「電気推進 (船舶)」の版間の差分

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[[船舶]]における'''電気推進'''(でんきすいしん)は、[[船]]の推進方式の一種。[[電動機]]によって何らかの推進器を駆動する方法で、運行を行う方式である。推進器としては、単に[[スクリュープロペラ]]を回す方式だけでなく、例えば、[[ウォータージェット推進|ウォータージェット推進器]]器)を駆動する方式{{Sfn|立石|2002}}も含まれる
 
== 歴史 ==
=== 19世紀 ===
電気推進方式の採用はまず[[潜水艦]]より着手され、1884年の[[アメリカ海軍]]のタック艇、1885年の[[イギリス海軍]]の「[[:en:HMS Nautilus (1914)|ノーチラス]]」で、[[蓄電池]]充電された電力を利用して駆動する電気推進機関が搭載された。これらの機関は相応の成績を示したものの、潜水艇としては肝の潜航機構が不満足だったためであり、試作の域を出るものに過ぎない状態はなかった。その後、1888年に進水した[[フランス海軍]]の「[[ジムノート (潜水艦)|ジムノート]]」は、蓄電池564個と55馬力の電動機による電気推進機関を搭載しており、良好な成績を収めた。また[[:en:Anthony Reckenzaun|アントニー・レッケンツァウン]]の設計によって1886年に竣工した小型艇「ヴォルタ」は、やはり蓄電池による電気推進機関を搭載しており、[[イギリス海峡|英仏海峡]]の横断に成功して、水上船艇への電気推進導入の嚆矢となった。その後、1898年に竣工した「[[ホランド (潜水艦)|ホランド]]」では水上航走用の原動機が搭載され、自己充電能力を備えた{{Sfn|阿部|2002}}
 
また[[:en:Anthony Reckenzaun|アントニー・レッケンツァウン]]の設計によって1886年に竣工した小型艇「ヴォルタ」は、やはり蓄電池による電気推進機関を搭載しており、[[イギリス海峡]]の横断に成功し、これが水上船艇への電気推進導入の嚆矢となった。
[[蒸気タービン]]は高回転で性能が良くなる一方、推進器は低回転で効率が良くなることから[[減速機]]が必要となるが、20世紀初頭の技術では信頼性の高い減速歯車装置を実用化できなかったことから、電気推進装置によって減速装置とする[[ターボ・エレクトリック方式]]が広く用いられるようになった。また[[ディーゼルエンジン]]についても、面倒なクラッチ操作や捩り振動の対策を避けるため、直結駆動ではなく[[ディーゼル・エレクトリック方式]]を採用することもあった。その後、[[1920年代]]ごろより減速歯車装置の信頼性が向上して実用レベルに達したことから電気推進の採用例は減っていったが、[[第二次世界大戦]]勃発にともなって[[護衛駆逐艦]]や[[戦時標準船]]の量産が求められた際には、減速歯車装置の生産が追いつかず、ターボ・エレクトリック方式やディーゼル・エレクトリック方式に切り替えた艦も相当数が建造されている{{Sfn|阿部|2002}}。
 
さらに1898年に竣工した「[[ホランド (潜水艦)|ホランド]]」では水上航走用の原動機が搭載され、自己充電能力を備えた{{Sfn|阿部|2002}}。
第二次大戦後、水上戦闘艦への電気推進の採用は行われなくなっていったが、逆に潜水艦ではディーゼル・エレクトリック方式の採用が一般的になった。また[[機雷戦艦艇]]や補助艦艇では、低速・微音での航行能力が買われて電気推進とする例があったほか、商船でも、設計の自由度が買われての採用例もあった。その後、[[1980年代]]頃より、技術的には[[パワーエレクトロニクス]]の発達、用兵面では[[対潜戦#原潜の普及とパッシブ戦への移行_(1960〜1980年代)|対潜戦のパッシブ戦化]]に伴う静粛性の要請があって、水上戦闘艦でも電気推進が見直された。特にパワーエレクトロニクスの発達により、推進発電機と艦内給電用発電機を統合する[[統合電気推進]]方式の実現のめどがたち、艦内電子機器の発達による電力所要の増大に対応するためにこれを採用する例も登場している{{Sfn|阿部|2002}}{{Sfn|東郷|2015}}。
 
=== 20世紀 ===
エンジンの他、[[燃料電池]]の利用も研究されている<ref>{{Cite web|title=水素で船が動くんだって|url=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210727/k10013162781000.html|website=NHKニュース|accessdate=2021-07-29|last=日本放送協会}}</ref>。
[[蒸気タービン]]は高回転で効率が向上する一方で、推進器は低回転で効率が良いため、この両者を組み合わせて、効率良く推進器を駆動する場合には[[減速機]]が必要である。しかし、20世紀初頭の技術では、信頼性の高い減速歯車装置を実用化できなかったため、電気推進装置によって減速装置とする[[ターボ・エレクトリック方式]]が広く用いられるようになった。
 
また、[[ディーゼルエンジン]]を用いて推進器を駆動する場合も、面倒なクラッチ操作や捩り振動の対策を避けるために、直結駆動ではなく[[ディーゼル・エレクトリック方式]]を採用する事例もあった。
大型船舶では発電機を使用せずバッテリーのみを搭載した電動[[フェリー]]が実用化されており<ref>{{Cite web|title=BV、小型電動フェリー、船級登録10隻受注|url=https://www.jmd.co.jp/article.php?no=268232|website=日本海事新聞 電子版|accessdate=2021-07-13|language=ja-jp}}</ref>、リチウムイオン電池を使った電動[[タンカー]]の建造も予定されている<ref>{{Cite web|title=世界初の電動タンカー、川崎重工業などが受注|url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64787810Y0A001C2916M00/|website=日本経済新聞|date=2020-10-08|accessdate=2021-07-13|language=ja}}</ref>。
 
[[蒸気タービン]]は高回転で性能が良くなる一方、推進器は低回転で効率が良くなることから[[減速機]]が必要となるが、20世紀初頭の技術では信頼性の高い減速歯車装置を実用化できなかったことから、電気推進装置によって減速装置とする[[ターボ・エレクトリック方式]]が広く用いられるようになった。また[[ディーゼルエンジン]]についても、面倒なクラッチ操作や捩り振動の対策を避けるため、直結駆動ではなく[[ディーゼル・エレクトリック方式]]を採用することもあった。その後、[[1920年代]]ごろより減速歯車装置の信頼性が向上して実用レベルに達したことからため、電気推進の採用例は減っていった。しかし、[[第2次世界大戦]]勃発にともなって[[護衛駆逐艦]]や[[戦時標準船]]の量産が求められた際には、減速歯車装置の生産が追いつかず、ターボ・エレクトリック方式やディーゼル・エレクトリック方式に切り替えた艦も相当数が建造されている{{Sfn|阿部|2002}}。
 
第2次世界大戦後、水上戦闘艦への電気推進は、採用されなくなっていった。逆に、潜水艦ではディーゼル・エレクトリック方式の採用が一般的になった。また[[機雷戦艦艇]]や補助艦艇では、低速・微音での航行能力が買われて電気推進を採用した例があった。さらに商船でも、設計の自由度が買われて電気推進が採用された例も見られた。
 
第二次大戦後、水上戦闘艦への電気推進の採用は行われなくなっていったが、逆に潜水艦ではディーゼル・エレクトリック方式の採用が一般的になった。また[[機雷戦艦艇]]や補助艦艇では、低速・微音での航行能力が買われて電気推進とする例があったほか、商船でも、設計の自由度が買われての採用例もあった。その後、[[1980年代]]頃より、技術的には[[パワーエレクトロニクス]]の発達、用兵面では[[対潜戦#原潜の普及とパッシブ戦への移行_(1960〜1980年代)|対潜戦のパッシブ戦化]]に伴う静粛性の要請があって、水上戦闘艦でも電気推進が見直された。特にパワーエレクトロニクスの発達により、推進発電機と艦内給電用発電機を統合する[[統合電気推進]]方式の実現のめど目途がたち、艦内電子機器の発達による電力所要の増大に対応するためにこれを採用するした例も登場している{{Sfn|阿部|2002}}{{Sfn|東郷|2015}}。
 
=== 21世紀 ===
内燃機関のエンジンの他ではなく、[[燃料電池]]の利用して発生させた電力での推進器の駆動も研究されている<ref>{{Cite web|title=水素で船が動くんだって|url=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210727/k10013162781000.html|website=NHKニュース|accessdate=2021-07-29|last=日本放送協会}}</ref>。
 
一方で、充電池の性能向上に伴い、19世紀のように発電機を搭載せずに電気推進を行う事例も出た。例えば、小型船舶では発電機を使用せずバッテリー、充電池のみを搭載した電動[[フェリー]]が実用化されており<ref>{{Cite web|title=BV、小型電動フェリー、船級登録10隻受注|url=https://www.jmd.co.jp/article.php?no=268232|website=日本海事新聞 電子版|accessdate=2021-07-13|language=ja-jp}}</ref>。さらに大型船舶でのリチウムイオン電池を使った電動[[タンカー]]の建造も予定されている<ref>{{Cite web|title=世界初の電動タンカー、川崎重工業などが受注|url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64787810Y0A001C2916M00/|website=日本経済新聞|date=2020-10-08|accessdate=2021-07-13|language=ja}}</ref>。
 
== 原理 ==
{{See also|電気車の速度制御}}
発電機と電動機の組み合わせに応じて、下記のように分類できる。
 
* 直流方式
* 交直併用方式
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=== 直流方式 ===
いわゆる[[分巻整流子電動機#速度制御・始動法|ワード・レオナード方式]]であり、[[整流子発電機|直流発電機]]を駆動し、その電力で[[直流整流子電動機]]を回転させる。直流発電機の励磁を調整することで発生電圧を変化させ、直流電動機の速度を制御することができる{{Sfn|立石|2002}}。
 
回路構成は簡易であり、最も初期から使われてきた方式だが、[[整流子]]の保守・点検に手間を要するほか上に、やはり整流子のために電動機の回転数と容量に制限があることからため後述の方式に道を譲った{{Sfn|立石|2002}}。
 
=== 交直併用方式 ===
直流方式の制約のほとんどが整流子の存在に由来することからため、この制約軽減回避するため、発電機のみを交流の[[同期発電機]]としたもの方式である。交流から直流への変換にもちいる[[整流器]]に応じて分類でき、下記の2種類が代表的である{{Sfn|立石|2002}}。
 
; [[分巻整流子電動機#速度制御・始動法|サイリスタ・レオナード方式]]
: 整流器として[[サイリスタ]]・コンバータを使用する方式。[[サイリスタ位相制御]]により、交直変換と同時に出力電圧も調整できるため、直流電動機の速度制御も行うことができる。ただし電動機の容量および回転数に制限があり、また入力電源の高調波対策が必要とされる{{Sfn|立石|2002}}。
; AC-R-DC方式
: 整流器として[[ダイオード]]を使用する方式。サイリスタ・レオナード方式と比して電圧・電流の波形歪みが少なく、高調波によるノイズ障害を軽減できる一方で、ダイオードには電圧調整機能がいために、発電機の励磁を調整して発生電圧を変化させる必要があり、[[統合電気推進]]化は困難である。また電動機の容量および回転数に制限がある点ではサイリスタ・レオナード方式と同様である{{Sfn|立石|2002}}。
 
=== 交流方式 ===
発電機・電動機のいずれ交流機とすることで整流子を排除した方式である。[[パワーエレクトロニクス]]の発達とともにを受けて実用化されたもの方式であり、電動機の制御は[[可変電圧可変周波数制御]]によって行うため、[[電源回路#電力変換回路|電力変換回路]]を組み込む必要がある{{Sfn|立石|2002}}。
 
; サイリスタ・モーター方式
: まず交流からいったん直流に変換したのちてから、所望の交流電圧に再変換する方式。主回路にサイリスタを装備するために高調波を発生して他機器への悪影響があり、また出力できる周波数に制約がある{{Sfn|立石|2002}}。
; [[電源回路#サイクロコンバータ|サイクロコンバータ]]方式
: 交流から、別の周波数・電圧の交流に直接変換する方式{{Sfn|立石|2002}}。出力周波数の最大値は入力周波数の1/3〜1/2程度であり、また力率が悪いなどの問題がある。
; [[電源回路#マトリックスコンバータ|マトリックスコンバータ]]方式
: [[自己消弧素子|自己消弧]]能力を持つ高速半導体デバイスを使用し、電源電圧を直接[[パルス幅変調]](PWM)制御して、任意の電圧・周波数を出力する直接変換型電力変換装置。PWM方式では、電圧波形を細かく切り刻むことで高調波抑制用のリアクトルを小型化でき、また装置本体も大幅に効率化・小型化できると期待されている{{Sfn|立石|2002}}。
 
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== 外部リンク ==
* [http://osaka-mizubebar2012.seesaa.net/category/14537690-3.html 大阪水辺バル2012]
* [http://www.kidourashipyard.com/DENKI%20SUISINSEN.html 船舶・漁船・電気推進船 | 木戸浦造船 - 電気推進船について]
*{{Wayback|url=http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/130407/wlf13040707000000-n1.htm |title=エコで静か、充電も簡単…電気船「あまのかわ」試乗体験ルポ |date=20130407131921}}
*[http://www.kidourashipyard.com/DENKI%20SUISINSEN.html 船舶・漁船・電気推進船 | 木戸浦造船 - 電気推進船について]
 
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