「止観」の版間の差分

インドで段階的に発展した仏教は中国に伝えられたが、距離がかなり離れているため、インドの各教団の思想や行法は随時伝わらず、時系列やコンテクストが分からない状態で、脈絡なく伝来した{{sfn|保坂|2004|pp=172-175}}。中国では、いわば無秩序に伝わった仏教を整理して、理解できるよう再編成する必要があった{{sfn|保坂|2004|pp=172-175}}。文献中心で流入したため、定がどれだけ正確に伝えられ、実践され理解されたのかはわからない{{sfn|保坂|2004|pp=172-175}}。仏教の基本は三学を学ぶことであり、定を経なければ戒も慧も意味がないが、文献によって修行法の統一性・一貫性がなく、いかに定の体系を確立するかというのが中国仏教の重要の課題だった{{sfn|大野|2018}}。[[天台宗]]の開祖[[智顗]]（ちぎ、538-597年）らは、中国人の思想を通して経典の教えの深さを計って体系化して再統合を行い（これを[[教判]]という）{{sfn|保坂|2004|pp=172-175}}、中国の大乗仏教の修行法を体系化し、定学を発展させていった{{sfn|大野|1997}}{{sfn|大野|2018}}。

 

 

また、[[禅宗]]が隆盛したことで、[[禅]]という用語も東アジアの仏教で、瞑想や悟りの境地を表す重要な言葉になった{{sfn|保坂|2004|pp=172-175}}。禅は[[道教]]（[[老荘思想]]）の影響を受けて、徐々にインド的要素を基礎としながらも、その制約から離れて独自に発展した{{sfn|保坂|2004|pp=172-175}}。禅は瞑想の宗派であり、悟りの方法として直感を信頼し、瞑想の実修を究極の真理への手段として他の宗派より特に重視する{{sfn|パリンダー|2001|pp=124-125}}。禅宗では、涅槃の目的である仏性は言語表現を超えるものであり、恣意的に求めて得ることはできないとされ、一切に思慮分別を捨てた禅の実修により、究極の真理である[[空]]に到達できるとした{{sfn|パリンダー|2001|pp=124-125}}。禅はアーサナ（坐法）を前提に行われたことから、[[座禅]]と呼ばれるようになったと言われる{{sfn|保坂|2004|pp=172-175}}。中国での禅宗の拡大により、止観も広い意味で禅の一部に組み込まれた{{sfn|保坂|2004|pp=172-175}}。

* {{Cite journal|和書|author =大野栄人|title =『天台小止観』の研究(1) |url=https://zenken.agu.ac.jp/research/26/11.pdf|date=1997 |publisher=愛知学院大学 |journal=禅研究所紀要 |naid =110001036714|volume=26 |pages=103-134 |ref={{Harvid|大野|1997}} }}

*{{Cite book|和書|ref={{Harvid|パリンダー|2001}} |author=ジェフリー・パリンダー|others=中川正生 翻訳|title=神秘主義|publisher=講談社 |series=講談社学術文庫|year=2001|isbn=}}

* {{Cite journal|和書|author =大野榮人 |title =中国天台における行の体系と心の対治法|url= |date=2018 |publisher=駒澤大学仏教学部研究室|journal=駒沢大学仏教学部論集|naid =120006594996 |volume=49 |pages=33-47 |ref={{Harvid|大野|2018}} }}

==関連項目==