ハンが先に撃った」("Han shot first")は、SF映画『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1977年)におけるモス・アイズリー英語版のカンティーナでのハン・ソロハリソン・フォード)とバウンティハンターグリードポール・ブレイク英語版)の場面の変更を巡る論争を示すフレーズである。場面は1997年の『スター・ウォーズ』の特別篇の上映の際に初めて変更され、その後更に3度手が加えられた。「ハンが先に撃った」というフレーズは「ハンが唯一の発砲者であった」ことを意味しており、また場面修正を決定したシリーズ原作者のジョージ・ルーカスへの反論でもある。

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en:File:Han shot first.gif
1997年公開の『スター・ウォーズ』の「特別篇」ではグリードハン・ソロより先に撃ったと描写されているが、1977年のオリジナル版ではハンのみが撃っている。このクリップは2004年版である。

問題の場面 編集

 
グリード(ファンのコスプレ)

ハン・ソログリードは共に惑星タトゥイーンを拠点とする犯罪王ジャバ・ザ・ハットのもとで働いていた。映画本編前、密輸業者をしていたソロは帝国軍の捜査から逃れるためにジャバの密輸品を捨てており、その結果、ジャバはソロに懸賞金を賭けた。モス・アイズリー英語版のカンティーナでグリードはソロを壁際に追いやり、銃を向けて彼をブースに座らせる。ソロはグリードにジャバへ払う金があると言うが、グリードは自分に金を寄越すように要求する。ソロは現段階では金を持っていないとのらりくらりと要求をかわしつつ、テーブルの下で静かにホルスターを外し、ブラスターを構える用意をする。グリードはジャバがソロの態度に我慢できなくなっており、そしてソロを捕まえるのを「ずっと望んでいた」と言う。それにソロは「やれるならやってみろ(Yes, I'll bet you have)」と応じる。この直後のシーンが論争を呼んだ部分となっている。

歴史 編集

オリジナルである1977年の劇場公開版ではグリードの顔にクローズアップされるカットの直後に煙とブラスター銃の効果音が続き、逆アングルとなってグリードがテーブルの上に倒れこむ。2012年、監督のジョージ・ルーカスは、映画の主人公の仲間であるソロが「冷酷な殺人者」のように描写されていると考え、この顛末に不満を示した[1]。グリードがソロに銃を向けて彼の「死体」を見るのが「楽しみだ」と述べ、命を脅かしていたことから、一部の法律家はソロが自衛権を行使しての先制攻撃するのが保証されていると指摘している[2]

1997年公開の特別篇では、数フレームが追加挿入されており、グリードが先にソロを撃ったものの当て損ね、直後にソロが反撃して射殺したように描写されている[3][4]

2004年に発売されたDVD版では更に修正されており、2人はほぼ同時に発砲し、ソロはグリードの弾を回避していたと修正された。『ジ・アトランティック』の記事「The Star Wars George Lucas Doesn't Want You To See」では、「オリジナル版では、ハン・ソロが銃を抜いて賞金稼ぎのグリードを撃ったのは明らかだ。1997年版ではグリードが先に撃った。2004年版では2人同時に発砲している」と指摘されている[5]

2011年に発売されたBlu-ray版では、ソロとグリードの発砲場面は数フレーム短縮された[6]

2019年のDisney+配信版(4Kリマスター版)では、発砲の直前にグリードが「Maclunkey」と聴き取れる言葉を叫ぶようになったほか、グリードが撃たれる瞬間の映像が一部カットされた[7]。なお日本のDisney+では、2021年10月の4K配信開始に伴うリニューアル時からこの変更が反映されている(これに先行して2020年発売のUltra HD Blu-ray版でもこの変更を反映している)。

論争 編集

場面の変更はシリーズの長年のファンたちの多くに不評を買い、元に戻すように要求するオンライン嘆願書も作られた[8]。変更に対する主な異議は、序盤のハンの道徳的に曖昧な性格を変えてしまったことで、アンチヒーローからヒーローになる後の彼の行動の意味合いが薄れてしまうというものであった[9]。映画研究家たちはこのソロとグリードの場面を始めとするルーカスによる改変を修復するため、再上映版の『スター・ウォーズ』を独自に編集する活動を長年続けている[5][10]

2004年のインタビューでルーカスは「もう(オリジナル版は)存在しないんだ。(中略)あなたが未完成の映画を見てそれに恋に落ちたのならば申し訳なく思う。でも私はそれを思い通りにしたいんだ」と説明した[11]。2012年の『ハリウッド・リポーター』誌のインタビューでルーカスは質の悪いクローズアップ・ショットと観客がハン・ソロのキャラクター性を誤解していたことがすべての混乱を引き起こしていると述べた。ルーカスは次のように説明した:

「私が収めようとした混乱は『エピソード4』でグリードとハン・ソロのどちらが先に撃ったのかという論争だが、人々を怒らせてしまった。彼らがソロを冷酷な殺人者であることを望んでいたからだが、彼は実際にはそうではない。あの場面はすべてクローズアップで行われており、誰が誰に何をしたのか混乱を招いていた。私は少し広いショットにしてグリードが先に撃ったのを明確にしたのだが、皆はハンが先に撃ったのだと思いたかったのだ[1]。」

ルーカスがこのように主張したが、オリジナル映画の脚本の草案ではグリードが撃ったことについては言及されていなかった[12]。2015年、ニューブランズウィック大学英語版の図書館でクリスチャン・ブラウンが初期の脚本とみられるものを発見した。1976年3月15日付のこの脚本は改訂第4稿であり、ブラウンは「100パーセント、ハンが先に撃った」と確信していると述べた[13]

長年にわたって『スター・ウォーズ』を何度も再編集し、アーカイブ目的ですらオリジナル版を控えるルーカスであったが、それ以前の1988年に彼は白黒映画を着色する動きに対して議会に抗議していた。当時、ルーカスは古典映画の原版を社会が文化遺産として保持する権利があると主張し、「利益のため、あるいは権力を行使するために芸術作品や文化遺産を改変したり破壊する者は野蛮人だ」と述べた[5]

2014年のRedditのインタビューでハリソン・フォードはどちらが先に撃ったかをファンから尋ねられると「私は知らないし、気にもしない」と返答した[14][15]。一方でグリードを演じたポール・ブレイク英語版は2016年の『ニューヨーク・デイリーニューズ』で次のように述べた。

もちろん、オリジナル脚本には全部書かれていて、私たちはその場面を英語で演じ、場面の最後で「ハンはエイリアンを撃つ」と読んだ。それが書かれて起こったことの全てだ。それは非常に痛ましいものだった[16]

ブレイクはまたグリードが先に撃ったことは(非常に近距離からソロに当て損ねたという点で)キャラクターを無能にしてしまっており、「もしちょっとでも命中させていたらグリードにわずかな栄光が与えられただろう」と指摘した[16]

2015年、『ワシントン・ポスト』のインタビューでルーカスは変更の理由を述べた。

「ハン・ソロはレイアと結婚するのであり、あなたは振り返って『彼は冷徹な殺人鬼でいいのか?』と言う」。ルーカスは言う。「私は神話的に考えていたため、彼はカウボーイで、ジョン・ウェインであるべきではないか。そして私は『そうだ、彼はジョン・ウェインであるべきだ』と言った。そしてあなたがジョン・ウェインであるとき、あなたは(先に)人を撃たず、先に撃たせるだろう。それは私たちの社会に関心をもたれたい、神話的な現実だ[17]。」

参考文献 編集

  1. ^ a b Lucas, George (9 February 2012). "5 Questions With George Lucas: Controversial Star Wars Changes, SOPA and Indiana Jones 5". The Hollywood Reporter (Interview). Interviewed by Alex Ben Block. 2015年10月4日閲覧
  2. ^ UA Professor: Han Solo was legally justified to shoot first”. AL.com. Alabama Media Group. 2016年1月15日閲覧。
  3. ^ Howell, Peter, "At last, Han shot first", Toronto Star, May 12, 2006
  4. ^ Tocci, Jason, "The Well-Dressed Geek: Media Appropriation and Subcultural Style", Massachusetts Institute of Technology, April 29, 2007
  5. ^ a b c Eveleth, Rose (2014年8月27日). “The Star Wars George Lucas Doesn't Want You To See”. 2015年11月19日閲覧。
  6. ^ More Changes to STAR WARS Include Blinking Ewoks and Different Cut of Greedo Shooting First”. collider.com (2011年9月1日). 2011年9月19日閲覧。
  7. ^ Caicoya, Bea (2019年11月24日). “Star Wars: Every Disney+ Change Made to A New Hope”. CBR. 2019年11月24日閲覧。
  8. ^ Han Shoots First”. 2012年3月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年12月26日閲覧。
  9. ^ Sagers, Aaron, "An unbelievable day in the life of Jack Bauer", The Morning Call, February 15, 2006
  10. ^ Restoring Star Wars”. ABC News. 2015年12月18日閲覧。
  11. ^ Lucas, George (15 September 2004). "Lucas talks as 'Star Wars' trilogy returns" (Interview). Interviewed by Associated Press. San Rafael, CA. 2015年12月18日閲覧
  12. ^ Star Wars: A New Hope script, Revised Fourth Draft. January 15, 1976
  13. ^ Copy of original Star Wars script discovered in UNB library” (2015年6月8日). 2015年10月4日閲覧。
  14. ^ Wigler, Josh (2014年4月14日). “Harrison Ford Doesn’t Know, Doesn’t Care If Han Shot First”. MTV News. http://www.mtv.com/news/1726087/harrison-ford-star-wars-who-shot-first/ 2014年6月12日閲覧。 
  15. ^ I am Harrison Ford. AMA.”. Reddit (2014年4月13日). 2014年6月12日閲覧。
  16. ^ a b Sacks, Ethan (2016年5月5日). “EXCLUSIVE: Greedo actor wants ‘Star Wars’ to restore Han Solo shooting first scene: ‘It does give him a little more glory’”. New York Daily News. http://www.nydailynews.com/entertainment/movies/greedo-actor-star-wars-restore-han-solo-shooting-article-1.2623730 2016年5月5日閲覧。 
  17. ^ Lucas, George (5 December 2015). "George Lucas: To feel the true force of 'Star Wars,' he had to learn to let it go" (Interview). Interviewed by The Washington Post. San Rafael, CA. 2017年5月13日閲覧