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[[ファイル:Observable_Universe_Japanese_Annotations.png|thumb|350px|[[観測可能な宇宙]]を[[対数スケール]]で表した図。便宜上、太陽系を中心として描かれており、太陽からの各天体の距離は、中心から端に向かって指数関数的に増加している。また、形状が分かるように各天体は拡大されており、実際のスケールとは異なる。]]
[[ファイル:Hubble ultra deep field.jpg|thumb|350px|[[ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド]]。130億年前([[ビッグバン]]から8億年後)と推定される宇宙の画像。現在までに撮影された中で最も深い宇宙の画像である<ref name="press_release">{{cite press|publisher = [[アメリカ航空宇宙局|NASA]]|date = March 9, 2004|title = Hubble's Deepest View Ever of the Universe Unveils Earliest Galaxies|url = http://hubblesite.org/newscenter/archive/releases/2004/07/|accessdate = 2008-12-27}}</ref>。]]
'''宇宙'''(うちゅう、ユニバース、universe)は、[[時間]]・[[空間]]のすべて、およびその中に存在するすべての事物の総称。[[恒星]]や[[銀河]]などあらゆる形態の[[物質]]および[[エネルギー]]が含まれる。現代[[天文学]]および[[物理学]]においては、[[ビッグバン|ビッグバン理論]]に基づいて記述される、138億年前に誕生し現在も膨張を続ける物理体系を指す<ref name=":0">{{Cite journal|last=Planck Collaboration|last2=Aghanim|first2=N.|last3=Akrami|first3=Y.|last4=Ashdown|first4=M.|last5=Aumont|first5=J.|last6=Baccigalupi|first6=C.|last7=Ballardini|first7=M.|last8=Banday|first8=A. J.|last9=Barreiro|first9=R. B.|date=2020-09|title=Planck 2018 results: VI. Cosmological parameters|url=https://www.aanda.org/10.1051/0004-6361/201833910|journal=Astronomy & Astrophysics|volume=641|pages=A6|doi=10.1051/0004-6361/201833910|issn=0004-6361}}</ref>
 
宇宙全体の大きさは現在も不明だが、我々から[[観測可能な宇宙]](observable universe)については、直径930億光年の球状の領域であると推定されている。観測技術の向上に伴い、今日では我々の住む[[地球]]は、[[太陽]]を中心とした惑星系([[太陽系]])の一部であり、その太陽は[[銀河系|天の川銀河]]の中の何千億という数の[[恒星]]のうちの一つである、ということが分かっている。そして天の川銀河でさえも、何千億という数の銀河の一つにすぎないと推定されている。宇宙内における物質・エネルギーのあり方には[[宇宙原理]]が仮定され、宇宙に中心は存在せず、(巨視的には)すべての物質・エネルギーは均一に分布していると想定されている。
 
ビッグバン理論では、宇宙は誕生直後、指数関数的な膨張(インフレーション)を経験したと推定され、これは[[宇宙のインフレーション|インフレーション理論]]により説明される。その後、宇宙を支配する4つの[[基本相互作用|基本的な相互作用]](fundamental interactions)が分離した。その後も宇宙は膨張を続けるとともに冷却され、[[亜原子粒子]]、ついで[[原子]]、[[分子]]が構成された。[[水素]]および[[ヘリウム]]からなる分子雲から[[銀河]]および[[恒星]]が生まれ、我々が知る今日の宇宙につながっていく([[宇宙#宇宙の誕生と進化|宇宙の誕生と進化]]の項を参照)。
 
ビッグバン理論を構成する宇宙論的パラメータは[[Λ-CDMモデル]](Lambda-CDM model)として体系化されている(異論もある)。このモデルにおいて、宇宙は[[原子]]([[バリオン]])からなる通常の物質(matter)、[[暗黒物質|ダークマター]](dark matter)、そして[[ダークエネルギー]](dark energy)から構成される。現代の物理学で記述できる通常の物質が占める割合は5%程度であり、ダークマター・ダークエネルギーからなる残りの95%は現在も正体がわかっていない。各成分の構成比率は時間とともに変化しており、現在はダークエネルギー優勢時代(dark energy-dominated era)と推定され、ダークエネルギーの影響により宇宙の膨張が以前より加速している([[宇宙の加速膨張]])<ref>{{Cite journal|last=Frieman|first=Joshua A.|last2=Turner|first2=Michael S.|last3=Huterer|first3=Dragan|date=2008-09-01|title=Dark Energy and the Accelerating Universe|url=https://www.annualreviews.org/doi/10.1146/annurev.astro.46.060407.145243|journal=Annual Review of Astronomy and Astrophysics|volume=46|issue=1|pages=385–432|language=en|doi=10.1146/annurev.astro.46.060407.145243|issn=0066-4146}}</ref>。
 
== 定義 ==
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[[Image:Almagest 1.jpeg|right|thumb|160px|『[[アルマゲスト]]』(George of Trebizond による[[ラテン語]]版、1451年頃)]]
{{main|宇宙論}}
宇宙がいかに始まったかについての議論は[[宗教]]、[[哲学]]、[[科学]]上の問題として古代より語られて続けてきたいる<ref name="Ara8">[[#荒舩|荒舩、pp. 8-13、ビッグバンからはじまった宇宙]]</ref>。例えば古代インドの[[ヴェーダ]]には、無からの発生、原初の[[原人]]の犠牲による創造、苦行の熱からの創造、といった宇宙生成論が語られている。[[古代ギリシャ]]では[[ヘシオドス]]の『神統記』に宇宙の根源の[[カオス]]があったとする記述がある。[[ピタゴラス学派]]は宇宙を秩序ある体系([[コスモス (宇宙観)|コスモス]])と見なし、[[天文現象]]の背後にひそむ[[数]]的な秩序を追究した。秩序の追究は、やがて[[エウドクソス]]による地球を27層の天球が囲んでいるとする説へとつながり、それはさらに[[アリストテレス]]への説へと継承された。
 
2世紀頃の[[クラウディオス・プトレマイオス]]は『[[アルマゲスト]]』において、天球上における天体の[[軌道 (力学)|軌道]]を数学的に分析して[[天動説]]を完成し、ヨーロッパ[[中世]]においてもこの説に基づいて宇宙は説明された。しかし天球を用いた天体の説明は、その精緻化とともに、必要な[[天球]]の数が増えていき、非常に複雑なものとなっていった。こうした状況に対し、[[ニコラウス・コペルニクス]]は従来の地球を中心とする説([[地球中心説]])に対して、太陽中心説([[地動説]])を唱えた。地動説は、当初は惑星の楕円軌道が知られていなかったために、[[周転円]]を用いた天動説よりも精度が低いものであったが、やがて[[ヨハネス・ケプラー]]による楕円軌道の発見などにより精度が増していき、天動説に代わって中心的な学説となった。宇宙は始まりも終わりも無い同じ状態であるものと[[アイザック・ニュートン]]は考え<ref name=Ara8 />、『[[自然哲学の数学的諸原理]]』の第3巻「世界の体系について」において[[万有引力]]の概念を導入し、地球上の物体も、太陽の周りをまわる惑星の動きも、数学的原理を用いて統一的に説明できることを示した。ただし、こうした理論体系を構築した背景には[[神学]]的な意図があったとも指摘されている。ニュートンが同著で[[ユークリッド幾何学]]を用いつつ[[絶対時間と絶対空間|絶対空間・絶対時間]]という概念を導入したため、その後の西欧では、多くの人々が宇宙を無限に均一に広がる静的で安定した空間であると考えていた。
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=== 宇宙の年齢 ===
宇宙の誕生からどれだけの時間が経っているのかという疑問については古くから様々な考えが提言され、始まりも終わりも無い不変なもの(定常宇宙)と考えられた時もあった<ref name=Ara20>[[#荒舩|荒舩、p. 20、宇宙は今、何歳なのか]]</ref>。しかし20世紀に入り、[[エドウィン・ハッブル]]が宇宙の膨張を発見すると、その始まりの時期について科学的な議論が行われるようになった。ハッブルが[[膨張]]を逆算して導いた初の計算結果によるでは、宇宙の年齢は約20億年であり、地球の年齢より若くなったが、そのに多く間違いが修正と新たな観測により、100億年以上とつか積もられるようになった<ref name=Ara20 />。値は、[[放射年代測定]]を根拠に計算された110–200億歳<ref>{{cite web|author=Britt RR|title=Age of Universe Revised, Again|publisher=[[space.com]]|date=2003-01-03|url=http://www.space.com/scienceastronomy/age_universe_030103.html|accessdate=2007-01-08}}</ref> や130–150億歳<ref>{{cite web|author=Wright EL|title=Age of the Universe|publisher=[[UCLA]]|year=2005|url=http://www.astro.ucla.edu/~wright/age.html|accessdate=2007-01-08}}<br />{{cite journal|author=Krauss LM, Chaboyer B|date=3 January 2003|title=Age Estimates of Globular Clusters in the Milky Way: Constraints on Cosmology|url=http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/299/5603/65?ijkey=3D7y0Qonz=GO7ig.&keytype=3Dref&siteid=3Dsci|journal=[[Science (journal)|Science]]|volume=299|issue=5603|pages=65–69|publisher=American Association for the Advancement of Science|accessdate=2007-01-08|doi=10.1126/science.1075631|pmid=12511641}}</ref> とする大雑把な推定値とも整合している。21世紀に入り、[[アメリカ航空宇宙局|NASA]]の宇宙探査機[[WMAP]]による[[宇宙マイクロ波背景放射]]の観測など値に基づく計算100は、宇宙は約137年以上歳(13.772 ± 0.059 Gyr)いう帰結推定された<ref>{{cite web | title = Nine-Year Wilkinson Microwave Anisotropy Probe (WMAP) Observations: Final Maps and Results | url=http://arxiv.org/pdf/1212.5225v1.pdf|format=PDF|accessdate=2013-01-29}}</ref> 。さらは至、[[欧州宇宙機関]](ESA)の人工衛星[[プランク (人工衛星)|プランク]]による高精度測定により、2020年時点において、138億歳(13.787 ± 0.020 Gyr)となってい<ref name=Ara20":0" />。
 
2003年<ref name=Ara20 />、[[アメリカ航空宇宙局|NASA]]の宇宙探査機[[WMAP]]による[[宇宙マイクロ波背景放射]]の観測値を根拠に計算したものによると、約137億歳(正確には、13.772 ± 0.059 Gyr)と、正確な推定が行われた<ref>{{cite web | title = Nine-Year Wilkinson Microwave Anisotropy Probe (WMAP) Observations: Final Maps and Results | url=http://arxiv.org/pdf/1212.5225v1.pdf|format=PDF|accessdate=2013-01-29}}</ref> 。この値は、他の[[放射年代測定]]を根拠に計算された110–200億歳<ref>{{cite web | author =Britt RR | title =Age of Universe Revised, Again | publisher =[[space.com]] | date = 2003-01-03
| url = http://www.space.com/scienceastronomy/age_universe_030103.html | accessdate = 2007-01-08}}</ref> や130–150億歳<ref>{{cite web
| author = Wright EL | title =Age of the Universe | publisher =[[UCLA]] | year = 2005 | url = http://www.astro.ucla.edu/~wright/age.html | accessdate = 2007-01-08}}<br />{{cite journal | author = Krauss LM, Chaboyer B | title =Age Estimates of Globular Clusters in the Milky Way: Constraints on Cosmology | journal =[[Science (journal)|Science]] | volume = 299 | issue = 5603 | pages = 65–69 | publisher =American Association for the Advancement of Science | date = 3 January 2003 | url = http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/299/5603/65?ijkey=3D7y0Qonz=GO7ig.&keytype=3Dref&siteid=3Dsci | accessdate = 2007-01-08 | doi =10.1126/science.1075631 | pmid =12511641}}</ref> とする大雑把な推定値とも矛盾していない。2013年3月21日、[[欧州宇宙機関]](ESA)は「宇宙の誕生時期がこれまでの通説より1億年古い、約138億年前(正確には、13.798 ± 0.037 Gyr)である<ref>{{cite web | title = Planck 2013 results. XVI. Cosmological parameters | url=http://arxiv.org/pdf/1303.5076v1.pdf|format=PDF|accessdate=2013-06-08}}</ref>」と発表した。これはESAの人工衛星[[プランク (人工衛星)|プランク]]により、これまでで最高の精度で<ref name=Ara20 /> 宇宙マイクロ波背景放射を観測し、そのデータから作成した初期の宇宙の温度分布をもとに結果を算出した結果である。今後も観測精度の向上による年齢の詳細判明が期待される<ref name=Ara20 />。
 
=== 宇宙の成分 ===
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すべての天体を含む宇宙全体が膨張しているため、無数の銀河がほぼ一様に分布していて、その距離に[[比例]]した[[速度]]で遠ざかっている。そのため、いずれかの銀河から見たとしても、同じ速度に見える(膨張宇宙論)。[[宇宙原理]]に従えば、宇宙膨張の中心は存在しない。銀河の後退速度が[[光速]]に等しくなる距離は、宇宙論的固有距離において地球から約150億光年のところとなる。宇宙年齢に光速をかけた距離とこの距離が近似するのは偶然である。これはハッブルが発見したため、ここまでの距離は[[ハッブル距離]]、あるいは[[ハッブル半径]]と呼ばれるが、これは宇宙の[[地平面]](宇宙の事象の地平面、あるいは粒子的地平面)ではない。[[光速]]を超えて遠ざかる天体は赤方偏移Z=1.6程度の天体と考えられるが、この値を超える天体はすでに1000個程度観測されている。
 
=== 宇宙の誕生と進化 ===
[[ファイル:Universe expansion-en.svg|thumb|220px|[[ビッグバン]]理論では、宇宙は極端な高温高密度の状態で生まれたとされる(下)。その後、[[空間]]自体が時間の経過とともに膨張し、[[銀河]]はそれに乗って互いに離れていく(中、上)]]
[[ビッグバン理論]](ビッグバン仮説)では、宇宙の始まりは[[ビッグバン]]と呼ばれる大爆発であったとされている。[[ハッブルの法則]]によると、地球から遠ざかる天体の速さは地球からの距離に比例している。そのため、逆に時間を遡れば、過去のある時点ではすべての天体は1点に集まっていた、つまり宇宙全体が非常に小さく高温・高密度の状態にあった、と推定される。このような初期宇宙のモデルは「ビッグバン・モデル」と呼ばれ、1940年代に[[ジョージ・ガモフ]]が物理学の理論へ纏め上げた<ref name=Ara8 />。