アマゾン・パブリッシング

アマゾン・パブリッシング(Amazon Publishing) は2009年に設立されたAmazon.comの書籍出版部門。AmazonEncoreやAmazonCrossing、Montlake Romance、Thomas&Merecer及び47Northを含む数多くのインプリントで構成されている。

Amazon Publishing
親会社 Amazon.com
設立日 2009
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
本社所在地 ワシントン州シアトル
主要人物 Mikyla Bruder (発行者)
David Blum (発行者)
インプリント AmazonEncore、AmazonCrossing、Montlake Romance、Thomas & Mercer 47North
公式サイト http://www.apub.com/
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アマゾンはKindle ダイレクト・パブリッシングを通じて電子書籍を出版している。

歴史 編集

2009年5月、Amazonは新規の主力総合インプリントの「AmazonEncore(アマゾンアンコール)」を開始した。このインプリントでは絶版または売れる見込みのある自費出版の書籍を出版しており[1]、最初の出版本は2009年8月の『Cayla Kluver's Legacy』だった。AmazonEncoreによって出版された他の初期の書籍には、Robert Kroeseによる『Mercury Falls』、J.A. Konrathの『Shaken』、John Rectorの『The Grove』とKaren McQuestionの『A Scattered Life』も含まれていた[2]

2010年5月に作品を英語に翻訳するインプリント「AmazonCrossing」が発表された[3][4]。最初の翻訳本はフランス語の小説『カヘルの王』とドイツ語の小説『ハングマンの娘』で2010年11月と12月にそれぞれ発売された [5]

2011年5月に、アマゾンはジャンルに特化した2つのインプリント「Montlake Romance」と「Thomas & Mercer」を立ち上げた。Montlake Romanceはロマンスジャンルのインプリントで、「ロマンスは我々の最も大きくかつ最も急速に成長しているカテゴリーの一つであり、特にKindleユーザーの中ではそうだ」とアマゾン・パブリッシングの副社長のジェフ・ベリーは述べた[6]。Thomas & Mercerはミステリー作品向けのインプリントである[7]

Powered by Amazonは自費出版本のプラットフォームでシリーズ本の出版を好きなインプリント名でできる。例えば2011年5月にセス・ゴーディンは一連のマニフェストを出版するインプリント「The Domino Project」を設立しており、Powerd by Amazonインプリントプロジェクトの初めてのインプリントであった[8]。ゴーディンは2011年11月にインプリントを終了させると決断しており、過去に出版された12作品は未だにアマゾンで販売されているが、新規の書籍は出版されることはなかった[9]。5月にまた、アマゾンはタイムワーナーブックグループ元CEOのラリー・カーシュバウムを新規の総合インプリントのトップとして雇用した。10月にはアマゾンはサイエンス・フィクション、ファンタジー、ホラーを扱うインプリント「47 North」を立ち上げた[10]。12月には、アマゾン・パブリッシングはマーシャル・キャベンディッシュから子供用絵本の表題450本以上を買収することで合意した[11][12][13]

2012年1月、アマゾン・パブリッシングのニューヨークでの出版拠点「アマゾンパブリッシングの東海岸グループ(ラリー・カーシュバウムにより運営)」が仮名でインプリント「New Harvest」の書籍を販売するためにHoughton Mifflin Harcourtと取引したことが明らかになった[14]。 New Harvestはアマゾン・パブリッシングのみから出版されていて書籍の背にNew Harvestのインプリメントであることが明記されている[14]。これによりアマゾンはバーンズ・アンド・ノーブルのような自社の書店でアマゾンのインプリントを販売することを許可していない小売業者で売れるようになった[14]。しかしながらバーンズ・アンド・ノーブルは後にNew Harvestを含むアマゾンのいかなるインプリントも入荷しないと発表しており、この措置は他の書店もまたアマゾンのインプリントの入荷を禁止したことを反映している[15][16]。New Harvestによる初の出版作品の一つがジェフ・ラグズデール作の『Jeff, One Lonely Guy』で2012年3月20日に発売された[17][18]

2012年6月、アマゾンはロマンスとミステリー専門で約3000冊の在庫目録がある創業62年の小さな出版社Avalon Booksを買収した[19]。その本はアマゾンのシアトルに拠点を置くインプリントの下で出版された[19]。11月にアマゾンはローレンス・カーシュバウムを「シアトルとニューヨークの大人向け・子供向けのインプリントの編集担当トップ」に昇格させると発表した [20][21]。加えて、アマゾンが欧州に「英国、ドイツ、フランス、イタリア及びスペインの英語の書店を通して英語の読者を拡大させる」ことに専念する新しい出版部門を立ち上げると発表された[21]。シアトルインプリントの元発行者のビッキー・グリフィスが新たな欧州での発行者になった。2012年12月、アマゾンの一部門のBrilliance Audioはオリジナルの自己啓発とインスピレーションのハードカバーやペーパーバッグ、電子書籍に専念するインプリント「Grand Harbor Press」を創設することを発表した [22]

2013年1月、アマゾンは子供向けと青少年向けの2つのインプリントを発表した。第1のインプリントは「Two Lions」で絵本や、チャプターブック、中級フィクションを特集していた。第2のインプリントは「Skyscape」で青少年向けのフィクションを出版している[23]。3月にはアマゾンはニューヨークを拠点とする文芸フィクションのインプリント「Little A」を発表した。このインプリントでは小説や短編小説及び回想録を出版しており、当初は上級編集者のエド・パークに監督されていた[24][25]。アマゾン・パブリッシングは漫画とグラフィック小説のインプリント「Jet City Comics」を7月9日に発表し、Jet City Comicsは既存の本をKindle電子書籍と印刷向けの漫画に取り入れる[26]

2013年10月、アマゾン・パブリッシングは新たな週刊デジタル文芸雑誌「Day One」を発表した。この雑誌は短編フィクションと詩に焦点を当てており、その中には新規の著者や英語に翻訳された外国の著者の作品も含まれていた。各号ではショートストーリーとポエムに加えて一人の作家と一人の詩人という構成だった。雑誌はキンドルデバイスを通じてもアクセスができた。雑誌では作家についての紹介文や作家インタビュー、イラスト及びプレイリストも含んでいた[27] 「Day One」フレーズは株主向けの年次報告書で実験や現状満足と闘うためにベゾスによって「これは未だにDay 1(1日目)だ」としてたびたび使われているフレーズである。

2014年3月、発行者のサラ・トマシェイクの指揮の下、アマゾン・パブリッシングはドイツのミュンヘンにドイツ語部門を開設した。アマゾンによると「欧州アマゾンパブリッシングチームはドイツ語のフィクションを買い取り、Kindleでの利用や印刷版をアマゾンのウェブサイトで入手できるようにする」ということであった [28]

Weathervane 編集

1999年のクリスマスシーズン中、アマゾンは亡きインプリント「Weathervane」の権利を又貸しした。これはアマゾンの最初の出版の試みだった。クリスマスレシピ本や十分な市場アピールができなかった他の本を含んでおり、元社員のジェームズ・マーカスによれば彼らは「残本が積みあがったテーブルの黒い沼から這い出てきた怪物」だった インプリントはすぐに消滅し、「(アマゾン)の代理人は今日ではWeathervanceを聞いたこともないと主張している」という

発行者 編集

2012年にアマゾン・パブリッシングが創設された時の最初の発行者はラリー・カーシュバウムだった。彼はニューヨークに拠点を置いていた。2014年1月、ラリー・カーシュバウムは企業を退職した。「パブリッシャーズ・ウィークリー」によれば「彼の指示の下で、アマゾン・パブリッシングは市場牽引力を得ることに苦戦し、出版本が主要なベストセラーになることができなかった。グループの精彩を欠くパフォーマンスに加えて、この夏にカーシュバウムは自身に対してセクハラの訴訟が提起されたことで望まない注目を集めてしまっていた」[29]

カーシュバウムの地位はダフネ・ダーラムが受け継いだ。ダーラムは、Amazonでキャリアを過ごし、シアトルに拠点を置いている。ダーラムは1年後に「休暇を取るため」に会社を退職した。2015年1月16日にミキーラ・ブルダーが発行者になり、大半のインプリントを担当した。彼女はシアトルを拠点としている。さらに、デイビッド・ブラムがLittle AとTwo Lionsのインプリントを担当する発行者と編集長に任命された。彼はニューヨークに拠点を置いている。 [30]

インプリントのリスト 編集

アマゾン・パブリッシング・インプリント
インプリント 創刊日 説明 注記
AmazonEncore 2009年5月 絶版または再発見された自費出版本
AmazonCrossing 2010年5月 翻訳本
Montlake Romance 2011年5月 ロマンス
Thomas & Mercer 2011年5月 ミステリーとスリラー
47North 2011年10月 サイエンスフィクション、ファンタジー、ホラー
The Domino Project 2010年12月 セス・ゴーディン創設:「思想的リーダー」による短編小説

「Powered by Amazon」インプリント ゴーディンは2011年11月にこのインプリントを終了させることを決断[9]

New Harvest 2012年1月 総合大人向けタイトル アマゾン・パブリッシングのラリー・カーシュバウム運営の東海岸グループを通じてNew Harvestはホートン・ミフリン・ハーコートによって配信されている。
Amazon Publishing ノンフィクション、回想録、総合フィクション
Grand Harbor Press 2012年12月 スピリチュアル、自己啓発 アマゾン所有のBrilliance Audioの部門
Amazon Children's Publishing 2013年1月 青少年と子供の絵本 Two LionsとSkyscapeの2つのインプリントで構成
Little A 2013年3月 文芸フィクション
Jet City Comics 2013年6月 漫画とグラフィックノベル
Day One 2013年10月 週刊デジタル文芸雑誌
Lake Union Publishing 現代と歴史的なフィクション、回想録、人気ノンフィクション
StoryFront 短編フィクション
Waterfall Press キリスト教のノンフィクションとフィクション

批判 編集

ザ・ニューヨーカーの2014年の記事で、ジョージ・パッカーはアマゾン・パブリッシングの書籍のほぼすべてが期待以下であると書いている。例えば、アマゾンはオークションでティモシー・フェリスの『4時間制シェフ』を100万ドルで買収し、フェリスの過去作であるペニー・マーシャルの回想録『私の母は狂っていた』も80万ドルで買収したが、マーシャルの回想録は17万部しか売れなかった。ジェームズ・フランコの小説『アクターズ・アノニマス』は、5万部も売れなかった。パッカーは「過去(2012年〜2013年)にアマゾンパブリッシングはほとんどオークションに出席していないし、先月(2014年1月) にはカーシュバウムはAmazonを辞めた。パフォーマンスが悪い理由としては、アマゾンは直接の競争相手であるため、同社の作品を販売することを拒否する書店の存在や、出版社としての無能さ(ニューヨークのある出版社がアマゾンについて「出版社になるには一定の事柄がある。運が必要だが、判断力と識別力も必要だ」と語ったように)及びアマゾンの機械やアルゴリズム、大量製品の文化が人間のネットワークと評価に重きを置く出版業界と上手くフィットしなかったとしている。

参考文献 編集

  1. ^ "Introducing AmazonEncore", Amazon Press Release, May 13, 2009
  2. ^ “AmazonEncore Announces Fall 2010 Publishing List”. BusinessWire. (2010年6月8日). http://www.businesswire.com/news/home/20100608005690/en/AmazonEncore-Announces-Fall-2010-Publishing-List 2013年5月6日閲覧。 
  3. ^ Amazon Launches Translation Imprint, AmazonCrossing”. Publishers Weekly (2010年5月19日). 2013年7月11日閲覧。
  4. ^ "Introducing AmazonCrossing", Amazon Press Release, May 18, 2010
  5. ^ Amazon Announces a Second Publishing Imprint Focused on Translating Foreign-Language Books into English”. Phx.corporate-ir.net. 2011年8月4日閲覧。
  6. ^ "Amazon Thrusts into Romance Publishing", PCMag, May 5, 2011.
  7. ^ "Amazon Starts Mystery Imprint Thomas & Mercer ", Publishers Weekly, May 18, 2011
  8. ^ How many imprints does Amazon run?, Jenn Webb, O'Reilly, May 18, 2011.
  9. ^ a b Seth Godin Ends the Domino Project, MediaBistro, November 29, 2011.
  10. ^ "Amazon Publishing Launches Science Fiction, Fantasy and Horror Imprint, 47North", Amazon press release, via Business Wire on DailyFinance.com, Oct 11, 2011
  11. ^ アマゾン、子供用絵本の表題450以上を買収で合意
  12. ^ “Amazon Publishing to Acquire Marshall Cavendish US Children’s Books Titles”. Business Wire. (2011年12月6日). http://www.businesswire.com/news/home/20111206006501/en/Amazon-Publishing-Acquire-Marshall-Cavendish-Children%E2%80%99s-Books 
  13. ^ B&N to Restore Marshall Cavendish Titles to Stores”. Publishers Weekly (2013年4月4日). 2013年7月11日閲覧。
  14. ^ a b c "HMH in Deal with Amazon for Adult Titles", Jim Milliot and Judith Rosen, Publishers Weekly, Jan 24, 2012.
  15. ^ Dennis Loy Johnson, "Issuing a defiant statement, B&N joins indies in banning books published by Amazon", Melville House Publishing, February 1, 2012.
  16. ^ Dennis Loy Johnson, "Two more giant retailers join boycott of books published by Amazon", Melville House Publishing, February 5, 2012.
  17. ^ Condy, Barrett (2012年6月5日). “Innovate or Get Spanked: Lessons from 'Fifty Shades of Grey'”. Forbes. http://www.forbes.com/sites/gyro/2012/06/05/innovate-or-get-spanked-lessons-from-fifty-shades-of-grey/ 2015年3月18日閲覧。 
  18. ^ Larry Kirshbaum Head of Amazon Publishing New York Imprint Speaks at Stonybrook Southampton College” (2012年4月16日). 2012年5月31日閲覧。
  19. ^ a b Julia Bosman (2012年6月4日). “Amazon Buys Avalon Books, Publisher in Romance and Mysteries”. New York Times. http://mediadecoder.blogs.nytimes.com/2012/06/04/amazon-buys-avalon-books-publisher-in-romance-and-mysteries/ 2012年6月4日閲覧。 
  20. ^ アマゾン、カーシュバウム氏を米国出版部門のトップに
  21. ^ a b Staff writer (2012年11月28日). “Amazon Publishing to Expand in Europe, Kirshbaum Takes Larger U.S. Role”. Publishers Weekly. 2012年12月2日閲覧。
  22. ^ Brilliance Audio Enters Print and E-book Market with New Imprint”. Publishers Weekly (2012年12月18日). 2013年7月10日閲覧。
  23. ^ Shannon Maughan (2013年1月21日). “Amazon Children's Publishing Names Two New Imprints”. Publishers Weekly. 2013年7月10日閲覧。
  24. ^ Amazon Publishing Debuts Literary Fiction Imprint, Little A”. Publishers Weekly (2013年3月15日). 2013年7月11日閲覧。
  25. ^ Laura Hazard Owen (2013年3月15日). “Amazon Publishing launches literary fiction imprint, Little A”. Paid Content. 2013年7月10日閲覧。
  26. ^ Clark, Noelene.
  27. ^ Amazon Launches ‘Day One’ Digital Literary Journal”. Publishers Weekly (2013年10月30日). 2013年11月6日閲覧。
  28. ^ Amazon Starts German-Language Publishing Program”. Publishers Weekly (2014年3月12日). 2014年3月13日閲覧。
  29. ^ Kirshbaum to Leave Amazon Publishing”. Publishers Weekly. 2014年2月14日閲覧。
  30. ^ Clare Swanson (2014年12月9日). “Durham Stepping Down at Amazon Publishing”. Publishers Weekly. 2016年11月12日閲覧。

外部リンク 編集