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'''バラシリ'''（{{Lang-mn|Balaširi}}, {{Lang-zh|八剌失里}}, ?-?、生没年不詳）は、[[デルゲル・ブカ]]の息子で、[[モンゴル帝国]]の皇族。『[[元史]]』などの[[漢文]]史料では八剌失里（bālàshīlǐ）と記される。

[[クビライ]]の孫で[[モンゴル高原]]の統轄を委ねられた[[カマラ (元朝)|晋王カマラ]]の息子のデルゲル・ブカの息子として生まれた。デルゲル・ブカは[[1311年]]（至大4年）より[[投下 (モンゴル帝国)|投下領]]に因む「湘寧王」という王号を称していたが、[[1323年]]（至治3年）に引退して息子のバラシリが「湘寧王」位を継いだ<ref>『元史』巻108諸王表,「湘寧王：迭里哥児不花、至大二年徙封。八剌失里、至治三年襲封」</ref>。

伯父に当たるイェスン・テムル（泰定帝）が即位すると、バラシリは近親の王族として重用されるようになる。[[1324年]]（泰定元年）3月にはイェスン・テムルの長子男の[[アリギバ]]が皇太子に、次子男の[[パドマギャルポ]]が[[晋王]]（[[ジノン]]＝モンゴル高原の統括者）にそれぞれ任じられ、また甥のバラシリは[[オルドス高原]]のチャガン・ノールへ出鎮するよう命じられたが<ref>『元史』巻29泰定帝本紀1,「［泰定元年三月］己酉、以皇子八的麻亦児間卜嗣封晋王。泰寧王買奴卒、以其子亦憐真朶児赤嗣。遣湘寧王八剌失裡里出鎮察罕脳児、罷宣慰司、立王傅府」</ref>、これはクビライ時代に皇太子[[チンキム]]・安西王[[マンガラ]]・北平王[[ノムガン]]が大元ウルスの「三大王国」をそれぞれ治める体制への回帰（チンキムの立場がアリギバ、マンガラの立場がバラシリ、ノムガンの立場がパドマギャルポにそれぞれ相当する）を目指したものではないかと推測されている<ref>牛根2007,88頁</ref>。

[[1326年]]（泰定3年）正月には一時「ウルス（兀魯思）部（モンゴル高原か？）<ref>牛根2007,103頁</ref>」に移されたが<ref>『元史』巻30泰定帝本紀2,「［泰定三年春正月］己未、賜武平王帖古思不花部軍民鈔、人十五錠。以湘寧王八剌失里鎮兀魯思部」</ref>、同年4月には早くもオルドス方面（「阿難答之地」＝安西王家の旧領）に戻された<ref>『元史』巻30泰定帝本紀2,「［泰定三年四月］丁亥、命湘寧王八剌失裡里出鎮阿難答之地」</ref>。同年11月には鈔3000錠を与えられ<ref>『元史』巻30泰定帝本紀2,「［泰定三年十一月］辛亥、追復前平章政事李孟官。賜湘寧王八剌失里鈔三千錠」</ref>、[[1327年]]（泰定4年）には再びチャガン・ノールへの出鎮を命じられた<ref>『元史』巻30泰定帝本紀2,「［泰定四年三月］壬戌、車駕幸上都。復設武備寺同判六員。命親王八剌失裡里出鎮察罕脳児」</ref>。

[[1328年]]（泰定5年/致和元年/天暦元年）7月にイェスン・テムル・カーンが崩御すると、かねてから晋王カマラ家の支配に不満を抱いていた[[キプチャク]]軍閥の[[エル・テムル]]が3代前の皇帝[[カイシャン]]の息子の[[トク・テムル]]を擁立して[[大都]]にて決起、イェスン・テムルの旧臣たちも皇太子アリギバを[[上都]]で擁立し、大都（トク・テムル派）と上都（アリギバ派）の間で「[[天暦の内乱]]」が勃発した。

同年10月、内乱の報せがバラシリの鎮撫する[[甘粛行省]]・[[陝西行省]]方面に届くと、これらの行省は上都派につくことを表明し、大都派から送られてきた使者を捕らえて上都に送ってしまった。甘粛・陝西方面が上都側についたことにより、バラシリは[[オングト]]部当主（趙王）の馬扎札罕や諸王忽剌台とともに山西地方への侵攻を開始し、[[冀寧路]]では多くの吏民が殺され掠奪を受けた。そこで大都側は万人隊長（トゥメン）のコシャン（和尚）にバラシリ軍を撃退するよう命じ、コシャンは民兵を募ってバラシリ軍を迎撃し激戦が繰り広げられたが、最終的に敗れて冀寧路は上都派によって掌握された<ref>『元史』巻32文宗本紀1,「［致和元年冬十月］乙未……使者頒詔於甘肅粛、至陜陝西行省・行台官塗毀詔書、械使者送上都。湘寧王八剌失裡里引兵入冀寧、殺掠吏民。時太行諸関守備皆闕、冀寧路来告急、敕万戸和尚将兵由故闕援之。冀寧路官募民丁迎敵、和尚以兵為殿、殺獲甚衆。会上都兵大至、和尚退保故関、冀寧遂破」</ref><ref>なお、「万戸和尚」は『元史』巻86百官2に「河南淮北蒙古軍都万戸府」に属すると記される「和尚万戸府」の長であったと見られる。牧野修二はエル・テムル直属の軍団を除く地方に駐屯する諸軍団は上都側にあっさり敗れている事例が多いことを指摘し、上都派と大都派のどちらにつくか去就を決めかねていたために戦意が低かったのではないかと推測する（牧野2012,1035-1036）</ref>。

しかし、同月中に上都派は遼東方面から進出してきた斉王[[オルク・テムル (斉王)|オルク・テムル]]の攻撃によって追い詰められ、上都派の主立った面々は投降して内乱は大都派の勝利に終わった。その数日後、冀寧路から北上して馬邑に至っていたバラシリは元帥イェスデルによって捕らえられ、それまでの戦いで捕虜としていた男女千人も没収された<ref>『元史』巻32文宗本紀1,「［致和元冬十月］甲寅……元帥也速答児執湘寧王八剌失里送京師。八剌失里及趙王馬扎札罕・諸王忽剌台、承上都之命、各起所部兵南侵冀寧、還次馬邑至是被執、其所俘男女千人、悉還其家」</ref>。上都派の敗北によってバラシリの王傅も解体されてしまったものとみられ、同年12月にはバラシリに味方したホルフダら13人が伏誅され、バラシリによる陝西・甘粛方面支配は終わりを告げた<ref>『元史』巻32文宗本紀1,「［致和元十二月］辛丑……火児忽答等十三人従湘寧王八剌失裡里用兵、既伏誅、命皆籍其家貲」</ref><ref>牧野2012,1037</ref>。

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