日本向けの木材輸出が70%を占めた。サラワク州の森林の急速な減少をみた[[国連食糧農業委機関]](FAO)はサラワク州に対策を勧告し、1988年には[[ヨーロッパ共同体]](EC)がサラワク州からの輸入を中止した。[[国際熱帯木材機関]](ITTO)もサラワク州に伐採の削減を勧告したが、日本は輸入を続けサラワク州からの輸出は続いた。マレーシアの森林面積は1960年代の国土の80%以上から1998年には66%へと減少した。1995年の調査では、[[ボルネオ島]]の117の河川のうち84で土砂の流入量が増加し洪水の原因になっている{{Sfn|石|2003|pp=62-66}}。
 
日本では戦後、[[高度経済成長]]に伴う[[木材需要]]に対応するため、大規模に[[天然林]]が伐採され、[[住宅]]の[[梁 (建築)|梁]]や[[柱]]、[[家具]]材などとして消費された。こうして伐採された所に[[スギ]]などが大量に[[植林]]がなされた。現在では安価な[[外材]]の輸入の増加とともに[[国産木材]]が売れなくなったことと[[林業]]就労者の収入減少が影響し、林業就労者の減少がおき、[[間伐]]や[[間引き]]などの手入れの行き届いていない不成績[[造林地]]が増加して全国各地で問題になっている。手入れの行き届いていない所では木々が密集した状態で日光が十分に当たらず細い木ばかりになっている。
 
<!-- 熱帯雨林を持つ国では違法な伐採が行われ、第三国を経由して出所を不明にし(ログロンダリング)日本へと輸入されるケースがある。現地の住人としては生活のために違法に伐採を行わなければならないという事情もある。--><!-- どの国でどの程度の違法伐採があったのかを記述してください --><!-- 森林伐採以外に酸性雨も一因では? -->
2003年時点で世界人口の2%である日本は、他方で丸太輸入の50%以上、木材加工品の約30%を占めており、世界最大の熱帯木材輸入国でもある。フィリピンでは1950年代から1960年代に日本に大量に輸出を続け、1980年代には木材輸入国に転じる結果となった。日本に輸出された木材は50%が建設・土木、30%が家具となった{{Sfn|石|2003|p=75}}。
 
=== 燃焼材木(薪炭材)としての利用 ===
[[Image:Hillside_deforestation_in_Rio_de_Janeiro.jpg|thumb|right|300px|deforestation in Rio de Janeiro]]
アフリカや中南米の熱帯地域では、木質燃料の比率が非常に高い状況にあり、[[薪炭]]材の利用が急増しているとの指摘がある。これらの地域では、貧困のためエネルギー源は安価な薪炭材に頼らざるを得ず、熱効率の悪い調理用[[カマド]]が使用されているなどの事情から、人口の急増に伴って、家庭用エネルギー源としての薪炭利用が増加したとの見方もある一方、家庭用の薪炭については、枯木や枝木を採取することが主で、大木を伐採して薪炭材として利用することは少ないとの意見も存在する。これら薪炭材をめぐる森林伐採の問題については、世界銀行の研究報告によると「世界で伐採される(建材も製紙用の伐採も全て含んだ)木材の6本に1本は、葉タバコを乾燥するために使用されている」<ref>[http://www.kyoto-seika.ac.jp/jinbun/kankyo/class/2003/hosokawa/lecture_07.html#chap_03-03] 京都精華大学人文学部環境社会学科「森を煙に変える方法 ── 南北問題からみたタバコ経済」</ref><ref>[http://www1.worldbank.org/tobacco/]世界銀行報告書「たばこ流行の抑制 たばこ対策と経済」</ref>また、1998年には、世界公衆衛生協会連盟(WFPHA)の政策文書においても「森林破壊がタバコによる主要な害悪」の1つとして掲げられており、WHO(世界保健機関)からも「途上国でのタバコ栽培と森林破壊についてのカラー図版」が公開されている<ref>[http://www.who.int/tobacco/en/atlas16.pdf]WHO(世界保健機関)「途上国でのタバコ栽培と森林破壊についてのカラー図版」</ref>なお、タバコの乾燥に使用される木の伐採の具体的な事例の1つとしては、タンザニアの森林破壊がある<ref>[http://gec.jp/gec/gec.nsf/jp/Activities-JICA_Training-interview_ems06]財団法人地球環境センター「JICA研修「環境政策・環境マネジメントコース」対談:ケニア、タンザニアの環境問題」</ref>。
 
インドは2003年時点で世界人口の16%と家畜の15%を有するが、森林面積は世界の1.7%であり森林が不足している。原因として燃料としての薪の使用があり、木材利用の半分が薪と炭に使われており問題視されている。政府が補助金を削減したため調理用の天然ガスや灯油の価格が上昇した点も薪の利用を増やした{{Sfn|石|2003|pp=48-49}}。産業用の材木の年間生産力が1200万立方メートルであるのに対して、伐採は2800万立方メートルに及んでいる{{Sfn|石|2003|p=51}}。
 
=== 施設建設のための伐採による森林破壊 ===
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=== 山火事 ===
近年世界中で大規模な[[山火事]]が起き、多くの森林が失われている。自然発火することもあるが、人が原因の火事も多くある。南米、北米、オーストラリアなどで甚大な被害が出ている<ref>[https://gooddo.jp/magazine/climate-change/forest_fire/7302/ 森林火災がアマゾンやオーストラリアで発生した原因は?消火方法はあるのかgooddoマガジン]</ref>
 
南米、北米、オーストラリアなどで甚大な被害が出ている。<ref>[https://gooddo.jp/magazine/climate-change/forest_fire/7302/ 森林火災がアマゾンやオーストラリアで発生した原因は?消火方法はあるのかgooddoマガジン]</ref>
1997年には東南アジア各地で山火事が起き、ジャワ島、スマトラ島、マレー半島、フィリピンなどの7箇所におよんだ。中でも[[ボルネオ島]]では呼吸器障害などで17人が死亡し、旅客機が墜落して234人が死亡する[[ガルーダ・インドネシア航空152便墜落事故]]も起きた。インドネシア政府は当初は農民の焼畑が出火原因としたが、NGOや国際組織の調査では火元は政府主導の[[アブラヤシ]]の[[プランテーション]]や水田のある地域に集中していた。政府はのちに伐採業者を24人を逮捕し、この伐採業者の全てがプランテーションと伐採事業に関わっていた{{Sfn|石|2003|pp=73-75}}。
 
== 森林破壊の歴史 ==
; メソポタミア
古代の森林破壊は、開墾の他に建築や造船のための伐採も原因となった。最古の叙事詩ともいわれる[[ギルガメシュ叙事詩]]では、[[レバノンスギ]]の伐採に関する物語がある。英雄[[ギルガメシュ]]はレバノンスギを求めてレバノン山脈に分け入り、森を守る[[フンババ]]を殺したために主神[[エンリル]]の罰を受けた。レバノンスギは優れた木材であるため、地中海の周辺諸国によって紀元前3000年紀にはすでに乱伐されていたことが花粉の記録から判明している。このためギルガメシュが罰を受けたのは、森林保護の観点によるという解釈もある{{Sfn|安田|1997|pp=103-104, 108-109}}。
 
; インダス
;古代ギリシア
5000年ほど前には[[タール砂漠]]の一帯は森林地帯だったが、ムギ類の花粉から農業が盛んになっていたことが分かる。[[インダス文明]]の遺跡からはトラ、サイ、スイギュウ、ゾウなどの図柄があるため生物種が豊富だった点がうかがえる。約4000年前からインダス文明は衰退していった。約3500年前にパンジャブ平原のアーリア人が南下して、森林を開拓していったとされる。紀元前326年に[[アレクサンドル3世]]が[[インダス川]]に到着した時には、王の軍隊が森に隠れたという記録があり、当時はまだ森が残されていたと推測される{{Sfn|石|2003|pp=34-37}}。
 
; 古代ギリシア
[[古代ギリシア]]の哲学者[[プラトン]]は『[[クリティアス (対話篇)|クリティアス]]』において、森林伐採によって[[アッティカ]]の国土が荒廃したことを問題視した。かつては肥沃な土壌があったがそれが流失し、やせ衰えたと表現している{{Sfn|瀬口|1998|pp=1-2}}。プラトンは別の著作『[[国家 (対話篇)|国家]]』や『[[法律 (対話篇)|法律]]』においては、植樹や治水を論じている{{Sfn|瀬口|1998|pp=4-6}}。
 
; パエストゥム
古代ローマの都市[[パエストゥム]]は、海神ポセイドンの名をあやかったポセイドニアと呼ばれた古来から造船で栄えていたが、船を造るための木を伐採しすぎたため、洪水の多発化や沿岸部の湿地化、蚊の繁殖によるマラリアの蔓延が起きるようになり、沿岸部の都市を放棄した。
 
; 中世ヴェネツィアと森林破壊
海の女王として栄えた中世の[[ヴェネツィア共和国]]では、農業の他に[[海上貿易]]に必要な[[輸送船]]や艦船を建造するための木材確保が重要だった。森林資源の枯渇が進むにつれて木材の確保に苦しむようになり、森林資源の保護や木材の使用を制限する法律が出されるようになった。
 
;ヨーロッパの 産業革命と森林破壊
18世紀後半にイギリスからはじまった[[産業革命]]の背景の1つに森林破壊が関わっている。燃料として使用していた[[木炭]]の消費により森林資源の枯渇が進み、代替燃料として当時はまだ扱いが困難だった[[石炭]]への転換が進められた。いわば必要に迫られての[[技術革新]]が[[産業革命]]をおこすきっかけの1つとなった。
 
; 植民地主義
;製紙業における森林破壊
[[イギリス帝国|イギリス]]は[[プラッシーの戦い]](1757年)以降にインドの植民地支配を進め、インドの森林を農地に変えて輸出用の換金作物を栽培させた{{Sfn|石|2003|pp=38-39}}。最大の換金作物は[[チャノキ|茶]]だった{{Sfn|石|2003|p=42}}。また、海軍の船材のために[[チーク]]が大量に伐採され、[[インド総督]]は1855年にチークと類似の樹木が植民地政府の所有であると定めた{{Sfn|石|2003|pp=38-39}}。インド大陸の各所に鉄道の敷設が始まると、橋や枕木のために森林が伐採された{{efn|広軌鉄道は1キロあたり1200本の木材を必要とした{{Sfn|石|2003|p=40}}。}}。1914年には軍需の伐採も増え、地元住民と森林局の対立も起きた。鉄道が敷設されて輸送手段が確立すると、さらに奥地の[[タライ地方]]の[[サラソウジュ]]やヒマラヤ山麓の森林も伐採された{{Sfn|石|2003|pp=40-41}}。インドは国土の約8割が森林だったと推定されるが、イギリスの植民地支配開始時期の森林面積は66%となり、[[インド・パキスタン分離独立|インド独立]](1947年)の直後は40%になっていた。チーク、サラソウジュ、ビャクダンをはじめ伐採されて[[マラバール海岸]]のチークの森林はほぼ消滅した。森林が減少した影響で各地で洪水、渇水が起きた{{Sfn|石|2003|pp=43-44}}。
 
; 製紙業
製紙で[[パルプ]]の材料とする樹木が伐採され、再生産のペースを超えた過剰な伐採は森林破壊につながる場合がある。フィリピンは1950年代には森林面積が国土の75%を占めていたが、日本向けの木材輸出が1960年代から行われて1980年代末には25%となった。マレーシアも日本向けの有数の木材輸出国であり、[[ボルネオ島]]を中心に伐採が急増した{{Sfn|大野、桜井|1997|p=136}}。2014年時点で日本が輸入するコピー用紙の約8割が、インドネシアから来ているともいわれる<ref name=WWF20141021>{{Cite news|url=https://www.wwf.or.jp/activities/activity/1369.html |title=ボルネオ島の森林保全 |last= |first= |date=2014-10-21 |work=WWF |access-date=2021-04-08|language= |issn=}}</ref>。
 
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== 参考文献 ==
* {{Citation| 和書
| author = [[石弘之]]
| title = 世界の森林破壊を追う―緑と人の歴史と未来
| ref = {{sfnref|石|2003}}
| series =
| publisher = 朝日新聞社
| editor =
| pages =
| periodical =
| year = 2003
}}
* {{Citation| 和書
| author = 石弘之
| title = 名作の中の地球環境史
| ref = {{sfnref|石|2011}}
| series =
| publisher = 岩波書店
| editor =
| pages =
| periodical =
| year = 2011
}}
* {{Citation| 和書
| author = {{仮リンク|ガイア・ヴィンス|en|Gaia Vince}}
178 ⟶ 215行目:
| isbn =
}})
* {{Citation| 和書
| author = 上田信
| title = 森と緑の中国史―エコロジカルーヒストリーの試み
| ref = {{sfnref|上田|1999}}
| series =
| publisher = 岩波書店
| editor =
| pages =
| periodical =
| year = 2011
}}
* {{Citation| 和書
| author1 = [[大野健一]]
188 ⟶ 236行目:
| periodical =
| year = 1997
}}
* {{Citation| 和書
| author = 窪田蔵郎
| title = 鉄から読む日本の歴史
| ref = {{sfnref|窪田|2003}}
| series = 学術文庫
| publisher = 講談社
| editor =
| pages =
| periodical =
| year = 2003
}}
* {{Cite journal|和書|author=瀬口昌久 |title=コスモスの回復―プラトン『クリティアス』における自然環境荒廃の原因 |url=http://id.nii.ac.jp/1476/00001517/ |journal=Litteratura |publisher=名古屋工業大学言語文化講座 |year=1998 |month=jun |volume=19 |issue= |pages=1-11 |naid= |issn=03893197 |accessdate=2020-08-03 |ref={{sfnref|瀬口|1998}}}}
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== 関連文献 ==
* {{Citation| 和書
| author = [[ジャレド・ダイアモンド]]
| title = 文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの
| ref = {{sfnref|ダイアモンド|2005}}
| series =
| translator = 楡井浩一
| publisher = 草思社
| editor =
| pages =
| periodical =
| year = 2005
}}
* {{Citation| 和書
| first = 宗子
202 ⟶ 273行目:
| year = 2009
| isbn =
}}
* {{Citation| 和書
| author = ジョン・パーリン
| title = 森と文明
| ref = {{sfnref|パーリン|1994}}
| series =
| translator = 安田喜憲, 鶴見精二
| publisher = 晶文社
| editor =
| pages =
| periodical =
| year = 1994
}}
* {{Citation| 和書
| author = クライブ・ポンティング
| title = 緑の世界史(上下)
| ref = {{sfnref|窪田|1994}}
| series = 朝日選書
| translator = 石弘之
| publisher = 朝日新聞社
| editor =
| pages =
| periodical =
| year = 1994
}}