ギーヒンディー語: घीウルドゥー語: گھی‎、英語: ghee)は、インドを中心とした南アジアで古くから作られ、食用に用いるバターオイルの一種。牛乳水牛無塩バターなどを煮詰め、水分蛋白質を取り除いて作られる。主成分は乳脂肪である[1]

作り方 編集

や水牛、ヤギの乳を沸騰させて加熱殺菌し、凝固したものを撹拌してバター状にする。これをゆっくり加熱して溶かし、溶けた脂肪分が黄金色になり、沈殿した固形分が褐色になったらろ過して容器に移し、冷ます。加熱ろ過の過程で水分、糖分、タンパク質などが除かれるため、バターよりも腐敗しにくくなり、平均気温の高い地域(熱帯乾燥帯)において長期間、常温で保存することが可能になる[2]。香り付けにスパイスが加えられることもある。

伝統的なアーユルヴェーダのギーのレシピは、生乳を沸騰させて、それを110°F(43°C)で約12時間煮詰め、水分と不純物をほぼ完全に取り除いた後、それを常温一晩寝かせて生産する。

バターに似ているが、加熱する過程でメイラード反応により独特の香ばしい香りが生まれる。調理油として炒め物菓子作りに用いるほか、炊いた白飯に混ぜたり、焼きたてのチャパティナーンに塗ったりして食べる。

成分・栄養価 編集

健康とギー 編集

ギーはラットLDLコレステロールを上昇させることなく血中脂質を増加させることが示されている[3]。単純に総コレステロール値を下げるだけではなく、LDLを下げることが示されている。

ギーの評判 編集

ギーは2015年にアメリカの雑誌TIME誌で「続・最も健康的な食品50」に選出されている[4]。消化がしやすいと感じる者もおり、ビタミンが豊富で、バターの代替品として調理に使えるとしている。 タイム誌は同記事において人参、トウモロコシ、ポップコーン、リンゴ、キムチも選出している。

宗教 編集

食用の他に、インドの宗教儀式にもギーは欠かせない。ヴェーダの宗教の儀式ではしばしばギーが神々に捧げられ(『ヤジュル・ヴェーダ』を参照)[2]、ギーへの讃歌が存在する。ヒンドゥー教アールティ (Aarti祭祀にもギーを燃やす。礼拝の際には神像をギーで沐浴させる他、結婚式葬式にも用いられる。マハー・シヴァラートリーでのシヴァ神への祈祷を始めとするその他の祭祀には、聖なる物質である砂糖、乳、ヨーグルト蜂蜜に加えギーが供物とされる。『マハーバーラタ』によれば、ビーシュマ (Bhishmaが犠牲として捧げたものの根本はギーであるという。

世界のギー 編集

 
ドーサ(インドのクレープ)とギー

ギーは日本でも国産品がある[5]ほか、類似するバターオイルは世界中の広い地域で食用とされている。

よく似た食品にモロッコの「スメン」(سمن Smen)、歴史的シリアの「サムネ」(سمنة Samneh)またはサムナ、イラクの「ディヒン・フール」(Dihin Hur)、エチオピアの「ニテル・キベ」(ゲエズ語:niṭer ḳibē)、ソマリアの「スバーグ」(subaag)、ブラジル北東部の「マンテイガ=ヂ=ガハファ」(Manteiga-de-garrafa)またはマンテイガ=ダ=テハ(anteiga-da-terra)、モンゴル国の「シャル・トス」(「黄色の油」の意味)などがある。

バクラヴァなどバターを使った菓子類には、保存性の良さからバターオイルが好まれる。

言語表記 編集

脚注 編集

  1. ^ 「ミルクアカデミー・バター研究室(世界のバターいろいろ)」雪印メグミルク株式会社 2013年10月19日閲覧
  2. ^ a b 森井 啓二『ホメオパシー マテリアメディカ大全1(Abel-Agar)』エンタプライズ、2008年7月27日、293頁。ISBN 978-4-87291-188-6 
  3. ^ Hari Sharma, Xiaoying Zhang, Chandradhar Dwivedi (2010). “The effect of ghee (clarified butter) on serum lipid levels and microsomal lipid peroxidation”. Ayu 31 (2). 
  4. ^ Alexandra Sifferlin (2015年11月23日). “50 (New) Healthiest Foods of All Time—With Recipes”. TIME Health. Time. 2018年7月5日閲覧。
  5. ^ 国産「ギー」市場を開拓/バターオイル 放牧牛から原料/岡山・真庭市の酪農家 ベンチャーと協業、出荷伸ばす『日本農業新聞』2021年1月13日13面

関連項目 編集

  • ダヒ - 南アジアのヨーグルト。

外部リンク 編集