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'''アヌレン'''({{Lang-en|annulene}})とは、完全に[[共役系|共役]]した単環式の[[炭化水素]]の総称である。[[芳香族性]]とは一体どういう性質なのかを知るために、詳しく調べられた化合物群の1つである。
'''アヌレン'''(annulene)とは、完全に[[共役系|共役]]した単環式の[[炭化水素]]の総称である。アヌレンの一般式はC<sub>n</sub>H<sub>n</sub>('''''n'''''は偶数)あるいはC<sub>n</sub>H<sub>n+1</sub>('''''n'''''は奇数)である。[[IUPAC命名法|IUPACの命名慣習]]では、7つ以上の炭素原子を持つアヌレンは[''n'']アヌレン(''n''は環内の[[炭素]][[原子]]の数)と命名されるが<ref>{{GoldBookRef | title = annulene | file = A00368}}</ref>、小さなアヌレンも同様の表記法で表わされることがあり、ベンゼンは単にアヌレンと呼ばれることがある<ref>Ege, S. (1994) ''Organic Chemistry:Structure and Reactivity'' (3rd ed.) D.C. Heath and Company</ref><ref>Dublin City University ''[http://www.dcu.ie/~chemist/pratt/annulene/annulene.htm Annulenes]''</ref>。
 
なお、[[アヌリン]]は、アヌレンの[[二重結合|C=C二重結合]]の1つが、[[三重結合|C≡C三重結合]]に置き換わった分子種である。ただし、C≡C三重結合の部分は直線構造なので、その分子の形状は、炭素数が同じアヌレンとは大きく異なる。
最初の3種類のアヌレンは[[シクロブタジエン]]([4]アヌレン)、[[ベンゼン]]([6]アヌレン)、[[シクロオクタテトラエン]]([8]アヌレン)である。一部のアヌレン、すなわちシクロブタジエン、[[シクロデカペンタエン]]([10]アヌレン)、[[シクロドデカヘキサエン]]([12]アヌレン)、[[シクロテトラデカヘプタエン]]([14]アヌレン)は不安定であり、シクロブタジエンは特に不安定である。
 
== 構造名称 ==
[[アヌリン]]は、1つの二重結合が[[三重結合]]に置き換わった分子種である。
環を形成している炭素の数を''n''とすると、[[IUPAC命名法|IUPACの命名慣習]]では、7つ以上の炭素原子を持つアヌレンが、[''n'']アヌレンと命名される<ref>{{GoldBookRef | title = annulene | file = A00368}}</ref>。しかし、より環の小さなアヌレンも同様の表記法で表わされる場合があり、時に[[ベンゼン]]が単にアヌレンと呼ばれることもある<ref>Ege, S. (1994) ''Organic Chemistry:Structure and Reactivity'' (3rd ed.) D.C. Heath and Company</ref><ref>Dublin City University ''[http://www.dcu.ie/~chemist/pratt/annulene/annulene.htm Annulenes]''</ref>。なお、アヌレンの一般式は、nが偶数の時はC<sub>n</sub>H<sub>n</sub>として表され、nが奇数の時はC<sub>n</sub>H<sub>n+1</sub>として表される。ただし、最小のアヌレンが[''4'']アヌレンであり、したがって、nは4以上の整数である<ref group="注釈">[[シクロプロペン]]のように炭素数3つでも環状化合物は有り得るものの、環を構成する炭素数が奇数では、環状であること以外のアヌレンの定義を満たせない。</ref>。ただ、一応[''4'']アヌレンもアヌレンの1つであるものの、10個以上の炭素による共役した環状の化合物に対して、アヌレンという名称が用いられる場合が多い<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506">T.W.Graham Solomons、Craig B. Fryhle 著、花房 昭静、池田 正澄、上西 潤一 監訳 『ソロモンの新有機化学 (上巻) (第7版)』 p.506 廣川書店 2002年10月5日発行 ISBN 4-567-23500-2</ref>。
 
== 芳香族性構造 ==
アヌレンを[[ケクレ構造式]]で描くと、[[単結合|C-C単結合]]と[[二重結合|C=C二重結合]]とが、交互に並んでいるように見える環状の炭化水素だが、実際のアヌレンは、そのような姿をしていない。それと言うのも[''6'']アヌレンに当たる[[1,3,5-シクロヘキサトリエン|シクロヘキサトリエン]]は実在できず、実際の[''6'']アヌレンはベンゼンとして存在するのであって<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506">T.W.Graham Solomons、Craig B. Fryhle 著、花房 昭静、池田 正澄、上西 潤一 監訳 『ソロモンの新有機化学 (上巻) (第7版)』 p.506 廣川書店 2002年10月5日発行 ISBN 4-567-23500-2</ref>、C-C単結合とC=C二重結合とが交互に並んでいるケクレ構造式で描いたベンゼンは、ベンゼンの{{仮リンク|極限構造式|en|canonical structure}}の1つに過ぎないのであって、ベンゼンの真の姿ではないからである<ref>Harold Hart(著)、秋葉 欣哉・奥 彬(訳)『ハート基礎有機化学(改訂版)』 pp.106 - 108 培風館 1994年3月20日発行 ISBN 4-563-04532-2</ref><ref group="注釈">極限構造式(canonical structure)は、別名として、限界構造式(canonical structure)とも、共鳴構造式(resonance structure)とも、寄与構造式(contributing structure)とも呼ばれる。</ref>。つまり、アヌレンは環に[[共役系]]が続いており、[[π電子]]が環内に非局在化している。
アヌレンは「[[芳香族]]」、「非芳香族」、「[[反芳香族性|反芳香族]]」に分類できる。
 
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環の炭素数が4n+2を満たすを満たすアヌレンは同時に[[ヒュッケル則]]を満たすことから一般に芳香族性を示すが、立体障害から平面構造をとれない[10]アヌレンは芳香族性を示さない「非芳香族」である。大きなアヌレンの多く、例えば [[シクロオクタデカノナエン]]([18]アヌレン)などは、内側の水素原子のファンデルワールス歪みを最小化するのに十分な程大きく、芳香族性に必要な平面構造をとることが可能なことから芳香族の資格がある。しかしながら、大型のアヌレンにベンゼン程に安定な分子はなく、これらの反応性は芳香族炭化水素よりも共役ポリエンにより似ている。
File:Cyclobutadien.svg|[''4'']アヌレン
File:Benzol.svg|[''6'']アヌレン
File:Cyclooctatetraen.svg|[''8'']アヌレン
File:(14)Annulene.svg|[''14'']アヌレン
File:(18)Annulene.svg|[''18'']アヌレン
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== 芳香族性の有無と反応性 ==
環の炭素数が4nを満たすアヌレンは[[反芳香族性]]を示すが、平面構造をとれないシクロオクタテトラエンは「非芳香族」に分類される。
共役ポリエンは、一般に単独で存在するC=C二重結合よるも化学的に安定である。しかしながら、アヌレンは単純な共役ポリエンではなく、条件を満たした場合には[[芳香族性]]を獲得するため、芳香族炭化水素としての性質を帯びて、さらに化学的に安定化して反応性も低下する。逆に、特定の条件を満たすとアヌレンは[[反芳香族性]]を帯びるため、逆に化学的には不安定化して反応性が増す。これらのように、一口にアヌレンと言っても、その性質は一定の傾向を有している<strong>わけではない</strong>。
 
いわゆる[[ヒュッケル則]]として知られる、[[π電子]]の数が4n+2個の場合に芳香族性を持つのに対して、π電子の数が4n個の場合は芳香族ではないという計算による予測結果を、アヌレンに適用した場合には、nが2である[''10'']アヌレンも芳香族性を持つはずだったが、この[''10'']アヌレンは芳香族性を持たなかった。その理由は、炭素が[[sp2混成|sp2混成軌道]]の場合に、他の原子と結合できる方向が決まっているため、この[''10'']アヌレンの場合は、環が平面になれないためであった<ref name="Solomons_OC_7th_u_p507">T.W.Graham Solomons、Craig B. Fryhle 著、花房 昭静、池田 正澄、上西 潤一 監訳 『ソロモンの新有機化学 (上巻) (第7版)』 p.507 廣川書店 2002年10月5日発行 ISBN 4-567-23500-2</ref>。確かに[''6'']アヌレン、[''14'']アヌレン、[''18'']アヌレンなどは、ヒュッケル則として知られる予測通り、芳香族だったものの、それは環が平面になれるからだった。つまりアヌレンは、π電子の数が4n+2個であり、かつ、炭素の連なりで作られた環が平面である場合に、初めて芳香族性を持ち得るのである<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506">T.W.Graham Solomons、Craig B. Fryhle 著、花房 昭静、池田 正澄、上西 潤一 監訳 『ソロモンの新有機化学 (上巻) (第7版)』 p.506 廣川書店 2002年10月5日発行 ISBN 4-567-23500-2</ref>。
* 芳香族 - [[ベンゼン]]([6]アヌレン)、[[シクロテトラデカヘプタエン]]([14]アヌレン)、[[シクロオクタデカノナエン]]([18]アヌレン)
* 非芳香族 - [[シクロオクタテトラエン]]([8]アヌレン)、{{仮リンク|シクロデカペンタエン|en|Cyclodecapentaene}}([10]アヌレン)
* 反芳香族 - [[シクロブタジエン]]([4]アヌレン)、[[シクロドデカヘキサエン]]([12]アヌレン)
 
環の炭素数が4n+2を満たすを満たすアヌレンは同時に[[ヒュッケル則]]を満たすこもっから一般に芳香族性を示すが立体障害から平面構造をとれない[10]アヌレンは芳香族性を示さない「非芳香族」である。大きなアヌレンの多く、例えば[''18'']アヌレンに当たる [[シクロオクタデカノナエン]]([18]アヌレン)などは、内側の水素原子のファンデルワールス歪みを最小化するのに分な程大きく、芳香族性に必要な平面構造をとることが可能なことからので、芳香族の資格があ性を有する。しかしながら、大型のアヌレンにベンゼン程に安定な分子はなく無い。むしろこれら大型のアヌレンの反応性は、仮に芳香族性を獲得できる条件を満たしていたとしても、芳香族炭化水素よりも共役ポリエンにより似ている。
== 構造 ==
 
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これらの要因のため、一部のアヌレンは化学的に不安定である。すなわち、[''4'']アヌレンは特に不安定であり、[''10'']アヌレン)、[''12'']アヌレン、[''14'']アヌレンは不安定である。
File:Cyclobutadien.svg|[[シクロブタジエン]] ([4]annulene)
 
File:Benzol.svg|[[ベンゼン]] ([6]annulene)
== アヌレンの例と芳香族性による分類 ==
File:Cyclooctatetraen.svg|[[シクロオクタテトラエン]] ([8]annulene)
* [''4'']アヌレン - [[シクロブタジエン]]である。芳香族ではない<ref name="Solomons_OC_7th_u_p507" />。
File:(14)Annulene.svg|[[シクロテトラデカヘプタエン]] ([14]annulene)
* [''6'']アヌレン - ベンゼンである。芳香族である<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506" />。
File:(18)Annulene.svg|[[シクロオクタデカノナエン]] ([18]annulene)
* [''8'']アヌレン - [[シクロオクタテトラエン]]である。芳香族ではない<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506" />。
</gallery>
* [''10'']アヌレン - {{仮リンク|シクロデカペンタエン|en|Cyclodecapentaene}}である。環が歪むために平面構造になれないため、芳香族ではない<ref name="Solomons_OC_7th_u_p507" />。
* [''12'']アヌレン - [[シクロドデカヘキサエン]]である。芳香族ではない<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506" />。
* [''14'']アヌレン - [[シクロテトラデカヘプタエン]]である。芳香族である<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506" />。
* [''16'']アヌレン - 芳香族ではない<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506" />。
* [''18'']アヌレン - 芳香族である<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506" />。
* [''20'']アヌレン - 芳香族ではない<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506" />。
* [''22'']アヌレン - 芳香族である<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506" />。
* [''24'']アヌレン - 芳香族ではない<ref name="Solomons_OC_7th_u_p506" />。
 
アヌレンは「[[芳香族]]」、「非芳香族」、「[[反芳香族性|反芳香族]]」に分類できる。環の炭素数が4nを満たすアヌレンは[[反芳香族性]]を示す。ただしそもそも平面構造をとれないシクロオクタテトラエンなどは「非芳香族」に分類される。
 
* 芳香族 - [''6'']アヌレン、[''14'']アヌレン、[''18'']アヌレン、[''22'']アヌレン
* 非芳香族 - [''8'']アヌレン、[''10'']アヌレン
* 反芳香族 - [''4'']アヌレン、[''12'']アヌレン、[''16'']アヌレン、[''20'']アヌレン、[''24'']アヌレン
 
== 歴史 ==