ヘンリー・メリヴェール

サー・ヘンリー・メリヴェール (Sir Henry Merrivale[1][2]) は、カーター・ディクスン(ジョン・ディクスン・カーの別名義)作の推理小説に登場する架空の名探偵。イギリス人。

ヘンリー・メリヴェール卿は、カー名義によるギデオン・フェル博士と並ぶカー作品を代表する探偵である。通称H・M。初登場は『プレーグ・コートの殺人[3]。他の主な登場作品は 『白い僧院の殺人』『ユダの窓』『貴婦人として死す』など。

経歴 編集

1871年2月6日[4]サセックス州グレート・ユーボロ近郊のクランリ・コートに生まれる。父は第8代准男爵ヘンリー・セント・ジョン・メリヴェール、母は牧師の娘でアグネス・ホノーリア・ゲイル(以上は、H・M本人の自叙伝による[5])。

第一次世界大戦中はイギリス陸軍省諜報部部長[6]として活躍したが、終戦後は陸軍省の閑職に追いやられている[5]。ただし、第二次世界大戦中には『かくして殺人へ』『九人と死で十人だ』で陸軍省情報部長として活躍している。医師[7]法廷弁護士の資格を持つ。

記録に残る最初の事件は、1930年9月6日に起きた『プレーグ・コートの殺人』で、以後数多くの難事件を解決する[5]

人物像 編集

身長177センチメートル、体重100キログラムの巨体で、大きなはげ頭、小さい鋭い眼、鼈甲の眼鏡がずり落ちるほどの低い鼻、苦虫をかみつぶしたようにゆがんでいる口、丸い仏陀のような顔を持つ[8]。「マイクロフト」のあだ名がある[9]

風雪にさらされて色も判然としないシルクハットと、虫の食った毛皮襟のロングコートを特別に大事にしている[10]。戦闘的社会主義者で、三文小説を読みふけることと猥談を好み、口を開けば不平不満と辛辣な言葉を浴びせるが、実は人がよく心の優しい人物である。

扱う事件は密室殺人や人間消失などの不可能犯罪が大半を占める。初期作品には怪奇趣味に彩られた作品が見られるが、徐々にその傾向は薄れ、後期作品ではドタバタ喜劇的な要素が濃くなる。

登場作品 編集

初登場は『プレーグ・コートの殺人』(1934年)。以後『騎士の盃』(1953年)まで22の長編、2つの短編に登場している。

長編 編集

作品内の時間順に並べた。別題、原題、発行年については著書リストを参照のこと。

短編 編集

映像作品 編集

映像作品では、イギリス人俳優デヴィッド・ホーン英語版、イギリス人俳優マーティン・ワイルデック英語版、イタリア人俳優アドルフォ・チェリの3人が、いずれもテレビドラマにおいてヘンリー・メリヴェール卿を演じている。

  • ユダの窓 "The Judas Window" (イギリス 1964年)
    監督:エドガー・レフォード 音楽:ジョン・アディソン
    出演:デヴィッド・ホーン(ヘンリー・メリヴェール卿)、クリストファー・ギニー(ジミー・アンズウェル)、ローズマリー・ニコルズ(メアリー・ヒューム)、ピーター・メイデン(エイヴォリー・ヒューム)、アラン・ロウ(レジー・アンズウェル)、キャスリーン・パー(アメリア・ジョーダン)、ニール・ウィルスン(モットラム警部)、レウェリン・リーズ(ウォルター・ストーム)
  • かくして殺人へ "And So to Murder" (イギリス 1969年)
    監督:ダグラス・カムフィールド
    出演:マーティン・ワイルデック(ヘンリー・メリヴェール卿)、スザンヌ・ニーヴ(モニカ・スタントン)、ウィリアム・ラッセル(ビル・カートライト)、ジーン・ハーヴェイ(フランシス・フラー)、ステファニー・ビッドミード(ティリー・パーソンズ)、ジョン・ベイリー(ハワード・フィスク)、バーナード・スピアー(トム・ハケット)、マックス・ベイコン(アーロンスン)
  • ユダの窓 "L'occhio di Giuda" (イタリア 1982年)
    監督:パオロ・ポエーティ 脚本:ウンベルト・チャペッティ
    出演:アドルフォ・チェリ(ヘンリー・メリヴェール卿)、ジャンニ・ガルコ(ジェームズ・アンズウェル)、ダニエラ・ポッジ(メアリー・ヒューム)、ダニエレ・グリッジョ、カルロ・ヒンターマン、レナート・スカルパ、フルヴィオ・ミンゴッツィ

脚注 編集

  1. ^ "Henry" の日本語表記について、早川書房は「ヘンリー」、創元推理文庫は「ヘンリー」と「ヘンリ」の2つの表記がある。
  2. ^ "Merrivale" の日本語表記について、早川書房は「メリヴェール」、創元推理文庫は「メリヴェール」と「メリヴェル」の2つの表記がある。
  3. ^ 創元推理文庫の新版の表題は『黒死荘の殺人』。
  4. ^ 作者の父と同年同月同日生まれである。
  5. ^ a b c 『プレーグ・コートの殺人』(ハヤカワ文庫)の巻末解説「カーの3大傑作の1つ」(仁賀克雄著)参照。
  6. ^ 『赤後家の殺人』(創元推理文庫)では「陸軍省防諜局長官」と記されている。
  7. ^ 『赤後家の殺人』(創元推理文庫)には「内科医」と記されている。
  8. ^ その容貌は、政治家でのちの首相ウィンストン・チャーチルがモデルであると言われている。
  9. ^ シャーロック・ホームズの兄の名前。大きな図体、優れた推理力を持つにもかかわらずものぐさなことからそれを使おうとせず、動作も緩慢で、お互い政府の高官であるなど共通点が多いことから付けられたものだが、自分は他人の亜流ではないと、本人はまったく気に入っていない。
  10. ^ 大事にしている理由として、「ヴィクトリア女王のご下賜品」「1903年の第1回自動車レースでグランプリを獲得したときの賞品」「故ヘンリー・アーヴィング卿の形見」などと、もっともらしい話をその都度こしらえ上げている。
  11. ^ シリーズ外作品『弓弦城殺人事件』の翌年
  12. ^ 原著刊行の10年前
  13. ^ 『一角獣の殺人』の翌年
  14. ^ バッキンガムシャー州パインウッド・スタジオがモデル
  15. ^ a b ディクスン・カー名義の短編集。