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新しいページ: 「『'''インズマスの彫像'''』(原題:{{lang-en-short|''Innsmouth Clay''}})は、アメリカ合衆国のホラー小説家オーガスト・ダーレスによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つ。 ハワード・フィリップス・ラヴクラフトとの死後合作というスタイルをとっており、幾つかあるダーレスによるラヴクラフトの補作のうちで最後の作品に…」
(相違点なし)

2021年11月27日 (土) 12:35時点における版

インズマスの彫像』(原題:: Innsmouth Clay)は、アメリカ合衆国のホラー小説家オーガスト・ダーレスによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つ。

ハワード・フィリップス・ラヴクラフトとの死後合作というスタイルをとっており、幾つかあるダーレスによるラヴクラフトの補作のうちで最後の作品にあたる[1]。ダーレスの没後、1974年にアーカムハウスの単行本『Dark Tings』に掲載された[1]

インスマスの影』の後日談の1つであり、青い粘土をめぐるミステリー。インスマスは、真クの訳なのでインズマスとなっている。1927-28年の出来事は踏襲しているがブレがあり、本作ではマーシュ家のみが集中的に弱体化したということになっている[注 1]

あらすじ

1927年秋、フランスから帰国したジェフリー・コレイは、インズマス南部の海辺にコテージを借りて引っ越す。インズマスには親戚のマーシュ家が住んでいたが、それほど親しいわけでもなかったので、あえて自分が近くに引っ越してきたことを告げることはしなかった。インズマスの人々の間では、世捨て人のマーシュ一族について、ひっきりなしに噂が立っており、コレイはしばしば耳にすることになったと、12月に訪問してきたジャックに語る。

ところが翌年2月に突然政府の手入れが入る。マーシュ家の者数名が連行され、またマーシュ家が所有する倉庫が残らず爆破される。さらになぜか沖合の岩礁<悪魔の暗礁>に、海軍が戦艦から爆雷を投下したのだが、この爆発による大波で、浜に「特殊な青色粘土」の岩屑が打ち上げられる。コレイはこの青粘土を材料に、新作<海の女神像>を作り始める。またコレイは夢からインスピレーションを得ていた。どうやらコレイは眠ったまま無意識でも作り続けていたようであり、覚えのない変化や模様がつけられたり、湿り気を帯びたりしている。後の夢では、全裸の女がベッドに忍び込んできて熱烈に愛し合ったり、海底を泳いで都市を幻視する。いくら眠っても疲れは取れないが、女神像は完成した。3月なかばに訪問してきたジャックが見た像には、首に鰓のようなものがあり、指の間には水かきがついていた。

コレイは自分の家系を調べるためにインズマスに赴き、ジャックも同行する。インズマスでは、先月の政府役人による爆破の後始末はほとんどされていなかった[注 1]。2人は酒場で、アーキンス老人に酒を差し入れて、話を聞きだす。曰く、先月役人がやって来たあとマーシュ家の者たちはあらかたどこかへ消えてしまったという。連れて行かれなかった者たちは、みな海に飛び込んでしまったという話だが、水死体は一つとして上がらない。そこまで話したところで、アーキンス老人は突然怯えて逃げ出す。コレイには理由がわからなかったが、ジャックは老人が彼の「耳の肉垂れ」を見たせいではないかと察し、彼を嫌な気持ちにさせまいと言わずにおく。翌日、ジャックはニューヨークへと帰る。

3月18日、コレイは「濡れた女」が眠っている自分と同衾しているのではないかという痕跡に遭遇し、混乱する。19日、女神像が盗まれ、なくなる。20日、首の鰓で呼吸しながら海中を泳ぐマーシュ一族の夢を見る。21日、首のあたりが痛くて眠れず、起きて浜に出ると、海から誘われているような気がしてくる。そしてコレイは、素足で海へ向かう足跡が残して失踪する。コレイは書置でジャックを管財人に指名しており、日記には最後の一ヶ月の出来事が記録されていた。

4月17日の夕刻、ジャックがボートでインズマスの沖に出てみたところ、鱗の生えた人間のようにも見える生き物たちを目撃する。そのうち2体がボートに近づいてきくる。青っぽい粘土のような色をした方が雌で、明るい色の方が雄のようだ。雄はもの言いたげな目でジャックを見た後に、海に潜って姿を消す。去り際にそいつはガラガラと絞り出すような奇妙な声を立てたが、その音は「ジャック!」と呼びかけているようでもあった。ジャックは、そいつの顔と鰓が、ジェフリー・コレイと耳の肉垂れであることをはっきりと視認する。

主な登場人物

  • ジャック - 語り手。コレイとは永年の友人。ニューヨーク在住。12月と3月にコレイ宅を訪問し、途中の期間は手紙を受け取っていた。
  • ジェフリー・コレイ - パリ帰りの彫刻家。マーシュ家の遠縁の親戚。40歳手前。耳のすぐ下から首にかけて肉が垂れ下がっている。
  • <海の女神像> - コレイの新作彫刻。<悪魔の暗礁>から流れてきた青粘土を用いて、夢のインスピレーションを得て作った。鰓や水かきがある。
  • 女司書 - インズマスの公立図書館に勤める、年輩の女性。
  • セツ・アーキンス老人 - インズマス生まれの老人。酒場でマーシュ家について語る。
  • オーベッド・マーシュ船長 - 前世紀のインズマスの名士。南太平洋貿易を経て、<ダゴン教団>という新宗教を起こし、<リイル / ル・リイル><偉大なるトゥールー><淵みのものども>といったものを信仰していた。
  • エテロ - ジェフリー・コレイの曾祖父。海底で生き続けていると、村人からあてこすりの悪口で噂される。

収録

  • 国書刊行会『真ク・リトル・リトル神話大系9』『新編真ク・リトル・リトル神話大系5』茅律子

脚注

注釈

  1. ^ a b ウェイト、ギルマン、エリオットの三家の倉庫はほとんど損害を受けておらず、米政府は標的をマーシュ家に絞っていたようである。マーシュ精錬所は破壊を免れていまも稼働しているが、所有者はすでにマーシュ家ではなくなっている。

出典

  1. ^ a b 国書刊行会『新編真ク・リトル・リトル神話大系5』解説(那智史郎)317ページ。