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'''いとこ煮'''(いとこに)は、日本各地に伝わる[[郷土料理]]で、[[アズキ|小豆]]などを煮た[[煮物料理]]。地域により材料、調理法等に差異がある。また類似した料理として、'''いとこ汁'''や'''いとこねり'''、'''御座煮'''(ござに){{sfn|小原哲二郎(監修)|細谷憲政(監修)|1997|p=383}}などがある。
 
== 名前の由来 ==
料理の由来については、親鸞が自らの草庵において講を開く際、茶菓子の代わりとして農作物の煮物に小豆を加えた料理を振る舞ったことに始まるという説がある{{sfn|石崎直義|1976|p=59}}。
由来については複数の説が存在している。材料を煮えにくいものから追々入れていくことから、「おいおい」を「[[甥]]甥」すなわち[[いとこ]]にかけたものが語源の一つとされている{{sfn|中村幸平|2004|p=66}}{{sfn|小学館国語辞典編集部|2000}}{{sfn|小原哲二郎(監修)|細谷憲政(監修)|1997|p=99}}。また、材料がすべて野菜であることからいとこになぞらえたという説{{sfn|小学館国語辞典編集部|2000}}、同じ大豆から作られる小豆と味噌を材料として用いることから、兄弟ほどではないがいとこ程度の類似した材料を煮た料理であるという説、江戸時代に[[毛利氏|毛利公]]が催す宴席に必ずこの煮物を振る舞ったことから没後、御遺徳を称える「いとく煮」転じて「いとこ煮」となったとする説などがある{{sfn|山口女子短期大学食物科}}。
=== 名称の由来 ===
「いとこ煮」という名称の由来については複数の説が存在している。
 
由来については複数の説が存在している。材料を煮えにくいものから追々入れていくことから、「おいおい」を「[[甥]]甥」すなわち[[いとこ]]にかけたものが語源の一つとされている{{sfn|中村幸平|2004|p=66}}{{sfn|小学館国語辞典編集部|2000}}{{sfn|小原哲二郎(監修)|細谷憲政(監修)|1997|p=99}}{{sfn|龍崎英子(監修)|2009|p=163}}。また、材料がすべて野菜であることからいとこになぞらえたという説{{sfn|小学館国語辞典編集部|2000}}、同じ大豆から作られる小豆と味噌を材料として用いることから、兄弟ほどではないがいとこ程度の類似した材料を煮た料理であるという説、江戸時代に[[毛利氏|毛利公]]が催す宴席に必ずこの煮物を振る舞ったことから没後、御遺徳を称える「いとく煮」転じて「いとこ煮」となったとする説などがある{{sfn|山口女子短期大学食物科}}、おこと(御事)汁が転訛したという説{{sfn|小原哲二郎(監修)|細谷憲政(監修)|1997|p=99}}、いとこなどの親類が集まる場で食べることに由来するという説{{sfn|龍崎英子(監修)|2009|p=163}}などがある
おこと(御事)汁が転訛したという説もある{{sfn|小原哲二郎(監修)|細谷憲政(監修)|1997|p=99}}。
 
小豆と豆腐、大根と人参、芋と蒟蒻がそれぞれいとこであるという具体的な話が残る地域もある{{sfn| 「日本の食生活全集 高知」編集委員会|1986|p=72}}。
== 各地のいとこ煮 ==
{{節スタブ}}
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秋から冬にかけての農家のもてなし料理とされており、独特の食感を持つ。
 
=== 愛知栃木関連 ===
那須地域では冬至にナスを食べる風習があるが、ゆであずきとなすのいとこ煮を作る家庭もあるという{{sfn|「日本の食生活全集 栃木」編集委員会|1988|p=179}}。また、これとは別に富山県から伝わったごぼう・大根・にんじん・こんにゃく・里芋とゆであずきを煮た醤油味の「いとこ煮汁」も食べられている{{sfn|「日本の食生活全集 栃木」編集委員会|1988|pp=178-179}}。
 
=== 東京都 ===
[[伊豆大島]]では11月8日のお十夜にサツマイモ・里芋・こんにゃく・ごぼう・小豆・豆腐を具として、味噌で味付けしたいとこ煮が寺で振る舞われる{{sfn|「日本の食生活全集 東京」編集委員会|1988|p=297}}。
 
=== 神奈川県 ===
夏に小豆・いんげん・さき干し大根・なすなどの具を味噌で味付けしたいとこ煮を食べることがあるという{{sfn|「日本の食生活全集 神奈川」編集委員会|1992|p=108}}。
 
=== 北陸 ===
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[[浄土真宗]]の開祖で北陸に縁のある[[親鸞]]の命日である[[11月27日]]の前7日間に[[報恩講]]が営まれるが、その際の料理として必ず饗されるという。[[精進料理]]の一つといえる。
==== 富山県 ====
1390年の[[真宗大谷派井波別院瑞泉寺|瑞泉寺]]創建以来、富山県においては浄土真宗の門徒が多く、開祖たる[[親鸞]]の命日に行われる[[報恩講|報恩講(ほんこさま)]]{{efn|石崎直義(1976)は、親鸞の命日を「お七昼夜さまの御満座の日」と表現しており、東本願寺派は11月28日、西本願寺派は1月であるとしている{{sfn|石崎直義|1976|p=59}}。}}において振る舞われる「お斎(とき)」としていとこ煮が作られる{{sfn|龍崎英子(監修)|2009|p=88}}。小豆は親鸞の好物であるとされ、加えて大根・人参・里芋・牛蒡・蒟蒻・油揚げなどが具として用いられる{{sfn|龍崎英子(監修)|2009|p=88}}。味噌か醤油で味付けがなされる{{sfn|龍崎英子(監修)|2009|p=88}}。
 
==== 石川県 ====
石川県全域で報恩講のお斎としていとこ煮を作る風習がある{{sfn|青木悦子|2013|p=219}}。
 
==== 福井県 ====
[[天徳寺 (福井県若狭町)|天徳寺]]では小豆のほか、[[田芋]]・大根・こんにゃくを煮たいとこ煮を葬式や法事の際に食べる習慣がある{{sfn|「日本の食生活全集 福井」編集委員会|1987|p=245}}。
 
=== 愛知県 ===
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=== 三重県 ===
[[鈴鹿市]]稲生では、乾燥させたタダイモの葉・小豆・味噌・砂糖・煮干しで作ったいとこ煮を[[1月21日]]に作り、地域コミュニティである「せこ(組)」で集まって食べる風習がある{{sfn| 「日本の食生活全集 三重」編集委員会|1987|p=59}}。
 
=== 滋賀県 ===
 
 
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=== 高知県 ===
高知県では「ぐる煮」と呼ばれる根菜類と豆腐、こんにゃくをじゃこの出汁で煮て、醤油と砂糖で味付けする料理があり、浄土真宗の寺や信徒の家ではこれに小豆を加えた「おいとこさん」を[[報恩講|おとりこし]]の日に大量に作り、振る舞う習慣がある{{sfn| 「日本の食生活全集 高知」編集委員会|1986|p=72}}{{efn|野﨑洋光・成瀬宇平(2015)では、[[釈迦]]が[[入寂]]したとされる[[12月28日 (旧暦)|旧暦12月28日]]に作られる精進料理で、大量に作り多くの人に振る舞うとして{{sfn|野﨑洋光|成瀬宇平|2015|p=253}}。}}。「おいとこ煮」ともいう<ref group="WEB">{{Cite web|url=https://kotobank.jp/word/%E3%81%8A%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%93%E7%85%AE-1820812|title=コトバンク デジタル大辞泉プラス おいとこ煮|accessdate=2021-10-09}}</ref>。
 
=== 広島県 ===
親鸞の御正忌である1月16日の前夜を「おたんや」と称するが、その日に里芋・大根・人参・こんにゃく・油揚げ・豆腐・ごぼう・昆布などをサイコロ状に切って煮、ゆであずきを加えて、塩と醤油で味付けするいとこ煮を作る{{sfn|「日本の食生活全集 広島」編集委員会|1987|p=135}}。
 
=== 山口県 ===
山口県の各地で作られるが、岩国地域では作られない{{sfn|龍崎英子(監修)|2009|p=163}}。
 
萩のいとこ煮は上記とはかなり趣の異なる料理で、ゆでこぼした小豆を、少量の砂糖と醤油を加えた[[昆布]]・[[シイタケ]]の[[出汁]]で一煮立ちさせ味を調えたもの。煮上がったものを冷まし、[[かまぼこ]]・[[白玉|白玉だんご]]・出汁を取ったシイタケを加えて食す<ref group="WEB">{{PDFlink|[http://www.yamaguchi-bussan.jp/recipi/04.9hagi1.pdf いとこ煮 (萩を味わう)]}} - 一般社団法人山口県物産協会</ref>。
 
主に[[冠婚葬祭]]の際の料理として饗される{{sfn|聞き書山口の食事 「日本の食生活全集山口」編集委員会|1989|p=304}}。祝いに用いる際には白玉団子を紅白にし、葬式や法事に用いるときは緑と白の団子にする{{sfn|龍崎英子(監修)|2009|p=304}}。一見すると「かまぼこやシイタケの入った[[ぜんざい]]」のような感じであるが甘みは少なく、[[デザート]]ではなくあくまでも[[会席料理]]の一品である。
 
=== 福岡県 ===
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=== 大分県 ===
[[日田盆地]]の浄土真宗の家では、[[報恩講|おとりこし]]に根菜類、こんにゃくと親鸞聖人の好物だったとされる小豆を入れるいとこ煮が作られる{{Sfn|「日本の食生活全集 大分」編集委員会|1992|p=220}}。地域によってはそれにもち米を入れて炊く場合もあるという{{sfn|「日本の食生活全集 大分」編集委員会|1992|p=220}}。
 
また、豊後水道沿岸では、ささぎ豆やぶんどう豆を煮たものに、皮をむいて輪切りにした生芋を加え、さらに煮、赤砂糖を加えて練った「いとこねり」が食される{{Sfn|「日本の食生活全集 大分」編集委員会|1992|p=78}}。
 
== 脚注 ==
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* {{Cite book|和書|author=野﨑洋光|author2=成瀬宇平|title=47都道府県 汁物百科|publisher=丸善出版|year=2015|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=小原哲二郎(監修)|author2=細谷憲政(監修)|title=簡明 食辞林 第二版|publisher=樹村房|isbn=4-88367-000-7|year=1997|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=龍崎英子(監修)|title=ポプラディア情報館 郷土料理|publisher=ポプラ社|year=2009|isbn=9784591106853|ref=harv}}
=== 愛知県関連 ===
; 栃木県関連
* {{Cite book|和書|editor=「日本の食生活全集 栃木」編集委員会|title=日本の食生活全集 9 栃木の食事|year=1988|publisher=農山漁村文化協会|isbn=4540880322|ref=harv}}
; 東京都関連
* {{Cite book|和書|editor=「日本の食生活全集 東京」編集委員会|title=日本の食生活全集 13 東京の食事|year=1988|publisher=農山漁村文化協会|isbn=454087098X|ref=harv}}
; 神奈川県関連
* {{Cite book|和書|editor= 「日本の食生活全集 神奈川」編集委員会|title=日本の食生活全集 14 神奈川の食事|publisher=農山漁村文化協会|year=1992|isbn=4540920022|ref=harv}}
; 富山県関連
* {{Cite book|和書|author=石崎直義|chapter=いとこ煮|title=富山県大百科事典|editor=富山新聞社大百科事典編集部|publisher=富山新聞社|year=1976|id={{JP番号|73014843}}|ref=harv}}
; 石川県関連
* {{Cite book|和書|author=青木悦子|title=金沢・加賀・能登四季のふるさと料理|publisher=北國新聞社|yaer=2013|isbn=9784833019637|ref=harv}}
; 福井県関連
* {{Cite book|和書|editor=「日本の食生活全集 福井」編集委員会|title=日本の食生活全集 18 聞き書 福井の食事|year=1987|publisher=農山漁村文化協会|isbn=4540870181|ref=harv}}
; 愛知県関連
* {{Cite book|和書|editor=日本の食生活全集愛知編集委員会|title=日本の食生活全集 聞き書 愛知の食事|year=1989|date=1989-08-01|publisher=農山漁村文化協会|isbn=978-4540890031|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|editor=八開村史編さん委員会・八開村史調査編集委員会|title=八開村史 民俗編|publisher=八開村|year=1994|id={{JP番号|94035911}}|ref=harv}}
===; 京都府三重県関連 ===
* {{Cite book|和書|editor= 「日本の食生活全集京都 三重」編集委員会|title=日本の食生活全集 2624 聞き書 京都三重の食事|publisher=農山漁村文化協会|year=19851987|isbn=45408500674540870017|ref=harv}}
===; 奈良県京都府関連 ===
* {{Cite book|和書|editor=「日本の食生活全集京都」編集委員会|title=日本の食生活全集 26 聞き書 京都の食事|publisher=農山漁村文化協会|year=1985|isbn=4540850067|ref=harv}}
; 奈良県関連
* {{Cite book|和書|author=冨岡典子|title=大和の食文化|publisher=[[奈良新聞社]]|year=2005|date=2005-09-25|isbn=4-88856-054-4|ref=harv}}
===; 山口広島県関連 ===
* {{Cite book|和書|editor=聞き書山口の食事 「日本の食生活全集山口 広島」編集委員会|title=日本の食生活全集 3534 山口広島の食事|year=1987|publisher=農山漁村文化協会|year=1989|isbn=4-540-89001-84540870661|ref=harv}}
; 山口県関連
* {{Cite book|和書|editor=「日本の食生活全集山口」編集委員会|title=日本の食生活全集 35 聞き書 山口の食事|publisher=農山漁村文化協会|year=1989|isbn=4-540-89001-8|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|editor=[[山口女子短期大学]]食物科|title=山口県郷土料理|publisher=山口女子短期大学食物科|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=成瀬宇平|title=47都道府県 伝統食百科|year=2009|page=234|ref=harv}}
===; 福岡高知県関連 ===
* {{Cite book|和書|editor=「日本の食生活全集 福岡高知」編集委員会|title=日本の食生活全集 4039 福岡聞き書 高知県の食事|year=1987|publisher=農山漁村文化協会1986|isbn=45408607714540860259|ref=harv}}
===; 大分福岡県関連 ===
* {{Cite book|和書|editor=「日本の食生活全集 大分福岡」編集委員会|title=日本の食生活全集 4440 大分聞き書 福岡の食事|year=19921987|publisher=農山漁村文化協会|isbn=45409200144540860771|ref=harv}}
; 大分県関連
* {{Cite book|和書|editor=「日本の食生活全集 大分」編集委員会|title=日本の食生活全集 44 聞き書 大分の食事|year=1992|publisher=農山漁村文化協会|isbn=4540920014|ref=harv}}
 
== 関連項目 ==
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* [[がめ煮]](筑前煮) - 北陸のいとこ煮同様、根菜類を煮た北部九州の煮物。ただし、こちらには小豆は入らない。
* [[煮ごめ]] - 広島県でいとこ煮に相当する煮物。材料や習わしなどで北陸のいとこ煮とかなり近い。
 
== 外部リンク ==
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